特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
「────なので、俺たちに協力してくれませんか。そうすれば、何時かは貴女が望んだトリニティとアリウスの和解も実現するんです」
手応えはある。
彼女の望みと、俺たちの望みは手を取り合える部分がある。
そして、彼女さえ取り込めればアツコの立場は盤石なものとなる。そうすれば、ベアトリーチェが如何な手を持っていても容易に崩せないようになるのだ。
勝利の予感に心臓を鳴らしつつ、俺は目の前の相手──聖園ミカを捉えた。
「う~ん……無理、かな☆」
「はい???」
想定と全く異なる、拒絶の返事に馬鹿みたいな声が出た。
どうして俺が聖園ミカと交渉を行い、当てが外れ馬鹿な声を出しているのか。
数日前に話はさかのぼる。
△△△
アツコを旗頭にした新・アリウスを作ってから、一週間ほどが経った。
こちら側に着いた生徒は初期に比べ、約数倍にまで膨らんでいる。
どうやらアリウスでは強い奴のいう事を聞くみたいな、弱肉強食の価値観が根付いているらしく、一度ボコれば大抵は言う事を聞いてくれるらしい。
だから最初校舎でボコった子たちは俺のいう事聞いてくれるんだね。納得と何とも言えない微妙な感情が同時に芽生えた。
なので、アリウス自治区内を巡回する生徒をスクワッド達筆頭に闇討ちし、風呂→飯→布団のコンボで引き込んでいった。
弱らせてから捕まえるの本当に効果あんだな。ポケモンって凄い。
数回、ベアトリーチェの差し金か襲撃が起きたが、数日とはいえ健康的な生活を送り始めた新・アリウス陣営に勝てる筈もなく、全員捕獲した。
懲りたのか襲撃はなくなったが、まだ油断はできない。勘でしかないが、ベアトリーチェにはまだ、何か
その間、俺は一切戦闘は行っていない。
別に俺が出しゃばらなくても、スクワッド達がいれば負けることはないからだ。それに校舎改造とかで大幅に能力を使ってしまったから温存しておきたい。使わないといけない時に使えないとかが一番シャレにならん。
それでもやるべき事は大量にあった。
校舎から浴場までの掃除、増え続ける生徒のための食事、洗濯、買い物、組織としての書類仕事……
リオやヒナの下で家事してて本当に良かった。それにしたってやったことのない大人数の世話だったが、気合と根性で頑張った。
途中から暇そうにしてる生徒たちを働かせ始めたので今は余裕を残せるレベルになっている。
大変ではあるが、初めての風呂や飯で感激してくれると、俺も頑張ろうと思えるんだよな。
こう、ちっちゃな娘の世話をしてる気分になる。
「俺はお父さんだったのか……?」
「ただいま、今日は数人だけしか捕まえられなかったよ。それで、どうしたの
「殺してくれ」
父性に目覚めかけたがアツコのおかげで正気に戻った。性癖は歪むかと思った。
と、まあそんな感じで順調に進んでいるが、まだ触れていない部分もある。
少しづつ落ち着きを得てきたし、そろそろ話してもいいんだろうか。
百合園セイアと、聖園ミカについて。
「百合園セイア襲撃は、私が指揮を執った。私の指示で、彼女は死んだ。それに偽りは一切ない」
深夜。
アリウス校舎の教室で、俺は錠前さんと向かい合っていた。
他には誰も居ない。
教室に入るなり、錠前さんはそう言った。
「トリニティへの憎悪はあった。私たちを苦しめたのだから、お前も苦しめという思いも、確かにあった。それで指示をしたのは私だ。だから、裁かれるのなら私だけにしてはくれないだろうか」
悪いのは自分だけだから、他の皆に罪はないと、そう頭を下げる。
アツコやヒヨリ、ミサキに聞いた話だが、錠前さんは幼少期から彼女たちの姉として守り、育ててきたらしい。
だからきっとこれは、彼女の心からの懇願なのだろう。
とても気まずい。
「いや、そういう話じゃなくてですね……」
「え?」
「いや、百合園セイア襲撃に関係してる聖園ミカについて聞きたかったんだけど……その前に一旦俺の持論だけど、聞いてくれるか?」
「あ、ああ……」
なんだかんだで、俺も触れずらかった。
要素だけを取り出せば、俺は友人を殺され憔悴していた桐藤さんを助けようとし、結果としてその実行犯まで助けようとしているのだ。改めると自分でもどうかと思うな……
「君たちは悪くない、とは言い切れない。そこにどんな経緯があったとしても、君たち自身の意志でやってしまったなら、それは消せないと俺は思う」
どんな境遇で、どんな事があったにせよ、人を殺したことは覆し様のない事実だ。
「誰かを傷つけたなら、殺してしまったなら、償いはしないといけない」
……それどころではない被害を出す可能性がある俺がこんなことを言うのは、笑えない冗談だな。
俺の場合、その償いは地獄とかに行ってからなんだろうけど。
だが、彼女たちは違う。
「でもそれは、決して人生全てを懸け、これからへの夢さえも捨てる必要があるってことじゃない。罪を抱えたとしても、明日に希望を見出していいし、今日の天気がいいからってだけで幸せな気持ちになってもいい。君たちには、未来があるんだ……俺はそう思う」
ここの所ずっとこのことを考えていたが、結論はこれだ。
償っても罪が消えるわけではない。誰かを傷つけたという事実はずっと残る。
だとしても、それで終わりではない。
「どうなるかは、公正な機関に任せるしかない。重い判決が下されるかもしれないが、それを受け入れて、その先も諦めないで欲しい。これは俺の我儘でしかないけどな」
「……そうなれたら、とてもいいのだろうな」
「ああ、だから頑張ろう。俺も手伝うけど、君たちの未来は君たち自身の手で掴み取るべきだ」
そこまで話して、本題に戻る。
結局のところ、今一番話すべきは『聖園ミカ』についてだ。
「百合園セイア襲撃の手引き人──トリニティの裏切者は聖園ミカなんだよな?」
「ああ、彼女が百合園セイアのセーフハウスの位置や警護の配置について情報提供してくれたおかげで、襲撃は成功した」
聖園ミカの事を、俺はあまり知らない。
こうしてアリウスに来る前は桐藤さんの話に度々出てくるぐらいだった。『まったくミカさんは……』やら『ミカさんは今日も……』やら、溜息と共に愚痴られたので、お転婆なんだな、といった印象があった。
そんな彼女がトリニティを裏切り『エデン条約』の妨害をしていた張本人というのは当初、流石に信じられなかった。
けど、状況整理するとマジで生徒会長クラスなら百合園セイアの情報知ってて襲撃に最良なタイミングも分かるんだよな……
この情報は、あまりに重大だ。
だってこれ外患誘致じゃん。キヴォトスにおいても本当に駄目な重罪である。それを学園のトップがやっていたのだ。
桐藤さんには報告していない。
絶対にした方が良いのだが、俺がしないことを選んだ。桐藤さんが彼女について愚痴る時、その顔はどこか楽しげだった。まったくもうと言いつつ、そこに親愛の情があったのを俺は知っている。
じゃあ、無理だ。こんなことを今の桐藤さんに言えば、それこそ壊れてしまうかもしれない。
話すにしても、確定させないといけない。
聖園ミカが本当に故意の元裏切ったのかを確かめないと、俺はこの話を報告できない。
けどトリニティ内でこんな話はできる訳ないので、彼女がアリウスに来るのを待っているのが現状だ。
そこらへんを錠前さんに話すと、
「聖園ミカなら、数日後には来るだろう。定期的に来ては兵力、これからの計画について話をしていたからな」
とのことなので、それまでに俺たちは聖園ミカをどうこっち側に引き込むかの話し合いをした。
アリウスの戦力の中核を担っていたスクワッドは既にこっち側だが、まだ生徒の多くは向こうにいる。そこに持つトリニティの機密情報が合わされば、桐藤さん襲撃は決して笑い事ではなく起こり得る。
逆を言えば、彼女を味方にしてしまえばマジで勝ちが近づく。
そうなりゃ総力でベアトリーチェのとこまで行って棍棒外交で終わりなんだよな。
聖園ミカ──聖園さんは最初、アリウスとの和解を目的にやって来たような夢見がちだが優しい人らしい。
ならば、俺たちのやろうとしている事にも賛同を示してくれるのではないか。
ベアトリーチェによるこの狂った教育が終われば、徐々にトリニティとの交流も可能になるだろう。
それを拒否するアリウス生が出るかもしれないが……そこまでは考えきれない。俺がすべきことは、そこで悩めるようになるまで持っていくことだ。その後はそっちで何とかしてくれ。
ま、聞いた感じ聖園さんの説得は楽そうだし、ベアトリーチェはもうおしまいですよ。
がはは。
「無理かな☆」
駄目だった。
おいこれどうすんの?
△△△
ベアトリーチェ側のアリウス生が聖園さんを案内していたので、横から襲い掛かりアリウス生をノックダウン。聖園さん共々校舎まで来てもらった。
少し強引だったが、こうでもしないと向こう側に連れてかれそうだった。
こっちの代表はアツコで、俺は適当に特別顧問みたいな役職についている。なので本来ならアツコが話をするべきなのだが、どういう訳か本人たっての希望で俺が話をすることになった。
「君が械枷コノハ? ふ~ん、本当に男の子なんだ」
「えっと、桐藤さんから聞いたんですかね? いや、一緒に居たアリウス生か」
「どっちも正解、かな。君のことはナギちゃんから聞いてたし、変な男の子がいるって途中まで案内してくれた子が言ってたから」
初見の印象は、可愛い人だ。
基本容姿がめちゃくちゃに整っているキヴォトス人の中でも、殊更に整っている。今も豊かに動く表情や雰囲気は、それこそイメージ通りのお転婆なお姫様だった。
「桐藤さんから話されてるのは気恥ずかしいですね。ちなみにどんなものか聞いても?」
「敬語じゃなくていいよ。そうだなー、とっても面白い人、とか? あは、恋人にしたい人で上げる上辺だけの特徴みたいだね」
「いきなりぶっこんできたな……」
アイスブレイクで火の玉ストレートは反則じゃない? ちょっと傷ついちゃうだろうが。
にこにこと笑う顔には、何故か何の感情も浮かんでいないように思えた。
そこから、俺は渾身の説得を行った。
当然知っているであろうアリウスの現状から、ベアトリーチェの不当性、そしてアリウスとトリニティの未来について。
結果はもう知っているだろう。
断られた。
最初からずっと変わらない貼り付けた笑顔のまま、彼女は拒絶の言葉を吐く。
俺は普通に冷や汗をだらだら流していた。
マジでどうしよう? いや、一先ず拘束して──
「私、こう見えて超強いから、捕えようなんて考えない方が良いと思うな。確かに君たちなら出来るかもだけどさ、その間に他の敵も好機と見て攻めてくるんじゃない?」
「っ」
図星だ。
神秘が分かるようになったからこそ、理解できる。
この人、めちゃくちゃ強い。俺が全力で能力使えばワンチャンあるぐらい。いや、0.5ぐらいか……?
なんでお嬢様がこんなムキムキな神秘してんだよ。紅茶のカップとか割っちゃうんじゃねえの?
「今失礼な事考えた?」
「考えてないっす」
止まらない冷や汗を不快に思いながら、教室の外で待機している錠前さんたちに手出し無用と伝える。
クソ、後手に回った。俺たちはもう、能動的に動けない。この化け物みたいなお嬢様の機嫌を損ねて、下手に暴れられたら詰みかねないからだ。
「理由は、聞けないのか」
「私が君たちの勧誘を断った理由? 話す気はないかな……あ」
「?」
これ以上俺と会話する気が無いような態度だった聖園さんだったが、何かを思いついたのか固まる。
面白いことを思いついたように、俺を見てくる。その顔は、初めて本当に笑ったような気がした。
「ねえ、私の願いを聞いてくれたら、もうちょっと話を聞いてあげる」
「……そのお願いは? 内容によっては、断らせてもらうぞ」
「もう、そんな警戒しないでよ。誰にも迷惑はかけない、簡単なのだから」
そういう聖園さんの瞳は嘘をついていないように思える。
アツコの身柄を渡すとかだったら即切ってたが、一先ず聞いてみるか。
「それで、内容は?」
「君──コノハ君。私とデートしよ?」
「へあ?」
なんて???