特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
力の暴走によってか、見知らぬ場所に辿り着いた俺が出会ったのは、顔を隠した謎の少女だった。
お互いを見て、そのまま沈黙すること少し。いや何か話してくれませんか、気まずすぎるだろ……
受け身姿勢の典型的陰キャムーブをかましていたいが、流石に何か言わねばと口を開く。
「花、好きなのか」
「…………」
世間話をする空気でもないのに、辛うじて出てきた言葉はそれだった。
今も尚朦朧としたままの俺の頭には、この少女が花を眺めていた光景が余程焼き付いていたんだろう。
言葉は返ってこない。
無視された、とかではない。この流れでシカトされたら意味が分からない。
そうではなく、少女は何か手話のように手を動かしていた。
いや、知らねえ~。
この世界の言語は日本語だったため(或いは俺はそう認識出来るように改造でもされたのか)、特に苦労はしなかったし、あいにく話せない人と会った経験もない。
俺の反応が芳しくないのに気づいたのか、何度か手の形を変えているが、さっぱりである。
「ごめん、手話分からないから、他の方法ないか?」
悩んでいるのか少し動きが止まった後、スマホを操作し始める。
『これなら分かる?』
機械音声が聞こえてくる。なるほど、音声アナウンスを立ち上げたのか。
「ああ、それなら大丈夫。賢いな」
『ふふ、そうでしょ? 賢いんだ』
「なんかドラム相手にしてるみたいになっちゃったな……」
読み上げられる言葉は親しみやすさを覚える、柔らかな雰囲気だった。
仮面のせいで硬質なイメージを持ちやすいが、本来はきっと今抱いたいイメージが近しいんだろう。
……何というか。
多分だけど、此処ってアリウスだよな。アリウスが自治している空間と言った方が正しいか。
カタコンベの何処か、或いは抜けた先だと思う。ならまあ、順当に考えてそうだと思うし、この子もアリウスの生徒なんだと、思うんだが……
事前に仕入れていた情報と、百合園セイアに対して行ったと思わしき残虐な行為で、俺にとってのアリウス生は冷酷かつ恐ろしい集団という認識だった。
だが、この子は俺の認識と乖離すらしている。
あー、くそ。マジでやめてくれ。
境遇とか知って、普通に同情してた部分があるんだ。頼むからちゃんと悪くて、躊躇う必要なく掃討できる奴らであってくれよ。
問答無用で尋問する気には、どうしてもなれなかった。
「此処って何処か分かるか?」
『……知らないで来たの? ううん、どうやって来たの?』
「いや何というか。気づいたらって言いますか……」
内なる力が暴走した結果です。が正しいんだが、ちょっと言いづらい。いくらなんでも厨二すぎる。
これ言って『何言ってるの?』とか返されたら普通に立ち直れない自信がある。
『ふーん、それでいいけど、気が向いたら教えてね?』
「あっ、はい」
『ねえ、貴方の名前は? もしかして、男の子?』
「械枷コノハ……ん? 何で分かったの?」
『? 顔を見たら分かるでしょ?』
そう言われ顔を触れてみば、生の頬の感触だ。着けていた筈の仮面はない。なんで?
リオに造ってもらった、変声機も仕込んだ男バレを避けるための必須アイテムなんだけど。
もしかして、てか絶対さっきの暴走の時だ。クソが、
『もしかして、知られたくなかった?』
「できればな。知られたんなら仕方ないよ。それで、君の名前は?」
『なら、誰にも言わないようにするね。私は、秤アツコ。15歳だよ』
「お、年下か。俺は16」
『先輩、って呼んだ方が良い?』
「いや別にいいよ。俺も年上相手でタメ口だったりするし」
『ふふ、じゃあよろしく、コノハ』
「ああ、よろしく──じゃなくて」
めっちゃ普通に話してる!
一応は警戒しつつ質問してこうと思っていたのに、気づいたら自己紹介して和やかな雰囲気になっていた。
会話のテンポがいいっていうか、なんとなく合っているというか、警戒しづらいのだ。
いやいや、このままじゃ駄目だ。気を張り詰め直さないと。
「──此処は、アリウスなのか?」
『……そうだったら、どうするの?』
「質問に質問で返すなよ……取り敢えず、諸々を知りたいだけだ。何かしようとかは、ない」
これは本当だ。
一先ず、内部についてある程度知らないと行動できない。
優柔不断な自分に嫌気がさしそうだが、ここで無理に押し通そうとすると大抵ミスるからな……
『……うん、此処はアリウスだよ。私も、聞きたいことがあるの。いい?』
「教えてくれたし、多少なら」
『うん……えっと、ありがとう……だよね? こういう時は』
「それでいいの?」
『む、違うよ。確認しただけ。此処の事、どう思う?』
「どうって……不気味だと思った。寂れて、生活感もない、
くるり、と前を向き歩き出すアツコの後を追いつつ、もう一度街並みを見る。
やっぱ街として機能していないよな、これ。こんなとこ拠点にしてんの? なんで放置してんだ?
明らかに常識が異なる空間だと、再度実感する。この倫理観が斜めに錐もみ回転してる世界でもここまで世紀末な感じじゃない。
『なら、次。コノハは何で此処に来たの? 色々言ってたけど、きっと目的があって来たんだよね?』
鋭い指摘だった。
直感が、今は嘘をつくなと言っている。何か重要な分岐点に居るような、そんな感覚がする。
「……友達を助けるためだ。苦しんで、追い詰められてる奴がいて、どうにかしてやりたい。だから来た」
『……そっか。優しいんだね』
「優しい、とは違う。苦しまないといけない理由もないのに苦しむのは理不尽だと思って、それが許せなかっただけで。助けないと、きっと後悔するから助けるってだけなんだ」
『なら、苦しむことが当然だったら? 生まれてきたこと、生きること、全部が虚しいことで、何をするのも無駄でしかない。そんなことを言ってる子が居たら、コノハはどうするの?』
「────」
言葉に詰まった。
普通に生きていればそんな思考すら生まれない、虚無感に満ちた思想に呆然としたから、
この世界に存在するだけで害になる、
それを認めれば、俺の存在自体を否定されてしまう気がした。
「んなこと言う奴が居たら首根っこ掴んで色んな楽しいとこに連れまわしてやるよ。楽しかった、幸せだって、
つかそんな訳ないだろ。
消極的ニヒリズムとかマジで鬱にしかなんないんだから止めろよな。その年でそんな事言ってたらニーチェ被れの拗らせでしかないっての。
怒りのあまり顔を真っ赤にしながら胸中にて文句を垂れ流していると、前を歩いていたアツコが止まった。
ずっとスマホを操作しているが、何をしているんだろうか。そんな長文でお気持ちしたくなるぐらい俺キモかった……? ヤバい、馬鹿みたいに気障なこと言った気がしてきた。
『最後に一つだけ、コノハって、銃撃されても平気?』
「平気ではないけど、大丈夫ではある。生半可な攻撃は効かない筈だ」
その質問は撃つ奴以外しねえ。やっても無駄だと牽制するが、予想に反して何もしてこない。
じゃあ何なんだよ今のは…………
『教えてくれてありがとう。お礼に、アリウスの案内、させて?』
「……お願いします」
アツコがそう提案してきた。
ちょっと怪しすぎるが、一人で適当に歩くよりは効率的だろう。何かあっても逃走ぐらいならできる自負もある。
頷き、彼女についていくことにした。
『あそこが、私たちがいる校舎。いつもはあそこで暮らしてるんだ』
「あそこで……?」
寂れた街並みから予想できたことだが、アリウスの校舎もまたボロい。直近で見たトリニティとゲヘナに比べたら、吹けば飛ぶような有様だ。
こんなとこで生活してたら気が狂いそうだけど……? アリウス、想像の数倍終わってる状況じゃないか?
「……というか俺、ここまで来ていいの? 自分で言うのも何だけど、怪しさ全開だろ?」
『うん、大丈夫。ちゃんと報告してるから。サッちゃん、すぐ来るって』
「ああ、なら大丈夫か。……ん?」
いやそれ駄目じゃね?
と思った瞬間。
背後から頭部目掛けて一斉射撃が行われた。見るまでもなく知覚できたそれを白亜に変換しつつ、アツコにガン詰めする。
「全く大丈夫じゃないけど!?」
『あれ、やっぱり『悪い人に攫われちゃった』じゃ駄目だったかな?』
「疑問に思う余地すらないだろ」
あざとく首をこてん、と傾ける姿は悔しいほど似合っている。なんで仮面付けてんのにこんな美少女って分かるんだ……じゃなくて、何考えてんのこの子!?
そんなやり取りの中でも、構わず銃撃は嵐のごとく俺に襲い掛かる。
物陰に隠れ、銃弾から身を守る。横には当然のようにアツコがいた。
もうこいつ人質にしてやろうかな、と思っていたところ、彼女はすっと両腕を俺に差し出した。なにそれ?
『それじゃあ、案内するね。危ないから、お姫様抱っこして?』
「ごめんこれ本当に同じ言語???」
偶然そう聞こえるだけだったりしないか?
頭の中ではチンパンジーが適当にタイプライターを打ってシェイクスピアの作品になってる姿が映し出されている。
『捕まらずに、私と一緒に全部見終わったら、コノハが聞きたがってた事も全部教えてあげる』
「っ!」
やはり、意図的に話を逸らしていたのか。
俺が知りたいのは、アリウスの状況と百合園セイアについて。一人で調べるにはやはり時間が掛かるだろう。
それに、アツコと出会って僅かだが、それでも嘘をつくような……いや嘘はつきそうだな。大事な時はつかないだろう、うん。
「姫には手を出すな! 傷一つ付けてみろ、生まれてきたことを後悔させてやるッ!!」
鋭い怒気を宿した声が俺を貫く。
君、お姫様なの? とか、俺どっちかというと被害者です! とか、色々言ってやりたいが、今は我慢する。
じっと俺に抱っこを要求し続けるアツコに、深いため息をつき、それから背中と膝裏に手を回し抱き上げる。
腕の中に沈み込む身体は驚くほど軽く、ふわりと花のような香りがした。
「軽……ちゃんとご飯食べてるか?」
『軽いの方でも、女の子に体重の事を聞いちゃ駄目。嫌われちゃうよ?』
「うす……すんません……」
この子と話してると、どうにも緊張感に欠けるんだよな。
ずっと余裕そうな雰囲気なのもむかついてきたな。
…………。
「よし、行くぞ」
『きゃっ』
それわざわざ打ってんの?
積もりに積もったストレスのせいか、脳内麻薬が大量に分泌される。
やけくそでテンションが爆上がりしている。
物陰から姿を現し、向かってくる銃弾を白亜へと変換する。
今までは接触時しか無理だったが、何故か今なら何処にあってもできる気がする。できた。
空中で、全ての弾丸が勢いを失い地に落ちた。
その異様な光景を前に、一時銃撃が収まった。
ずっと俺──アツコを見つめている黒髪のリーダー格に向かって、あらん限りの声で叫ぶ。
「──お姫様は貰ってくぜ!! 取り返せるもんなら取り返してみな!!!」
ぽかん、と。全員が呆気に取られた。たぶんアツコも。よっしゃ、やっと俺ペースになったな!
その隙に駆けだす。目指すは校舎。目標はこのお転婆お姫様を離さずに一周すること。いいね、ここまで来たら楽しんでやるよ。
背後からハチの巣にされかねない量の銃弾に晒されながら、俺は馬鹿げた鬼ごっこに身を投じるのだった。
械枷コノハ テンションが振り切れたらハイになって無敵になるタイプ。あまり考えずに話すため、後から後悔することがしばしばある。暴走を経て、力の使用幅が広がったおかげで戦闘能力が向上。今なら最強格相手に一歩後ろまで追従できる。
秤アツコ タグを完全制覇した。アリウスの教義に疑問を抱いていたところ、全面から否定する男に出会い、おもしれー男……になっている。冗談半分だったお姫様抱っこを本当にされドキドキしているのは内緒。
錠前サオリ あ゛??????