特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
械枷コノハ、という人物を知る者はキヴォトスにおいてごく少数だった。
これは彼が基本的に調月リオの研究用ルームにて生活していて、外出が極めて少なかったことに起因している。
彼自身もその特異な経歴と自身を守ろうとしている配慮を察し、外出を許されていなかったことも納得していたので、彼を認識している人物はリオ、トキ、そしてヒマリといった周囲の少数だけだった。
だが、彼が任務を行うようになってからは違う。
顔を隠しながらも、コノハはより多くと関わるようになった。時には協力関係を築き、時には敵対し戦闘・逃走を行うこともあった。
そんな新たな刺激もあり、コノハは度々外出を希望するようになった。勿論、頻度は稀かつ正体がバレないよう変装をした上でだが。
彼が外を出歩き、キヴォトスを謳歌する中で親交を深めた生徒もいる。
その中で彼の名前、そして顔を知った者も、いる。
彼と関わりの深い生徒は基本、任務で出会い、そして日常のなかで偶に会う、そんな生徒たちだ。
なので、組織の諜報員を持つ彼女たちは
それ──械枷コノハが、ミレニアムを離れ無所属になったという事を。
△△△
「──そっか、ありがとうキキョウ。この情報は確かなんだよね?」
「間違いはないよ。ゲヘナで目撃された情報もあるし、彼以外で居ないでしょ。顔を隠して騒動を鎮圧するのに優れた、不審者みたいな恰好の奴なんて」
「あはは、確かにそうだね。コノハ以外、居る訳ないか」
百鬼夜行連合学院、百花繚乱紛争調停委員会の本部にて。
委員長である七稜アヤメは幹部である桐生キキョウからの報告に笑みを浮かべた。
百花繚乱紛争調停委員会は百鬼夜行内での治安維持を目的としているものの、他校からの攻撃の備え、諜報員もまた存在する。
作戦参謀のキキョウは同時にそういった情報収集の管理も行っていた。
その彼女からの報告には信頼できると、アヤメは評価していた。
「……ねえ、アヤメ委員長」
「ん? どうかした?」
言葉に迷うように、伏し目がちでキキョウが口を開いた。
対するアヤメは、普段から変わらない輝くような笑顔のまま。
「──彼を見つけたら、どうするの?」
「どうするって……勿論、勧誘するよ。うちに来ないかってね」
即答だった。
その顔には決まりきった事を尋ねられたことに疑問すら浮かんでいる。
ピリ、と刺すような沈黙に、キキョウの尻尾が揺れる。
「──ああ、警戒してるのかな? そうだよね、キキョウならそうなっちゃうか」
「別に、そんなことはない。情けない声で助けを求めたり苛つく口説き文句みたいなことを言ったりするけど、彼の優秀さは分かってる。けど、組織に入れるのは──」
「そうじゃなくて、警戒してるのは私でしょ? コノハを百花繚乱に入れて、今より仲良くなろうとしてるのが怖いのかな?」
バッサリとキキョウの言葉を切り捨てる。
アヤメは、もはや場に似つかわしくないというのに笑みを保ったままだった。
「でもね、私も警戒してるんだ。何処に横から茶々入れしようとしてくる
「っ……委員長、あなた……!」
「怒らないで? 私もそんなに、余裕な訳じゃないんだ」
張りつめた空気の中、アヤメが指さす。
その先は、キキョウが着けている髪飾りだ。すっと、目を細め、重力に似た圧迫感が広がる。
キキョウは冷や汗が頬を垂れるのを、黙って見過ごす事しかできなかった。
「それ、コノハから貰ったんだよね?
「…………」
「多分だけどさ、『桔梗の花言葉は誠実、気品、変わらぬ愛。名は体を表してて、君にぴったりだな』とか、言いながら渡されたんじゃない? コノハ、そういう気障な言い回しするよね」
それが言外に『私は彼を理解してるけど、あなたは?』という意味を持つことを、キキョウは理解していた。
変わらない笑顔。瞳だけが、まるで全てを吸い込む闇の様に、じっとりとした陰を帯びていた。
「──なんて、冗談だよ。キキョウにはいつも感謝してるし、警戒なんてするわけないよ。コノハが入ってからも、沢山頼らせて欲しいな」
「ええ、分かっている。勿論、彼が入ったら私も一層頑張らないとね。彼、私が居ないと頼りない時があるから」
「へえ、そうなんだ。私といる時はいつもかっこいいから、あんまり分からないな。もしかして、私の事を意識してたりするのかな?」
無言で立ち上がり、キキョウは襖を開く。
部屋を出る間際、そっと言葉だけを残した。
「…………あなたのこと、掴みどころのない人だと思ってたけど、違うみたい。今のあなたの方が人らしいよ…………反吐が出るぐらい」
強く、襖が閉められた。
鋭い音が響く中、誰も居なくなった部屋で、アヤメの顔が無表情に変わる。
無機質なまでに表情が無いのに、やはり、瞳だけはどろどろとしたものが渦巻いている。
「あーあ、ちょっと言い過ぎたかな。まあ、でもこのぐらい言っとかないと、キキョウは手強いし」
頭の中で最有力の
レンゲも新入生のユカリも、対処は容易い。こちらを信用しているから、少し誘導すればそれで事足りる。
ナグサは何かあったのか──きっとコノハだろう──前よりは面倒くさくなくなったが…………その分、コノハに執着している所があるだろう。そういう性格だと、アヤメは熟知している。だがそれでも、問題はない。
「私、悪い子になっちゃった。あんなに頑張って『いい子』をしてたのに」
委員長が重荷だった。辞めたいとすら思っていた。
だが、今は違う。
この役職は、権力は、非常に便利だ。
別に、私利私欲で横暴を働いたりはしない。ただ少し、我儘になっただけだ。
それすら、嘗てのアヤメだったら出来ない、そんな『悪い事』で。
「私をこんなにして、悪い人だよ、コノハは。だから──悪い同士で仲良くするのが一番だよね?」
△△△
『こちらFOX2、対象──コノハくんについてだけど、やっぱりここ一か月の情報はダミーだね。ミレニアム、そしてゲヘナ風紀委員による防諜も確認できたよ』
『こちらFOX3、ミレニアムでは目立った動きはないわね。一般市民に話を聞いても、何か知ってる子はいなかったわ』
『こちらFOX4、ゲヘナで面白い話が聞けたよー。この一か月で風紀委員の活動に顔を隠した謎の人物が関わっていたって。十中八九、対象だろうね』
D.U地区から離れて程なくした、ある一角。
人気のないその区画には、ぽつりとセーフハウスに似た建物が建っていた。
その中の地下室にて、七渡ユキノは小隊からの報告を受けていた。
連邦生徒会長が失踪し、SRT特殊学園が閉鎖されて、彼女たちは不知火カヤの下で学園復活のため汚れ仕事を──
生徒会長代理である七神リンの与り知らぬままに進んだSRTの封鎖は、しかしそう簡単に取り下げられることはない。
根本的に、誰もSRTという鍛え抜かれた刃を扱えないからだ。過ぎた力、担い手すら切る妖刀。今のSRTはそう認識され、封鎖されたのだ。いくら代理として強い権限を持つリンであっても難しい。
本来ならば、どうしようもない状況の中で、唯一糸を垂らしたカヤに付き従うのだが、この世界では違った。
「……報告を受け取った。各自、拠点に帰還しろ。その後改めて情報を精査するぞ」
通信を切り、作戦室を見渡す。
武器庫や偽造の生徒証、高性能コンピューター機器と、SRTに勝るとも劣らない環境が備わっている。
これも全て、独自に七神リンと交渉を行った末に勝ち取ったものだった。
そう、彼女たちは現在、連邦生徒会
連邦生徒会では対応が困難な事態を未然に防ぐ、又は処理するための部隊。
けれど連邦生徒会とは関りはなく、何かがあっても責任は部隊に依存する。
それが、現在のFOX小隊の立ち位置だった。
当時混乱の極みであったD.U地区を守るために、リンはFOX小隊が持ちかけたこの内容に了承したのだ。
「後、少しだ。もうすぐ、貴方を……」
出会いは敵だった。
捕えようとして逃げられ、次会った時は協力し事件を解決した。
時に敵として追い、時に一時の仲間として力を貸し合った。
ある時に、敵地の中二人きりで一晩を過ごさなければならない事態になった。
どうにも寝付けず、不寝番だったコノハと話をした。
共に行動する中で彼にも正義に近い正しさを見出したからだろうか。SRTについて、正義について、責任について、内に秘めた思いを語っていた。
『………だから、私は武器でしかない。この身は上の指示に従うだけにある』
『おお、思ってたより難しい事言われたな……うん、それはいいけど、盲目的すぎないか?』
何故か、嫌にムッとした。
彼が賛同してくれなかったのが、心をかき乱す。
『盲目で構わない。迷わず、躊躇わず、ただ振るわれるままに役目を果たすのが、私たちだ』
『せめて、振るう奴ぐらいは選べって。そうしないと、俺が尊敬する君が間違いを犯すかもしれない。こう見えて、FOXの皆は素直に尊敬してるんだぜ?だからどうか、そのままの君らでいて欲しい』
『……武器が、自ら担い手を選べと?』
『そうだ自分を武器として認識するのは別にいいけど、担い手ぐらいは自分で選べよ。そうすれば君は胸を張って正義を名乗れると思う』
そう言って、仮面を取り、初めて見る素顔で、彼は言った。
『自分が信じられないから、信じられる人に任せるのは間違ってない。君が信じ、託せる誰かがこれからも居るといいな』
彼の言葉は、今でも鮮明に思い出せる。
武器ならば、担い手を選べ。
彼女の担い手は、不知火カヤではない。
彼女の担い手は七神リンでも、連邦生徒会でもない。
胸のポケットから、一枚の写真を取り出す。
微塵も警戒をしていない顔で寝ているコノハを見て、口元に弧を描いた。
妖刀と呼ぶに相応しい、見た者の心を掴む艶やかな笑みだった。
「どうか──私を振るってください。貴方なら、私は全てを委ねられるのだから」
△△△
「手話?ごめん、全く分からないんだけど、他の方法ない?」
『……これならどう?』
「お、スマホの音声か。それなら大丈夫、賢いな」
『ふふ、そうでしょ?賢くて偉いの』
「ドラム相手にしてるみたいになってきたな……」
械枷コノハ VIVANTだと黒須が好き。アヤメの事は溜め込むタイプでいつも大変そうだなと思っている。ストレス発散なら付き合うよ、のスタンス。ユキノは最初は鋭い口調だったのに気づいたら敬語を使われててビビっている。
七稜アヤメ 委員長を継続中。闇増しになったが、ナグサや周囲の期待、頼りには可能な範囲でのみ対応するようになり、周りをより使うようになった。結果として組織全体の練度、雰囲気も良くなってるし、たぶん普通に百蓮も使える。
桐生キキョウ 反吐が出る(挨拶)コノハに貰った髪飾りは大切にしつつも基本付けている。見せつけ牽制する意があったが、そのせいでギスギスすることになった。
七渡ユキノ ちょっと崇拝が混ざってるタイプの尊敬・信頼をコノハに寄せている。重い。カヤの元につかず、陰ながら活動中。SRTの復活は諦めてなく、少しづつ味方を増やしていこう(弱みを握って敵を消すとも言える)というスタンス。
FOX小隊 コノハの事は認めており、仲間に引き入れることにも賛成。各々がコノハと人に言えないタイプのアクシデント、イベントを起こしている。2はこっそりいなり寿司による餌付け計画を行っている。