リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第七十六鬼~赤鬼、事情を語る~

side~宏壱~

 

 月村邸の門を叩いた俺が今居るのは、月村家の屋敷の二階。そこにある忍嬢の私室だ。

 私室と言っても寝室ではない。多くの分厚い書物が納められた棚が並ぶ書斎のような部屋だった。

 

 

「「……デカイな/……デカイわね」」

 

 

 そんな部屋に男女二人の気の抜けたような声が響いた。

 美男美女を体現したようなカップル、恭也と忍嬢だ。

 恭也と忍嬢は並んで椅子に座り唖然としている。二人の後ろに立つ俺も、余りの異様さに圧倒されていた。

 そんな俺達の視線の先には、空中に展開されたディスプレイ。そこに映っている巨大な猫を見ての発言だった。

 

 

「今回の暴走体は随分と可愛らしいな」

 

 

 咲達に聞いた話だと、もっとおどろおどろしいと言うか、狂暴と言うか……兎に角、こんなファンシーな感じではなかったらしい。

 

 今から五分ほど前。俺は、俺達魔導師はジュエルシードの発動を感知した。

 月村の敷地に収まった林の中、奥深くで発動したそれを……。

 だが、なのは達は容易に動くことは叶わなかった。目の前に何も知らない友人が居るから。

 

 ……と思っているのはなのはとユーノ少年、それとクソガキだけだろう。

 アリサには事情を話したし、すずかも裏の世界を垣間見た。相川だってこっち側の住人である。今、海鳴で起こっていることは把握しているかもしれない。

 だから話しても問題はないし、そもそも俺は月村姉妹になのはが抱える問題のことを話すのもここに来た理由の一つなのだ。

 

 勿論それは序でで、主目的は咲の言った「来た方が良い」という言葉に興味を持ったからだが。

 

閑話休題(それはさておき)

 

 容易に動くことはのできないなのは達。そんな彼女達を見かねて行動を起こした人物(猫物?)がいた。リニスだ。

 なのはの膝の上で愛でられていた彼女は、ジュエルシードが発動してどう誤魔化してその場を離れるかを思案するなのは達に、助け船を出すようになのはの膝から飛び降りて木々の間に姿を消した。

 その方角はジュエルシードが発動した方だった。これ幸いとリニスを追うなのは達。こうしてなのは達は、アリサ、すずか、相川を置いて茶会から抜け出し、ジュエルシード暴走体の下へと駆けつけたのだった。

 

 そして俺は今、なのは達を追って飛ばしたサーチャーから送られる映像を、空中ディスプレイに投影して恭也と忍嬢と共に見ている。

 

 

「魔法って便利ね」

 

「ああ、こんなことが可能ならば任務も捗るだろうな」

 

 

 忍嬢の呟きに同意するように頷いて、恭也は俺を見る。

 

 

「何度も言ったが、この魔法を使うにはリンカーコアが必要だ。地球に似たような魔法があるかは知らないし、興味もない。まぁ、恭也が魔法を学びたいと言うのなら……紹介しようか?」

 

「……いや、止めておこう。俺には御神流さえあれば十分だ」

 

 

 ニヤけたようなあからさまな作り笑いを浮かべて恭也を見ると、顰めっ面を返して言う。

 恭也の剣術、戦闘術は既に完成していると言って良い。そこに魔法などという余計な力は必要はないだろう。

 俺は使えるものを使ってるだけだしな。

 

 

「あれば便利じゃない?」

 

「今まで不自由しなかったんだ。急に得たところで持て余すだけだ」

 

「動きがあったぞ」

 

 

 そのまま魔法談義に入ろうとした恭也と忍嬢の注意を空中ディスプレイに向ける。

 空中ディスプレイには、巨大猫の足元に魔力弾が打ち込まれたところが映し出されていた。

 

 

「さて、ディスプレイはこのまま展開しておくぞ」

 

「何処に行くのかしら?」

 

「すずかに説明しにな」

 

 

 部屋の扉に向かうと忍嬢が声を掛けてくる。それに静かに答えて俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 

side~アリサ~

 

「……行っちゃったね」

 

「そうね」

 

 

 すずかがなのは達の走っていった方を見ながら呆気に取られたように言う。

 気持ちは分かるけど口を閉じなさい。半開きよ?

 

 

「どうしたんだろう。ユーノ君と勝吾君もすごく慌ててたし……」

 

「さぁ?」

 

 

 すずかの言葉に気のない返事をする。

 理由は……何となく分かる。多分、昨日宏壱が言っていたジュエルシードっていうのが発動したんだ。

 地球を消滅させかねないエネルギーを秘めた石。それがジュエルシードだと聞いた。

 そんな危険な物が身近にあるなんて、すずかは想像もしていないだろう。

 

 

「アリサちゃん、なんだか落ち着いてるね」

 

「……そ、そんなことないわよ?」

 

「私の目を見て言える?」

 

 

 すずかの目に目を合わせないまま言うと、真剣な表情で言われた。

 ……嘘を吐くのは得意じゃない。黙っているのと嘘を吐くのとでは意味が違いすぎる。

 

 

「アリサちゃん、何を隠しているの?」

 

「べ、別に何も――「お前が嘘が苦手だってことはよーく分かった」――……っ!? な、何であんたがここにっ!?」

 

 

 急に現れたそいつにあたしは身体をビクッっと跳ねさせる。すずかも目を丸くして言葉を失っていた。

 そんなあたしとすずかを無視して、いつの間にかあたしとすずかの間に座っていた宏壱が音を立てて紅茶を飲む。

 

 

「……って、それあたしのっ」

 

「ん? ああ、そうか。頂いてます」

 

 

 指を差して言っても宏壱は飲み続け、最後まで飲み干した。

 コト、とテーブルに置かれたティーカップを見る。宏壱が口を付けていたのはあたしと同じ場所…………。

 

 

「どうした、アリサ。顔が赤いぞ?」

 

「~~っ!? 何でもないわよっ!!!」

 

 

 火照る顔を自覚しつつも、宏壱の言葉に語気を強めて言い返す。

 

 

「意識するには早いぞ、お嬢さん?」

 

「うっしゃい!!~~~っ!」

 

 

 ニヤニヤとからかう宏壱に抗議の声を上げると……舌を噛んだ。痛い。

 

 

「ア、アリサちゃん、大丈夫?」

 

 

 口を押さえるあたしの顔を覗き込むすずかが心配そうに見てくる。でも、口許がひくひくしていて笑いを堪えているのがまる分かりだった。

 だから無言ですずかのほっぺたを抓ってやる。

 

 

「い、いひゃいよ~っ」

 

「仲良いな、お前ら」

 

 

 そんなことを呑気に言う元凶をギロッと睨んでやっても、どこ吹く風と言わんばかりにテーブルに置いてあるビスケットを手に取って食べる宏壱。

 三浦を倒したほどだもの。あたし程度の睨みじゃ動じないのは分かるけど……悔しいじゃない。

 

 

「そろそろ離してあげたらどう?」

 

「え?……あ」

 

 

 今まで何も言わず、しゃがみ込んで猫を愛でていた相川さんが言う。

 その言葉で未だに引っ張っていたすずかのほっぺたを離す。

 

 

「うぅ~~」

 

「ご、ごめんすずか」

 

 

 目尻に涙を溜めて少し赤くなったほっぺたを擦りながら恨めしそうにあたしを見る。

 

 

「それで? 山口、話があるんでしょ?」

 

「ああ」

 

 

 相川さんが宏壱の向かいの席に座りながら言うと、宏壱は特に隠すようなこともなく頷く。

 

 

「相川、お前は今この海鳴で何が起きているか把握しているか?」

 

「うーん、正直掴めてない。何かが起きているってことは分かってるんだけど、それ以上は……もしかして山口、あんた全部知ってる?」

 

「全部……そう言えるかどうかは微妙だな。一応関係者ではある」

 

「ふ~ん? 関係者、ね。と言うか二人の前で話して良かったの?」

 

 

 相川さんが席に着いてから、宏壱と言葉を交わし始めてあたしとすずかの入る余地がなかったのに、急にこっちに話の矛先が向いた。

 

 

「すずかは俺のことを知ってるし、アリサは昨日事件に巻き込まれた」

 

「「え?」」

 

 

 あたしとすずかの声が重なる。まったく予想もしていなかった言葉が宏壱の口から出たのだから当然だ。

 すずかが知っている? 何を? 宏壱のことを? 大人バージョンじゃなくて本来の宏壱の姿を見て、それが咲さんや相川さんのクラスメイトじゃなくて、翠屋で出会う山口 宏壱として知っていた?

 疑問が脳裏に過り、意味を理解した。

 

 

「「どういうことよっ!/どういうことですか!」」

 

 

 すずかと一緒になって宏壱を左右から責めるように詰め寄る。

 

 

「落ち着け。順にだよ、順に説明する」

 

 

 威圧的に迫っても、宏壱は慌てないし狼狽えない。それは宏壱さん(・・)の時にも見せていた姿で、同一人物であると強く認識させられる。

 別に疑っていた訳じゃない。目の前で大人が子供に変わる瞬間を見せられたから信じざるを得なかったというのが大きな理由だ。

 

 

「それじゃ先にすずかとの関係からだな」

 

 

 そう言った宏壱の言葉を受けて、あたしの向かい側に座るすずかの表情が強張った。

 その理由が気になりはしたものの、変に集中を欠くと聞き逃すかもしれないから今は置いておく。

 

 宏壱の説明は簡潔だった。何年か前にすずかの誘拐事件があった。それはあたしも知ってるし、なのはと桃子さんを除く高町家武装集団と出稽古に来ていた織斑 千冬さんとその付き添いの篠ノ之 束さんが総出で救出に向かったことも聞いた。

 士郎さん達の足止めとして翠屋に送られていた誘拐犯の仲間は、偶々(たまたま)そこに居合わせた宏壱さん(・・)が仕留めたことも。

 それで翠屋が片付いたあと、魔法を駆使してすずかが拐われた場所を突き止め、高速移動魔法ってやつで移動を開始、到着すると化け物に襲われている束さんを助けて戦闘に入った。

 化け物は取り逃がしたものの、宏壱さん(・・)はその戦闘で魔法を惜しげもなく使ったそうだ。

 

 

「それですずかと士郎さん達は、数年前からあんたのこと知ってたってこと?」

 

「いや、士郎達はその前からだ」

 

「え、そうなんですか?」

 

 

 宏壱の言葉に目を丸くするすずか。

 

 

「ん? 言ってなかったか?」

 

「はい、初めて聞きました」

 

 

 まぁ、言う機会もなかったか。そう付け足して宏壱はテーブルの上に手を翳す。

 すると横長の物体が浮かび上がり、何かを映し出した。

 

 

「次はこっちの事情だな」

 

 

宏壱が言葉を放つけど、あたしとすずかの視線はテーブルの上に固定されていた。

 

 

「「なの、は?/なのは、ちゃん?」」

 

 

 あたしとすずかの茫然とした呟きが庭に響く。

 テレビの液晶ディスプレイだけを抜き出したようなそれは、翳した手を宏壱が話してもテーブルの上に落ちることもなく一定の距離を保って浮いている。

 そこに映し出されたのは、あたしとすずかの親友であるなのは。

 白を基調とした衣服を身に纏ったなのはは、黒衣の女の子と対峙していた。

 日の光を反射して輝く金髪を頭の横でツインテイルにして、ルビーのような赤い瞳を持つ女の子だ。

 

 なのはは今まで見たこともないほどに真剣な表情で女の子に語り掛ける。

 

 

[それはユーノくんの落とし物なの! だから返して!]

 

 

 少し電子音が混ざったような声だったけど、しっかりと聞き取れた。

 

 

「あれがリニスの……お手並み拝見、だな」

 

 

 ぽそっと小さく呟かれた宏壱の言葉を拾うこともできなくて、あたしとすずかは突如舞い降りた非現実的な、親友(なのは)が空に浮いているという光景に釘付けだった。

 

side out

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