特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
詰め込み過ぎて長さの割に雑です。
神秘とは文字通りに『秘された神』を指す。
この世界の根幹に刻まれた概念であり法則であり摂理である。
ならばそれを奪い、変換し、己がものとする存在がいるのなら。
それはきっと、世界に存在してはいけない何かなのだろう。
磔にされたアツコ。
その横でより強大な神秘を纏い放つ『天使』。
コノハたちが大聖堂を超え至聖所に突入した際、既に儀式は進んでいた。
『天使』の翼は更に巨大に、剣には業火が燃え滾り、背後の光輪はこの世全てを照らさんとばかりに輝いている。
スクワッドの脳裏に間に合わなかった可能性が過る中、コノハは欠片も動揺はなかった。
アツコから感じられる神秘は普段とは比べるべくもない微弱で矮小であったが、それでも消えてはいない。
まだ儀式は完了していない。まだ、秤アツコは生きている。ならば焦る必要はない。戦闘において、無駄な感情の変動は非効率でしかない。
これまでと異なる、どこか機械的で冷徹な思考が彼を満たしていた。
「まだ間に合う。アツコは任せた」
酷く冷静な声色でコノハは指示を出した。
返事を待たず、足を速め疾駆。生成し背後に浮かべていたサブマシンガンを手に取り、同様浮かべている複数の銃と共に乱射する。
これまでは他所から変換・再構築を経て活用していた神秘に自前のを上乗せし
翼を盾の代わりとし防ぐ『天使』はその翼によって視界を遮られていて、コノハはその間隙に急加速を敢行した。
再構による新生を経て『名もなき神々』と同質へ変貌した今の彼は、身体機能すらその
つまり、
『天使』の反応速度でさえ間に合わぬ速度で繰り出した飛び蹴りは翼越しに『天使』へと突き刺さり、彼方まで吹き飛ばす。
遅れて大気が弾けた音と衝撃波が大聖堂を揺らした。
アツコが磔にされている至聖所から『天使』を引き離し、サオリたちがアツコの元へ向かうのを確認したコノハは地面を蹴りつけ、反動により移動。
「ころ……じゃない、助けるだ。聖園さんを、助ける。よし」
無意識に浮かんだ選択肢を打ち切り、目的を再認識する。
確かめるように口にする姿は刷り込み暗示しているにも見えた。
度重なる能力の行使と、最終的な契機として身体の再構築。これにより身体、器は既に完成した。
だが、未だ精神はコノハのままで。それは完成した身体と権能が馴染むまでの誤差に生まれた、僅かな最後の時間。
それが終わればきっと、決定的に
それが、械枷コノハの現状であり、猶予であり、未来であった。
「まあ、うん。あそこで見捨てる方があり得ないし、仕方ない。人生ってままならないもんだな」
後悔はない。だから嘆息一つで思考を切り替える。
どうしようもない問題よりも、どうにかできる問題の方が優先されるべきだから。
その姿勢は余命を告げられ、残りの時間を好きに使おうとする人に酷く似ていた。
アツコの救出は可能だろう。現にスクワッドが磔から解放しようとしている。妨害として小型の『天使』が数体送られているが余裕がないのか彼女たちでも対処可能なレベルだ。問題はない、信頼を以て任せる。
問題は聖園ミカである。
彼女を助けるためには外殻となって彼女を覆っている『天使』を剥がさなければならない。
新生を経る前のコノハでもできたのだ。今でも問題なく可能なのだが、劇的に上昇した出力、より深度に到達した権能が、『天使』をミカ諸共撃滅しかねない。
アツコの神秘を儀礼によって獲得し、アリウスという概念に対する終末事象と化した『天使』には、今のコノハを以てしても過度な手加減はできない。
要は、加減が難しいのだ。殺さないように、けれどしっかりと倒せるように。その微細な力の制御をするなら、やはり空間を介したものではなく接触による干渉の方がいいだろう。
「近づいて、『天使』だけぶっ倒して、聖園さんを桐藤さん達の所にまで連れて帰る。よし、方針は決まった」
衝突の衝撃で巻き上がった粉塵が翼の一振りで吹き飛ばされる。
『天使』は損傷もなく健在であり、寧ろコノハへの脅威認識をより高めたのか、更に神秘が膨れ上がる。
大気が戦慄き、空間が拉げ、法則が捻じ曲がる。
極まった神性の衝突に世界が耐え切れず、もはやこの場はキヴォトスともその
『天使』が剣を振るい、それに追従するように焔が撒き散らされる。
それをしかし、コノハの権能は分解し、再構築し、掌握する。
彼に向かって迫っていた焔は、無造作な腕の一振りによってかき消された。遠距離から放たれる収束性のない攻撃は既に彼にとって脅威ではない。今の彼の権能を貫くのなら、剣先に焔を集束させた砲撃か近距離の斬撃しかないだろう。
それを知ってか知らずか、『天使』は大聖堂の中で翼をはためかせ一定の距離を維持している。
コノハの有効打は接触からの権能。近づくことが即ちの敗北への一手であると、本能的に分かっているのだろう。
「一気に近づいて……は駄目だ。下手に権能使ったらマジで殺しそう」
炎を振りまき、神秘を集束させた弾をばら撒く『天使』に対して権能の使用は防御に限定し、攻撃は銃撃のみのコノハは苛立ち混じりに舌打ちをする。
近寄った場合、『天使』は迎撃の為に剣を振るうだろう。今のコノハであっても、その斬撃は痛手どころか致命になり得る。出力を全開にした権能を使えば、大天使の神秘ごと全てを消し去れるのだがそれでは本末転倒だ。
近づくのなら、何かしらの隙を作らねばならない。
故に両者、遠距離からの小競り合いになっているのだ。
神秘、炎、銃弾が戦場を縦横無尽に駆け巡り、コノハは地を駆り『天使』は空を飛ぶ。
決定打に欠け、進展のない攻防が続く中、コノハが賭けに出る。
戦闘が続くほど権能の使用回数も増加し、猶予は消えていく。長期戦は彼の方が不利だった。
手に握るのはライフル銃。神秘を変換し、収束させ、一発の弾丸を構築し装填。そのまま銃口に過剰な程神秘を集束させる。これまでの小競り合いから一転、勝負を決めに行くような一撃。
それに対し『天使』もまた剣先に焔を集束・収斂。ベアトリーチェに放ったそれを、何十倍にも威力を高めたような砲撃。
「ッッッ────!!」
向かってくる絶死の焔に銃弾で対抗──
身体を逸らし、正中線目掛けた砲撃は左半身に直撃。左腕損失、胸からわき腹にかけごっそりと肉が抉り取られる。
またしても殺しかけた──いや、殺してしまった事に聖園ミカの精神が慟哭、摩耗し『天使』の動きが鈍る。
「────
無名の司祭によって戦闘に適した機構として
彼の思考・動作に一切の陰りはなく。
片腕で構え、照準を合わせる。
動きが鈍ったその瞬間にはもう、引き金は引かれていて。
莫大な神秘によって輝く弾丸は白亜の軌跡を描き、寸分違わず『天使』の片翼を貫いた。
根元から貫かれた翼が本体から斬り落とされ、『天使』が落下する。その頃にはもう欠損した身体を再構築し終えている。結果、損傷は皆無。そんな理不尽を押し付ける。
絶好のチャンスを前に、コノハは地面を蹴り砕かんとばかりに跳躍。『天使』が何かするより先に、その顔を掌で掴み権能を行使した。
『悪い子でごめんなさい傷つけてしまってごめんなさい殺してしまってごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
「っ!
権能を通じて伝わってきたのは、自我が崩壊しかねない程の自己嫌悪、自責、自罰の氾濫。
そのとめどなく溢れ続ける悪感情が、ミカと『天使』の結びつきを強固なものしていて、コノハの権能すら弾いた拒絶した。
想定外の事態に驚愕する。
『天使』が片翼で姿勢を制御する中、コノハは空中で無防備に身を晒す。彼は飛行手段を持ち合わせていなかった。
「あ、やば──」
薙ぎ払う様に翼がコノハの腹を捉え、飛び蹴りのお返しの様に彼を吹き飛ばした。
△△△
「──姫! 意識をしっかり保て、アツコ!」
靄のかかった意識。感覚の薄い四肢。霞んで見える視界。
叫ぶように、懇願するように声をかけてくるのが幼馴染のものだと、ぼんやりとした頭が判断した。
「サッちゃん……みんな……」
擦れた声。『天使』に神秘を捧げていたことで、身体は衰弱状態にあった。一刻を争う、という程ではないが出来得る限り急いで医療機関まで連れて行った方が良い、そういう程度の衰弱。
小型天使を退け、見事にアツコを助け出したスクワッドは直ぐにこの場を離れるべく、丁寧かつ慎重にアツコを運ぼうとする。
これ以上この場にいることが、コノハの一番の邪魔になると理解していたからだ。
離れているのに轟き響く神秘の衝突。音で、肌で、その隔絶した領域での戦いが彼女達にも届いていた。
「……コノハ? 戦ってるの……? なん、で……!?」
身体が強張り、叫びそうになって喉が負荷に痛む。全身が混乱し、吐き気すらあった。
微睡んでいた意識が覚醒したのは、最後に見た死んでしまいそうなコノハが脳裏を過ったからだ。
腕を失くし、血を流し、地に伏した彼。
自分を守ろうとして死にかけた彼が戦っている。見ずともその気配で分かる。分かるからこそ、動揺するのだ。
なぜ、どうして。意味もない疑問が溢れて、どうしようもなく謝りたくて、勝手に涙が浮かぶ。一種の錯乱状態。
何と声を掛けたらいいのか、全員が悩んでいた時だった。
「───助けられたか。此処危ないから、さっさと逃げてくれ」
ドンッ、と強い衝突音と衝撃を伴ってコノハが吹き飛んできた。
地面を転がり受け身を取って、なんてことのない顔で最終的にアツコたちの側で停止する。
必要事項だけを伝達する姿はどこか、人間味に欠けていて。
意識を取り戻してから初めて、アツコはコノハを見た。
失った腕は元通り、強大な神秘を感じる、どこかこれまでと違う彼。
何か、超えてはならない決定的な所を踏み越えてしまった人を見た感覚に陥る。
「……権能を弾かれたが、干渉自体はできていた。もう一度干渉できれば、いけるか……?」
普段の彼であれば、もっとアツコを心配していただろう。非常事態であろうとも、一言であれ何か言葉をかけていただろう。
それすらない。既に彼の思考は聖園ミカへの対処に統一されている。
もう先ほどの手は使えないだろう。あまり時間もない。残された手は斬撃覚悟の接近か、さっきは行わなかった真っ向からの火力勝負か。
少しづつ、自覚無く、思考が、思想が染まっていく。
だが、敗北はあり得ない。全ての忘れられた神々を相手にし、この世界ごと終焉へと導くのが最終目的なのだ。たかが一体系を終わらす神秘に、何を恐れる必要がある。
いや、
ならば─────
「コノハ」
「……ん? まだ行ってないのか。どうした?」
「コノハは、何で頑張るの?」
「───」
アツコの心の中はもうぐちゃぐちゃだった。変わり続ける事態と、理解の及ばない領域の存在。
けれど、それらとか、罪悪感に自己嫌悪心とか、どうして傷がないのかとかは、今はどうでもよくて。
このままだとコノハが何かよくない方向に変わってしまう予感があって。
それは嫌だと思って。
あの時助けてくれた男の子に、秤アツコが好きになったままでいて欲しくて。
考えたわけではない、だからこそコノハの根幹を揺さぶる言葉が溢れた。
「俺、は」
言葉が刺さり、思考が止まって漂白される。
『天使』による弾幕を権能によって防ぐ。その間に、止まった思考が緩やかに流れ始めた。
どうして頑張るのか。
自問すれば、答えはすぐに返ってくる。
械枷コノハであるならば迷う事もない問い。自己を決定づける要素を問われ、
「後悔したくないからだ。この事態を見過ごして、その後悔を抱えて生きるなんて嫌だからだ」
生きたいと、強く思う。
けどそれは、より厳密にするなら幸せに生きたいという思いだ。
その幸せを突き詰めると、きっとそれは後悔のなく生きる事だろう。
きっと俺は、後悔して生きるより満足して死ぬ方が、ずっと良いんだ。
それが俺だ。
だから───
「君たちが苦しんでる姿なんて見たくない。こんなクソみたいな理不尽を認められない。だから頑張るんだ」
変わりない、大好きな彼の言葉に、アツコは花が咲くように笑みを浮かべた。
△△△
意識が戻った。
いや、この表現は間違っているか。別にさっきまでも俺ではあった。
だが、機械的に、システマティックに行動していた。そこに俺の意志、感情は介在していなかった。
確かに俺なんだけど、ちょっと俺じゃないっていうか。
戦う中での権能行使によって思考が矯正でもされてたんだろう。
はいクソ!! ぜってえいつか司祭供ぶっ飛ばしてやるからな。
あ~~~~~~~、イライラしてきた。何がとかじゃなくて、これまでの全部がだ。
ストレスが一定を超えて、脳がアドレナリンをドパドパ分泌している感覚。
もう本当に死ぬほど面倒くさえな聖園さん。
いや桐藤さんも百合園さんもだし、ティーパーティーは面倒くさくないと入れないのかな?
トリニティの生徒が可哀そうになってきたぜ。
「大人しく助けられてろよな」
頭上に佇む『天使』。今も焔やら神秘やらで攻撃してくる彼女を目視し、溜息を一つ。
自分が決定的な過ちをしてしまって、そのせいで親しい人を傷つけてしまったら、ああもなるだろう。彼女の後悔も苦悩も、多少は分かる。あのデートだけで、彼女が優しさも持ち合わせている事は分かっているからだ。
それにしたってダルくはある。
だからもう終わりにしよう。百合園さんが予知した、クソみたいなお話をハッピーエンドに書き換えてやろう。
「……とはいっても、どうするか」
気合を入れ直したが、状況は変わりない。俺の取れる手はさっき考えた二手。
近距離だと俺が死ぬかもだし、遠距離だと聖園さんが死ぬかもしれない。今の俺が出力の制限なしで一発の威力を突き詰めるとマジでそうなる可能性がある。ぶっつけ本番での力の制御なんて当てにしたくない。
「ねえ、コノハ」
「どうした……って大丈夫か? ごめん、最初に言っとくべきだった。それで、どうした?」
「一緒に戦えなくても、せめてこれぐらいはさせて……?」
改めて見ると衰弱しきっているアツコに近づけば、手を握られる。冷ややかな体温と一緒に、暖かな力が俺に向かって流れる。彼女の神秘だ。俺が権能を使って奪うでもなく、彼女の意志によって俺に分け与えられている。
「殆どは捧げちゃって、あんまり力になれないけど……それでも、少しは助けになる筈だから」
『天使』に比べれば矮小とすら思えるそれを貰い受けて、思考が閃く。
…………あ、これならいけるか? いけるな? いけるぞ!?
「ありがとう、アツコ。君のおかげで何とかなるかもしれん。だから、後は任せてくれるか?」
「うん、あの子も助けてあげて。…………私の騎士様」
「……ははっ、承りましたよ、お姫様」
軽口をたたいて、笑って、緊張なんてなくなった。
余分な力のない脱力状態。アツコの神秘を丁寧に操作・構築していく。なんとなくだが、今の俺がやっているのは『名もなき神々』の権能とはまた別のものな気がする。もっと優しく、他者を尊ぶような、そんな力。
そうして、造り上げるは一発の弾丸。
対『天使』に振り切った
アツコたちから離れ、『天使』の方へ足を踏み出す。
何の再構築も施していない、俺の
一連の動作を見て『天使』は先程同様、剣先へと焔、神秘を集束させる。
『天使』の臨界まで高まる神秘に対し、俺はアツコから貰った種火のような微かな神秘。
それで十分だ。いや、それ以上は逆に邪魔ですらある。
「──それじゃ、リベンジマッチだ。その顔ひっぺ剥がして強引にだって連れ出してやるよ、聖園さん」
「────」
示し合わせたわけでもなく、撃ち放つ瞬間は同時だった。
引き金を引く。弾丸が放たれる。
剣先が輝く。砲撃が放たれる。
衝突、俺の弾丸が一方的に砲撃を
それもそのはず。
この弾丸はアツコの神秘を元に、同じ神秘と対消滅し合う様に造ったものだ。弾丸を二重構造にし、最初の層で砲撃と対消滅。残った弾丸が『天使』が得たアツコの神秘と対消滅を起こしたのだ。
もはや俺を見てもいない『天使』に近づくのは容易だった。
膝をバネにし、全力で跳躍する。もう俺に遠慮とかはない。意味わからんぐらい迷惑をかけられてるのだ。
拳を握りしめ、思い切り振りかぶる。
「うおおおおおやられたら倍返しパンチ!!!!」
「!?!?!?」
『天使』の顔面を全力で殴り、権能を行使。『天使』を通じて伝わる困惑からかさっきのような拒絶を生まず、彼女の精神へと干渉した。
気づけば、真っ暗な空間にいた。怨嗟や悔恨で満ちた、息をするのも億劫な此処が、聖園さんの精神なんだろう。
程なくして、蹲る聖園さんを見つける。
「…………なんで、来たの? 私ごと倒しちゃえばよかったのに。コノハ君ならできた…………あ、違う、違うの。私、謝らないといけないのに。ごめんなさい、腕を斬り落としてごめんさい、殺しかけてごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
支離滅裂な言動で顔を上げた彼女は、酷く泣きはらした顔をしていた。
瞼を真っ赤にし、瞳は暗く濁り、俺を見ているようで見ていない。
見る事すらできないんだ。それだけ、罪悪感で押し潰されそうなんだろう。見ているだけで分かるほど痛々しい姿だった。
「許す許さないの話は、君をここから出してからだ。ほら、行こう」
手を差し出す。俺の掌を見つめ、彼女の腕が微かに動くもそれを律するように固まる。
まるで助けられることを拒絶しているようだ。いや、実際そうなんだと思う。
「…………駄目だよ。私、馬鹿で悪い魔女なんだよ? 許されちゃ駄目なんだよ?」
「…………」
「私ね、自分でこんな事したんだよ? アリウスだけ許されるのが嫌で、私みたいにどうしようもなくなっちゃえって、そう思ったんだよ?」
まくし立てるようにして彼女が自己否定を重ねる。
「皆を傷つけて、君にだって酷いことをしてっ。そんな悪い子がのうのうと許されるなんて、駄目なの。ねえ、分かるでしょ? 君も、本当はそう思ってるんだよね? う、腕を斬られて、死んじゃいそうになって、そんな目に合わせられた子なんて、嫌いで許せないでしょ?」
許されたいと思う事すら過分であるとでも言うような言い分。
きっと、彼女がここまで追い詰められたのは俺のせいも大きい。たぶん俺を斬った時の感触があるのだろう。彼女の手を震えている。
間接的に友人の死を招いたと思った結果で、
が、そんなの気にしてられるか。
「うるっっせえええ!!!」
「はえ?」
さっきも言ったが、百合園さんしかり、この人らに遠慮なんて欠片も不要だ。そんぐらい迷惑かけられてんだ。敬意なんてねえよ。
「聞いてりゃぐちぐちぐちぐちしやがって、助けて欲しい癖に面倒くせえんだよ!」
「た、助けて欲しいなんて」
「いいや、君は助けてを求めてる。
そうでもなければ、あの時俺に自分だけの味方になってくれるか、なんて聞かない。ここまでの自己否定も、それすら上回る希望をほんの微かに願っているからこそ、だ。きっと無意識なんだろうけど、それでも彼女は未だ、自分が幸せになりたいと思っている。
自分と重なる。見捨てられない理由が、また一つ増えた。
「君だけの味方になれるか。あの時は答えられなかったから、今答えてやる───無理だね!」
「…………そう、だよね」
「ああ、そうだ。百合園さんにアリウスけしかけたのは殺す意図なくても普通に性格悪いドン引きものだ。こうやって癇癪みたいに大騒動起こすのも馬鹿でしかない。ましてや俺、マジで最悪な目に合ってるから」
事実を言ってるだけなのに何か悪口にしかならない。これが事実陳列罪ですか? 逮捕されるならあっちだけど。
聖園さんは俯き、縮こまっている。結局は当人が一番よく分かっているんだろう。
「それでも、君が全て悪かったわけじゃない。君だけが苦しんで終わりの話じゃない。誰か一人が都合よく悪役になって解決する、そんな単純な話じゃない」
「…………ぇ?」
信じられないものを見る目で見てくるが、俺はそう考えている。
アリウスと和解したいといった彼女を否定したのはティーパーティーだし、彼女の善意を最悪の方向で利用したのはベアトリーチェだ。
悪くないとは言えずとも、全て君のせいだ、なんて言える訳もない。
「君が悪い子でも、君に生きて欲しいと思ってる人はいる。君ができる限り苦しまないで、幸せになって欲しいと願ってる人もいる。俺もそうだし、俺以外もいるんだ。桐藤さんとか、百合園さんとか。あ、そういや百合園さん生きてるよ」
「え、あ、え? セイアちゃん、生きて……? ちょ、ちょっと待っ」
「それに君はいって魔女っ子ぐらいだから! 悪い魔女にしては可愛すぎだし、大人っぽさよりは子供っぽい。そこが魅力なのが、俺がデートして可愛いと思った聖園ミカだ」
「ほ、ほんとに待って……!?」
怒涛の情報に頭が追いつかないのか、顔を赤らめ目をぐるぐると回している。
それでも待たない。
「百合園さんは生きてて、俺も生きてる。アリウスだって、結果だけ見ればこれから良くなっていく芽を植えられた。聖園さん、君の罪は許されないものじゃないんだ」
一見もう終わりだが、まだ取り返しがつく範疇だ。
結果良ければ、とは言えないが、その結果だって無視はできない。…………まあ、これからの苦労はとんでもないだろうけど、そこは頑張れとしか。そこまでは付き合ってられない。
その先は、彼女たちが何とかしないといけない。俺にできるのは、そこまでの道のりを整えることぐらいだから。
「俺は君だけの味方にはなれないし、なろうとも思わないけれど。それでも君が苦しんで、助けを求めるなら助けるよ」
膝をついて、彼女の手を握る。
俯く顔を上げさせて、彼女の瞳をしっかりと捉える。涙で濡れている瞳が揺れた。
「だからさ、言ってくれよ。その言葉さえあれば、俺は我儘で性格の悪い、そんなお姫様の騎士にだってなってみせるから」
聖園さんの瞳が見開かれ、ぱくぱくと言葉にならず口を空けては閉じる。
本当なのか確かめるように、俺の手が小さく握られた。それを強く握り返す。
「…………セイアちゃん、本当に死んでないの?」
「ああ、生きてる。君の為に今も頑張ってくれてるよ」
「アリウスの皆は、大丈夫なの?」
「救けを呼んで、皆避難している。アツコも死んでない。大丈夫だ」
「ナギちゃん、怒るよね」
「俺もやらかしまくってるから一緒に怒られよう」
「コノハ君は、私の事面倒くさくて嫌いだよね?」
「面倒くさいのはそうだろ。でも、普段の君ならそれも可愛さなんじゃないか? デートの時の君は嫌いどころか好きになりそうだったし」
「……わーお」
すう、と息を吸って。
一筋の涙を流しながら、聖園さんが笑おうとして、上手くできずに変な表情になって。
「お願い、助けて」
「───任せろ」
意識が現実へ戻る。
殴り、体勢を崩した天使に権能を行使。
神秘の外殻が開かれ、中にいる聖園さんが見えた。彼女の腕を掴んで、一気に引き出す。
「─────」
残された『天使』が、音もなく崩れ落ちる。
俺が着地する横で、動くことなく地に落ちた。
核になってた聖園さんとの接続がなくなったのに消えないか。後で処理しないと。
危ないので抱える聖園さんは、瞼を閉じて眠っている。あの中にずっといたんだ。そりゃ消耗しているだろう。
だが、生きている。余りに一瞬だったからか、まだこの場にいるスクワッドを含めて、全員が生きている。
俺も体感ギリギリまだ大丈夫そうだがちょっと限界ではあるので、もうリオに任せた方が良いかもしれん。
彼女たちを連れて『先生』のとこまで行って、FOX小隊やヒナ、アヤメにも頼んで後始末をしてもらおう。
これからを悩むのは、それからでいいだろう。
自分の中で結論付け、俺はスクワッドの方に歩き出した。
お姫様は救われ、騎士の役割を果たした少年にはまだ猶予が残っている。
もう少しでも権能を行使していれば最後の分水嶺を超えていたが、そうはならず終わりはまだ訪れない。希望は絶えず、彼らの努力への報酬として希望が与えられる。
これはそういうお話。
子供たちの、青春の御伽噺。
「──
『天使』が脈動──痙攣する。
存在を構築していた神秘が、怨嗟が、紐解かれて形を失う。残った光粒が、ある一方に向かって吸収された。
その先にいたのは『大人』。全身をボロボロにしながら、怒りで異形の顔を歪ませるベアトリーチェ。
『天使』の砲撃で死んではいなかった。虎視眈々とまだ残されたチャンスを待ち続け、宿主が消えた『天使』を儀礼の要領で自身へと拝領・吸収したのだ。
身体がメキメキと音を立て巨大化していく。
顔はまるで花開く花弁のよう。異常に伸びた腕と植物の根のような下半身。背後に、巨大な光輪を携えた威容。
神秘が渦巻き暴風の様に周囲を吹き飛ばす。
『天使』と比べても遜色がない強大さを、少女たちは感じていた。
即ち、明確な死の予感。
戦いが終わって、その次が来た。ただそれだけのこと。
『子供』の理屈は通じない『大人』による、物語の蹂躙。
「こんな結末、認められるか……! 子供は大人によって──」
憤激を纏い、己にとって当然の世の摂理を愚かな子供たちに説こうとして。
「お前たちは利用さ」
「うるせえしゃしゃり出てんじゃねえよ消えろクソ婆がよおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
それを、コノハの権能が真っ向から押し潰した。
憤怒を超えた激情で冷徹に権能を行使。
吸収された神秘も何もかもを掌握し一切を簒奪し
これまでは制限していた全力によって、即座に脅威を潰しきる。
これ以上邪魔をするなと。
彼女たちを害するなと。
もうお前の出る幕なんてないのだと。
一瞬にして新たに得たものどころか元から持っていたものすら奪われ、枯れ枝の様に身体となったベアトリーチェ。
何もさせず、何も言わせず、無力な存在へと化した。そのまま覆う様に箱を構築。中に封印する。
殺しはしなかった。殺し、その存在を自分の中に刻み付ける事すらしたくなかった。
ここまでが一瞬。
刹那を更に分解した光の速さで、ベアトリーチェを処理した。
そうして。
何も成せずとも、その『大人』によって、お話は歪む。
そこが限界だった。
最後の最後で耐えていたラインを、コノハは超えた。
訪れる帰結は、酷く単純で。
アツコは見る。此処を離れるよりも前に、全てが事を終えてしまったから。
ミカは見る。彼によって地面に置かれ、目を覚ましたから。
極大の神秘に、ヒナを始めにコノハが救援を要請したメンバーがやってくる。だから、彼女らもそれを見た。
立ちすくむ彼が、初めて見せる諦めの顔をしていた。
「コノハ?」
「…………コノハ君?」
問いに答えず、新たにやってきた面々──特に『先生』へと顔を向ける。
「あ、皆いるのか。ならまあ、なんとかなるか。『先生』、始めましてなのにすいません。ちょっと後は任せるんで、頑張ってください」
気軽な口調で、それからヒナたちの方を向き、口を開いて。
「あー、これならリオ呼んどきゃよかったな。もう時間ないから、単刀直入に」
愛用の拳銃を、自分の頭に突き付けて。
「これで死ねてなかったらたぶん酷いことになるから、殺してでも止めてくれ」
「…………ぇ」
パンっ、という発砲音と共に弾丸が頭蓋骨を貫通し、血液と脳髄を伴って外に出る。身体が脱力し崩れ落ちる。
びちゃり。その音が響いてなお、誰一人として理解できなくて。
かちり、と。
時計の針が進み、荘厳に響いた。
理解できぬ間に、もう終わっていた。
逆再生するみたいに頭の中に血と脳髄が
人というには機械的な、人体構造を無視した動作で立ち上がる。
『───先生! こ、コノハさんを中心に異常なエネルギー反応が起きています! これは、人の範疇を遥かに超えて…………!?』
「っ、彼は何を…………?」
表情が消え、無機質的な冷たさのみがあって。
赤く輝く瞳。周囲がまるでプログラムエラーを吐くように形を歪め、白亜と化す。
「
猶予は終わった。
器に権能が馴染み、精神も最適化された。
ここにいるのはもう、コノハでない。
「
復古を目的として、全てを終わらせる終焉機構。
「
『名もなき神々』──無名の司祭にとっての『機械仕掛けの神』が降臨した。
私事で更新頻度落ちます。週一投稿出来たら上出来ぐらいな感じなのでごめんね。