特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
ゲヘナに来てから、はや数日。
今日も今日とて火山に入り調査を進めていた。頃合いを見て外に出ると、既に空は暗くなっている。
火山と違って涼し気な空気を吸いながら伸びをしていると、インカムから聞き馴染んだ声がする。
『進捗は如何ですか?』
「ぐあああああああ!!!!」
反射的に胸を押さえて蹲った。
嫌な響きだ。なんか寒気してきたし言い訳したくて堪らない。何だこれは? (雑漏瑚)
はい、進捗ゼロです……
ヒノム火山の奥、ミレニアムでいう『廃墟』に該当する場所にまで潜ったが、オーパーツが落ちていたり変な化け物みたいなのが襲ってきたりしただけだった。
想像していた通りにキヴォトスにおいてもオカルトじみた場所ではあるのだが、何か糸口になるようなものはないのが現状である。
薄々気づいてはいたが、これむやみやたらと探すより情報持ってる人探した方がいいよなあ……
とは言っても、こういう『神秘』とかに詳しい奴って全然いないし、知り合いにもいない。結局はこうして神秘が色濃い場所を探索するしか方法はないんだが。
どっかにこういうのに詳しくて話の分かる、頼りになる人とかいねーかなー。
「そっちもまだ時間かかりそうだろ?」
『そうですね、やはりリオが施した異常な程強固なプロテクトが厄介です。逆を言えば、そうまでして隠すべきと判断した何かがあるという事ですが』
「んじゃまあ、任せるよ。ヒマリならできるだろうし、そこは安心だな」
『……んんっ、では私はもう少しこちらで探ってみます。コノハも無理はしないでくださいね? ゲヘナ風紀委員を手伝うのも、手放しには賛成できませんが……』
あの時空崎さんに頼まれた通りに、今俺は風紀委員の手伝いをしている。立場としては嘱託のフリーランスってところか。
「心配してくれてるのは分かるけど、大丈夫だって。仕事内容も空崎さんの手伝いとかが殆どだし、危険も少ない。金も貰えたし、住む場所だって紹介してくれたんだぜ?」
『明らかに私情が混じっているでしょうそれは……! 家だって自宅のすぐ近くではありませんか……! それぐらい気づきなさい……!! 』
「声くすぐったっ、なに?」
この天然ASMRボイスがよ。DLsiteで販売してそうな声質しやがって。
『貴方のそれは素直という美徳ではなく、臆病という悪徳ですと言ったんです』
「絶対に違うだろ……」
冷たい声で信じられない罵倒をされ愕然とした。
こういう時のヒマリには何を言っても鋭利な言葉で切り刻んでくるので、取るべきは沈黙である。情けないクラピカ?
『そもそもコノハ、あなたはもう少し好意に敏くなってください。特に、というか他は別にいいので私からの──エイミ? 迷惑をかけてないで夕飯? 迷惑をかけられてるのはわた────コノハ、ごめんね。それじゃ』
通信が途切れた。最近親フラみたいな落ち方多いな。
和泉元さん、本当にお疲れ様です……。今度会った時なんか奢ってあげよう。
火山を出て、検問所に設置されてある簡易シャワーで汗を流し、風紀委員の本部へ足を運ぶ。
今の俺の装いは当初の不審者フード姿から多少変わり、天雨さんから貰った風紀委員の制服と似たデザインのものを着用している。
ちゃんと顔隠す用のフードもあるし、こういう軍服調のってかっこよくて好きなんだよな。あれ結局あんま変わってなくね?
見た目は相変わらずだが、風紀委員の子とも挨拶をするぐらいには馴染めている。
最初は怪訝な顔をされたが、数個の事件を解決したら認めてくれた。やっぱ現場は実力主義なんだね。
歩くこと暫く、本部の中に入れば、慌ただしい空気だった。
どうせまた不良生徒の衝突でもあったんだろう。それか温泉開発部が温泉掘ったか。
足早に執務室に向かう。扉をノックし、反応をうかがう。
「失礼します、コノハです。中に入ってもいいいでしょうか?」
「ん、入って。待ってたわ」
中にいたのは素早く書類を処理している空崎さん一人だった。
窓から入り込んだ風に彼女の柔らかな白髪が流され、怜悧な顔立ちが余すことなく晒される。
この人、小柄だし可愛らしいんだけど、顔立ちとか雰囲気とかはマジでかっこいいんだよな。美人って言葉がよく似合う。
まじまじと顔を見ていると、目が合った。
「……私の顔、何かついてる?」
「あ、いや、何もついてないです。普通に俺が見惚れてただけで」
「……?」
急に話しかけられてキョドってしまい、最悪の言い回しになってしまった。馬鹿が!
セクハラクソ野郎の誹りぐらいなら甘んじて受け入れようと思っていたが、空崎さんは固まって動かない。そんなキモかった……?
戦々恐々していたら、空崎さんがガタリと立ち上がり声を張った。
「……!? な、何を言ってるのあなたは! 見惚れ……っ!?」
「いやもう本当にその通りです……すいません……」
「き、気を悪くはしてないから、土下座はやめてっ」
半ば頭を地面に擦りつけていたが……自分より動揺している相手がいると冷静になるって本当なんだな。
目をぐるぐると回すように慌てている空崎さんの姿は見たことがないものだ。
未だあわあわしている彼女のデスクからマグカップを取り、コーヒーのお代わりを淹れる。
普段は天雨さんが淹れてるけど、今はいないからな。ついでにいつの間にか置かれていた俺用らしいマグカップにも注ぎ込む。
「どうぞ、今日もまだ長引きそうですよね?」
「……そうね。ありがとう」
うん、我ながらまあまあな出来なんじゃないか? いい香りが鼻をくすぐる。
怖くて言えないが、なんで天雨さんが淹れると微妙な感じになるんだろうな……。
「今日も手伝います。俺が触っていいの、どこまでですか?」
「ええ、お願い。コノハに任せられるのは、そこに纏めてるから」
本来なら部外者の俺では手伝うのも駄目なのだが、嘱託とはいえ風紀委員に所属しているので、一部のものなら手伝っても大丈夫なのだ。
書類の整理やら多少の記名なんかはリオのとこでもやってたので、力になれていると思う。
空崎さんの机の上にこんもり置かれている一角を取り、共有の大机に位置取る。ペンも借りれば準備完了だ。
意識を集中させれば、ペンを走らせる音、紙の擦れる音、カーテンが揺れる音だけが耳を打つ。
そのまま暫く、お互い無言で書面に向き合った。
「……よし、終わりました。何個か確認して欲しいのがあるので、後で確認お願いします」
「ん、分かったわ。ありがとう」
「どういたしまして。そういや天雨さんたちって今日はもう帰ってるんですか?」
外を見るに、もう九時はいってるんじゃないか。
「コノハが来た頃、ばたついていたでしょう? 騒動……といっても私が出動しなくて済む規模だけど、それの対応をしてもらったから、そのまま現場から帰らせたの」
「なるほど。それで空崎さんは一人で残業ってことですね」
「……あ、あなたが居るから一人じゃないわ。おかげでもうすぐ終わりそうだもの」
この人は一人にすると度を越えて仕事をするから、誰かが見てた方がいい。あの天雨さんが(!)これにはもの凄い勢いで同意したぐらいだ。
厄介なのは当の本人のスペックが高すぎて無茶になってないところなんだよな……
「
「えっと、何でも……あり合わせで大丈夫。……今日もいいの?」
「勿論です。少しでも恩返しさせてください」
現在、俺は空崎さんに紹介してもらったマンスリーマンションで暮らしている。急な頼みだったが、彼女の紹介のおかげで即日入居できた。
そのお礼というか、日ごろの感謝も込みで空崎さんの自宅にて家事の手伝いをしているのだ。流石に激務の後に軽いコンビニ飯で済ませようとしているのを、黙って見過ごせはしなかった。
多忙な中でもリオとは比べるのすら失礼な程しっかりとした生活を送っているが、それだって負担になる。
しっかりと了承を貰ったうえで、俺がその負担を貰い受けているわけだ。
今もめっちゃ遠慮してるが、正直
俺にできる仕事は終わったので、空崎さんを待ちつつ冷蔵庫の中身を思い出し献立を考える事暫く。
「お、お待たせ。帰りましょうか」
「はっっや……」
爆速で(マジで倍速みたいな動きをしていた。天然のドパガキになってしまう)書類を片付けた空崎さんに唖然とながら帰り支度を済ませる。
最初は『私と一緒だと危険だから……』なんて言って一人で帰ろうしていたが、そこまで過保護にされる弱さはしていないので、押し切って一緒に帰っている。
空崎さんには多少強引にいった方がコミュニケーションが円滑だと学んだ。
余計なお世話とか思われてたら余裕で死ねるな……
空崎さんから冷たい視線を向けられる想像に、ぶるりと震えつつ、俺は彼女と共に帰路に就くのだった。
△△△
勿論、空崎ヒナは一切迷惑がっていない。
寧ろ、望外の展開に有頂天ですらあった。
械枷コノハという人物は、彼女にとって好ましい存在である。
仕事ぶりは優秀で、聞き分けもよく、何より彼の労りは温かい。
『頑張れる人と頑張れちゃう人って、混同されるけど違うんだよ。あんたは後者な。もっと周りを頼った方がいい。周りが無理そうなら俺でもいいからさ』
出会って間もない頃を思い出す。一か月以上の連続勤務で疲れ果てていた脳に染み込んで、今も尚離れない、彼との会話を。
一つ不満があるとすれば、自分が年下と知ってからは敬語になってしまった事だろうか。距離が広がったように感じてしまうのが嫌だが、前のように戻してと言うのも気恥ずかしい。
それを差し引いても、彼と過ごす時間というのは大事なものだ。だから、彼がゲヘナに来た際に嘘をついてまで近くに住まわせたのだ。
そうしたら、どういう訳か家事をして世話をしてくれるようになっていた。一緒にご飯を食べて、仕事の愚痴なんかを言う。あまりに充実した時間に夢なのかと思うほどだった。
彼の動きに、自分ではない
「でも本当にちゃんとした部屋ですね。俺が掃除する必要、あんまなかったですよ。マジでリオもこの十分の一でもいいからして欲しいぐらいだ」
「誰?」
「空崎さん??」
今日も同じように夕飯を終え、カフェインレスコーヒー(この時間からのカフェイン摂取はコノハに禁止された)を手に談笑を交わしていた時である。
多幸感でふやけていた脳に、ずっと
コノハはいきなり重圧すら感じる声を出されビビり散らかしていた。
それを意に介さず、ヒナの頭脳が回る。
「リオ……ミレニアム……『ビッグシスター』のことかしら」
「え、ああはい。ちょっと縁があって似たようなことしてたんですよ」
やはりか、と動揺なく受け入れる。
それはまあいい。『暇になって』とコノハは言っていた。
つまり、彼らの道が別れ、
とも知れない優越感に包まれながら、一つの違和感を見逃さない。
「彼女も私と同じ三年生の筈。何で、呼び捨てなのかしら」
「本人にタメでいいって言われたんで……」
「なっ」
そんなのあり? ずるい! 私も呼び捨てがいい!!
今までの冷徹さすらあった思考を埋め尽くす羨望と嫉妬に、心の中で子供のように叫ぶ。
いつもならここで引き下がるところ、今日の空崎ヒナはひと味違った。ここ数日で育まれた自己肯定感が、一歩先へと進ませる。
「…………わ、私も、タメ口、でいいから」
「はい? タメ口……? 空崎さんに?」
「そうよ。ずっと敬語なのも、他人行儀に思えるのだけれど」
「んじゃまあ、これでいいか? そ、空崎……?」
コノハは日和った。
「名前でいい」
「……ヒナ?」
「ええ、そうよコノハ」
「この人俺が好きなのか……!? ヤバい脳がおかしくなる……!! こ、コーヒーのお代わり淹れてきます」
明らかに様子のおかしいコノハが足早にキッチンに消えた後、ヒナはテーブルに顔を叩きつけた。
(へ、変に思われた……!? 急にこんなこと言い出すなんて、絶対おかしい子だと思われた!)
つい『私も』と衝動的に動いてしまった。頭の中をぐるぐると後悔と反省が回り続ける。
翼をバタバタと羽ばたかせ身悶えしつつも、顔が緩む。
仲良くなれたかな。仲良くなりたいな。一緒に居たいな。
そんな欲だけはどんどん大きくなっていく。
落ち着くために、何度も呟いた。
「少しずつ、少しずつよ。大丈夫、時間はあるんだから」
△△△
一か月後。
「ゲヘナ何もねえわ。トリニティ行こう」
械枷コノハ ヒナが可愛すぎたのでヒマリに相談した。キレられた。
空崎ヒナ は?