一人の村人として静かに、人生を送りたかった転生者の少年がいた。しかし、運命が彼をそのままにはしておいてくれなかった。いやそれ以前に、村長の娘が黙っていなかった。

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第1話

 木漏れ日が穏やかに地面を叩き、辺境の村に平穏な午後の時間が流れていた。

 風に揺れる草木の音、遠くで鳴く鳥の声。この村に流れる時間は、まるで止まっているかのように緩慢で、それゆえに心地よい。アリハタは、村の外れにある古びたベンチに腰を下ろし、半分閉じた瞳で微睡んでいた。

 

 前世の記憶がある彼にとって、この平穏は、かつての激戦や理不尽な運命から逃れた果てに手に入れた、何物にも代えがたい宝物だった。異世界からの転生者であることを隠し、ただの平凡な少年として、波風立てずにこの地で朽ちていく。それこそが、彼の慎ましい平穏への願いだった。

 

 しかし、その平穏は、いつも唐突に、そしてあまりにも扇情的な形で破壊される。

 

 「ねえ、アリハタ。またそんなところで死んだふり? 本当、つまんない男なんだから」

 

 耳を突き刺すような、勝ち気で、それでいてどこか甘い声。

 アリハタが重い瞼を持ち上げると、そこには鮮やかな桃色の長い髪をなびかせた少女が立っていた。村長の娘であり、この村で最も美しいとされる少女、ムィリナだ。

 

 彼女は、わざとらしく腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべてアリハタを見下ろしている。

 その姿は、一見すれば可憐な村娘そのものだった。しかし、彼女が身に纏っているのは、村では少々質が良すぎる、薄手のチュニックだ。その布地は彼女の華奢な体躯を強調し、動きに合わせて、不必要に肌の白さを露呈させている。

 

 「……ただの昼寝だ。放っておいてくれ」

 

 アリハタは抑揚のない声で返し、再び目を閉じようとした。だが、ムィリナはそれを許さない。彼女は、小悪魔的な笑みを深めると、一歩、また一歩と歩み寄り、アリハタの目の前で立ち止まった。

 

 「ふーん? 女の魅力に、全く興味がないとかさ、でも、そんなに平気な顔してられるなんて、やっぱり隠してるんでしょ?」

 

 この娘は最近体つきが女らしくなり始めそれが嬉しくて仕方ないらしく、周囲にそれを認めさせないと気が済まないらしかった。

 ムィリナは、いたずらっぽく片目を細めると、わざとらしく身を乗り出した。彼女の薄いチュニックの襟元が、大きく左右に開く。そこから覗くのは、まだ少女の瑞々しさを色濃く残した、未成熟な、けれど確かな曲線を描く小さな双丘だった。

 

 それは、成熟した女性の豊かな膨らみとは異なる、繊細で、儚げな美しさだ。薄い布地越しに、その控えめな、しかし形を保った小さな隆起が見て取れる。彼女の華奢な肋骨のラインが透けて見えそうなほど、その胸元は薄く、たおやかだ。

 それは、まさに「小さめ」という言葉がこれほど似合う、守りたくなるような、けれどどこか挑発的な、美しき未完成の象徴であった。

 

 「ほら、見てよ。……どう? こんなに近くで見せてあげてるのに、アリハタは全然動じないんだね」

 

 ムィリナは、指先で自身の胸元をなぞるようにして、わざとらしく紐を緩めた。

 露わになった肌は、午後の柔らかな陽光に照らされて、真珠のように白く輝いている。彼女は、アリハタが困惑し、あるいは顔を赤らめるのを期待して、小刻みに腰を揺らしながら、その小さな胸の存在感を誇示するように、彼に顔を寄せた。

 

 「……暑苦しい。どいてくれ、ムィリナ」

 

 アリハタは、視線を一切合わせることなく、淡々と吐き捨てた。

 彼の瞳には、彼女の挑発的な肢体も、露わになった白い肌も、誘惑的な仕草も、まるで風景の一部であるかのように映っている。その徹底した無関心が、ムィリナのプライドを静かに、しかし確実に逆なでしていく。

 

 「もう! 本当に、あんたって人は! せっかく私が、特別に『サービス』してあげてるっていうのに!」

 

 ムィリナは、ぷくっと頬を膨らませて唇を尖らせた。

 彼女の表情は、今にも泣き出しそうな子供のような屈辱と、それでもなお、彼を屈服させたいという強烈な独占欲が混ざり合った、複雑なものだった。彼女がどれほど肌を見せ、言葉で彼を弄んでも、アリハタの凪いだ心は一向に乱れない。

 

 「どうせ、女も知らないし、手も出せないんでしょ? そうでしょ?」

 

 ムィリナは、悔し紛れに、さらに挑発的な言葉を投げかける。彼女の胸元が、激しい呼吸と共に、小さく、せわしなく上下した。その動きさえも、彼女の若々しく、可憐な美しさを際立たせ、見ている者の視線を釘付けにする魔力を持っていた。

 

 しかし、アリハタは、その視覚的な誘惑すらも、自身の平穏を脅かす「ノイズ」として処理していた。

 

 そんな、いつものような、噛み合わないやり取りが続いていた、ある日のことだ。

 村の入り口の方から、騒がしい蹄の音と、複数の馬車の音が聞こえてきた。

 

 「おい、村長さん! 王都より伝令が参りましたぞ!」

 

 村の広場の方から、誰かの叫び声が響く。

 アリハタの眉が、わずかに動いた。

 ムィリナもまた、先程までの挑発的な態度をどこかへ放り出し、不思議そうに、そしてどこか緊張した面持ちで、村の方向を見据えた。

 

 やがて、村の中央に、格式高い紋章が刻まれた馬車が止まった。

 そこから降り立ったのは、王都の騎士団に属すると思われる、威厳に満ちた制服を纏った使者たちだった。

 使者は、村人たちが集まり始めた広場の上で、大きな巻物を広げ、鋭い声で宣言した。

 

 「聞け、辺境の民たちよ! 王都近郊に現れた未踏のダンジョン攻略のため、王命により冒険者の募集を行う! 選抜試験への参加を志願する者は、村の代表として選出し、王都へ送り出すものとする!」

 

 その言葉が村に放たれた瞬間、空気は一変した。

 静寂は消え失せ、代わりに昂揚感、不安、そして野心が混ざり合った、濁ったざわめきが村を覆い尽くす。

 

 アリハタは、深くため息をつき、再び目を閉じた。

 平穏。

 彼が最も求めていたその言葉が、今、遠い場所へと押し流されていく予感がした。

 

 「……冒険者、か」

 

 隣で、ムィリナが、何かを噛み締めるようにして小さく呟くのが聞こえた。

 その声には、先程までの小悪魔的な響きはなく、どこか、自分自身の運命に抗おうとするような、強い意志が宿っていた。

 

 平穏な村の午後は、かつてない嵐の予感を孕んで、静かに終わりを告げようとしていた。

 

 

 

 真昼の太陽が容赦なく照りつける村の広場は、異様な熱気に包まれていた。

 広場の中央に設置された簡素な演台。そこには王都から派遣された、いかにも堅物そうな風貌の試験官たちが並んでいる。村人たちは、好奇心と期待、そしてどこか冷ややかな視線を混ぜ合わせた眼差しで、その様子を見守っていた。

 

 アリハタは、広場の隅にある木陰で、できるだけ周囲の目立たない場所に身を潜めていた。

 (……最悪だ。どうしてこんなことになった)

 地味な村の日常着に身を包み、眠たげな瞳をさらに伏せる。彼の望みはただ一つ。かつて異世界で英雄として駆け抜けた記憶を封印し、こののどかな村で、誰にも知られず平穏に、ただの村人として一生を終えることだった。

 

 しかし、その平穏を粉々に打ち砕いたのは、予定外の「推薦」だった。

 

 「村長の娘として、私が責任を持って推薦させていただきます!」

 

 弾けるような、勝ち気な声が響き渡る。

 群衆の視線が一斉に、一人の少女へと注がれた。鮮やかな桃色の長い髪を揺らし、高らかに宣言したのはムィリナだった。

 彼女は村長の娘として、常に村の中心にいる。きらびやかな刺繍の施されたチュニックは、彼女の華奢な体躯をより一層際立たせていた。その胸元は、まだ少女特有の未成熟な膨らみしかなく、薄い布地の下で控えめに、しかし確かにその存在を示している。その小さくも愛らしい曲線は、彼女の持つ小悪魔的な生意気さと相まって、周囲の男たちの視線を無意識に釘付けにしていた。

 

 「――アリハタ! あんた、ずっと隠してたみたいだけど、本当は凄腕の冒険者なんでしょ?」

 

 ムィリナが指差した先には、逃げ場を失ったアリハタの姿があった。

 周囲から「ええっ!?」「あの地味なアリハタが!?」というどよめきと、失笑が漏れる。

 

 「おいおい、ムィリナちゃん、冗談もほどほどにしろよ。あいつはただの怠け者だぜ」

 「そうだよ、村長の娘がそんな勘違いしてたら笑えないよ」

 

 村人たちの嘲笑が、アリハタの耳に突き刺さる。ムィリナは、そんな周囲の反応を愉しむように、わざとらしく胸を張ってみせた。その動作によって、薄いチュニックが彼女の細いウエストと、まだ控えめな胸のラインを強調し、挑発的な色気を放つ。

 

 「ふふん、みんな分かってないんだから! あんた、今すぐあそこの試験を受けてきなさいよ!」

 

 ムィリナは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、アリハタを演台へと押し出した。彼女の狙いは明白だった。公衆の面前で彼を晒し者にし、試験で無能で無様な姿を見せつけることで、彼が自分に頼らざるを得ない状況を作り出すこと。

 

 (……やれやれ。計算違いも甚だしい)

 アリハタは、内心で深く溜息をついた。

 彼は、この場を切り抜けるために既に計算を済ませていた。試験内容は、魔力測定と身体能力測定の二段構えだ。彼は、魔力を放出する際、出力の数値が「極めて低いが、測定器が反応する最低ライン」をわずかに下回るように調整する。つまり、合格にはならず、「才能の欠片もない凡人」として処理されるように。

 

 だが、試験官が手に取った魔力測定用の水晶球を見た瞬間、アリハタの眉がわずかに動いた。

 (……あれは、王都の最新型か? 精度が高そうだな……)

 

 試験が始まった。

 次々と村の青年たちが魔力を流し込み、数値が記録されていく。周囲の期待に応えられず落胆する者、あるいは少しばかりの結果に浮かれる者。

 そして、ついにアリハタの番が来た。

 

 「次、アリハタ君。前へ」

 

 試験官の冷淡な声。ムィリナは、今か今かと、彼が恥をかく瞬間を待ちわびて、身を乗り出していた。彼女の小さな胸が、興奮で上下する。

 

 アリハタはゆっくりと水晶球に手を触れた。

 (よし、出力は……0.1%。これなら確実に『不合格』、あるいは『測定不能』という扱いになるはずだ)

 

 彼は内側に秘めた膨大な魔力を、針の穴を通すような精密さで制御した。指先から、ほんのわずかな、光の粒ほどの魔力を流し込む。

 しかし、その瞬間。

 

 ――ビィィィィィィィィン!

 

 水晶球が、耳を刺すような高音を奏で始めた。

 「な、なんだ!? 出力が……止まらない!?」

 試験官が慌てて叫ぶ。

 

 (しまった、制御しすぎたか!?)

 アリハタは焦った。魔力を絞り込もうとした力が、逆に水晶球の複雑な魔力回路と共鳴してしまったのだ。彼は慌てて出力を抑えようとしたが、止まらない。

 

 やがて、静寂が訪れた。

 水晶球には、見たこともないような淡い、しかし澄み切った数値が表示されていた。

 

 「……判定、合格」

 

 試験官の声は、驚愕に震えていた。

 「数値は……極めて低いが、この魔力の『密度』。これほどまでに純度の高い魔力を、最小限の出力で制御できる者がいるとは。君……君は、とんでもない素質を持っているぞ!」

 

 会場が、静まり返った。

 嘲笑していた村人たちは、口をあんぐりと開け、唖然としている。

 そして、最も衝撃を受けていたのは、演台のすぐそばでニヤけていたムィリナだった。

 

 「え……? あのアリハタが、……合格……?」

 

 彼女の顔から、余裕の笑みが消え失せる。

 アリハタは、感情の読み取れない瞳で、ただただ地面を見つめていた。

 

 (……計算ミスだ。これでは、目立ちすぎてしまう)

 

 彼の平穏な隠遁生活への道は、どうやら大きく狂い始めてしまったようだった。

 

 

 

 村道を歩く足音だけが、乾燥した地面を叩いて虚しく響いていた。

 照りつけられる太陽が、アリハタの額に薄っすらと汗を滲ませる。彼はただ、この旅を早く終わらせ、かつての平穏な隠遁生活に近い静寂を取り戻したいと考えていた。しかし、その願いは、隣を歩く桃色の髪の少女によって、ことごとく打ち砕かれ続けている。

 

 「ねえ、アリハタ。さっきから黙りすぎじゃない? もしかして、私との会話が退屈だってこと?」

 

 ムィリナが、不満げに唇を尖らせて言った。彼女の透き通るような白い肌が、陽光に照らされて眩しく輝く。薄手のチュニック越しに見えるその体躯は、驚くほどに華奢だった。細い肩、くびれたウエスト、そしてまだ幼さを残した、控えめで可憐な胸の膨らみ。その、あまりにも未熟で、それでいて危ういほどに繊細なラインは、見ている者の庇護欲を激しく掻き立てる。

 

 アリハタは、視線を前方に向けたまま、淡々と答えた。

 「退屈しているわけじゃない。ただ、考えているだけだ」

 「嘘! 目が全然笑ってないもの!」

 

 ムィリナは、アリハタの腕に、自身の細い腕を絡めてきた。彼女の体温が、衣服越しに伝わってくる。

 数日前までは、彼女はもっと分かりやすい手段を選んでいた。村を出ようとする彼を食い止めるため、彼女はわざとらしく胸元を緩め、小悪魔的な微笑みを浮かべて、色仕掛けで誘惑してきたのだ。「才能の無い冒険者なんてやっても無駄死にするだけよ」と。

 しかし、アリハタの反応は、彼女の予想を大きく裏切るものだった。彼は彼女の露骨な誘惑に対しても、眉一つ動かさず、「暑いから、もう少し服を整えたらどうだ」とだけ言って、淡々と歩みを止めなかったのだ。

 

 それ以来、ムィリナの態度は変貌を遂げた。

 「かまってほしい」というレベルの甘えは、いつしか「彼を自分の支配下に置きたい」という、より強固で、どこか狂気を孕んだ執着へと進化していた。

 

 「もう、分かったわ。アリハタには、優しく諭すだけじゃダメなのね」

 

 ムィリナは、ふい、と腕を離すと、立ち止まってアリハタを真っ向から見据えた。その瞳には、先ほどまでの小悪魔的な輝きとは異なる、深く、粘りつくような光が宿っている。

 

 「決めたわ。私は、あなたの『監督官』になることにしたの!」

 「……監督官?」

 アリハタは、聞き慣れない言葉に思わず眉を寄せた。

 

 「そうよ! 私は、魔法少女! 迷える子羊のような、不器用な冒険者を導き、監視し、適切に監督する……それが私の使命なの!」

 

 彼女は、まるで演劇の舞台に立つヒロインのように、胸を張って宣言した。

 その動作に伴って、薄い衣類が彼女の小さな胸の膨らみに沿って揺れる。発達しきっていない、瑞々しくも儚いその膨らみは、彼女の宣言の仰々しさとは裏腹に、どこか幼く、守ってやりたくなるような愛らしさを放っていた。

 

 「魔法少女……だと? 随分と突飛な自己紹介だな」

 「突飛じゃないわ! 私は村長の娘として、村の代表、いえ、あなたの精神的支柱として、あなたを導く義務があるのよ!」

 

 ムィリナは、一歩、また一歩とアリハタに詰め寄る。彼女の表情からは、先ほどまでの生意気な笑みが消え、どこか深刻で、それでいて陶酔したような、形容しがたい熱が感じられた。

 

 「あなたは、微かに実力はあるけれど、あまりにも自分を律することができない。だから、私がそばにいて、あなたが道を踏み外さないように、常に監視し、管理しなければならないの。あなたは私の『部下』として、私の命令に従うこと。いいわね?」

 

 その言葉は、もはや甘えなどではなかった。それは、逃れることのできない契約、あるいは呪縛に近い響きを持っていた。

 アリハタは、ため息をつく。彼女の言っていることは支離滅裂だ。魔法少女が部下を監督する? 冒険者に対して、そんな理屈が通じるはずもない。

 しかし、彼女の背後にある「村長の娘」という社会的立場を無視することはできない。もし彼女の要求を公然と拒絶すれば、村全体との関係に禍根を残すことになる。

 

 「……分かった。好きにすればいい」

 「ふふん、分かればいいのよ! さあ、行きましょう、アリハタ! 私の監督下で、立派な冒険者になりなさい!」

 

 ムィリナは、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、再びアリハタの腕を、今度は逃げられないほどの強さで抱きしめた。

 彼女の細い指先が、アリハタの腕を強く、まるで自分の所有物であることを誇示するかのように締め付ける。

 

 村道を進む二人の影が、長く伸びていく。

 アリハタは、薄暗い予感を感じていた。彼女の執着心は、単なる「かまってちゃん」の域を完全に超えている。それはもはや、彼という存在そのものを、彼女の狭い世界に閉じ込めようとする、美しくも恐ろしい情念のようであった。

 

 「ねえ、アリハタ。さっきの、ちゃんと聞いてた? 私、あなたのことが心配だから、こうして支えてあげようって言ったのよ?」

 

 ムィリナの声が、耳元で甘く、そしてどこか震えながら響く。

 熱を帯びたその視線に、アリハタは再び、静かな平穏が遠のいていくのを感じるのだった。

 

 

 

 街道沿いの深い森は、湿り気を帯びた空気が肌にまとわりつき、不快な静寂に包まれていた。アリハタは、木漏れ日が作る歪な影を避けながら、淡々とした足取りで歩を進めていた。隣を歩くムィリナは、いつになく鼻歌を歌いながら、短いスカートを翻して歩いている。その姿は、自称「魔法少女」としての高揚感に溢れていた。

 

 しかし、その平穏は不気味な粘着音によって破られた。

 

 「――っ、来たわね!」

 

 ムィリナが鋭い声を上げる。茂みの奥から、半透明の緑色の塊が、波のように押し寄せてきたのだ。スライムの群れだ。数にして数十、それも一つひとつがまとまった大きさを持つ、厄介な個体群である。

 

 「ふふん、任せておきなさい! このムィリナ様の魔法で、一瞬で浄化してあげるんだから!」

 

 ムィリナは得意げに胸を張り、可愛らしい戦闘服の裾を翻して前に出た。彼女の手が空を薙ぎ、魔法の陣を展開しようとする。しかし、彼女の指先から放たれたのは、パチパチと火花が散る程度の、お粗末な光の粒に過ぎなかった。

 

 「えっ……あ、あれ? おかしいわね、魔力がうまく練れない……っ」

 

 焦りを見せる彼女に対し、スライムたちは容赦なく迫る。粘着質な体躯が、彼女の足元に絡みつこうとしたその時、ムィリナの「魔法少女」としての仮面が剥がれ落ちた。

 

 「魔法なんて、やってられるかぁっ!」

 

 彼女は叫ぶと同時に、腰のベルトから数本のナイフを抜き放った。魔法の代わりに選んだのは、あまりにも物理的で野蛮な解決策だった。

 

 「はあぁっ!」

 

 ムィリナは細い肢体を躍動させ、スライムの核を狙ってナイフを突き立てる。小さな胸が激しく上下し、薄いチュニックの下で、控えめながらも形の良い双丘が、激しい動きに合わせて揺れた。スライムの体液は粘り気が強く、彼女が動くたびに衣類にべっとりと絡みつき、その機能を奪っていく。

 

 戦闘が激化するにつれ、事態は凄惨な様相を呈していった。スライムの粘液にはわずかに腐食性があり、彼女の華奢な衣服を容赦なく蝕んでいく。

 

 「あはっ、気持ちいい……! 斬り心地最高じゃない!」

 

 ムィリナの様子がおかしくなっていた。衣服の袖は裂け、チュニックの胸元も大きく開いている。白く滑らかな肌が露出し、彼女の華奢な体つきが露わになっていく。スライムの粘液で濡れた布地が肌に張り付き、彼女の未発達で愛らしい、小ぶりな胸の輪郭を艶めかしく強調していた。

 

 「……おい、ムィリナ。もう少し、こう、魔法らしくできないのか?」

 

 アリハタは、乱れた彼女の姿を見ながら、呆れたような声を出す。しかし、彼の視線は、半脱ぎに近い状態になりながら、狂ったようにナイフを振り回す少女から逸らせなかった。

 

 彼女の戦闘スタイルは、もはや魔法少女のそれではない。それは、血肉を削り、粘液を浴びる、ただの狂戦士だった。

 

 「魔法なんて関係ないわ! 斬ればいいのよ、斬れば!」

 

 スライムの一体が彼女の衣服を完全に引き裂いた。露わになったのは、白い肌と、粘液に濡れて光る、未成熟な少女の肉体だ。下着の半分が剥き出しになり、小さな胸が露骨に空気に触れている。しかし、彼女は羞恥心など微塵も感じていないようだった。

 

 むしろ、スライムの核を切り裂くたびに、ムィリナは艶やかな笑みを浮かべ、歓喜に満ちた声を上げた。半裸に近い状態で、スライムの群れの中で踊るように舞うその姿は、どこか神聖さと、それ以上に形容しがたい狂気を感じさせた。

 

 「あはははっ! 見てアリハタ、これよ! この手応え!」

 

 全身に粘液を浴び、服をボロ雑巾のように引き裂かれ、半分裸で笑いながらナイフを振るう少女。そのあまりにも矛盾した、あまりにも無茶苦茶な光景に、アリハタは溜息をつき、やがて小さく失笑した。

 

 戦いが終わり、スライムの残骸が地面に散乱する中、ムィリナは肩で息をしながら、ボロボロの姿で立ち尽くしていた。桃色の髪は汚れ、肌は粘液でテカテカと光っている。しかし、その瞳には、新たな自分を見つけたような、歪んだ自信が宿っていた。

 

 「……ふふ、あはははは!」

 

 彼女は、乱れた髪をかき上げ、誇らしげに勝ち誇っていた。

 

 (ナイフ特化型――『物理攻撃型魔法少女』ムィリナ)

 

 アリハタは、そのあまりにも的外れで、それでいて妙に説得力のある称号が思い浮かび、ただ静かに、頭を抱えるしかなかった。

 


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