俺とカイがりょ、……両思いになったからと言って、すぐさま特別な変化が起こるわけじゃない。高台での会話の後、なんとな〜く解散した俺たちはいつも通りの休日を過ごした。昨日はダンジョンに潜ったから、翌日である今日は休みなのだ。
別に、その日の夜隣の寝台で眠るカイにドキドキして寝られなかったとかそういうことは一切ないから。断じて、一切、俺に下心などなかったから。審議拒否。
そして、その次の日。ルーティーン的にはダンジョンに潜る日。俺たちは早朝から冒険者協会を訪れていた。依頼掲示板を確認に来ているのである。
「お、墓場草の採取の報酬上がってる」
カイが依頼を確認して俺に見せる。
「受けようぜ」
と、俺。
俺は今の身長的にカイに見せてもらわないと見えないので、カイの肩に両手を置いて背伸びしていた。
そこで後頭部に軽い衝撃。
振り返ってみると折り畳まれた紙が床に落ちていた。不思議に思いながら拾う。
『お姉ちゃんには見えます。二人が進展したのが見えます。仔細報告するようにっ! お姉ちゃんは師匠にも伝える義務があるのです』
……支部長が魔術で俺に矢文ならぬ魔文? を送ってきたようだった。周囲を確認するように視線を走らせるけど、下手人たる支部長の姿は見えない。あの特徴的なツインテール、その場にいれば見逃さないからな。
俺は誓った。しばらく、協会にはカイだけで来てもらおう。俺は逃げるぞ。
「どした、ニコ」
「……なんでもない。行くぞ」
俺たちは歩き出した。カイが歩幅を合わせてくれるのがわかったけど、もうムカつかなかった。
その日、墓場ダンジョンからの帰り道。いつも通りの討伐をこなして、ある程度の深い層まで行ってみて。一度長期探索をやってみてもいいかもな、なんて話になっていた。
「長期探索といえばさ」
カイがマジックバッグを触りながら言った。またもや「女に手荷物を持たせない主義」が発動したようで、俺のマジックバッグが奪われている。
「行ってみるのもありじゃね、『塔』」
「……まじで?」
『塔』。迷宮都市の最高峰で、未踏破迷宮だ。カイはいつか俺と一緒に行ってくれると言っていた。
ちょっと立ち止まる。そして目を閉じて腕を組んで考える。『塔』……『塔』かあ。どうだろう。今の俺たちの——カイは既に『塔』レベルの冒険者グループに引き抜きかけられるくらいのレベルだから、実質俺の——レベルでいけるんだろうか? ……いや、危ない橋は渡りたくない。
そう結論を出して、目を開けた。するとカイが俺の前で視線を下にして立ち止まっている。
カイの視線を追う。……腕組みしたことで強調された、俺の胸があった。
「さいてー」
と言いながら、なんなら目潰しをお見舞いしたかったのだが、さすがに前衛職のカイには避けられる。
「今のはニコの姿勢が悪いだろ。俺は無罪だ」
「いーや違うね。お前のエロ心が悪いね」
と、俺はカイの横腹を肘で突く。それは避けなかったカイが、「痛てえっ」なんて笑った。
「俺がさ」
つられて笑いながら、俺は言う。
「俺がもっともっと魔術を使いこなして、お前を守れるくらい強くなったら。……そしたら行こうぜ、『塔』」
「……ん」
カイが頷いて、そして俺に手を差し出した。俺は勢いよくその手を掴んで、そして走り出す。
「ニコ、危ねえって」
「いいの! 今日は走りたい気分!」
今の俺が全速力で走っても、カイは余裕でついてくるだろう。ちょっと前なら悔しくて寂しくなったりしたかもしれないが、今は違う。そんな違いがあっても、俺たちが二人でいることが——うれしかった。
☆☆☆
「ところでさあ」
手を繋いだままカイに話しかける。カイは「んー?」なんて耳だけこちらに傾けた。
「俺たちって付き合ってんの?」
「……はい?」
カイが立ち止まった。そして俺の顔をまじまじと覗き込んでくる。
「なんだよ」
「え? ニコさんって……あんな風に告白した男をキープくんにするような悪女だったんだ……って思って」
「ちげーわ。むしろそっちだろやりそうなのは」
「しくしく……、俺は悲しい……。大人しく貢ぐくんになりますよ」
「殴るぞ」
「いででででで腕がっ、人体が曲がらない方向に曲げられているッ、悪かったってッ」
ふん、と鼻を鳴らす。俺に手を握られていることを甘く見るからだ。
「それで、どうなの?」
「……俺は……もともと、お前が死ぬときが俺の死ぬときだと思ってたし」
「……うん」
そうだ……。カイって意外と重いやつなんだった……。その重さがうれしいから俺も大概なんだが。
「だから、別にいいんじゃねえの。関係の名前とかはどうでも……」
その言葉には俺は眉を下げざるを得なかった。……そっか。カイはそう思うのか。
「……ふーん。じゃあなに、お前は俺の彼氏にはなってくれないってこと?」
「なるけど」
「は?」
「彼氏になれっていうならなるし、旦那になれっていうならなる」
「………………」
いや、旦那の話はしてない。してないぞ、カイ。
そう思ったけどツッコむ気力がわかなかった。
……しかしまあ、カイの考えは一応わかったと言っていい。つまりこいつは、俺の望む関係の名前を受け入れるってことだ。そういうことにしてやろう。
「じゃあお前、今から俺の彼氏な」
「もうちょっとかわいく言ってみてくれる?」
「……カイくん、ニコの彼氏になって♡」
「はは……」
乾いた笑いやめろ。殺すぞ。
——という一悶着あって、俺はカイの彼女になった。
俺とカイは幼馴染で、相棒で、コンビで、恋人同士だ。
俺たちの関係は不変じゃない。けど、その時々で形を変えながらも、きっとずっと一緒にいるんだろうと素直に思えた。
カイが俺の隣にいてくれることは当たり前じゃない。けど、それを当たり前みたいにしていくのがこれからの俺の役目なんだって、そう思った。