伝説のギャルゲー主人公に転生した僕は、憧れであり初恋でもあるヒロインたちを攻略せずに、対等な『戦友』として支え続けたら、なぜか彼女たちの好感度が限界突破した 作:打打打
※かつてカクヨムで日間・週間・月間で1位を取った自作品の大幅リメイク版。
※内容や登場人物、構成や執筆まで、最初から全て作り直しております。
※今年のカクヨムコン応募予定作品。既に10万文字執筆済み。ハーメルンにて先行公開中。
※毎週金曜日更新予定。
Episode.01 ▶︎ギャルゲー転生
――僕の人生は、終わりを迎えようとしていた。
自分の一生は、僕が思っている以上に、呆気なく幕を閉じようとしている。
大切な家族や友人との思い出が、ふっと頭をよぎる。
おそらく、これが走馬灯というやつだろう。
幼稚園の頃の両親との記憶。どれも懐かしい思い出ばかり。
それから、小学生の「初恋」の記憶。
消えゆく意識の奥底にあったのは、坂の上から海が見渡せる「あの街」。
まだ僕が小学生だった頃、夜の暗闇の中で息を潜めてみていた「あの世界」。
2009年1月、家庭用ゲーム機用ソフトとして発売された、恋愛シミュレーションゲーム――『Sweet Kiss』。
漫画化やドラマCD化など、メディアミックスが積極的に行われ、ついに翌年2010年1月、アニメ化を果たした。
当時、深夜アニメという文化がようやく産声をあげた頃。
まだ、アニメというもの自体をひっそりと個人的に楽しむ人が多かった時代。
新聞のテレビ欄。
あの細かくびっしりと活字が並んだ紙面を、まるで冒険者が大秘宝でも探すかのように目を凝らしたのを、今でも覚えている。
そこに記された、わずか数センチ四方の番組名。
深夜二時から三時。子供が起きてることなど、到底許されない時間帯だ。
当時の録画予約機能というのは、僕にとってはあまりにも贅沢で、不安定な代物だった。
確実にその一瞬を目に焼き付けるには、リアルタイムで視聴するしかなかったのだ。
僕は親の足音に耳を澄ませながら、部屋の明かりが消えて両親の寝息が聞こえてくるまで、自分の眠気と闘いながらも、じっと耐え忍ぶ。
ここで僕まで寝てしまえば、全てが水の泡。実際、そんな夜もあった。
時計の針の音だけがリズム良く部屋に響くのを聴きながら、放送の十分前に静かにテレビのある居間へと降りていく。
軋む階段の音に細心の注意を払いながら、息をするのも忘れて目的地へと向かう。
焦ってはいけない。音を立ててはいけない。見つかってはいけない。
テレビの音量を最小にして、画面にかじりついた。
画面の中では鮮やかな色彩、海を眺めることができるあの街が広がっている。
そこには、上品で甘酸っぱくも美しい「青春」があった。
小学生の頃の僕からすれば、画面の中で微笑むヒロインたちはみんな「年上の綺麗なお姉さん」。
そんなお姉さんたちが、僕にとっての「憧れ」であり「初恋」だったのだ。
でも時折、非情な現実が僕を襲うこともある。
プロ野球の中継が延長されて後ろにずれ込んだり、海外サッカーや海外ゴルフなどで放送休止になった時には、思わず血の涙を流しそうになった。
そんな最悪の日に画面に映し出されるのは、予定されていた「青春」ではなく、ただ無機質な砂嵐か、あるいは放送終了を告げるカラーバーだけ。
あの時の絶望といったらなかった。
翌朝、学校に行く足取りは重く、誰にも言えない秘密の喪失感を抱えながら、僕はただ呆然と教室の席に座る。そんな日もあった。
そして、そのアニメの最終回を楽しんだ後、僕は必死に貯めたお小遣いを握り締め、近所の古びたゲームショップの中古品の棚で、一本の「ギャルゲー」を手に取った。
深夜アニメで放送されていた、伝説のギャルゲーと称される『Sweet Kiss』。
この作品は、今の時代のラノベやアニメ、ゲームのように、過激な露出の安売りがあるわけではないし、安易な性描写で読者や視聴者、プレイヤーを釣るような下品さもない。
最初からいきなりヒロインとの関係性が出来上がってしまっているような、一瞬で脳汁が溢れ出すようなファストフードのような「ラブコメ」とは一線を画すのだ。
そこにあったのは、主人公とヒロインたちの繊細な心の「揺れ動き」だった。
僕は「あの世界」を愛していた。
綺麗で美しい「青春」だった。
大人になって社会の荒波に揉まれて疲れ果てるほど、あの頃の思い出は眩く輝く。
だからこそ、願ってしまった。
もし、許されるなら。
もう一度だけ、あの色鮮やかな記憶の中にある「あの街」を眺めたいと。
◇
「……お兄ちゃん……。おにぃ……ちゃん……!!」
胸元で鈴を転がすような、それでいて幼なげな声が聞こえた。
僕は重い瞼を上げる。
まず目に飛び込んできたのは、見覚えのない、けれど仄かに懐かしさを感じさせる木目の天井だった。
そして、鼻腔をくすぐるような、香ばしい味噌汁の匂いと、ハムが焼ける香り。
でもそれより、気になる「重み」があった。
僕の上にどっしりとした、けれど柔らかい重み。
何かが、僕の上に乗っかっている。
「起ーきーてー! 遅刻しちゃうよ、お兄ちゃん!!」
その直後、僕の耳元で破裂音紛いの声が響く。
「わぁぁぁーーーーーっ!!」
その叫び声が鼓膜を刺激すると同時に、僕は慌てて跳ね起きた。
僕に乗っていた「重み」は、その反動でベッドから転げ落ちてしまう。
「あいたたたた……。ちょっとお兄ちゃん、いきなり起き上がらないでよ! 澪が吹き飛ばされちゃったじゃない!!」
ベッドの下。お尻をさすりながら、頬を膨らませてこちらを睨んでくる少女。
ゆるふわな髪。
いたずらっ子の猫のような、大きな瞳。
幼なさが残りつつも、どこか凛としている女の子。
生まれてから今までの、誰かの記憶が脳を駆け巡る。
その記憶とは別に、僕はこの少女に見覚えがあった。小学生の頃、画面越しで愛らしい笑顔を見せていた主人公の妹。
――相澤 澪。
僕が小学生時代に遊んだ伝説のギャルゲー『Sweet Kiss』のサブヒロインだ。
状況を飲み込めず、呆然とするしかない僕の視界に、妙なものが入り込む。
澪の胸元に半透明のウインドウのようなものが浮かび上がる。
【 CHARACTER PROFILE 】
――――――――――――――――――――
⚫︎名前:相澤 澪
⚫︎学年:高校1年 誕生日:8月16日
⚫︎血液型:A型 身長:155cm
⚫︎精神:--------------[測定不能]
⚫︎好感度:-----------[測定不能]
⚫︎純愛度:-----------[測定不能]
⚫︎狂愛度:-----------[測定不能]
⚫︎関係:兄妹
――――――――――――――――――――
……ん?
まるでゲーム世界のテキストがそのまま僕の視界に表示されているかのように情報を映し出していた。
まじまじとその文字を確認していくと、やはりあの伝説のギャルゲーに登場する相澤澪の設定そのものだった。
「な、なに、お兄ちゃん……。そんな見つめられると怖いんだけど?」
澪は怪訝そうに小首を傾げる。
心臓がバクバクと波打つ振動。窓から差し込む朝の日差しの心地よい熱。
そのすべてが、「生きていた」。
窓の外に目を向けると、そこには僕が画面越しに何度も見た「あの街」。
急勾配な坂道に沿って立ち並ぶ、いくつもの家々。
吹き付ける潮風。太陽が反射して、宝石のように光り輝く海面。
伝説のギャルゲー『Sweet Kiss』の舞台、――七ツ海市。
僕がまだ子供だった頃、全てを捧げて愛した、あのゲームの世界。
「お、お兄ちゃん? ……今日なんか変だよ? 本当に大丈夫?」
澪は立ち上がり、ベッドに座り込む僕の顔を覗き込む。
彼女は明らかに心配そうな表情でこちらを見てくる。
これは、ゲームの立ち絵のパターンの一つなどではなかった。
僕の困惑した表情を彼女の瞳が捉えたとき、微細に揺れて眉の端が僅かに下がったのが分かった。
――ゲームキャラクターである相澤澪は、今、僕の目の前で「生きている」。
酸素を取り込み、温かい血液が全身を駆け巡って「生きている」感覚が、ここが現実の世界であることを告げてくる。
僕は、転生したのか。
幼い頃の、あの「青春」の中に。
ふと、表示されていた相澤澪の情報は掻き消え、視界の真ん中に、別の新たなウインドウが割り込んできた。
――――――――――――――――――――
①「……うるさいな。退けよ」と突き放す
②「澪、重いんだけど……」と溜息を吐く
③「遅刻せずに済むよ」と澪の頭を撫でる
――――――――――――――――――――
僕はこの世界で、主人公として振る舞うことを強要されているのだろうか。
でも、待て。
もし僕が、主人公の「
あのときの、画面の中だけで完結していた「一対一」の恋。
僕が誰か一人を選んだ後、選ばれなかったヒロインたちはどうなるのだろうか。
ゲームではほとんど描かれていない、選ばれなかったヒロインたちの「その後」。
シナリオライターがヒロイン全員に用意した「裏設定」を僕は何となく知っている。
誰にも手を貸してもらえず、苦悩を抱えたまま、彼女たちの時間は止まってしまうのではないか。
ゲームのパッケージの表紙で、主人公に微笑みかける彼女たちの姿、でもその裏で彼女たちが抱えていた「運命」を思い出す。
僕は、澪の真っ直ぐな視線を見つめ返す。
彼女は僕が何か答えるのを待っている。
この世界は、もうあの頃の「恋愛シミュレーションゲーム」ではない。
僕はゆっくりと、深呼吸をした。
――僕は、彼女たちを「攻略」なんてしない。
攻略なんて、一種の「征服欲」や「独占欲」に過ぎないと、僕は思う。
好感度という数値を稼いでフラグを立て、最終的に「自分のモノ」にする行為。
幸いにも、このゲームには恋人関係の「好き」、友人関係の「仲良し」、敵対関係の「疎遠」という三種類のゴールが、ヒロイン毎に用意されているはずだ。
僕は、彼女たちの「友人」、いや「戦友」になりたい。
たとえ誰にも選ばれなかったとしても、彼女たちが自分の足で歩いていけるような、そんな未来を共に掴むための、最高の相棒。
彼女たちの苦難に、僕も一緒に立ち向かい。
あくまでも彼女たちと「対等」な、戦友として。伴走者として。
ヒロインたちを「救う」なんていう、上から目線で、独りよがりで、押し付けがましいことをするつもりは、毛頭ない。
ただ、彼女たちに幸せになってほしいと願う、僕の「ひどく独善的な願い」を優先させるだけだ。
「お兄ちゃん? 本当にどうしちゃったの? ……何か、怖い夢でも見た?」
澪の手が僕の頬に触れる。
その温もりが、僕の決意をさらに固くしていく。
「いや、大丈夫だよ」
僕は視界に割り込んできた選択肢を無視した。
自分の心の内側から溢れ出す、何一つ飾り気のない本心を口にする。
「おはよう、澪。最高の朝だよ」
その瞬間、視界に『 ――警告―― 』の文字が真っ赤に明滅した。
けれど、僕はそれを視界の端へと追いやり、妹を真っ直ぐに見据えたのだ。▽
本作は本編のEpisodeと捕捉資料のArchiveに大別されます。
世界観の補完が多分に含まれますのでArchiveもぜひお読み下さい。
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