都市の空は、いつだって光に塗りつぶされていた。分厚いスモッグの雲は、空の向こうで解き放たれ、都市に一切の環境汚染がない。空気が澄んでいて、いつも太陽の光が点灯してる。
永遠に存続する人類の理想郷、ユートピア。
外の環境がどうなっているかなんて、この街で生きる者にとってどうでもいいことだった。生活そのものが楽だったとは言わない。むしろ、日々の営みは常に刃の上のようだった。
ちょっぴり戦利品を獲得しただけで略奪呼ばわり、部隊を解散しろとか言われたし、裏切り者に部下がぶっ殺された。
それでも、それなりに充実感はあったのだ。人間を脅かすアンドロイドを駆逐し、ようやく人間による正義という名の秩序をもたらしたのだから。
彼ら機械仕掛けの暴徒を追い詰めるのは、悪くない作業だった。特に、思考回路の要であるチップを引き抜き、目の前でへし折ってやる瞬間は、筆舌に尽くしがたいカタルシスがあった。
あの作業こそ、俺にとっての天職だったと言っていい。
人間に似せた外見をあてがわれただけで思い上がり、人間に牙を剥く愚劣な機械ども。
そして、それを裏で匿い、共謀していたバカな協力者どもに至っては、虫酸が走るほどの嫌悪感を抱いていた。
同じ人間なのに、どうして機械に協力するのか。
もっとも、そんな俺自身の最期も、そんなバカに殺された。
あまりに呆気なく、そして不本意なものだったわけだが。それでも、反乱者たちに致命的な打撃を与えてやったという事実だけは、今思い出しても痛快な充足感を残している。
そんな回想をしたみた。
目の前に広がるのは、空間の輪郭すらはっきりしない、底知れぬ静寂。人の心を読めるとか言って、過去を知りたいと言うんだ。回想形式の方が良いだろう?
神を気取っているようだが、俺には正体なんてこれっぽっちも分からない。
「で、人の心を読んだ君は、神らしい。が……俺の過去を暴いて、それが一体どう繋がる? 遠回しな態度はやめてくれ、俺に何をさせたいんだ?」
俺の問いかけに対し、神は応じた。
『未来の歴史において、お前は科学技術を以てこの世界を発展させる』
『前置きは省こう。私が観測し、確定させた歴史において、お前は過去へ戻り、この世界に存在しなければならない』
『異世界からお前を招集した理由はただ一つ。現在の私は、歴史に不可欠な存在であるお前を必要としている』
『とりあえず理解しておいてほしいのは、私の世界にお前という別世界の不純な因子であっても必須であり、現段階から歴史に追加する必要があるということだ』
「ふーむ、私の世界、ねえ」
「創造神みたいなもんか? ゼウスとか、全知全能の類いの。そうじゃなきゃ、別世界呼ばわりしないだろ。自分の作った世界を中心にした話し方だから、そう思ったんだが」
『近しいが、少し違う』
『観測された歴史を滞りなく進行させるための、ただの調停者だ』
「ってことは、俺は科学技術を発展させたい世界で『グレイ・グー』を撒き散らしたりはできないわけだ?」
俺が冗談めかしてそう尋ねると、神は微塵の動揺も見せずに答えた。
『察しが良くて助かる。お前という個体にのみ、存在の価値がある。ゆえに、武器や装備、その他すべてのサイバネティクス技術を含む異世界の産物は没収する』
『それは、歴史を歩むお前にとっても不必要なもので、世界に悪影響を与えるものだからだ』
「へえ? そんな丸腰の状態で、本当にうまくいきやがるのかよ」
「自動防御がなくてもある程度防げるけどよ、俺は人間だからな。レーザーにはめっぽう弱いんだ。何かしらの保護装備が必要だぜ」
『問題ない。なぜなら記憶、経験、知識は失われないからだ』
「ふーん、じゃあ、向こう側の世界じゃ俺の技能は活かせるってことだな」
『物分りが良い。では、お前と二十三年後に話そうか』