特異現象はダメ!死刑!! 作:最推しはアツコ
ある穏やかな昼時の、誰も知らない彼女たちだけの会話
天才とは他者よりも高い視座を持ちます。
ええ、それはミレニアムが誇りと共に高らかに謳い上げる天才儚げ系美少女である、この明星ヒマリもまたそうなのですから。
視点の違いは、思考の違いとも捉えられます。
物事を判断・理解する際に発生するプロセス──原因から結果への順序──の処理速度の違いは、それだけで断絶にすらなり得る差異なのですから。
この場では、天才を情報の処理速度が極めて優秀である者とでも仮定しておきましょうか。
天才と呼ばれる彼女らは、出来ない者へ失望の念を抱く場合があります。『出来るから』という言葉で相互理解を破棄し、『出来ない者』への期待を捨て、信じられる存在が自己の身になってしまう。
はい? 別に誰かを特定はしていませんよ? かのビッグシスターは確かにこの特徴を非常に備えていますが、それはそれです。
その上で持って生まれたそれは、『持って生まれ
幸運なことに、私は
いちいち言い方に棘がある? そんな事気にしなくていいんです。ほら、他の事なんて考えないで私に集中してください。
私の持つ頭脳は一切の過分なくこのキヴォトスにおいて最上と呼んでいいでしょう。
私は人よりも知ることに長けています。人より多くを知り、人より多くそれを有効に使用できます。
悪く言ってしまえば、会話の中で程度を自身より無知な相手に合わせるという事も、相応にあります。
ですが、私は身体に欠陥を抱えています。ああ、いいんですよ。自虐でもなんでもなく、もう受け入れた話ですから。……ふふっ、その心配は嬉しく思っていますよ。ありがとうございます。
病弱なこの身は、徐々に脚から力が失われていきました。
元から動けなかったわけではなく、少しづつ、本来なら備わっていた機能が損なわれていくのです。
恐ろしく、怖いものでした。饒舌に尽くしがたい、陰鬱で自暴自棄にすらなりかねない恐怖がありました。
だからこそ見えてくるものもあります。
欠陥は誰でも存在します。見える形であれ見えない形であれ、そのものが存在する限り完璧はあり得ないのですから。
持って生まれたものは、それを持って生まれなかったものの為に使う。これは間違いではありませんが、誰か一人が一方的に行うものではなく相互に不足を補うためにあると、私は考えます。
……つまり、その。
何が言いたいかと言えば、ですね。
あなたが今、こうして私の車椅子を押してくれているように。
私があなたの任務時にナビゲートを行うように。
このまま、互いを補完し合っていく関係が続いていければいいなと、そう思いまして。
△△△
「コノハの反応が途絶えたわ」
ミレニアムサイエンススクール、セミナーの執務室にて。
既に夜の帳が下りきった頃、入ってきたヒマリに、調月リオは端的に告げた。
普段からして硬質な声音は、より硬く張り詰めたものになっている。隠し切れない動揺を見て、ヒマリは目を細める。
「やはり、彼の行動は把握していたんですね。一体幾つの探知機を隠していたんです?」
「12個よ。殆どはバレてしまったみたいだけど、数個は残っていたわ」
付けすぎでは?
内心引きつつ、一方でやはりかとも思う。
「彼が逃げる際、持ち物は極限まで減らし、かなり念入りに調べたはずですが」
「あなた達の優秀さは把握しているもの。合理的に見れば、それを考慮したうえで施すのは当然でしょう」
「バレなかったのは何処に付けたんですか?」
「……本題に入りましょう。これ以上の会話は非合理的よ」
「どこに付けたんですか???」
人生でも類を見ない程の眼力でリオを凝視する。
リオは無表情のまま、ふいと顔を逸らした。
「言いなさい、どうせ合理性を盾に自分の欲望のままに付けたのでしょう!?」
「なっ、誤解よ。あれは必要だったからで……」
「なら何処にどうやって何をなにしたか教えてもらいましょうか!」
「それは、その……嫌よ」
「せめて合理的とかで言い訳しなさい!」
ミレニアムが誇る頭脳たちによる酷く不毛な論争が続くこと暫く。
「はあ……はあ……今は勘弁してあげますが、絶対に聞きだしますから。……話を変えますが、一つ聞いても?」
「ふう…………ええ、構わないわ」
「そうして居場所が分かっていたのに連れ戻し閉じ込めようとしなかったのですか?」
これまでの調月リオならそうすると、ヒマリには確信にも近い推測があった。
どうせ居場所を特定していることも分かっていた。だからこそコノハのゲヘナ滞在時は毎夜通話で安全確認を行っていたのだ。
別にそれを理由に寝落ち通話できてご満悦だったとかはない。全知が言うのだからそうなのである。
「…………その選択も、考えていたわ。どう足掻いても、彼を救う手段はない。なら、彼が被害を出す前に隔離するのが合理的だと」
「ええ、全く賛成はできない思考ですが、理解はできます。では何故?」
沈黙が場を支配する。
一切の音のない静寂。それを破るのは、調月リオの言葉だった。
「救われないとしても、その最後までは、人生を楽しんで欲しかった。……頑張った人は報われるべきよ。そういう人が幸せになれてこその世界よ。だから、彼がほんの少しでも報われたと思えたらいいと、私は……」
合理性を重んじる彼女に起きた、少しの変化。
それはかつて与えられ、今も胸の中で輝き続けるが故に成したもの。
目を見開き、それからヒマリは頬を緩めた。
「そうですか。それには、心から賛成ができます。話を逸らしてすみません」
「……そう。それで本題なのだけど。今日、唐突に探知機が示していた情報が遮断されたの。心当たりはあるかしら?」
「こちらとしても予想外の事態です。謎の高出力エネルギー反応があったと同時に彼の生体情報を観測していた観測機はエラーを吐きました」
彼の内部にて異常と言えるエネルギが渦巻き、それと共に霧散するように彼は消えたのだ。
まるで、何処からも観測されない隠匿された空間に入ったかのように。
「先に聞くわ。私に協力しなさい、ヒマリ。彼を害するのではなく、
「何か、あると? あなたの調査結果は見ました。あれは……」
ヒマリがコノハに頼まれていた、リオによって厳重に保管されていた彼の調査データ。
それを既にヒマリは見ていた。だというのに、彼にはまだ時間が掛かると嘘をついたのだ。
その内容が、あまりにも想像を絶していたが故に。
言ってしまえば、彼の体は終わっている。
細胞単位で、別のナニカに置き換わりつつあるのだ。
この世界において未知であり、かつ解析不能なナニカ。
力を使うほど、身体の細胞・神経が変わっていく、悍ましい新生。
極論、全身の細胞をごっそりと入れ替えでもしないと、彼の侵食は防げない。
もしそうしてパーツを挿げ替えた所で、またしても侵食は進む。それに変えることなんて出来ない脳が侵食されれば、それで終わりだ。
可能なのは壊す/殺す/終わらせることだけ。
そういう結果が、既に出ていたのだ。
ヒマリはそれを認めず、それでもまだ何かがあるのではないか。そう考えコノハと共に足掻く道を選んだ。
リオはそれを受け入れ、ただどうすれば彼が苦しまず、何も壊すことなく終わりを迎えられるかを考え、その道を選択した。
だというのに。
「ええ、協力しましょう。それが彼が未来を歩く術となるのなら」
「なら、これを見てちょうだい。私もまだ、判断に困っているの」
そう言って、プロジェクターから画像が投影される。
「これは……」
「コノハから高エネルギー反応が検出された時、『廃墟』でも似通った周波のエネルギーが検出されたわ」
「関連性……呼応して……? っ! いえ、それなら──」
「──この『何か』ならコノハに
可能性があるなら、諦める理由はない。
これまでにない、強い意志の炎が瞳で揺れる。
危険だとしても、合理的でないとしても。いや、これは合理的なのだろう。
──彼がこれからも傍に居る事が最も合理的であるのだから。
こうして秘密裏に、ただ一人を救うためだけに。
ミレニアムでも比肩するものなき二人が手を取り合った。
「……私も、一つ聞きたいことがあるわ」
「今の私はとても機嫌がいいので何でも答えてあげましょう。なんですか?」
「あなたはコノハにとても肩入れしているでしょう。何か、あったのかしら」
「いきなり恋バナですか……?」
「恋バナ……? そんなのではないわ、ただ気になっただけよ」
「それを一般には……いえ、まあいいでしょう。私が、コノハに入れ込んでいるわけ、ですか」
白い肌に僅かな朱が乗る。
そうして、此処にはいない誰かを思い浮かべ、笑みを浮かべる。
「────人を好きになるのに、そんな特別な理由なんていりませんよ」
誰であれ見惚れてしまうような、何より美しいと思ってしまいそうな、そんな笑みを。
械枷コノハ たぶん次も出番がない。自分の体が日本にいた頃とは別物になっているのは薄々気づいている。
調月リオ ちゃんと成長してる。まだ検証は必要だがアリスに希望を見出した。最後のヒマリにめちゃくちゃ動揺してる。
明星ヒマリ ちゃんとコノハの事が好き。告白されたら即OK出すと思う。時々コノハに車椅子を押してもらい、昼寝している。毎回なにもされず『何で手を出さないんですか……!?』とバチギレているとか。