特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
「やっぱゲヘナはすげえな。テーマパークに来たみたいだぜ」
『似ているのは騒がしさぐらいですよ』
飛んでくる流れ弾から隠れるようにベンチの影に屈みながらぼやく。
テンションは上がらない。ガン下げです。
俺は今、ゲヘナにいます。
当然のように銃撃戦が勃発していますが、今日も元気です。
ミレニアムから列車を乗り継いできたわけだが、ハイジャックされるしまあ大変だった。
正直そのぐらいなら月に一度ぐらいあるし、まあ気にすることもないな……みたいになってるけど。
いやハイジャックに慣れるとか意味わかんないな。頭キヴォトスになっちゃってるよ俺。
そんなこんなでやって来たゲヘナはそれ以上に終わっている。
目の前で起きた事なのだが、生徒同士がほんの少しぶつかったら、お互いにガンを飛ばし合って瞬く間に銃撃戦の始まりだ。
これだけなら普通にある光景だ。普通にあってたまるかよこんな光景。
が、ゲヘナはここからが凄い。
当たり前に関わりたくないので足早に避難していたのだが、巻き込まれてしまった。流れ弾やら爆風やらを受けた生徒たちが参戦していき、戦禍が広がっていったのだ。
俺が避難する速度より、広がる速度の方が早かったってワケ。カスの算数かな?
「HEY ヒマリ! 逃げ方を教えて」
『どうやらAIよりも優れたサポート能力を持ったミレニアムに咲く一輪の花の力が必要なようですね。現在地から真っすぐ進んだ先の区画は安全ですよ、急いでください』
指示は的確だが、インカム(外部の音を遮断せず通信性も優れたエンジニア部作)から聞こえてくるヒマリの声は場違いですらあった。
澄んでる声質だから、戦場には逆に似合わない。綺麗すぎる。
「あっ」
こそこそと言われた通りに動き出すと、銃を構えるチンピラ一人と目があった。
「お前何隠れてんだ! 喰らえ──」
「喰らえません」
君らと違って普通に死んじゃうから。
小銃を向けられる。身体を逸らして射線から逃れ、ホルスターから拳銃を抜き放つと同時に発砲。
頭部を捉えた弾丸は一発では気絶させるには足りず、続く二発、三発目で意識を奪った。
「なッ、こいつ」
彼女の仲間なのか、数人が標的を俺に合わせた。
殺気というか肌感というか、こういう感覚的なやつはある程度戦闘に慣れると分かるようになる。
崩れ落ちる身体は盾代わりに持って接近。
いかに倫理観がずれた世界と言えど味方への射撃は躊躇ってくれるから楽だ。動揺している一人の足を払って額に数発撃ちこむ。
「あっぶね~」
『いつ見ても鮮やかな手際ですね』
「キアヌ・リーヴスって呼んでくれてもいいよ」
『誰です?』
気分は完全にジョン・ウィックである。犬も車も戸籍もないけど。
同様にどんどん処理していくが、飛んでくる銃弾は増加する一方だ。どんどんボロボロになってって、そろそろ肉壁にするのも忍びなくなってきた。しないと死ぬからするが。
「なんでこんな狙われてると思う?」
『現在の貴方がフードを被りきっていて顔が見えない、不審者に類似した外見をしているからかもしれませんね』
「顔隠した方が良いって言ったのお前だよね?」
『男性だとバレるとなにかと面倒でしょう? 実際、顔を見せれば珍しさでもっと目立ってしまいますよ』
屈辱的な論破に俺は顔を真っ赤にした。
許せねえ、正論で殴ってくるのは反則だろうが……!
ミレニアムの子たちって基本的に俺より頭がいいから論争で勝てたことがないんだよな。いや別に俺の頭が悪いとかじゃなくて、相対的に馬鹿なだけだから……ん? あんま変わんないなこれ……
「どうすっかな」
こんな言い合いをしても状況はよくならない。それにこうなってしまっては、この戦場から逃げ出すのはかなり難しい。
空になった弾倉を捨てリロードしつつ、思考を回す。
……力使えば、鎮圧も逃走も余裕ではあるんだが。
あんま使いたくないんだよな。
使うほど声がやかましくなるし、詳細を知ってしまってからはより躊躇いが大きくなった。
使用回数が一定(どこまでがセーフのラインかは不明)に達すると即
なんて、どうやって銃弾の雨から逃れようと頭を悩ましていた時だった。
「ぐぎゃッ」
「ぐえ──!」
「なっ、空さ──ぎゃあ──!!!」
機関銃の発砲音が響き渡る。
それと同時に、断末魔もまた俺の耳を打つ。
急速に、尋常ではない速度で生徒たちが倒れていくのが、見ずとも分かった。
『……なるほど、これがゲヘナが誇る風紀委員長ですか。ネルに勝るとも劣らない、異常な戦闘評価にも納得です』
監視カメラをハッキングして見ているのか、ヒマリの声は少し引いていた。
話は逸れてしまうのだが、キヴォトスというイカれた世界においても尚、最強と呼んで異論がない人物は数人いる。
ミレニアムの美甘ネル、トリニティの剣先ツルギ、百鬼夜行の七稜アヤメ、そして──
「コノハ、しゃがんで」
決して大きくはないにも関わらず、銃声に紛れることなく届く声。
それに従って、俺は反射的に地面に伏せた。
直後、頭上を通り過ぎたのは紫光を伴って放射される大量の弾丸だった。
凄絶な射撃音が空間を支配する。
それが止まれば、辺りには静寂が訪れていた。
「どうして此処に居るかは分からないけど……久しぶりね、コノハ」
「お久しぶりです、空崎さん。今日もお疲れ様っす」
「気にしないで。仕事をしただけだもの」
────俺を見下ろす、ふわふわとした白髪と鋭い眼光を持ち、息が詰まりそうになるオーラを漂わせる少女こそ、ゲヘナにおける最強。
空崎ヒナその人である。
△△△
「なるほど、調査のためにヒノム火山に入りたいのね」
「そうなんです。入れますかね?」
「いいんじゃないかしら」
空崎ヒナの現着から数分、鎮圧完了──みたいなナレーションが付きそうな程鮮やかに事態は解決した。
生徒たちが反省室に連行される中、面識があった俺は事情聴取という体の雑談をしていた。
ヒマリの通信は一旦切っている。てか切られた。
『ずっとでも構いませんよ? いえ、その方がより効率的かつ私たちの関係的にも妥当だと思うのですが……エイミ? 今忙しいので話は後に……え? 迷惑かけてないで切るよ? 待ちなさいエイ──』というのが最後に聞こえて何となく居心地が悪かった。
和泉元さん、いつも本当にお疲れ様です。
話を戻すと、空崎さんには前から度々お世話になっている。
ミレニアム内部での危険な技術・作品がゲヘナに流れた際とかには協力してもらったりしたのだ。その際に色々バレて(男性であること、特異な神秘を持っている事)事情を説明しているので、彼女は数少ない俺の理解者でもある。
初対面の時は勘違いから攻撃されて泣きながら応戦したけど、今となっては良い思い出だな。嘘、本当に怖かったので未だにビビってます……
「熱いし、アビスの近くは危険ではあるけれど、あなたなら問題ないはずよ。うちで入山許可証は作るから、一緒に来てくれる?」
「はい。……色々ありがとうございます。マジで頭上がんないっす」
「このぐらい負担にもならないし、感謝される程じゃないと思うのだけれど……」
「いやいや、俺は感謝してるし、空崎さんへの感謝にし過ぎるなんてないですから」
この人、普通に最強な上に融通も利くし話も分かる、素でオールマイトみたいな在り方してるから、ついつい頼ってしまうのだ。俺然り、たぶん周囲も。
それもあってか、感謝を素直に受けとってくれないんだよな。
「最近暇ができたんで、空崎さんのためにできることとかあったら俺何時でも駆けつけますから。そのぐらい恩があるんで、あんま謙遜しすぎないでください」
「……そう。なら、そういう事にしとく」
空崎さんはふい、と顔を逸らし、無言で一歩先を進んでいく。
もしかしてエグイ媚びの売り方してる奴だと思われたか……?
バッドコミュニケーションの予感に頭を抱えながら、ついていくこと暫く。
デカい建物に着いた。何回か訪れた事のある風紀委員会の本部だ。
顔バレしたくないのでフードを深く被り、静かに後ろを追う。傍から見たら連行してるみたいにしか見えないんだろうな……
「お疲れ様です、ヒナ委員長……って、貴方は……」
「お久しぶりっす、天雨さん」
「アコ、悪いけど席を外してもらえる? 彼と話があるの」
「え……はい、分かりました。終わり次第、お声がけください」
「ええ、ありがとう」
執務室の中に入れば、笑顔の天雨さんがいた。フードを取って挨拶したら、露骨にジト目になった。声も心なしか嫌そうだ。少し泣く。
彼女は俺が男ってことしか知らず、話せないこともあるので、こういう空崎さんの配慮は本当に助かる。
去り際まで凄まじい眼光で睨みつけながら『変なことしたら分かっていますね?』といたいぐらい視線で告げていた天雨さんも消え、部屋の中は俺と空崎さんの二人きりになった。
「私名義で作るから、面倒ごとは避けられると思う……あ、万魔殿には何か言われるかもだけど……やめとく?」
「いや、お願いします。結構深くまで調査したいので、許可は貰っときたい。それに、万魔殿とは関わりないんで」
「……なら、そうね。私ぐらいかもしれないわね、あなたの力になれるのは」
「いやマジで助かります。今度お礼っていうか、お返しさせてください」
その通り過ぎて平伏する勢いで頭を下げた。
ヒノム火山は一般にも解放されているが、奥に進むにつれ規制も生まれる。オーパーツやら特異現象やらが起こるからだ。
最悪は不法侵入でもいいんだが、やっぱちゃんと認められてる方がやりやすい。リオの下で身をもって学んだ。当然のように違法行為させるのやめろ。
「別に大丈夫よ。特にして欲しい事もないし」
「いやなんか欲しい物ぐらい……ないかあ」
ある程度の付き合いがあるから分かる。この人、駄目なぐらいの仕事人間だから物欲とか全然ないんだよな。初めの頃世間話しようと頑張ったのは思い出したくない(5敗)
「お返し……あ……えっと、コノハ」
気まずすぎた当時を思い出して嫌な汗が流れ始めた時、声を掛けられハッとする。
「すいません、ちょっとボーっとしてました。なんですか?」
「その、お礼……なのだけれど」
「ああ、何か思いついたんですか? 教えてください」
「…………」
くるくる、と自身のモフモフとした髪を弄りながら、空崎さんは黙ってしまう。
よく見れば軽く頬が赤みを帯びているし、視線も右往左往しているが、時折俺の方を見ている。
意図は分からないが可愛すぎる。あんま軽率に好きになっちゃうような事しないでほしい。
「暫くはゲヘナに居るんでしょう?」
「まあ、調査は数週間はかかると思います」
「なら、空いている時間に少し、私たちの手伝いをしてくれないかしら」
「手伝い? 風紀委員のですか?」
「いつも人手不足だし……あ、軽くでいいの。暇なときにちょっと手伝ってくれたり、その、私の相談を聞いてくれたりとかで」
空崎さん、やっぱ仕事人間すぎるな。
思っていたよりも実務的なものだが、恩返しと思えば頷かないわけにはいかない。それに仲良くしておけば情報教えてくれたりもあるだろうし、実利的にもいいだろう。
逡巡もなく、肯定を返す。
「空いてる時間で良いなら、是非。空崎さんからの頼みなら、本気で頑張ります」
「……そう。ありがとう」
言い終わると同時に、一枚の紙が差し出される。いつの間に書いたのか、ヒノム火山への入山許可証だ。
受け取る際、僅かに彼女の指が俺の指を叩いた。顔を見れば、紫の瞳と視線が重なる。
「……暫くだけれど、よろしくね。コノハ」
「マジで頑張ります!」
意味が分からないぐらい可愛くてデカい声で宣誓してしまった。
デカすぎて部屋に天雨さんが入ってきた。ブチ切れた顔をしている。傍から見たら俺が手握ってるみたいに見えてんのかこれ。
「これは、仕事だから。うん、仕事なら問題ないはずよ。会いたいからじゃなくて、必要だから会うだけだから」
空崎さんが何かを言っていたが、天雨さんに俺よりデカい声で叱られていて、聞き取ることはできなかった。
説教は長丁場になり、天雨さんがコーヒーを淹れて、それを飲みきるまで続いた。
長すぎて俺は泣いた。
械枷コノハ 美少女に弱い。悲しき童貞のためすぐ好意を持ってしまうが、こんな可愛い子が俺を好きになる訳ないな……と心に壁を作ることで耐えている。告白されたら即負けすることをまだ誰も知らない。エージェント時代は顔を隠す仮面を付けて行動していたが、誠意を見せなければと彼が思った場面ではよく外していたので顔を知っている人物は多い。『まあ彼の顔を知ってるのは私ぐらいですけどね……』枠が大量発生しているし勘違いの玉突き事故が起きたとかなんとか。
空崎ヒナ オールヒナマイト。何かと関わりが多い。コノハとデカい山場を乗り越えた後打ち上げをしたことを偶に思い出して笑みを浮かべている。シンプルに強すぎるため、コノハが想定している『厄災に成り果てた自分を殺せる可能性のある人』ランキング最上位に坐している。当の本人はそんな事知らないしエデン条約が結ばれ暇になったら遊びに誘ってみようかな、迷惑だったりしないかな、なんて考えている。
天雨アコ ヒナ委員長を誑かすのやめてくれますか???(ガチギレ)共に仕事した際の手際には一定の評価をしているが、ただそれだけ。え? 主人公用のマグカップあるんすか? ふ~ん…青色なんすね。へ~~?