剛腕転生~気合いと根性で殴り倒します~   作:ラリゴラリゴラリゴ

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 雨が降っていた。全身をぐっしょりと濡らす様な本降りの雨だ。

 

「オラァッ!どうした!?気合いが足りねぇんじゃねぇか!?」

 

 雨音にも負けない、大喝が響き渡る。

 声の主は、黒髪の少年だった。

 前を大きく開け放った学ランを身に纏い、哄笑をその顔に張り付けて固く拳を握って躍りかかる。

 恐るべきは、その拳の威力だろう。

 

「ぶげっ!?」

 

 体格のそう変わらない、特攻服を纏った男が少年の拳を受けて大きく吹き飛ぶ。

 二転三転濡れた地面を転がって、尻を突き上げて突っ伏した格好で気絶。己の小便で自慢の特攻服を汚しながら、白目を剥いていた。

 

 関東屈指の暴走族“赤蛇(レッドライン)”。

 構成人数凡そ数百人。喧嘩自慢が集い、その序列は腕っぷしによって決まっていた。

 警察組織すらも手を焼く存在。正に、彼らは無敵だった。

 

 今日、この日までは。

 

「クソッ!!何だってんだアイツは!?」

 

 幹部の一人が吐き捨てる。

 生憎の空模様であったが、それでも雨が降る前に解散する腹積もりで行われた会合。

 場所は、山間に放置された元はレジャー施設であった場所の駐車場。

 バブル景気で建てられたそこは、立地が悪くバブルが弾けた後には客足を伸ばす事が出来ずに閉業。そして、山間という事もあって解体費用の都合上放置されていた。

 電気ガス水道といったライフラインは引かれていないが、それでも彼らにとっては己らの城ともいえる場所。

 

 そこに乗り込んできたのが、先の少年だった。

 

 曰く、お前らが襲撃した店の金を返せ、という事らしい。

 

 彼らとて、無法を許される特権階級などではない。しかし、数と暴力を盾として彼らは時に自分達の私欲の為に犯罪行為にも平気で手を染めていた。

 先の少年が言った事も、その一環。彼らにとっては日常茶飯事。

 現に、下っ端の一人がそのガタイの良さを笠に着て乗り込んできた少年を追い返そうとした。

 直後に、その巨体は下からのアッパーカットによって2メートルは空へと打ちあがって無惨に地面へと転がる事になったのだが。

 そこから始まったのは、悪夢のような光景だった。

 下っ端では相手にならない。武闘派幹部も、その大半が地面を舐めている。

 

「根性が無ェ!気合も足りねぇ!集まってやる事は、人様に迷惑を掛ける事だけ!恥ずかしくねぇのかテメーら!!」

 

 また一人殴り飛ばされて、バイクを巻き込み転がった。

 既に賊の半数以上を殴り飛ばしているというのに、少年の息は荒れるどころか更にギアが上がり続けているかのような気配すらあった。

 雨に濡れた身体からは蒸気が立ち昇っている。まるで、少年の体は燃焼炉の様だ。

 彼が口にする、根性や気合いという精神的なものを燃料としてその体は人間を逸脱した圧倒的な暴力の具現として形を成す。

 

「チィッ……!おい!」

「は、はい!」

「アレを持ってこい!直ぐにだ!」

 

 総長である男は怒鳴りながらも、その目は真っすぐに暴れ回る少年へと向けられていた。

 

(何なんだよアレは!化物だ!あり得ねぇ!あの人数相手にして、何であんなにピンピンしてやがるんだよ!?)

 

 怒声で隠しながら、その内心は恐怖一色。自身の理解できない存在を前にして、ただ恐怖だけがそこにはあった。

 どれ程経っただろうか。

 雨の勢いが増す中で、既に立っている者は数える程度にしか残っていない。

 不意に、何かが弾ける音がした。

 

「あ?」

 

 衝撃と共に、少年の体が揺れた。

 続いて、先程と同じような音が数度響く。

 その都度少年の体が跳ねて、力強くその場に大樹のように立っていた両膝が折れた。

 膝立ちになり、同時に地面に溜まった雨水に赤が少年を中心として広がっていく。

 

「…………死ねよ、化物……!」

 

 総長、そしてその取り巻きたちの手には雨の中でも分かる硝煙を立ち昇らせる銃が握られていた。

 純性ではない、コピー商品。それでもそれは、人の命を容易く奪える代物として成立している。

 暴走族というのは、暴力団や半グレといった非合法組織との繋がりがある場合が多い。

 この粗悪なコピー拳銃も同じく。

 本来ならば脅しの道具程度の役割でしかなかった。撃つにしてもこれほどの数を一斉にぶっ放すような事を想定してもいない。

 実際、少年に向けられた引鉄の回数に対して当たった数はその3分の1程度だろう。

 

 それでも、致命傷だった。

 数発が貫通し、そのうち一発が主要な臓器を貫いていた。数発が骨に停められ貫通できず、その表面を砕いて中の組織を破壊し盲管銃創となっている。

 即死していないのが不思議なほど。そうでなくとも、激痛と衝撃で意識が飛んでいてもおかしくはない。

 

 だが、

 

「――――ハッ!」

 

 少年は犬歯を剥いた。

 ついた膝に活を入れてふらつきながらも立ち上がる。

 

「銃か……気合いが入るじゃねぇか!なぁ、オイッ!!!」

 

 右拳を左手の平へと打ち付けて、少年は咆えた。その瞳には、衰えるどころかガソリンを放り込まれた火のように一気に燃え上がる戦意が爛々と輝いている。

 銃口が震えた。それも、1つや2つの話ではない。

 

「化物……」

 

 殺せるはずだった。銃だ。引き金を引くだけで相手を傷つけ、致命傷を与え、翳すだけで相手に冷や汗を流させる暴力の代物だった。

 ()()()。目の前の化け物には、その自分達が信奉する暴力というものが通じない。

 

 寧ろ、暴力の化身こそが目の前の少年だった。

 

 拳を固く握り、出血も致命傷も意に介さず向かってくる。

 

 その日、彼らは本物の暴力を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――本日未明○○県××市に置いて、発砲事件が発生しました

 

 死亡したのはこの町に住む高校生の――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦乱続く中央大陸は南部北方。

 紛争地帯と称される一帯は、小さな国が興っては滅び、また興っては滅ぶ。その繰り返し。

 

「こんの…………根性無し共がァ!!!」

 

 怒声というには甲高い子供の声と共に、その声とは似つかわしくない破壊音と衝撃が地を揺らす。

 荒野の中で、一人の少年が立っていた。

 年の頃は5歳前後。辛うじて衣服の体裁を保ったボロ布を上下に纏い、小さな手を血管が浮かび上がるほどにギチギチと握りしめている。

 異様なのは、少年の周囲だ。

 軽重はあれどもそれぞれが粗雑ながらも装備を身に付け、戦うに足る肉体を持った屈強な男たちが揃いも揃って白目を剥いて転がっているのだから。

 紛争地帯は伊達ではない。そこには、種族差も年齢差も性差すらなくただ只管に強い者だけが生き残る。

 

「貴様が、小鬼か」

「あん?何だ、おっさん」

 

 拳を握る少年にかけられるのは、重い声。

 少年が振り返れば、彼の背丈では自動的に見上げなければならない偉丈夫がそこには立っていた。

 重厚な鎧を身に纏い、身の丈に迫る大きさの剣を肩に担ぎ上げた頬傷の目立つ男。

 男は剣の切っ先を地面に埋めるように突き立てて息を吸い込んだ。

 

「近頃この一帯で有名な話だ。武器の一つも持っていない人族のガキが、幾つもの傭兵団を潰してるってな」

「……で?おっさんは、何しに来てんだ?」

「噂を確かめに来た」

 

 地面に突き立てた剣を引き抜いて、男は上段に振りかぶる。

 

「我が名は、剣聖デクボーノ!!“光の太刀”により、貴様を斬る!!」

 

 迸る、威圧感。その気配は、常人であったならば気圧されるもの。

 だが、少年は違った。

 

「――――面白れぇ……!」

 

 口角を吊り上げ、嬉々として戦意を滾らせる。

 拳を握り、気圧されるどころか己から前へと踏み出す始末だ。

 荒野に風が吹き抜ける。

 

「参るッ!!」

「気合い入るじゃねぇか!!」

 

 瞬間、デクボーノの剣の切っ先が音の壁を越えた。

 三大流派と呼称される、剣の派閥が存在する。

 剣神流、水神流、北神流。この3つを合わせて、先の三大流派と呼ぶのだ。

 “光の太刀”はこの内、剣神流に該当する技術。

 極めれば、その切っ先は光の速度へと達し相手の防御も回避も許さない必殺へと昇華するのだ。

 

 デクボーノがこの技術を身に付けてから、戦場では一度として敗れた事はない。

 長大な剣と技術によって対象を一刀の下に真っ二つとしてしまうのだから。

 彼自身、極めたといえるほどの技量は無いが恵まれた体格とそこに付随する膂力をもって必殺を体現していた。

 

 圧縮された時間の中で、暴威は嗤う。

 

「――――な、にぃぃぃぃ……!?」

 

 瞬く間に子供一人を真っ二つに叩き割らんとしたデクボーノであったが、その手に伝わったのは肉を切断する感触ではなかった。

 硬質な音と腕への痺れ、そして

 

 ()()()()()()()()()

 

「――――()()()()()()()()?」

 

 凶悪な笑みと共に、小鬼が嗤う。

 何が起きたのか。それは言葉とするには非常にシンプル。

 

 見切って、殴った。少年の動きは、ただそれだけ。そこには、技巧も無ければ駆け引きなども無い。

 

 補足をするなら、少年はデクボーノの動きは()()()()()()

 それは、直感。或いは天性の当て勘とも言うべき感覚か。

 

「シャアッ!!」

「ごっ!?ぉぉ……!?」

 

 剣が弾かれた事によって無防備となったデクボーノの胴。

 そこに飛び込んだ少年の左拳が、分厚い胴防具の上から叩きつけられた。

 本来ならば子供の打撃はおろか、大人が全力で殴ったとしても寧ろ殴った方が拳を痛める事になる。

 だが、小鬼と称された少年はそんな一般常識を破壊した。

 くの字に折れ曲がったデクボーノの体。その胴防具には小さな、しかし嫌にハッキリとした拳の跡が刻まれている。

 白目を剥き、崩れ落ちる巨体。そしてその隙を、少年は逃さない。

 片足での跳躍。と同時に右足が振り上げられ、腰の回転を加えた鋭い蹴りがデクボーノの横っ面を捉える。

 鈍い音が響き、巨体が勢いよく横回転。

 二度の側転を経て、その体は地面に転がって動かなくなる。

 着地し、蹴り飛ばした巨漢を見やった少年は、露骨に顔を顰めた。

 

「んだよ、終わりか。根性の無ェ野郎だ」

 

 ケッ、と吐き捨てる。

 幼い身空で戦闘狂。戦えるのなら強い者が良いというのが、少年の本音であった。

 他に敵がいないのか。周囲を見渡した少年だが、残念ながら既にあらかたは彼の手で地面を舐めており、残りもその強さに慄いて逃げ出してしまっていた。

 相手も見当たらず、少年はその場にしゃがみ込むと白目を剥く男の一人を指で突っつく。

 

「もうちっと頑張れよな。根性足りてねぇぞ、テメーら」

 

 少年からすれば、一方的な戦いでは面白くない。

 命の紙一重による、死力を尽くした激突。それこそが、彼の求めるものだった。それが出来ずとも、技の一つを攻略されただけで動きを止める相手など面白くも無い。

 そのまま少年が不満を垂らしていれば、背後から馬蹄が近づいてくる。

 

()()()、戻るぞ」

「ん?おう、おっさんか」

「おっさん、じゃねぇ。団長と呼べ」

 

 馬に跨りやって来たのは、左目に眼帯を付けた筋骨たくましい壮年の人族だった。

 

 バルクス傭兵団。ここ最近、紛争地帯でも名の知られ始めた傭兵団の一つであり団長であるバルクス・ガーラーンが率いる一団である。

 長年の戦場暮らしの伝手から設立されたこの団だが、その飛躍にはある理由があった。

 

 それが、目の前の少年だ。

 

 この世界には時として、天才という言葉では足りない怪物が生まれる。

 ロージと呼ばれた少年も、その一人。

 

「おっさん、腹減ったぞ。飯にしようぜ!」

「団長と呼べ。今日は店じまいだ、乗れ」

「うぇーい」

 

 バルクスの言葉を受けて立ち上がったロージは、軽い足取りで跳躍すると馬の鞍へと着地した。

 

「よしっ、走れ馬!」

「座ってろ」

 

 脳天に拳骨を落として座らせながら、バルクスは手綱を振るう。

 馬が駆け出し、少年の歓声が上がった。

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