特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
超雑ですまない
「本当に百合園セイアなのか? その、幽霊とかじゃなくて……」
「そ、そうなのだよ。私は正真正銘、生きているとも。悪いけど、起こしてくれるかな?」
「あはい」
四方が真っ白な空間。おそらく夢の世界なんだろう。神様転生の最初で出てきそうな場所だ。
そこで俺は先ほどぶん殴った百合園セイア──百合園さんに手を貸し横たわる身体を起こす。
夢の中なのにしっかりと体温も重さも感じる。やはり悪霊というには生命力を感じる。
「まさか、いきなり殴り飛ばされるとはね。長いとは言えない人生だけれどそれでも初めての体験だったよ。これも人生経験なのかな」
「いやあの出方されたらそりゃ驚くだろ……」
あんな瀕死みたいにピクついていたのに、起き上がればもうやれやれ……みたいな空気を醸し出している。多分もう無理ですよ。
「さて、漸く君の夢に干渉できたわけだが、一体なにから話そうか。械枷コノハ──コノハと呼ばせてもらうよ。君は聞きたいことがあるかな?」
「何から何まで聞きたいんですけど、今の俺あんま長話を聞いてる余力ないんですよ。簡単に纏めてくれますか?」
聖園さんとの一件で色々考えさせられ、夢の中だというのに脳に疲れが色濃く残っている。
できれば三行ぐらいにしてくれるとありがたい。
「ふむ、それは仕方がない。そうだな……簡単に言えば、殺されそうになって、実行犯と話をしたら殺されず、けれどまた襲撃されるのを恐れ死んだことにした。ただそれだけさ」
「なるほど……」
なるほど……
本当に簡潔にまとめられすっと頭に入ってきた。
「なら、あなたは死んでなくて、聖園さんは誰も殺していないと?」
「そういうことになるね」
「──ならなんで、すぐ知らせてやらなかった」
カッ、と頭の中が白熱する。
さも当然のような顔で嘯く姿が、精神を逆なでた。
自分でも驚くほど、低い声が出た。
「……もし、私が何処かのタイミングでミカに真実を伝えていたとしよう。その瞬間は確かに彼女の暴走は止まるかもしれない。けれど、未来は決して変わらない。エデン条約はアリウスによって破綻し、筋書きは変わらず悲劇を示す。いいかい、私がいつ何をしたとて、何かが変わりはしないんだ。だったらどうして、其の無駄としか形容の余地のない行為に走るというんだい?」
百合園セイアは未来を読める。それは既に錠前さんから聞いている。
それが厄介だからこそ、あの日始末した……できてないけど、舞台から退場させようとしたわけだ。
彼女はつまり、見た未来が変わることがないから、何かをする意味がないとそう言っているのだ。
……?
普通に納得できなかった。
論破してやるよと思ったところで、それよりも早く百合園さんが口を開く。
「……だからこそ、聞きたい。君の事情は知っている。『名もなき神々』によって、人生すらも奪われることが決まった身でありながら、どうして君は抗うんだい?」
「諦める理由がない。まだ決まっていると、俺は思っていないからな」
「本当にそうかな? 君は、心の奥底では駄目かもしれないと、そう思っているんじゃないかい? だからこそ、調月リオに暴走した暁には自身の殺害を求めたんだろう」
予備の策を残した時点でそこには諦めが混じっていると、百合園さんは語る。
何も言わない俺を見てから、ふっ、と視線を落とす。
「……『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか?』辿り着けば誰もが二度と出てこない楽園は、逆説的にその存在を証明する方法が無い。君の行為は、その存在するかも定かではない楽園を追い求めるのと変わらない。どうか教えてくれないか、何故君は諦めることなく手を伸ばし続けられるんだい?」
迷路の中で動くことを諦めた子供のように思える、切実さを帯びた声だった。
そこまで言い切ってから、百合園さんは俺を見上げる。
いや長々と語らないでって俺最初に言ったじゃん……
正直半分ぐらい理解できてない。いきなり楽園とか言われても意味わかんないって。
けどまあ、答えを求められたのだから精一杯の答えを返すべきだろう。
「……俺が諦めないのは、信じたいからだ。諦めて、やっぱりそうなのかって認めたくないからだ。助かる道が無いって誰かに言われても、俺はそれでもまだあるって信じていたい」
「そうだとして……ん? 君、浮いていないかい?」
「一対一の場面で浮くとかないだろ」
「ああいや、そういう意味じゃなくて、こう……普通に宙に浮かんでいるよ」
そんな馬鹿な。
足元を見れば、真っ白な地面に足がついていない。はい!?
「浮いてるじゃん!?」
「だからそう言っただろう……ああ、夢から覚めるんだね。へ~、こんな感じで起きるのか……」
「君の話が長ったらしいせいで中途半端になっちゃったじゃねえか! 」
ちょっと興味深そうに見んのやめろ!
あっ、意識が遠のく。いや起きようとしてんのか。
「──いいか、俺はそれでも楽園を信じてやる! 次会った時、楽園の証明するから覚悟しとけよ!!」
思い切り指を突きつけるも、浮上する意識に抗えない。
こうして、俺と百合園セイアの初邂逅は奇妙な形で終わった。
「……楽園の証明、か」
「あ、起きた。おはよう、コノハ。もうお昼だよ」
「……嘘だろ。おはよう」
どうやら俺は爆睡してしまったらしい。
目を開ければ、俺を覗き込むアツコがいる。
すっかり慣れてしまったが、俺が起きる時にはいるんだよな。なら起こしてくれよ。
「疲れは取れた? 昨日、すぐ寝ちゃったでしょ? あの人に何かされたの?」
「大丈夫だから。何かされたわけじゃない。説得できなくて、ちょっと堪えただけだよ。身支度整えるから一旦出てくれ」
当然の顔で居着こうとするアツコを追い出し、着たままだった服を着替える。
一瞬、二度寝したらまた百合園さんに会えないかと思ったがよく考えたら別に後でいい。生きてるって分かっただけで、選択肢は無限に増えたからな。
あのお狐さんは妙に悲観的だったが、普通にこれを聖園さんに伝えればそれで終わりだろ。
これで漸くアリウスでの役目も終わりかな。そろそろ俺も自分を優先していいんじゃないだろうか。
そんなことを考えつつ教室を出て、アツコたちの所に向かう。
──だから、まあ。
俺は軽視していたんだろう。
百合園セイアを、予知の大天使を。
その、避けようのない悲劇ってやつを。
△△△
コノハが目を覚ます、少し前の事だった。
カツ、カツと地面を蹴る靴が音を鳴らす。
そこは寂れた大聖堂だった。ステンドグラスは我、装飾は壊れ、祈ることすらままならないような聖堂。
そこに、聖園ミカはやってきた。
「それで、用って何かな~? あなたにお呼ばれするのって初めてなんじゃない?
「ええ、お越しいただきありがとうございます。一つ、重要な話がありまして」
視線の先にいるのは、真っ赤な体色をした、複数の瞳を蠢かせる異形の『大人』。
何度も支援を重ねているミカですら、名しか知らなかったアリウスの支配者──ベアトリーチェであった。
デートの帰りに突然招待を受け、翌日やって来たのだ。
警戒しつつ、コノハとの最後の会話で決意を一層固めた彼女は、臆することなくベアトリーチェと向かい合う。
「私、あんまり気が長い方じゃないんだ。だからナギちゃんとかセイアちゃんにはくどくどお小言言われちゃったりするし……早く、話してよ」
ミカはアリウスを信用していない。自分の指示にない百合園セイア暗殺を機に信用は一片も残ってはいない。
ただ利用できるから利用しているだけに過ぎないのだ。最も、それはお互いそうなのだろうが。
「今日お招きしたのは、アリウスの現状を一度知っていただこうかと思いまして」
「現状? ああ、コノハ君たちにどんどん勢力が取られちゃってるんでしょ?」
その名を言ってから、ミカは自身ですら気づかない程僅かに目を細めた。脳裏を過った、昨日の記憶。
あれは、とても楽しかった。何時ぶりだろうか、全てを忘れて会話に耽っていられたのは。
彼の精一杯頑張ってくれる可愛い所も、情けない所も、ちょっとかっこいい所も、思い出せばそれだけで笑みを浮かべられる、そんな思い出。
きっと自分には過ぎた宝物だな、と心の中の冷静な自分が酷薄に言い捨てた。
「──ええ、突然現れた異分子。本来なら存在しない、忌まわしい
「それがどうしたの? 今いる人数でも、私の派閥と合わせればナギちゃんを襲撃するのに十分でしょ」
「それは否定しません。ならこちらもご存じでしょうか。
「────は?」
言葉を聞いて、意味を理解する前に疑問が浮かんだ。
何と言った? 百合園セイア殺害──アリウススクワッド──コノハ──言われた言葉が高速で脳内を駆け巡る。
手引きをしたのは、別の誰かだと思っていた。
だが、彼女たちなら?
心の奥から、ドロリとした感情が湧いてくる。
どす黒い、この世の全てを呪うような、そんな
聖園ミカは羨ましかった。
ナギサから聞いた時から、アリウスを変えている事を知った時から、ずっと羨ましかった。
絶対の味方という、何より魅力的な存在。
拭い難い嫉妬が、ずっと暴れていた。
それを。
それを、大切な友を奪った
ベアトリーチェが二ヤりと、嘯く蛇のような悪意に満ちた笑みを浮かべたのすら気が付かない。
友を殺したという事実で既に心が壊れているミカは、ベアトリーチェの言葉を疑いすらしなかった。
それは馬鹿な子供が悪い大人に騙される、ある種典型的な光景だった。
「おや、知らなかったようですね。では、彼がこうして動いているのが、アリウススクワッドの一人である秤アツコが
「────」
フッ、と。
あれほど心を燃やしていた炎が消えた。
心の中の許容量を超えた怒りが、激情すら突き抜けたのだ。
残るのは冷たい、底すら知れない深淵だけ。
なんで。なんでなんでなんでなんでなんで?
なんで私は助けて欲しいなんて言えもしなかったのに、お前たちは助けてもらってるの?
なんで私はこんなに苦しいのに、お前たちは彼に助けられて幸せそうにしているの?
そんなの、いいわけがない。
「
言葉が体を這いずり回る。
思考の方向が一方向に舗装される。
「
心の奥底で逡巡なく頷いた。
その瞬間だった。
「アッ……グ、う……!?」
神秘が震えた。
よろめき、まともに立っていられなくなる。
空間が耐えられないと叫ぶように軋む。
怒り、嘆き、恨み、妬み、諦観。
それはずっと、アリウスの地に積み重なってきた悪感情。
アリウスではなくとも、弾圧した側だとしても、その根源は嘘偽りなく同一であるからこそ、それは正常に干渉を始めた。
徐々に、ミカの体が何かに移り変わる。
元から生えている羽はより大きく、世界すら包まんと羽撃く純白の翼に。
トリニティの白い制服は黒いドレスへと変わり、黒いベールが生まれる。
片手には剣を、片手には喇叭を。
それは『黙示録』に語られる天使、ではない。
天使がアリウスに終焉を齎すというテクスト。
この地に満ちた神秘がそれに実像を与え、その上で聖園ミカを依り代とし再構築された「現象」。
彼女の神秘が三大天使と称されるものであることが、歪に交わり生まれ果ててしまった、一つの終わり。
『私が苦しいのだからお前も苦しめ』という、少女の怨嗟に満ちた嘆きが形を成し生まれた終焉の天使。
曇り空が上書きされるように真っ暗な夜空へと変わる。
握る剣は嫉妬の炎を纏い燦燦と輝く。
広がった翼には涙を流す瞳が並び、なにも逃しはしないと地を見据える。
「ハ、ハハハハハ…………!!! さあ、アリウスに裁きを下すのです! そうして──卑しき罪人、秤アツコを我が元に。さすれば、死よりも苦しみ悶える地獄を約束しましょう」
喇叭が吹かれる。
終わりの日は、なんの予兆もなく訪れた。
ベアトリーチェさんがしてたこと
①徹底的に教育を施したアリウス生をわざと新・アリウスに送り込み情報を得る。
②聖園ミカの神秘に目を付け弱点を探り見つける
③事前にポルタパシスに行き異常現象をより起こりやすくする
④ミカを誘導し、彼女の神秘と黙示録の天使が合わさった『特異現象』を作り出す
やっぱりベアトリーチェさんは凄いや!