特異現象はダメ!死刑!!   作:最推しはアツコ

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合理主義者はかく語れり

 

 生まれ持った頭脳から、誰に言われるでもなく彼女は世界の不安定さを知っていた。

 この『キヴォトス』という世界は、何かの拍子で壊れかねない砂上の楼閣に過ぎないのだと、少女は知っていた。

 

 それは間違っている、と思った。

 世界が滅びていい訳がない、と思った。

 誰かが守らないといけない、と思った。

 

 だから少女はその通りに生きる。

 そうすべきと思ったから。自分ならできると思ったから。

 知識を己のものとし、立場を築き、着実に備えを積み上げていった。

 

 その過程で、少女は知り、理解する。

 皆が自分と同様の思考を持ってはいないことを。

 世界を護らんと走る者は、極少数──或いは、自分だけなのだと。

 

 それでもいいと思った。

 できる者がやればいい。

 できないのなら、知らないのなら、そのままでいても構わない。

 

 自分が管理すればいいのだ。

 賢くなくとも、生きていい。弱者だって幸せに生きられてこその世界だ。

 そういう世界を作るのなら、能力のある者がそう在るように手を加えればいいのだ。

 それが最も合理的である。そう、少女は考えた。

 

 ミレニアムに入学し、自身に匹敵する才能と出会ってからも、その考えは変わらなかった。

 共に研鑽を重ね、議論を交わすことは彼女にとっても大きな財産ではあったが、指針を変えることはない。

 彼女たちもまた、リオの考えを理解はしなかったから。

 

 それでもいい、と思った。

 前となにも変わらないだけだ。

 

 少女の邁進は続く。

 セミナーに入り、学園を運営するための力を手にした。順当に、『ビッグシスター』への道を歩む。

 この時からリオの頭の中には終焉への対抗・防衛に特化した都市──後に『エリドゥ』と呼ばれる要塞都市の構想が出来上がっていた。

 

 途絶えず、途切れず、歩みは止まらない。

 

 ……偶に、寂しさを覚えることはあるけれど。

 誰にも理解されないという事は、とても寂しく辛いものではあるけれど。

 

 それでもいい、と変わらず思っていた。

 

 きっと、理解者なんて現れないのね。

 そう心の何処かが諦めながらも、進み続けていた。

 そんなある日だった。

 

「うおおおお死ぬ死ぬ死ぬッ!!! 何この謎ロボット!?」

 

 監視と調査を兼ね、AMASにより『廃墟』を巡回していれば、そんな絶叫が聞こえてきた。

 声の方に向かい彼女が見つけたのは、ぼろ布を纏い必死の形相で詳細不明のロボットから逃げる少年──械枷コノハだった。

 

 キヴォトスでは見ることのない男性かつ、明らかに普通ではない出で立ち。

 異質に満ちていたが見た限り、戦闘能力を持っているとは思えない。

 一先ず保護してから話を聞くのが合理的か、とまで思考を走らせ、リオはAMASを駆動させる。

 

「───!」

 

 そして、目撃する。

 彼に向かって放たれた銃弾が、接触と同時に白亜の物体へと変質し、勢いすら失って落ちていくのを。

 

 尋常ではない現象──()()()()

 リオの中で、モニター越しに捉えている男への認識が修正される。

 調査・観測を経て、その結果によって排除する必要のある危険因子であると。

 

 そうして、表情は変えずとも覚悟を改めていた時。

 

「うおおおおおおお!! なんか殴ったら壊れるッ!! っしゃァ!!! 全部ぶっ壊してやるよッッ!!!」

 

 画面に映っていたのは、ロボット相手に無双しているコノハの姿だった。

 戦闘能力はバリバリにあった。頭の中で、静かにまた認識を更新する。

 少し変わっているわね、と。

 

 いやあなたも大概ですよ、と言ってくれる全知は此処にはいなかった。

 

 △△△

 

 少年を保護し、調べる中で分かったのは。

 械枷コノハという少年の記憶には何かしらの細工が施されていて、見過ごしてはいけないものが隠されているという事。そして何より──

 

「昼飯できたけど、まだ時間かかる?」

「……ええ、後で食べるから置いておいてちょうだい」

「いや、待ってるよ。一緒に食いたいし。トキもいいよな?」

「はい、私はちゃんと待てができるメイドですから。ご褒美におやつは多めでお願いします。あ、それとオプションは『あーん』で」

「うちはオプション非対応なんすよ~~んじゃ待ってる間に掃除しとくか。いや一日経たずでこんな散らかることある……?」

 

 彼の料理が美味しい──ではない。あ、そこに積んでいる資料はまだ使う──でもない。彼の行動には合理性が芯にあることだった。

 

 やってきて一か月程度。

 力の検証、自衛のための銃火器の訓練、この世界についての教育。リオの指示の元これ等に真面目に取り組み、更にはトキに任せきりだった家事にも積極的に手を貸し、今では彼が主体となって生活が回っている。

 

 なぜそんな事にも手を出すのかと問えば。

 

『え? 世話になってるし、あんま覚えてないけど人並み以上に家事できるし、なら手伝った方がいいだろ?』

 

 そう、当然のような顔で返ってきた。

 できるからやると。その言葉に、心の内で頷いた。どこか深い共感がそこにはあった。

 

 だからか、これまでは非合理として断っていた、食卓を囲むということを受けいれるようになった。

 ……何時もより美味しいと感じたのは、錯覚だったのだろうか。

 

 

HG(ハンドガン)AS(アサルトライフル)SMG(サブマシンガン)SG(ショットガン)、……他にも大体の銃火器に高い適正が見られるわ。もう一度確認するけど、使用経験はないのよね?」

「ないない。ゲームでしか撃ったことなかった……筈。ハワイで親父に習ってないしな」

「……? 何を言ってるか分からないけど、分かったわ」

「これ伝わらないのマジで異世界なんだなって実感させられてしんどいな……」

 

 訓練を積むごとに、彼は強くなっていった。

 まるで元からあったものを取り戻すように、急速に。

 

 リオはコノハのデータ上の戦闘評価が一定以上に達してから、彼を実戦に送り込むようになった。C&Cに任せていた内の数割を彼へと割り振ったのだ。

 

 彼には銃弾を受け止める神秘はないが、銃弾とそこに込められたエネルギーすらも分解・再構築する神秘を持っている。それは一つの見方からすれば何より強固な防壁ともいえるだろう。

 ならば深刻な負傷の可能性も低い、という判断によるものだった。

 

 トキもコノハも『こいつマジか……』という目で見てきたのでデータ上での合理性を説明したが、『お前は最後そんな馬鹿な……!? とか言って負けるデータキャラ似合うよ』とよく分からないことを言われた。

 

 そんな彼だが、文句を言いつつも任務自体は率なくこなし、リオは間違っていなかったでしょう? と少し胸を張った。

 無表情かつ僅かな動作だったためコノハにはただ胸が強調されたようしか見えず、凝視しかけトキにどつかれたのは関係のない話である。

 

 

 数度の実戦を乗り越えた彼の手が微かに震えているのを見て、勝手に口が動いていた。

 

「……一つ聞きたいのだけど、貴方のいた世界では銃は身近ではなかったそうね。怖くはないの?」

「いや全然怖い。クソ怖えよ。防げるっつたって、震えそうなぐらいビビってる」

「問題があるのに行うのは合理的ではないわ。私が言い渡す任務は、別に断ってもいいものよ」

「まあ、そうかもしれないけど。やるよ」

「……どうして引き受け続けるのかしら?」

「え……俺にできて俺がやった方がいいことなら、そりゃやるだろ。……それ以上の理由って必要か?」

 

 その通りだ、と心の内で頷いた。

 隠しようのない、深く重い共感が、そこにはあった。

 

 まるで、過去の自分が肯定された気がしたから。

 少しずつ、彼自身に目を向けるようになった。

 無自覚に、しかし確かに、械枷コノハという人間自体を、リオは好ましく思い始めた。

 

 そうして、時間は流れる。

 

 コノハとトキが家事を行い、彼らと一緒にご飯を食べ、雑談もするようになった。

 楽しいと思った。色褪せていた、白黒の数字に満ちていた合理的(ひとりぼっち)な世界に彩りが増えていった。

 

 

 コノハの定期検査を終え、データを纏めていた時だった。

 

「リオって何時も気張ってるけど、疲れないのか?」

「? ごめんなさい、よく分からないのだけれど……特に問題はないわ」

「大丈夫ならいいんだけどな。主観でしかないけど、君って何かと溜め込むタイプだろ? そういう奴って限界超えて倒れてるまで気づかないからさ」

「私は……そうはならないわ。それに精神ケアにかける時間とコストがあるのなら、他に使った方が合理的でしょう?」

「それは違うんじゃないかなあ」

 

 検査のため上半身の服を脱いでいたコノハが服を着る姿を、数か月で随分筋肉が付いたわね……と鑑賞しつつ、眉を顰める。

 

 コノハの言葉が、嫌に引っかかった。

 彼と共に過ごした中で、コノハもまた合理的な、自分が抱える義務感に似た感覚を持っていることを知っていたからだ。知らず知らずの内に『同類』として括っていた彼からの否定に、思考に熱が走る。

 

「何が違うの? 使えるリソースを、使わなければならない部分に使う。ただそれだけよ」

「前提が違うだろ。使えるものは使う者がいてこそなんだから、何より重視するべきは人だ……って口論がしたい訳じゃなくて。しても勝てねえし。勝手に心配してるだけだよ、俺は」

「……」

「君が気づいていないだけで、本当は疲れているかもしれない。君が気づていないだけで、本当は傷ついているかもしれない。それは、俺が嫌だ」

「…………」

「頑張ってる奴は報われるべきだ。そういう奴が幸せになれてこその世界だ。なら、()()()()()()()()()()

「────」

 

 頭を直接殴られたような衝撃だった。

 コノハは『いや何変に熱くなって語っちゃってんだよ俺……殺してください』と蹲っているが、それを認識することすら不可能な程、頭が真っ白になっていた。

 

 訳も分からず泣き出しそうな、暴れてしまいたくなる程の衝動に襲われ、身体は固まる。

 

 認められたような気がした。

 これまでを、誰にも理解されなかった事すらも肯定された気がした。

 理解者がいなくていいと。一人だとしても構わないと。そう思っていたのに、どうしようもなく、彼の言葉が刺さった。

 

 この言葉があれば、もういいとすら思えた。

 何があろうとやり遂げられると思えた。

 

 きっと、この先に何が起きようと、今日を鮮明に思い出せると、そう思った。

 

 

 

 こんなにも続いて欲しいと思う日々は初めてだったから、リオは知らなかった。

 素晴らしいものほど、かけがえのないものほど、呆気なく終わりを迎えることを。

 

 

 

 

 

 

「……夢、ね」

 

 固いデスクの上で目を覚ます。どうやら今日も寝落ちをしていたようだ。

 泥沼に沈んでいたような気分の悪い微睡みから抜け出すと、徐々に意識が明瞭になっていく。

 あの、幸せ()()()記憶が、もう手元にはない事すらも思い出す。

 

「っ……」

 

 乾いた喉を通る酸素がまるで棘のように刺さった。吐き気が込み上げてくる。

 碌に食べていない胃から、それでも胃液が逆流しそうになるのを、歯が悲鳴を上げるほど噛みしめ、手が充血するほど握りしめ、ただ耐える。

 時間にして数分だろうか。だというのに、まるで永劫とすら感じられる不快感。

 

 彼が、コノハが居なくなって/逃げ出してから、数日。

 これが、新しい彼女の『毎日』だった。

 

 毎日同じ夢を見て、それが夢だと思い出し、耐えがたい拒絶反応を起こす身体に無理矢理耐える。

 精神の度を越えた不調が、体にまで悪影響を及ぼしてた。

 苦しい、と思う度にそれ以上の苦しみを彼は背負っているのだと自責が生まれる。終わりのない悪循環が体を、何より心を蝕む。

 どうしたら良かったのか、別の選択があったのではないか。空虚な、合理性のかけらもない無意味な仮定だけが頭に浮かんでは消えた。

 

 それなのに、思考の片隅ではずっと、()()()()()()()演算を繰り返している。

 ずっと、ずっと、ずっと。

 

 ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

 

 

 それが、調月リオのやるべきことであり、やらなければならない事だから。

 体を起こし、デスクに置かれた一枚の紙に目をやる。それは、彼が去る前に残していった手紙だった。

 

『これを読んでるってことは俺がちゃんと逃げ出せたか、或いは捕まってるんだろうな。あんま書く時間なくて短い内容で悪い。一年ぐらい世話になった。君が居なかったらあの『廃墟』で野垂れ死んでたと思うから、本当に感謝してる。楽しい時間だった。リオとトキに会えてからは、俺の人生でも塗り替えられない大切な時間だったって断言できる。

 そろそろ本題だけど、俺は生きるための方法を探すことにした。この『名もなき神々』とかいう奴らの力をどうにかする何かがあるのを、まだ諦めたくないんだ。何とかなったら必ず会いに行く。絶対に絶対だ。できたらそれまで、心の片隅ぐらいで良いから俺のことを覚えていて欲しい。

 どうにかできなかったら俺を殺してくれ。世界を壊すなんてありえない。あっちゃ駄目だ。君なら分かるだろ? だから頼む、必ず殺して、俺を止めてくれ。大丈夫、君ならできる。君がいるから、俺はこうやって足掻ける。俺が会ってきた人の中で一番信頼できるリオがいるから、駄目だった時も安心できるんだ。まあ、死ぬつもりはないから杞憂で終わるだろうけどな! そういう訳で、何かあった時は頼んだ。

 飯はちゃんと食えよ? あと掃除とかもトキが居るから大丈夫だろうけどあんま部屋散らかしすぎないようにな』

 

 

 殺してくれ、と。

 リオならできる、と。

 そう、頼まれたのだ。

 

 殺したくない/殺さなければならない。

 私が、この手で。

 そう望まれたのだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ええ、そうよ。大丈夫だから、私が、ちゃんと……殺してあげるから」

 

 調月リオは止まらない。

 

 色褪せた世界で、色をくれた人を殺す方法を、今日も模索する。

 

 




 械枷コノハ リオへの好感度がめちゃくちゃ高い。自分を殺してくれるんだろうなと素で思ってる。理解度百点、人の心赤点。能力を使わない正面戦闘だとチンピラに勝てる程度だが、能力込みの場合は最強格の一手後ろ程度までは追従できる。共同生活の中でリオ達をバチクソ性的に見てしまい、煩悩を筋トレで発散していたため鍛えあげられた。

 調月リオ 脳が焼かれたと思ったら曇ってた。最初はコノハの正体に辿りついた時も描写しようかな~と思っていたけど元から悪いテンポが終わり散らかすので省略しました。メンタルデバフが積み重なっているが、それを上回る義務感バフで寧ろ能力は向上している。コノハの問題が解決する確率がゼロであると(多大な試行錯誤の末)結論付けているので、もう殺すしかなくなっちゃったよ……状態。コノハの事はバチクソ性的に見ていたが自覚無し。

飛鳥馬トキ コノハをバチクソ性的な目で見ている。
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