伝説の美少女ヒロインの過酷な裏設定を『戦友』として一緒に打ち破ったら、攻略していないのに好感度が限界突破していた話 作:Student
※今年の4月頃カクヨムで日間・週間・月間で1位を取った自作品の大幅リメイク版。
※内容や登場人物、構成や執筆まで、最初から全て作り直しております。
※今年のカクヨムコン応募予定作品。既に10万文字執筆済み。本サイトにて先行公開中。
※11/21~投稿再開。2週間に1本土曜日更新予定。
Episode.01 ▶︎ギャルゲー転生
僕の一生は、自分が思っている以上に、呆気なく幕を閉じようとしていた。
大切な家族や友人との思い出が、ふっと頭をよぎる。
おそらく、これが走馬灯というやつだろう。
どれも懐かしい思い出ばかり。
けれど、僕が最後に思い返したのは家族や友人のことではない。
――それは、幼い頃の「
掠れて消えゆく意識の奥底にあったのは、坂の上から海が見渡せる「あの街」。
僕がまだ、子供だった頃。
夜の暗闇の中で息を潜めながら眺めていた「あの世界」。
2009年1月、PS2専用ソフトとして発売された、恋愛シミュレーションゲーム『Sweet Kiss』。
漫画化やドラマCD化など、メディアミックスが積極的に行われ、ついに翌年2010年1月、アニメ化を果たした。
平成の伝説的ギャルゲーとして、令和の今でも、様々な商品が販売される不朽の名作。
――当時、深夜アニメという文化がようやく産声をあげた頃。
まだアニメというもの自体が、内緒でひっそりと楽しむものだった時代。
新聞のテレビ欄。
あの細かくびっしりと活字が並んだ紙面を、まるで冒険者が大秘宝でも探すかのように目を凝らしたのを、今でも覚えている。
そこに記された、わずか一行ぽっちの番組名。
深夜二時から三時。子供が起きてることなど、到底許されない時間帯。
録画予約機能付きの家電というのは、当時の僕にとって、あまりにも贅沢な一品だった。
僕は両親の足音に耳を澄ませながら、明かりが消えて両親の寝息が聞こえてくるまで、自分の眠気と闘いながらも、じっと耐え忍ぶ。
ここで僕まで寝てしまえば、全てが水の泡。実際、そんな夜もあった。
室内にリズム良く響いている時計の針の音を聴きながら、放送の十分前くらいにテレビのある居間へと静かに降りていく。
軋む階段の音に細心の注意を払いながら慎重に、息をするのも忘れてテレビがある居間へと向かう。
焦ってはいけない。音を立ててはいけない。見つかってはいけない。
テレビの音量を最小にして、画面にかじりつくように視聴する。
画面の中では鮮やかな色彩、海を眺めることができるあの街が広がっていた。
そこには、上品で甘酸っぱくも美しい「青春」があったのだ。
幼い頃の僕からすれば、画面の向こうのヒロインたちは「年上の綺麗なお姉さん」。
――そんなヒロインたちが、僕にとっての「
でも時折、非情な現実が僕を襲うこともある。
プロ野球の中継が延長されて後ろにずれ込んだり、海外サッカーや海外ゴルフなどで放送休止になった時には、思わず血の涙を流しそうになった。
そんな最悪の日に画面に映し出されるのは、予定されていた「青春」ではなく、ただ無機質な砂嵐か、放送終了を告げるカラーバーだけ。
あの時の絶望といったらなかった。
翌朝、学校に行く足取りは重く、誰にも言えない秘密の喪失感を抱えながら、僕はただ呆然と教室の席に座る。そんな日もあった。
そして、そのアニメの最終回を楽しんだ後、僕は必死に貯めたお小遣いを握り締め、近所の古びたゲームショップの中古品の棚で、一本の「ギャルゲー」を手に取った。
深夜アニメで放送されていた、伝説のギャルゲーと称される――『Sweet Kiss』。
アニメのオープニングやギャルゲーのパッケージの表紙で、こちらを見つめながら微笑む、横並びになった制服姿のヒロインたち。
まずは第一印象から自分の好みと照らし合わせ、最初に攻略するヒロインを決める時の、あの何とも言えないワクワク感。
あの名作は、物語だけではなくキャラクター造形も素晴らしかった。
彼女たち全員が後世に語り継がれるに相応しい「伝説のヒロイン」たちだ。
十五年以上経過した令和の時代でも、各ヒロインのグッズが漏れなく完売しているのが良い証拠。
画面の向こうにあったのは、主人公とヒロインたちの繊細な心の「揺れ」だ。
――僕は「あの世界」を愛していた。綺麗で美しい「青春」だった。
大人になって社会の荒波に揉まれて疲れ果てるほど、あの頃の思い出は光輝く。
だからこそ、願ってしまった。
もしも、許されるなら。
もう一度だけ、色鮮やかな記憶の中にある「あの世界」を眺めてみたいと。
◇
「……お兄ちゃん……。おにぃ……ちゃん……!!」
微睡の中で、鈴を転がすような、それでいて幼なげな声が聞こえた。
僕は重い瞼を上げる。
まず目に飛び込んできたのは、見覚えのない、けれど仄かに懐かしさを感じさせる木目の天井だった。
そして、鼻腔をくすぐるような、香ばしい味噌汁の匂いと、ハムが焼ける香り。
でも、それよりも気になったのは、僕の上の重みだ。
僕の上に柔らかい何かが跨っているのが分かる。
「起ーきーてー! 遅刻しちゃうよ、お兄ちゃん!!」
その直後――、
「わぁぁぁーーーーーっ!!」
僕の耳元で破裂音紛いの声が響く。
その叫び声が鼓膜を刺激すると同時に、僕は慌てて跳ね起きた。
僕に乗っていた「重み」は、その反動でベッドから転げ落ちてしまう。
「あいたたたた……。ちょっとお兄ちゃん、いきなり起き上がらないでよ! 澪が吹っ飛んだじゃない!!」
ベッドの下。
お尻をさすりながら、頬を膨らませてこちらを睨んでくる少女。
ゆるふわな髪。いたずらっ子の猫のような、大きな瞳。
幼なさが残りつつも、どこか凛としている女の子。
生まれてから今までの、誰かの記憶が脳を駆け巡る。
その記憶とは別に、僕はこの少女に見覚えがあった。
まだ僕が幼かった頃、画面越しで愛らしい笑顔を見せていた主人公の妹。
――
僕が子供時代に遊んでいた伝説のギャルゲー『Sweet Kiss』のサブヒロインだ。
状況を飲み込めず、呆然とするしかない僕の視界に、妙なものが入り込む。
澪の胸元に半透明のウインドウのようなものが浮かび上がる。
【 CHARACTER PROFILE 】
――――――――――――――――――――
⚫︎名前:相澤 澪
⚫︎学年:高校1年 誕生日:8月16日
⚫︎血液型:A型 身長:155cm
⚫︎精神:--------------[測定不能]
⚫︎好感度:-----------[測定不能]
⚫︎純愛度:-----------[測定不能]
⚫︎狂愛度:-----------[測定不能]
⚫︎関係:兄妹
――――――――――――――――――――
……ん?
まるでゲーム世界のテキストが、そのまま僕の視界に表示されているかのように情報を映し出していた。
まじまじとその文字を確認していくと、やはりあの伝説のギャルゲーに登場する相澤澪の設定そのものだった。
「な、なに、お兄ちゃん……。そんな見つめられると怖いんだけど?」
澪は怪訝そうに小首を傾げる。
心臓がバクバクと波打つ振動。窓から差し込む朝の日差しの心地よい熱。
そのすべてが、「生きていた」。
窓の外に目を向けると、そこには僕が画面越しに何度も見た「あの街」。
急勾配な坂道に沿って立ち並ぶ、いくつもの家々。
吹き付ける潮風。太陽が反射して、宝石のように光り輝く海面。
伝説のギャルゲー『Sweet Kiss』の舞台、七ツ海市。
僕がまだ子供だった頃、全てを捧げて愛した、あのゲームの世界。
「お、お兄ちゃん? ……今日なんか変だよ? 本当に大丈夫?」
澪は立ち上がり、ベッドに座り込む僕の顔を覗き込む。
彼女は明らかに心配そうな表情でこちらを見てくる。
これは、ゲームの立ち絵のパターンの一つなどではない。
僕の困惑した表情を彼女の瞳が捉えたとき、彼女の眉の端が僅かに下がったのが分かった。
――ゲームキャラクターである相澤澪は、今、僕の目の前で「生きている」。
酸素を取り込み、温かい血液が全身を駆け巡って「生きている」という感覚が、ここが現実の世界であることを告げてくる。
僕は、転生したのか。
幼い頃の、あの「青春」の中に。
ふと、表示されていた相澤澪の情報は掻き消え、視界の真ん中に、別の新たなウインドウが割り込んできた。
――――――――――――――――――――
①「……うるさいな。退けよ」と突き放す
②「澪、重いんだけど……」と溜息を吐く
③「遅刻せずに済むよ」と澪の頭を撫でる
――――――――――――――――――――
僕はこの世界で、主人公として振る舞うことを強要されているのだろうか。
でも、待て。
もし僕が、主人公の「
あのときの、画面の中だけで完結していた「一対一」の恋。
僕が誰か一人を選んだ後、選ばれなかったヒロインたちが辿る「運命」。
後に「SK問題」と呼ばれた――『誰かが救われると、誰かが救われない問題』。
いわゆる「トロッコ問題」のようなもので、主人公が選んだヒロインだけに幸せが訪れ、選ばれなかったヒロインの苦しみは解決されず、幸せは訪れない。
選ばれなかったヒロインたちの行く末は、幕間において少しだけ語られるが、どれも目を背けたくなるほどに凄惨なものばかりだった。
シナリオライターがヒロイン全員に用意した、思い出したくもない「苦難」を僕は知っている。
原作と同じく、選ばれなかったヒロインは誰にも手を貸してもらえずに苦悩を抱えたまま、永遠に苦しみ続けることになるのではないか。
ゲームのパッケージの表紙で、主人公に微笑みかける彼女たちの姿。
けれど、その裏で彼女たちが抱えていた過酷な「裏設定」。
僕は、澪の真っ直ぐな視線を見つめ返す。
彼女は僕が何か答えるのを待っている。
この世界は、もうあの頃の「恋愛シミュレーションゲーム」ではない。
僕はゆっくりと、深呼吸をした。
――僕は、彼女たちを「攻略」なんてしない。
攻略なんて、一種の「征服」や「独占」に過ぎないと、僕は思う。
好感度という数値を稼いでフラグを立て、最終的に「自分のモノ」にする行為。
幸いにも、このゲームには恋人関係の「好き」、友人関係の「仲良し」、敵対関係の「疎遠」という三種類のゴールが、ヒロイン毎に用意されていたはずだ。
僕は、彼女たちの「友人」、いや『戦友』になりたい。
みんなが笑っていられるような、そんな未来を共に掴むための、最高の相棒。
彼女たちの苦難に、僕も一緒に立ち向かい。
あくまでも彼女たちと「対等」な、戦友として。
ヒロインたちを「救う」なんていう上から目線で独りよがりで、押し付けがましいことをするつもりは毛頭ない。
彼女たちに幸せになってほしいというのは、僕の「独善的な願い」だということは分かっている。それでも――。
「お兄ちゃん? 本当にどうしちゃったの? ……何か、怖い夢でも見た?」
澪の手が僕の頬に触れる。
その温もりが、僕の「矛盾を孕んだ決意」をさらに固くしていく。
「いや、大丈夫……」
僕は視界に割り込んできた選択肢を無視した。
自分の心の内側から溢れ出す、何一つ飾り気のない本心を口にする。
「おはよう、澪。最高の朝だよ」
その瞬間、視界に『 ――警告―― 』の文字が真っ赤に明滅する。
けれど、僕はそれを視界の端へと追いやり、妹を真っ直ぐに見据えた。▽
本作は本編のEpisodeと捕捉資料のArchiveに大別されます。
世界観の補完が多分に含まれますのでArchiveもぜひお読み下さい。
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今作はカクヨムコン12参加予定作品です。
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