特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
秤アツコの誘拐。
それがアリウス全体へ与えた衝撃は大きかった。
現生徒会長であり『大人』であるベアトリーチェが現れなければ、ロイヤルブラッドたる彼女こそ生徒会長の座についていたであろう。
そしてその特別な血統が故かベアトリーチェに重要視され、時折共にどこかに消え得ることもある。更には先鋭である『アリウススクワッド』の一員でもあるのだ。
アリウスという特殊な環境において尚存在感を放つ、そんな特別。それが秤アツコだった。
そんな彼女が攫われた。
一刻を争う事態である。
スクワッドのリーダーである錠前サオリの指示の元、アリウス生総出で救出・犯人の処理が行われた。
本人からの報告によればたった一人による犯行。
いくら強くても、この数を前にすれば成す術はないだろう。と、誰もが思っていた。
「対象、校舎二階に移動! 配置していたAグループが全滅! あ、Bも……」
校舎前にて、頭のおかしい宣誓と共に校舎に突入した犯人。
後ろから追う面々と校舎内の各地ポイントにて待ち伏せしている面々を分け、物量で押し切ろうとしていたサオリだったが、入ってくる報告は芳しくない。寧ろ壊滅的だった。
「リーダー、これまずいかも。もう半分ぐらいやられてるよ」
「こ、怖いですね……何でいきなりこんな変な人が現れるんですか……? やっぱり人生ってつらいですね……」
各自が集団を率い、分かれているスクワッドの面々からの通信に、サオリは歯嚙みする。
アツコ──姫は、彼女にとって大事な存在だ。命に代えても守り抜きたい幼馴染みだ。
もうすぐ訪れるエデン条約。それが上手くいけば、アツコを生贄にする計画を中断してくれると、ベアトリーチェは約束した。彼女が死なずに済むのだ。
だから、今は最も大事な時期なのだ。
そんな時に発生したイレギュラーに眩暈がしそうだった。敵の目的も不明で、一体どうすればいいか、最早分からない。
初めて見た同年代の男の、その憎らしい顔を思い出し、拳を握り締めた。
(貴様は…………アツコをどうする気なんだ……!)
「やばいやばいやばい、想定の五倍は追っかけられてんだけど!」
『私、お姫様だから。皆も必死なんだと思うな』
「何で冷静なんだよ」
『あっ、ミサキが指示してるみたい。手強いから、頑張って?』
「ああああもう!!!!」
サオリはその犯人が寧ろ振り回されている側だと想像もしていなかった。
△△△
向かってくる弾丸を変換し処理。
段々と弾に込められた神秘から弾道予測ができるようになってきたので(マジでなにこれ?)、当たりそうな奴だけを変換していく。こまめな省エネが長生きのコツだね。
お姫様抱っこという体勢上当然両腕は使えないので、空間に満ちている神秘から銃を変換・生成し、それに更に神秘を乗せ操作する。省エネなんかしてたら今を生きられねえんだよ!
背後に様々な種類の銃を並べてるなんてこれまで不可能だったが、なんか出来るからやっている。どう見ても厄いけど仕方な……是非もないヨネ! (リスペクト)
結果として物量でも負けず、結構無双ゲーみたいな気分だ。
「此処は……調理室か? どう見ても使った痕跡ゼロだけど」
『うん、普段は栄養バーとかが少し配給されるだけだから』
「だからこんな軽……じゃない、それだけで栄養足りるわけないよな?」
『だから、奪い合ってる子とかもいるんだ。結果として強い子が多くなって、弱い子は少なくなるの』
キヴォトスの治安は終わっているといったが、全然マシだった。
比べるとアリウスの治安はカスや。京極万太郎みたいに泣きたいレベル。
これまでに授業が行われている筈もない教室、水も満足に出ない水道、防寒に全くなっていないボロ布など、まあ目も当てられない設備や物資を見てきた。
この段階で結論を出すには十分すぎるほど、アリウスは終わっている。
人が暮らせる環境ではない。いや、生きるだけならこうして彼女たちがそうな様に可能なんだろうが、真っ当に
こんな環境、逆に長年維持できるか?
普通ならば、もっと良くしようと変わっていくはずだ。内乱でも起きているなら話は別だが、戦ってる感じ一枚岩だった。
何というか、
そう思考を巡らせつつ、向かってきた子を四方からの銃撃で落としながら、後ろからとびかかってきた子の腹を蹴り飛ばし肺から酸素を吐き出させる。
遠距離だと俺が物量で押せるので、接近戦を仕掛けてくる子が増えた。
カハッ、と呼気が漏れると同時に身体が崩れ落ち、ちょうどいい位置になった顎を蹴りぬき意識を奪った。
これまで肉弾戦は強度が違いすぎて無理だったが、彼女たちが纏ってる神秘自体を変換すれば防御力が落ちることに気づいてからは楽だった。
一先ず攻撃も止まり、来た道を振り返れば気絶している生徒が多数。漏れなく地面に倒れ込んでいる。
「結構倒したんじゃないか? さっきのロケットランチャーぶっ放してきた子……ミサキだっけ? も何とか対応できたし」
『うん、たぶん、サッちゃんも焦り始めたんじゃないかな。皆やられちゃったし。それに、校舎ももうすぐ見終わるよ』
「そっか、案外早かったな」
いや早いってより集中してた結果そう感じてるだけだな。マジで数が多すぎて三回ぐらい終わりを覚悟した。めちゃくちゃ頑張ってなんとかしたけど。ハチワレの次くらいに何とかするのが上手い気すらしてくる。
力を使って消耗するどころか、使えば使うほど感覚が研ぎ澄まされている。今の俺なら、空崎さんの機関銃による謎ビーム連射も対応できそうだ。
それに、アツコが居るからか、体力が回復してるんだよな。彼女の神秘が俺に干渉しているのだ。
そのおかげでこんな連戦も問題なく対処できた。
一歩進むごとに軋んだ音が響く廊下を歩く。
窓はひび割れ、明かりは乏しく、変な匂いがする。そこにアツコの匂いが混ざって倒錯的な気分になりそうだ違うこんなことが言いたいわけではない。
クソ、女の子とこの距離でこんな長時間いたことがないから脳がバグってる……!
「もうほぼ条件はクリアしてるだろ。そろそろ教えてくれよ。君は、何で俺にここの現状を見せようと思ったんだ?」
ゴミみたいな思考を振り払い、無人の教室に入りながら、ずっと気になっていたことを聞く。
一見ふざけてる様にしか見えないこのお姫様抱っこ鬼ごっこ(俺は何を言っているんだ?)だが、その実彼女が俺を試すために行っていた、気がする。
どれだけ戦えるのか。どれだけ諦めが悪いか。どれだけ味方になってくれるか。
それを探るためだった。そんな気がしてならない。いやでもお姫様抱っこする必要はないな。やっぱふざけてるね。解散です。
『コノハは言ったよね。すべてが虚しいって言う子が居たら、生きててよかったって思わせる、って』
「ああ」
『
「……」
機械音声だというのに、その言葉は重い。
『でも、本当にそうなのかな。此処を出ていった子がいたの。虚しいとしてもそれを理由に悲観したりしないって、そう言ってた子だった。その子を見て、疑問に思ったんだ。私たちが教えられてきた怒りと憎悪は私たちのものなのかな』
アリウスはトリニティの前身によって弾圧され、ここに逃げ込んだ。
その時から連綿と続く怨念は今も尚受け継がれ、肥大化している。
そこまで言ってから、ゆっくりと彼女は仮面を取った。
「私は知りたい。私たちはおかしいのか。もしそうなら、それでも幸せになれるのか。コノハなら、教えてくれるかもって、そう思ったの」
俺のちんけな予想を超え整っている顔。姫という言葉がこれほど似合う少女がいるのだろうか。
風に吹かれれば、そのままどこかに消えてしまいそうな、そんな儚さ。
彼女の紅い瞳に吸い込まれそうになる。
「ねえ、教えて? 私たちは、生きてていいのかな。許しを乞うてもいいのかな。──幸せになりたいって、願ってもいいのかな」
確かめるように、縋るように。初めて聞いた少女の声は、酷くか細いものだった。
幸せになりたい。生きたい。生まれてきたことが間違いなんて、認められない。
俺を動かしてきた指針。
俺がこのクソみたいな運命でも諦められない理由。
それと、重なって見えた。
「いい。いいに決まってる。生きていいんだ。許されたいと思っていいんだ。幸せになりたいって、願っていいんだ」
ああくそ、最悪だ。
何が最悪って、こうしてもう敵として見れなくなっている俺自身が、だ。
「幸せに生きたい、そんなの当たり前だ。誰だってそう思う事を否定される謂れはない。誰も言ってくれなかったんなら俺が言ってやる。君は幸せになっていいんだ」
もう俺は、アリウスを見捨てられない。
ここであった事を忘れて、ただの敵として掃討する事なんて無理だ。
ここでこの子たちを助けないと、俺は後悔する。そうなったら、俺は幸せになれない。
桐藤さんは助ける。これは前提だ。その上で、アリウスもどうにかする。
この子たちが罪を犯してるんなら、それが正当に償えるようにする。
今は無理でも、それでもいつかは幸せになれるって。そう思えるようにする。
「俺の手を取れ、秤アツコ。俺は君たちが呪いから解放される手伝いをする。君たちがこれ以上不当に苦しまないですむようにしてやる。だから、君の知ってることを教えてくれ」
手を指し伸ばす。
俺一人で何とかできる自信なんてない。周りの力を借りて、無様な姿をさらすかもしれない。それでもやるんだ。
だから手を取れと、アツコを見つめる。
「……よろしくね? 私たちの騎士様?」
「君が姫だからか? どう見ても分不相応だろ…………」
「ううん、とっても似合ってるよ」
手が握られる。
俺の存在を確かめるように、何度も小さく握っては離しを繰り返し、それから強く握られた。
ここにいるぞ、と伝えたくて、俺もまた強く握り返す。
「それじゃあ会議だ。アリウスの色々教えてもらわないとどうしようもないからな」
「うん、何から知りたい?」
そうして、寂れた教室の中、俺たちの抗うための話し合いが始まった。
△△△
「来ないな…………」
校舎の出入り口を占拠し、犯人からの要求を待っていたサオリは苛立ちから声を漏らす。
ミサキやヒヨリ、スバルといった実力に秀でた生徒もあえなく倒され、これ以上の戦闘は無駄にしかならないという結論だった。
これで人質が別人であれば問答無用で突撃していたのだが、アツコの安全を最優先にした結果だった。
何かしらの声明が来るはずだと待機してから数時間。アツコからの連絡もなく、焦れた周りが突入しようとするのを何とか止めているのが現状であった。
マダムに報告しても、『何とかしなさい』の一点張りで意味はなく、ただ焦燥だけが増していく。
そんな中だった。
「──ッ!」
階段を降り、まだ人を馬鹿にしたようなお姫様抱っこでアツコを抱えた犯人──コノハが姿を現す。
よく見れば、普段アツコが着けている仮面は外され素顔が露わになっていた。
「姫! 無事か!?」
「私は大丈夫。このは、降ろして?」
「絶対最初から自分で歩けたろ……」
「こっちの方が雰囲気があるでしょ? ……嫌だった?」
「その顔はずるいって。嫌じゃない、嫌じゃないから」
親しげに話す姿にサオリは固まる。理解できなかった。
そんな彼女を尻目に、まるで姫を守る騎士のように恭しく、コノハがアツコを降ろした。
そうして、アツコの前に出て、片腕を前に突き出した。
「──我々は今日この日、ここに宣言しよう! アリウス自治区を不当に占領する大罪人ベアトリーチェではなく、秤アツコをこそ正当なアリウス生徒会長とした新・アリウスを設立する!!!」
「は??????」
横でドヤ顔をしつつ頷くアツコと、これまでで最も意味の分からないことを言いだしたコノハを前に、サオリを含めたこの場にいるアリウス全生徒は間抜けな声しか出なかった。
後に『アリウス革命』と呼ばれる、この学園最大の分岐点が、謎の男によって齎された。
械枷コノハ 節操がない。基本的に自分の感情を最優先に行動するため、周りは頭を抱えることになる。生徒の神秘に干渉できるようになったという事が、生徒を滅ぼすための徹底的なメタ張りだと気づいて最悪な気分になった。
秤アツコ 騎士様呼びは冗談。まだ。おもしれー男と一緒に革命を起こすことになりノリノリ。まだ、コノハの事情は何も知らない。
錠前サオリ 何の何の何!?