side~宏壱~
「はっ……はっ……はっ……はっ」
今は朝の7時頃、俺はランニングをしている。いつも6時頃に家を出て、30分走れるところまで走って折り返して、また30分かけて家に帰る。これを続けて、二年ぐらい経つ。
家に着くまでにまだ20分ぐらいあるな。その間この二年間であったことを話そうか。
この世界に来て二週間後に紫苑を呼び出したが、それだけで魔力をごっそり持っていかれた。まぁ、加減が分からなかったってのもあるんだろうけど。で、紫苑が機転を利かせて魔力を返還してくれたから気を失わずにすんだんだけどな。
何で紫苑かって言うと保護者的な意味合いが強いな。戸籍の確認もしたかったし、ご近所さんの顔見せみたいなのもな。それらを考えたら紫苑が適任だった。
それからまだ見てない棚とかの確認をしていると通帳を見つけた。通帳の中には、高級車5台ぐらい買えるほどの金額が入ってた。それが5通もありゃ驚きだよな。側に置いてあった手紙を読めば前の世界での俺の財産の半分を日本円に直したものらしい。元々国のためにって残してたもんなんだけどなー。
あ、そうそう、地下も確認したんだった。車を止めるガレージがないから何処かに駐車場でも借りんのかな、なんて思ってたんだけどそれが地下にあったんだ。庭が左右に開くようになってて、塀も左右にスライドするんだ。んで、そっから出入りすると、いやぁ、ロマンだね、気分はどっかの0で0で7なスパイだよ。
ま、家のことはそんなもんかね。それからは、暫く図書館に通ってこの世界の知識を得ることと自己鍛練に勤しんでたな。
それで解かったこと、この世界については当然ながら地球だな。俺の住んでるとこは、日本の海鳴市、自然豊かな街で観光地としてもそれなりに有名らしい。特に最近できた翠屋、海鳴商店街にあるんだけど結構な客入りなんだとか。紫苑が買ってきてくれたやつだけど、かなり美味かった。なんでもパティシエの人がフランス、イタリアで修業を積んだって話だ。
それに『この世界』、『前の世界』とかって言い回しは多分正しくない。
正確に言うなら『未来』だな。劉備や曹操、孫策なんかも女だし、『天の御遣い』や『赤鬼衆』が歴史の文献の中にあった。『赤鬼衆伝』とか『天の御遣い伝』とか見たときは驚いた。だからこそ『別の世界』って括りじゃなく『未来』だと判断したわけだ。
鍛錬の方もなかなか順調だな。刃と無限が起動している内に魔力負荷の掛け方、放出と圧縮、身体強化等々、基礎は学んだし、そのお陰か魔力量も2,5倍ほどに増えた。今は二人同時に呼び出しても、それほど倦怠感もないしな。疲れることは疲れるけど慣れたし、
筋力もそれなりだ、元々前世のスペックの10分の1はあったんだ。後数年すりゃあ追い付く。
後は重力を操れるぐらいか、俺の身体に接触してるもんの重力を操る能力、レアスキルって言うらしい、今も俺の周りだけ3倍のGがかかってる。因みに身長等に影響はない、原理は知らん。この能力を知って1年半常に負荷をかけてきたが身長は順調に伸びてる。
後は、1年前に京都に行ってきた。向こうには陰陽師が居るって話だし裏の世界に関われるかなと思って。そしたら案の定だった。
同い年の近衛このか、桜咲刹那とちょっとした事件に巻き込まれた。このかは関西呪術協会トップの娘らしく、近衛詠春って名前なんだが、トップが詠春さんの代に変わって京妖怪達と協調し合うってスタンスになったらしい。京妖怪側のトップもそれに賛同、それまでいがみ合ってたらしいからしこりがないと言えば嘘になるんだろうが、それでも解り合う努力はしているらしい。
ただ、そんな中でも気に食わねぇって連中は居るもんで、呪術協会側と京妖怪側の過激派が結託、詠春さんの娘、このかと京妖怪をたばねている九尾の八坂の娘、九重を拉致。互いにこのかを拉致したのは妖怪で、九重を拉致したのが人間と情報を流すことで協定の破棄を目論んだ。
このかと共にいた刹那が傷だらけで倒れているところを、京都に来ていた俺と桔梗で発見。刹那から過激派の目論みを聞いた俺達は、このかと九重の救出に乗り出す。桔梗には詠春さんと八坂に真実を伝えさせ、その間に俺が場所を突き止め念話で桔梗に連絡、時間稼ぎのために連中の前に出て油断させ援軍が来たときに一気に叩き込む、まぁ、お陰で腹に重度の火傷を負ったが無問題ってな。女を守った男の傷は勲章だぜ?
桔梗には盛大に泣かれたしこのか、刹那に九重にも泣かれた。特に刹那は自分が巻き込んだって聞かねぇもんよ、宥めんのに苦労したよほんと。
それから、剣術らしい剣術ってのは俺にはできねぇけど、得物は刀だし模擬戦なりなんなりできる。傭兵時代に護衛の任務だってあったから、そこからのアドバイスだって出来るしな。ただ、刹那がこのかに対して負い目を感じてそうだったから、側を離れんなよ?って釘を刺しておいた。
驚きなのは、このかが裏の世界を知らなかったって事だな。もう俺と桔梗で詠春さん説教しまくったぜ? 「あんたの娘である以上、このか自身が狙われんのは当然だ! そんなときの為に、知識を与え、力を付けさせんのは親としての義務だ!!」ってな。
そうでなくてもこのかの保持魔力は軽く俺を上回る、と言ってもこのかにリンカーコアがある訳じゃねぇみたいだけどな。
まぁ、それも追々と言うことで、何が言いたいかと言うとだ、案外あっさり裏に関われましたよって話だ。詠春さんや八坂とのパイプも出来たし恩も売れた、このかに刹那、九重とは文通してるし電話でも話してる。
このかと刹那は小学校に進学と同時に、埼玉にある麻帆良って所に引っ越ししたらしいからな、此処からなら電車で二時間ありゃ着く所だ。神楽坂明日菜ってダチもできたらしい。今度の夏休みに遊びに行く予定をしている。そんときに紹介してくれるんだとさ。
後は、犬を拾ったぐらいか? ま、もう居ないけど、怪我して倒れてるところを拾ったんだよ。真っ白な犬で魔力を持ってたんだけどなぁ、今の俺よりもちょっと多かったな。犬って言うよりも狼っぽかったんだけど、最近は狼犬ってのが流行ってるらしいし、新しいのが産まれて手に負えなくなったから捨てた………なんて事もあんのかもな。
でもさ怪我が治ったらはいさようならって冷たくね? まぁ、良いけどあわよくば使い魔に、何て考えたけど、魔力が持たねぇしな。
これが今まであった事だな、大したことなんて起きてねぇだろ?
「お帰りなさいませ、宏壱様」
「はぁ……ふぅ……ああ、ただいま。菫」
ランニングから帰ってきたところを門の側で、タオルと小学校の制服を持った菫が出迎えてくれた。
「シャワーを浴びてきてください。その間に朝食の用意を済ませておきます」
「ああ、ありがとう」
そう言いながら菫が持っていたタオルと制服を礼を言って受けとる。
「ふぅ、スッキリした」
シャワーで汗を流して制服に着替える。
白を基調としたもので、なかなか清潔感がある。
「お、いい匂いだな。味噌汁か?」
「は、はい。アサリのお味噌汁と目玉焼きです」
俺の言葉に答えたのは優雪だった。
「優雪も手伝ったのか?」
「いえ、今日は優雪が担当しました」
菫がそう答えながら、味噌汁と目玉焼きが乗った盆を持って台所から現れる。
「優雪が? へぇ、そりゃ楽しみだ」
座る席に順番はない、思い思いの場所に座るだけだ。順番決めるほど人が居るわけでもないしな。
「それじゃ」
俺は両手を合わせる。俺に続き菫と優雪も合わせる。
「いただきます」
「「いただきます」」
俺の合唱に続けて二人も合唱する。二人は箸を持ってはいるが、料理に手をつけず俺の手元を注視している。
「(はぁ、まぁ期待に応えますかね)………ずずずずっ………っはぁ」
二人、と言うか優雪の期待に応えて味噌汁に口をつける。
「ど、どうですか?」
「うん、旨いぞ。優雪」
そう言いながら、向かいの席に座る優雪のもとまで行き、優しく笑い掛けながら頭を撫でてやる。
「ふぇ、ふぇぇぇぇ」
すると、どんどん優雪の顔が赤くなっていく。おー、おー、可愛いねぇ。
「顔がにやけていますよ、宏壱様。それと、早く食べないと冷めてしまいます」
「おう、そうだな」
菫に言われて席に戻る。暫く無言の時間が過ぎた。
「あ、あの今日のお昼…ですよね?」
唐突に優雪がそう聞いてくる。
「ああ、午前中に学校に行って昼には帰る」
「そうですか」
「どうした? 突然」
優雪の質問にそう答えると、少し沈んだ声が返ってくる。
「危ないこと、するんですよね?」
「優雪、それは皆で話し合った筈です。管理局に入局できれば今後動きやすくなりますし、様々な情報も入手できると」
そう、今日の午後からは、時空管理局の入局試験がある。今日やるのは実技で、筆記試験はすでに終わっている。今回ある試験は、管理局最難関と呼ばれるもので、合格者は100人中5人いればいい方らしい。0人なんて事も珍しくないそうだ。(呉羽調べ)
と言うのも、今回ある試験は一種のエリート枠、階級が一気に三尉からとなる権限は変わらないが、給料が普通に上がってきた同階級の者より高くなるらしい、まぁ、その代わりと言うか、当然と言うか、危険な任務ばかり回ってくるらしいけどな。
試験は2年に一度、海と陸合同で行われる。今回の実技試験官は『ゼスト・グランカイツ』歴代の試験官のなかで、最も合格率の低いとされている人物だ。楽しみだなぁ、おい。
「宏壱様、笑みが悪どいです」
「………(コクコクコクコク)」
「あん?」
試験の事を考えていると、菫にそう言われる。優雪は少し青ざめた顔色で何度も首を縦に振っている。口許に手をやると、口角が上がっていた。
「っと、時間時間」
それを誤魔化すように、飯を流し込み席を立ち歯を磨きに洗面所に向かう。
「行ってきまーす!」
言葉と同時に走り出す。遠くから菫と優雪の「行ってらっしゃい」の言葉が聞こえた。
side~優雪~
「心配、ですか?」
宏壱様を見送った後、今は菫さんとお茶をしていると菫さんがそう訪ねてきた。
「はい、宏壱様は見ていないところで怪我をしますから」
「そうですね。1年前の京都でもそうでした」
私がそう答えると、菫さんも少し困ったような顔つきで顎に手をやり、思い出すように言った。
「ですが、我々には従うしかありませんよ」
「そう、でしょうか」
「はい、心配なら傷つかないようにお守りすればいいのです。他でもない我々の手で」
菫さんが真っ直ぐ私の目を見てそう言う。
「そうですね、私たちの手でお守りしましょう!」
「ええ、その為にも常に我ら全員が顕現できるように模索しましょう」
「はい!」
菫さんの言葉に私は決意を新たにした。
side out
side~宏壱~
軽快に足を動かしながら走る。俺の通う小学校は私立聖祥大附属小学校。因みにクラスは1ー2で、友人は少しだな。
「はよーっす」
「あ、山口くん、おはよー」
「宏壱、おはよう」
挨拶をしながら教室に入ると、クラスメイトが挨拶を返してくれる。カバンを教室の後ろにあるロッカーに入れて席に着く。
さて、半日でも真面目にやりますかね。