リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第七十七鬼~霊感少年、幽霊少女を見る~

side~大輝~

 

「いよいよ彼女の登場だね」

 

 

 僕の横を走る咲さんが前を向いたまま小声で言う。

 僕は言葉を返さずに小さく頷くだけに止めて、前方を走るなのはとユーノ、新崎の三人を見失わないように足を動かす。

 既になのははレイジングハートを展開してバリアジャケットを身に纏っていて、新崎も何処からか現れたセイバーさんとユニゾン済みだ。

 

 

「新崎、リニスさんのこと気付いてませんでしたね」

 

「そうだね。知らなかった、とか?」

 

「どうでしょう。原作知識があるような言動はするんですよ。だけど、僕や咲さんのことは何も言わないし、エストを見ても反応はない。正直考えが読めないです」

 

「うん。私が忍術を使っても何も言わないもんね。知らない、ってことはないと思うけど……」

 

「あまりアニメとかの知識がないってこともあるかもしれません」

 

「宏壱君みたいに?」

 

「はい、宏壱さんの場合は生い立ちから来るものですし、世界だって僕達が住んでいた場所とは異なるらしいですから」

 

「ひょっとしたら新崎君も別の世界からの転生者とか?」

 

「そこまでは分かりませんけど……でも、それだとピンポイントになのはの物語だけ共通してあるってのも変ですね」

 

「そうだね。やっぱり同じ世界ってことかな」

 

 

 走りながら喋っても息を切らせるような柔な鍛え方はしていない僕と咲さんは、なのは達と一定の距離を保ちながら小声で会話する。

 手入れのされていない山中と、手入れの行き届いた林の中では走りやすさが違い、特に舌を噛むこともなくスムーズに口が動いた。

 

 ジュエルシードの発動を感知した僕達は、事件に関わる全員で発動場所に向かっていた。

 誰か一人でも残しておこう。そんな意見がユーノから念話で届いたけど、結局は全員で動くことになった。

 と言うのも、ユーノや新崎に残られると宏壱さんがすずかと歩さんに説明するのが難しくなるからだった。

 歩さんに説明する意味があるのか分からないけど、どうやら彼女もこっち側の人間らしい。詳しいことは聞いてない。でも、宏壱さんがそう言うのならそうなんだろう。

 

 

「抜けているだけなのか、僕達には分からないようにしているのか……意図がまったく読めません」

 

「考えても仕方ないんだけどね」

 

 

 前を見たまま苦笑する咲さんに僕は苦虫を噛み潰す。

 新崎を不気味に思うのは初めてだ。人の考えが読めないのは当然だけど、新崎を放置しておくととんでもないことになりそうな、取り返しのつかないことをしそうな気がして嫌な気分になる。

 

 

「……っと」

 

「……これは」

 

「「「……」」」

 

 

 魔力が強く反応する場所、ジュエルシードの発動地点に着いた……んだけど。

 

 

「大きいね」

 

「実物は凄いですね」

 

「「「……」」」

 

 

 咲さんの言葉に続けて見たままの感想を言う。

 なのは達は完全に目が点だ。丸くしてるとかじゃない、ゴマ粒みたいになってる。

 

 

――ニャーオ。

 

 

 重い鳴き声が降ってくる。回りの木々を超す猫だ。それはすずかがさっき紹介してくれた子猫だ。

 これは知っていても驚く。でも嬉しそうな子猫に何故か頬の筋肉が弛む。

 それは咲さんも同じようで、雰囲気がほにゃっとしている。

 

 

「何でこんなにおっきく……」

 

「多分大きくなりたいって願ったんじゃないかな?」

 

 

 なのはの呟きにユーノが答える。

 

 

「意味が違うよ……」

 

「それがジュエルシードの力だね」

 

 

 大きくなりたいってのは大人になりたいってことで、物理的にデカくなりたいって訳じゃないだろうに……。

 

 

「――っ!?」

 

 

 逸早く気付いたのは咲さんだった。でも、行動するには遅すぎた。

 

 飛来する黄金の閃光。――ズドオォォンッ!!――僕達の頭上を通過して猫の足元に魔力弾が着弾した。

 

 

――ニャーー!

 

 

 驚いた猫が足を折って倒れる。

 

 

「なにっ!?」

 

「今のは、魔法っ!」

 

「……来たか……」

 

 

 なのは、ユーノ、新崎が三様の反応を見せる。口の中で呟かれた新崎の言葉を僕の耳は確りと聞き取った。やっぱり新崎には原作知識があるのは間違いない。

 

 

「あれは……?」

 

「魔導師だ」

 

 

 呟くなのはにユーノが言葉を返す。それを聞きながら魔力弾、フォトンランサーが飛んできた方に身体を向ける。

 

 ツインテイルにした輝く金髪と羽織った黒のマントを風に棚引かせる女の子、フェイト・テスタロッサが空中で静かに佇み、ルビーのような鮮やかな赤い瞳で僕達を見下ろす。

 彼女の右手には斧型のデバイス、フェイト・テスタロッサの愛機であるバルディッシュが握られている。

 

 

「君は何者だ」

 

「……」

 

 

 無駄だと思いつつも声を掛ける。一瞬の視線の交差をして、何も語らないフェイトは興味が失せたように視線を猫に移す。

 

 

「フォトンランサー」

 

 

 静かに唱えたフェイトは左掌を猫に向けた。その掌には金色に輝く魔法陣、そこから放たれるフォトンランサー。

 

 

「だめっ!」

 

 

 咄嗟に動いたのはなのはだった。

 なのはは空中に飛び上がりフォトンランサーの射線上に身体を入れ……。

 

 

〈Protection〉

 

 

 魔法障壁で防いだ。

 

 

「っ!」

 

 

 なのはの魔法障壁によって弾けたフォトンランサー。その衝撃で一瞬なのはは目を瞑ってしまう。

 戦場ではその一瞬が命取りだと僕と咲さんは宏壱さんから教わった。それは今の戦いも例外じゃない。

 

 

「なのはっ!」

 

「っ!?」

 

 

 ユーノが気付いて声を上げる。でももう遅い。

 フェイトは既になのはの懐に飛び込み、魔力刃を形成したバルディッシュを横凪ぎに振るう構えを見せている。

 

 

「縛道の九・崩輪!」

 

 

 僕の指先から放たれた黄色の縄。それはフェイトがバルディッシュを振り抜くよりも速くなのはの左足に絡み付く。

 

 

「きゃっ」

 

 

 そのまま縄を握り込んで引っ張る。間一髪でバルディッシュの魔力刃がなのはの頭上で空を切る。

 

 

「……」

 

「なのはは僕の大切な友達だ。……やらせないよ」

 

 

 目を見開いてこっちを見るフェイトに崩輪を解きながら告げる。

 

 

「今のは……魔法じゃない。あなたは何者?」

 

「君が自分のことを話すなら僕もその質問に答えるのも吝かじゃない。でも、話す気はないんだろ?」

 

 

 一瞬の逡巡を見せるけど、フェイトは直ぐに巨大猫に向き直ってフォトンランサーを形成する。会話より任務を優先した。

 

 魔法陣の構築から魔法形成まで淀みが一切ない。今のなのはより明らかに実力は上だ。

 多分新崎も超えている。新崎の魔法は構成が甘くて、素手で叩いても掻き消すことができるほどに脆い。

 

 

「フォトンランサー」

 

 

 三度放たれた魔力弾は容易く巨大猫を貫いた。

 その光景を見て悲鳴を上げるなのは。顔が青褪めている。だが……。

 

 

「なのはちゃん、彼女が攻撃したのはジュエルシードだよ。子猫には傷一つないよ」

 

「え……?」

 

 

 咲さんが言うように巨大猫に傷はない。

 そして、感じる限りではジュエルシードの反応は途絶えている。封印できたんだ。

 その証拠に巨大猫はその大きな身体をどんどん縮めていき、やがてジュエルシードと分離して普通サイズの子猫に戻った。

 ジュエルシードはそのままフェイトの下へ飛んでいき、バルディッシュのコアに格納された。

 

 

「……」

 

 

 フェイトはこっちを一瞥して高度を上げていく。

 彼女に追従するように希薄な存在があとを追う。さっきは気付かなかった。

 フェイトと同じ輝く金髪をツインテイルにした赤い瞳を持つ小さな女の子。歳は四、五歳くらい。

 輪郭が薄く、世界との境界線が曖昧で、向こう側の風景が身体を通して透けて見える。

 

 その女の子と目が合った。

 女の子は少し目を見開く。僕が見ていることに驚いているんだろう。

 アリシア・テスタロッサ。フェイト・テスタロッサのオリジナルで今回の事件の発端となり、フェイト誕生の切っ掛けにもなった少女だ。

 

 

「待って!」

 

「……」

 

 

 なのはがフェイトを呼び止める。

 その声に反応してうごきを止めたフェイトに、なのはが目線を合わせるために慌てて飛んだ。

 

 

「それはユーノくんの落とし物なの! だから返して!」

 

 

 少し語気を強めて言うなのは。

 それに対してフェイトは何も答えない。彼女に憑いているアリシアが叫ぶのが聞こえた。

 

 

――フェイト、だめっ!

 

 

 その声は届かず、フェイトの腕を掴もうと伸ばされた手もすり抜けた。

 

 

「ごめん」

 

「え……」

 

 

 速い。

 小さな呟きを溢すと同時に、フェイトはなのはの反応速度を上回った動きで懐に飛び込んだ。

 だけど……。

 

 

「水遁・水断波!」

 

 

 今度は咲さんが動いた。

 高速で組んだ印に発動キーである技名。それらを行うのにレイコンマイチ秒。その速度は先に動いたフェイトよりも速かった。

 

 

「……っ!?」

 

「きゃっ!」

 

 

 間一髪で身体を捻って迫るウォーターカッターを躱すフェイト。なのはに攻撃することは叶わず、横を素通りするだけに止まった。

 

 

「今のは……」

 

 

 目を見開くフェイト。興味を惹かれた顔をするけど直ぐに取り繕ってバルディッシュを構える。

 僕が「知りたいなら君のことを教えろ」と言ったのが要因かな。

 

 

「なのはちゃん、下がって」

 

「咲お姉ちゃん?」

 

「今のなのはちゃんじゃ、その娘には勝てないよ」

 

 

 言って空に浮かび上がる咲さん。

 

 

「……」

 

「この子は私の大切な妹なの。君に傷付けさせる訳にはいかないよ」

 

 

 なのはを背にして正面からフェイトを見据える咲さん。

 その気迫ははぐれ悪魔やはぐれ神父を相手取る時と同様のもので、無感情を顔に貼り付けたフェイトをたじろかせるには十分だった。

 

 

「待ってくれ!」

 

 

 緊迫した空気を破ったのはやっぱりと言うか、またお前かと言いたくなるほど当然のように、新崎だった。

 なのはとユーノは咲さんの気迫に押されて何も言えないし、僕はあとが怖いから傍観しようと思っていた。

 だから、口出しするのは残った新崎しかいない。

 

 

「……何かな、新崎君? くだらない話だったら……潰すよ?」

 

「……っ。こ、この勝負はなのはに任せていいと思う!」

 

 

 鈍感な新崎も咲さんの放つ怒気には流石に後退る。

 それでも踏み止まって自分の意見を伝える新崎は無駄に凄いと思う。

 

 

「却下」

 

 

 一刀両断だった。

 

 

「……は? いやいやいや、待ってくれ俺の考えも――「風遁・真空玉!」――……があああぁっ!!?」

 

 

 今度は空に浮かび上がって咲さんを説得しようとした新崎を、咲さんが口許に浮かび上がった魔法陣に息を吹き掛けると、十個近い空気の玉が魔法陣から放たれ、新崎だけに的確に降り注ぐ。

 新崎は一発目で地に落とされ、後続の二発目、三発目と着弾していく。

 砂塵が舞い新崎の姿は見えないけど、魔力は感じるし死んでいないことは分かった。咲さんが上手く加減したのかもしれない。

 

 

「――っ!」

 

「…………さ、咲お姉ちゃん!」

 

 

 暫く静観していたフェイトが、咲さんが新崎を黙らせるのに術を使った瞬間を好機だと見て、咲さんの側面に回り込んでバルディッシュを振り上げた。

 呆気に取られていたなのはがそれに気付いて声を上げる。

 

 

「うん、速いね。だけど私の方がもっと速いよ」

 

 

 咲さんが一歩分フェイトとの距離を詰め、振り下ろされるバルディッシュの魔力刃の間合いから逃れてバルディッシュの柄を右手で掴んで止めた。

 その動きはフェイトより速く、なのはとユーノには咲さんが一瞬ぶれて見えた筈だ。

 

 

「くっ!」

 

 

 引こうにも押そうにもびくともしないバルディッシュにフェイトが呻く。

 

 

「フォトンランサー!」

 

 

 フェイトが強く叫ぶ。

 至近距離からフォトンランサーが咲さんの腹部に向けて放たれた。

 しかし咲さんは後ろに下がって距離を空け屈んで前に出る。頭上を通過するフォトンランサーに見向きもせずフェイトにタックルを喰らわせた。

 

 

「あぐぅっ!」

 

「水遁・大砲弾!」

 

 

 咲さんは吹き飛ぶフェイトに追撃を掛けるべく、高速で印を組み術を発動する。

 例のごとく、口許に浮かび上がった魔法陣に息を吹き掛けると、圧縮された水の塊が砲弾のごとき速さでフェイトに迫る。

 

 

〈Protection〉

 

「くぅっ!」

 

 

 迫る水の塊がフェイトの眼前に展開された魔法障壁で弾けた。

 なんとか咲さんの追撃を凌いだフェイトは、体勢を整え反撃に移ろうとするけど、既に咲さんはフェイトの目と鼻の先まで迫っていた。

 その咲さんの右手はチリチリと放電を繰り返して、幾千もの小鳥が囀ずっているような音を響かせている……ってぇ!?

 

 

「ちょっ、咲さん! その術は!」

 

「千鳥!」

 

 

 咲さんが振るった右手は、障壁を容易く砕き、フェイトの左胸に一直線に突き進む。

 フェイトは咲さんの顔を視認できているけど、状況を把握できていない。

 彼女の反応速度を完全に上回った咲さんの速度に対応できない。

 

 フェイトの左胸まで十数cm。その距離で咲さんは術を解きその場から飛び退いき距離を取った。

 

 

〔ガアアァァァッ!!〕

 

 

 数秒後雄叫びが響き、咲さんの居た場所をオレンジ色の魔力弾が上空から三つ降り注ぎ通過する。標的を失った魔力弾はそのまま障害物に当たることなく地面を穿ち小さなクレーター作った。

 

 

〔グルルルルッ〕

 

 

 上から降りてきたそれを放った本人(本狼?)であろうオレンジ色の狼がフェイトを守るようにして背にし、咲さんに向かって唸り声を上げる。

 

 オレンジ色の体毛に覆われた引き締まったしなやかな四肢。

 鋭く咲さんを睨み付ける青の瞳と鉄をも砕きそうな牙。

 

 

「アルフ!」

 

 

 アルフ……フェイトの使い魔で良き理解者だ。

 確りと主を窘めることのできる忠義と、主のためなら敵わない強者にも牙を剥く強さを持った女性だ。

 

 だけど、彼女の登場はもう少し先だ。確か海鳴温泉へ行った時になのは達と初の邂逅をする筈。

 フェイトが敵わないと見て、加勢に出てきたのか?

 

 

〔フェイトは下がってて。こいつはアタシが……!〕

 

「……」

 

 

 咲さんとアルフが睨み合う。

 咲さんには余裕があり、アルフには余裕がない。それは表情を見れば分かった。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 十数秒睨み合い、咲さんは浅く息を吐いて身体から力を抜く。

 

 

「もう行って良いよ」

 

「え?」

 

〔……何のつもりだい?〕

 

 

 咲さんの言葉に訝しむように眉を寄せるフェイトとアルフ。

 

 

「戦う気はないってことだよ。ジュエルシードも持っていって良いよ」

 

 

 ジュエルシードの部分でユーノが声を上げようとするけど、それは咲さんの視線に封殺された。

 

 

〔嘗めてるのかい?〕

 

「そんなつもりはないよ。ただ……」

 

 

 言葉を切って咲さんは優しく微笑んで……。

 

 

「私はデバイスを持っていないんだよ。だから非殺傷設定なんて器用なことできないよ」

 

 

 と、恐ろしいことをさらっと言った。

 

 

「え?」

 

 

 さーっ、とフェイトの顔から血の気が引くのが見て取れた。

 その気持ちは少し分かる。千鳥は殺傷能力が高い術だ。下手を踏むとフェイトの心臓は咲さんの千鳥によって潰されていただろうから。それは直に術を向けられたフェイトが一番分かっていると思う。

 

 

「はぁ~」

 

 

 盛大な溜め息が聞こえた。

 

 

「私は別に君を殺そうなんて思ってないよ。それに千鳥は魔法障壁を破るために使っただけで、君への攻撃はただ拳打を当てるだけのつもりだったし」

 

 

 咲さんは心外だと言うようにに唇を尖らせ、人殺しなんてしたくないよ、と続けた。

 

 

「警戒するのも分かるけど、私に敵うと思う?」

 

 

 話を本題に戻してにこっとアルフに笑い掛ける。

 油断や慢心じゃない。咲さんのこれは余裕の表れだった。

 

 はぐれ悪魔やはぐれ神父を相手取ってきた経験のなせるものだ。

 宏壱さんと出会い。技を磨き、肉体と心を磨いた。僕も、咲さんも宏壱さんに殺され掛けたことがある。

 肉体的にじゃない。殺気だけで死を連想させられた。立ち向かう気すら起こさせない圧倒的な実力差を感じた。

 背中を向けて逃走すれば、背中からお腹まで腕が貫通するイメージを持った。

 正面から飛び掛かれば、宏壱さんが腕を振り抜き頭を粉砕されるイメージを持った。

 背後に回り込めば回し蹴りで首が飛び、地中から攻めれば踵落しで地面ごと潰され、宏壱さんを視界に捉えたまま逃走を図れば一瞬で距離を詰められ心臓を抉られた。

 

 そんな訓練を受けた僕達は、相手の実力が上でも明確な死が連想できなくなった。宏壱さんに慣れてしまっていた。

 どんなに速い悪魔祓いも鈍足に見え、どれ程怪力な悪魔もひ弱に思えた。あの程度の連中で死ぬ未来が見えない。殺される訳がないと自分を信じられた。

 今の咲さんのそれはそういった経験の積み重ねから来るもの。本物の迫力が咲さん自身から滲み出ていた。

 

 

〔――っ!〕

 

 

 アルフの顔が強張った。

 こくっと誰かの喉が鳴る。アルフかフェイトか、将又(はたまた)なのはかユーノか。誰であれ、この場は咲さんが支配していることは皆が認識している。

 

 

「大丈夫、って言っても信用できないだろうけど、手を出す気はないし出させないから。ほらなのはちゃん」

 

「ひゃっ」

 

 

 咲さんはフェイト達に背を向けてなのはに近付き、手を握って降りてくる。

 手出しはしないと、そう言外に伝えるために。

 

 

「早く行って。私はそんなに短気なつもりはないけど、気が変わるかもしれないよ?」

 

 

 僕とユーノの傍になのはを連れて降り立った咲さんが、フェイト達を見上げて言った。

 

 

「……行こう、アルフ」

 

 

 フェイトがアルフに声を掛けて僕達に背中を向けて飛び立った。アルフもこっちを警戒しながらフェイトを追う。

 

 

「……どうして行かせたんですか?」

 

 

 フェイト達を見送ったあと、ユーノが責めるように咲さんに問い掛ける。

 

 

「歩きながら話すよ」

 

 

 ユーノの厳しい視線をさらりと流して月村邸に足を進める咲さん。だけど、二歩進んだところで足を止めて……。

 

 

「あ、新崎君はセイバーさんが連れ帰ってくれませんか?」

 

「……分かりました」

 

 

 今まで新崎のことを忘れていたような声を溢して、セイバーさんに有無を言わさぬ冷めた視線で一瞥して言う。

 

 新崎が気絶してユニゾンが解けたのか、倒れている新崎を介抱していたセイバーさんが、新崎を連れて転移魔法で帰っていった。

 

 咲さんの新崎に対する評価はマイナスまで下降し続けている。

 普段はほんわかとした笑顔で周囲を癒やす咲さんだけど、新崎を見る目は冷たい。

 当然か。新崎の行動はなのはを危険に曝すものだったし。

 

 

「すずかちゃん達も心配するし、行こ」

 

「勝吾のことは……――「用事ができて帰った、とでも言えば良いよ」――……そう、ですね」

 

「今の咲さん、機嫌悪いからあんまり刺激しない方が良いよ、ユーノ」

 

 

 僕の言葉に、こくこくと同意するように頷くなのは。

 なのはが咲さんを怒らせるようなことはしたことないけど、僕との鍛練風景は見ている訳で、機嫌が悪い時とかの熾烈な猛攻は、高町家道場の壁に穴を空ける勢いなのだ。

 当然僕に八つ当たり、ではなく、僕が変に口を滑らせた時とかに限られるんだけどね。

 

 

「ふふ、大輝くん。良い度胸だね? 寿命を縮めたいのかな?」

 

「い、いえ、結構です!」

 

 

 静かな笑み、でも目が全然笑っていない微笑みを向けられて遠慮する。

 僕の中では咲さんは宏壱さんに次ぐ強さだ。実際はまだまだ士郎さんや恭也さんの方が強いんだろうけど、こう、纏うオーラが恐いんだ。

 

 

「口は災いの元、だよ。覚えておいてね?」

 

 

 やっぱり咲さんの目が笑っていない。僕は何度同じ失言をすれば気が済むのか……。

 僕が震えているのも構わずに、咲さんは止めた足を再び動かして月村邸に向かって歩みを進めた。

 

 

「あはは、が、頑張ってね、大輝くん」

 

「……うん」

 

 

 なのはの励ましに頷いて咲さんを追う。

 

 

「えっと、それで、どうするんですか?」

 

「え?ああ、さっきの話だね」

 

 

 無言で歩くこと数分。すずか達の下に着くまで沈黙が続くのが辛い。

 そう思った僕は咲さんに話題を振ってみた。キョトンとした咲さんだけど、言葉の意味が分かったようで、明るい声で話す。

 

 

「彼女とはなのはちゃんが戦って、ジュエルシードの争奪戦をしてもらうつもりだよ」

 

 

 そう言った咲さんは自分の考えを続けて僕達に伝えたのだった。

 

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