リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第八十鬼~赤鬼、昼食団欒~

side~宏壱~

 

 朝から続けた鍛練を終えて今は昼飯時。

 さっとシャワーで汗を流して、我が家の居間に置かれた長机の回りに座った俺、咲、大輝、人間形態になったエスト、なのは、ユーノ少年の前に料理が置かれている。

 メニューはだし巻き玉子にししゃもの塩焼き(一人三匹)、五分割にされたとんかつとキャベツの千切り、漬け物(たくあん)、そして白米だ。

 ししゃもは冷凍物で鮮度はないに等しいが、食べたくなったのだから仕方がない。

 因みに席順は俺、大輝、エストが並んで座り、その向かい合わせに咲、なのは、ユーノ少年が座る形だ。

 

 因みに、リニスの姿はない。猫状態のリニスと面識のあるなのは達が気付くのを恐れて、二階に行ってもらっている。

 人形態であったとしても、なのはの相棒になりつつあるレイジングハートに気付かれる可能性を考慮した結果だ。

 

 

「それじゃ、いただきます」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

 俺の音頭に続いて唱和する咲達。

 

 

「そういえば大輝、あれどうやって飛んでたんだ?」

 

 

 無言で食べるのもどうかと思って気になっていたことを大輝に聞く。

 

 

「え? ああ、舞空術ですか?」

 

「ぶくう……なんだって?」

 

「舞空術です、舞空術」

 

 

 聞きなれない言葉に首を傾げて聞き返すと、苦笑混じりの言葉が返ってきた。

 

 

「僕は魔力じゃなくて気で飛んでるんです」

 

「気で……? そんな話聞いたことないぞ」

 

 

 気の達人と言えば楽進だが、アイツが空を飛んでるところなんて見たことないぞ。

 

 

「まぁ、イメージ力があればできる、と思います。あとは気のコントロールとか……」

 

 

 歯切れが悪いな。なにか問題が……ああ、なのはか?

 視線がちらちらとなのはに向かう大輝を見てそう当たりをつける。

 

 

「???」

 

 

 当然、意味が分からないだろうなのはは、だし巻き玉子を口に運んだ箸をくわえたまま首を傾げる。

 行儀が悪いと、なのはの正面に座る咲に怒られていた。

 

 

「えっと、気と魔法の相性って実は頗る悪いんです」

 

「それとなのはとなんの関係があるんだ?」

 

「いえ、方法をここで語って真似でもされたら危ないので」

 

 

 そんなにか? どうせなら使い勝手のいい方を使えば、魔力消費も抑えられて便利だと思うんだが。

 

 

「その……筋肉繊維がズタズタになるんです」

 

「あんだって?」

 

 

 思わず変な声が出た。視線が俺に集中する。

 

 

「こほん……なんだって?」

 

 

 漂う妙な空気を払拭するように咳払いをして、言い直す。

 俺の頑張りが通じたのか、集中していた視線が大輝に戻る。

 

 

「……気、気力と言い換えますけど、気力と魔力は反発し合うんです。それこそ磁石のS極とN極みたいに」

 

「反発し合う、ね。性質が違うのか?」

 

「詳しいことは分かりません。でも、一緒に扱うのはかなり危険なことは確かなんです。僕も何度か試してみたんですけど、操作を誤ると気力と魔力が身体の中で弾けて死にそうになりました。だから、なのはには純粋に魔導だけを極めてほしい」

 

「う、うん」

 

 

 聞き捨てならない言葉を吐く大輝の物言いに、戸惑いながらも頷くなのは。

 大輝の目はまるで妹を見るような目だ。ジュエルシードの事件で一緒に居る内に、兄心みたいなのが生まれたのかね?

 

 

「俺も危ないか?」

 

「どうなんでしょう? 宏壱さんの身体なら耐えられると思いますけど……。正直、宏壱さんには覇気があるので必要ないと思うんです……」

 

「まぁ、そうなんだろうが、強くなれるならそれに越したことはないんだよ」

 

 

 手札はあればあるだけいい。戦闘に関してのそれは邪魔にはならないからな。

 

 

「私はどうかな?」

 

「咲さんは危険だと思います。僕や宏壱さんのように化け物染みてませんから」

 

「おい、どういう意味だ」

 

 

 大輝のあんまりな物言いにツッコミを入れるが、否定しきれない部分も多分に含まれているために、それも中途半端に終わる。

 ただ、「ししゃも、いい塩加減だね」と俺をスルーしてエストに話し掛ける大輝には、今度の訓練(既にただの模擬戦)でボコボコにしてやると決意だけは胸に秘めておくことにする。

 

 

「重要なのは気のコントロール、か?」

 

「そうですね。僕は体質上、気との相性が良いみたいで、気のコントロールは早い段階で習熟できたと思います。もっと鍛練すれば、砲撃魔法みたいに、気に指向性を持たせて放つ、そんなこともできるようになるかもしれません」

 

「お前、それもう魔導師じゃないよな?」

 

「あはは、否定できませんね。ただ、エストの状態維持には魔力が必要なので、そちらの修練も欠かすつもりはないです」

 

 

 乾いた笑いをする大輝に「そうか」と返して、ししゃもを頭からかじる。

 ししゃもを咀嚼して飲み込み、浮かび上がった疑問をぶつける。

 

 

「でもさ、それができたとしてだ。非殺傷設定なんてできないだろ。どうするんだ?」

 

 

 もし、指向性を持たせて放出できるのなら、どう考えても殺傷力は咲の忍術並みかそれ以上だろう。

 そう思って聞くと……。

 

 

「威力の調整をできるように練習しようかと思うんです。ただ、相手がどれ程の威力を耐えられるか僕には判断がつかないと思うので、エストに頼ろうと思うんです」

 

「えっへん」

 

 

 隣に座るエストの髪を優しく撫でながら言う大輝。エストは何が誇らしいのか、胸を張って鼻高々だ。無表情だが。

 

 

「でも、魔力と合わせるのは危ないんだよね? エストちゃんも危険なんじゃないかな?」

 

 

 黙って俺と大輝のやり取りを見ていた咲がそう問い掛ける。

 

 

「そこは上手く交わらないように別の回路を作れれば、と思うんですけど……」

 

「あー、じゃあ束にでも頼んでみればどうだ?」

 

「解剖とかされませんか?」

 

「「「……」」」

 

 

 束をよく知る俺、咲、なのはは顔を見合わせる。

 まだ出会ったことのないユーノ少年と、束の前では人の形態をとったことのないエストは首を傾げた。

 

 

「……………………ま、まぁ、大丈夫だろ」

 

「なんですか、今の間は!?」

 

「うん、大丈夫だよ。ちょっとエストちゃんが高性能になるだけじゃないかな?」

 

「高性能!?」

 

「空を飛んだり」

 

「目からビームが出たり」

 

「口から蒸気が出たり」

 

「身体がクリスタルになったり」

 

「ロケットパンチが撃てたり」

 

「マヨネーズを小指から出せるようになったり」

 

「「「色々な/色々だね」」」

 

「嫌すぎる!! しかも最後のが一番変だ!」

 

 

 と、まぁ、巫山戯ただけだが、実際にやりかねないのが束だ。と言っても、これが赤の他人なら有り得るんだが、大輝は束に気に入られているからな。心配はしていない。

 

 

「俺からも言い含めておく。気を通す回路と調整機能だな?……いや、いっそのこと束にデバイスの勉強させて気を非殺傷にできるようにするってのもありか?」

 

「できるのならその方がいいです。倒しきれないとかあってしまうと、そっちの方が問題ですから、いっそ全力で敵を潰して意識を飛ばした方が楽です」

 

 

 それはそうだな。

 気絶するかしないかをギリギリで攻めるとか、とんだサド野郎だ。俺もそんなものを喰らうのは御免被る。

 

 

「まぁ、そこら辺も事件が解決してからだろう。今日はこれから探しに行くんだろ?」

 

「うん、やっぱり放っておくのは危険だから。少しでも多く集めないと」

 

「無理はするなよ? お前らは兎も角、なのははまだ身体が出来上がっていないんだ。適度な休息を取らないと……」

 

「大丈夫ですよ。そのための、というわけでもないですけど、明日から二泊三日の温泉旅行ですから」

 

 

 それは毎年の恒例行事だ。

 翠屋も休店して高町家、大宮家、月村家、アリサ、俺、で行く海鳴温泉旅行。今年はそこにユーノ少年とクソガキ……新崎 勝吾もプラスされるらしい。

 しかし、今年は……。

 

 

「ま、そういうことなら羽を伸ばしてこい。俺は用事があるから行けないが、土産話を楽しみにしている」

 

 

 そういうことだ。

 今回は俺は不参加だ。実は管理局の方で大捕物(おおとりもの)がある。

 Fプロジェクトと呼ばれる違法研究、クローン製造と、以前から俺達ゼスト隊が追っている山、戦闘機人製造を兼ね備えた戦闘機人製造プラントの発見が事の発端だ。

 急遽、非番の隊員の出勤と他方からの人員の招集が掛けられ、聖王教会からも数十人に及ぶ騎士の派遣も決定されているほどの大きな仕事になる。

 

 だが、実は俺はそっちには参加しない。人員を大きく動かすと相手は気取り、警戒し、逃走することは明白。

 秘密裏に動いても何故か相手に感付かれ逃走されてしまうのだ。多分、こんな大掛かりな作戦じゃないとしても、相手には気付かれていた可能性が高い。

 俺達、俺、朱里、雛里、碧里、菫といった蜀陣(管理局内では一括りでこう呼ばれることが多い)の見解では、内部に内通者が居る可能性を考えている。

 製造プラントに強襲を仕掛けてももぬけの殻、何てことが最近多いのだ。

 当初は警備の数が増えるだけだったため、警戒を強くさせているだけ、そう思っていたのだが、どうも最近は強襲日時とプランが相手側に漏れているかのように、的確に、正確に、完璧な逃走経路の確保と時間稼ぎをされる。

 そんなことが十数回続けば、内通者の可能性に行き当たるのは当然の結果と言えた。

 

 そんな訳で俺一人だけ別任務、という訳ではなく、本命を叩く任務に当たるのだ。

 大部隊を囮に、別の違法研究所の強襲(しかも俺一人で)を与えられたのだ。

 と言ってもこれは俺と桃香達、ゼストさん、クイントさん、メガーヌさんしか知らない超極秘任務だ。

 今回の総指揮を任された……何とかって提督も知らないことだ。

 そいつはロストロギアの密売に一枚噛んでるって噂がある陸中将なんだが、本当ならレジアスのおっさんが取るはずだった指揮権を横合いから割り込んできたらしい。近々昇級の話があるらしいが、レジアスのおっさんはまだ少将の身で強く言えなかったらしい。

 このことから、俺達はその総指揮を執る中将が相手と繋がっている可能性を考えている。

 

 閑話休題。

 

 

「残念です。もっと話を聞きたかったんですけど……」

 

 

 そう言ってくれるのはユーノ少年だ。俺よりも彼の方が博識だと思うのだが、どうもさっきの術式が気になるらしい。

 

 

「まぁ、それは追々話そう。俺もスクライア一族の、君が見てきた古代遺跡のことを聞いてみたい」

 

「はい、何時か話し合ってみたいです」

 

「なんだか、宏壱さんもユーノくんも意気投合したみたいなの」

 

 

 斜め前に座る俺と横に座るユーノ少年を交互に見て、ポツリと言葉を落とすなのは。

 なんだか、旧知の友人と新しい友人が仲良くなって喜んでいるように見える。

 

 

「さ、たんと食ってくれ。飯のおかわりもあるからな」

 

 

 その後も雑談を交わしながら、俺達は食事を続けた。

 その雑談の中で、大輝が模擬戦中に見せた界王拳の話も聞いた。

 

 俺の予想通り、地力を底上げするのが界王拳の本質で間違いないらしい。

 漏れ出る赤いオーラは、血肉に吸収しきれなかった気力。普通ならどんどん空中に霧散して消費されるだけ……らしいのだが、それを纏うことによって気の鎧とし、さらなる肉体強化を行っているんだとか。

 数倍の身体強化をするだけあってその効果は凄まじいの一言だ。

 パワー、スピード、各感覚器。どれをとっても普段の大輝の三倍……いや、四倍にまで跳ね上がっていた。

 これならS級はぐれ悪魔も一人で対処できる。そう俺に思わせるには十分だった。しかも、界王拳・二倍なんて手まで持ってやがる。

 単純に普段の大輝の八倍の底上げだ。正直、これが三倍、四倍、五倍と跳ね上がってくると、俺のスペックを上回るだろう。

 多分、俺が余裕を持って闘えるのは四倍までだ。五倍に到達すると俺も覇気を纏い、六式をフルに使い、ギアムーブで身体強化をする必要がある。

 もっと言えば、大輝が五倍まで界王拳を引き上げることができるようになった時、あいつのスペックは今よりも遥かにパワーアップしていることは間違いない。

 

 しかし、当然ながらそれほど強大な力が何も問題なく、とはいかないようで、訓練終了後何気なく大輝の肩に手を置くと、痛みでぶっ倒れやがった。

 一種の筋肉痛だが、無理に強化された肉体が疲弊しきり、強張っていた。ユーノ少年の回復魔法で動くことはできるものの、戦闘への参加は二、三日控えた方がいい。

 ただ、大輝の中では使う機会はそれほど多くないと思っているようで、練習で身体に馴染ませるが、実戦で使うことはない。そう言っていた。

 強すぎて加減が利かないため、相手を殺してしまう。そんな懸念が大輝にはあるようだった。<input name="nid" value="42387" type="hidden"><input name="volume" value="84" type="hidden"><input name="mode" value="correct_end" type="hidden">




色々と自己解釈込みでお送りしました。
最後の界王拳の取って付けたようなお話は、まさに取って付けただけです。
会話の中で出そうと思っていたのに、気付けば出す余地なく書き上がっていて、慌てて付けました。

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