TS娘と情緒をぐちゃぐちゃにされる相棒   作:べべべのすけ

3 / 3
……ふんッ!

 

 

 

 狩場を移そうという話にはなった。ここは不人気でライバルがいなくて良かったけど、俺がキモさに耐えられないからだ。

 ローブの丈が直るまでしばらく日がある。多少切り詰めれば一月くらいならダンジョンに潜らなくても余裕がある——と思っていたんだが。

 

 

「なんでこんな金がねえの!?」

 

「そりゃ、ニコちゃんの服買ったから」

 

「それにしてもなさすぎじゃねえ!?」

 

 

 金がなかった。俺の計算と全く合わないくらいなかった。

 が、カイに『俺の服を買ったから』と言われてしまうとそれ以上何も言えない。

 ……働かねば。

 

 

「……ローブができるまで別行動しよう。金稼ぐわ」

 

 

 カイがむっとした顔をした。

 

 

「何すんの」

 

「初心者講習の手伝いとか。顔きくし」

 

「……あのさ、ニコ、お前今の自分の状態わかってる? 舐められて終わりだぞ」

 

 

 ……正直一理あると思ってしまった。が、それ以外にダンジョンに潜らず適当に金を稼げる手段を俺は持ってなかった。

 黙った俺を、カイは反発していると捉えたのだろうか。

 

 

 ドン、と。路地の壁にカイが手をついて。俺は壁を背にして追い詰められた格好で。

 

 

「ニコちゃんは、危機感がなさすぎ。俺にこうやってされても、抵抗できないんだから——」

 

 

 カイが俺の顎を掴む。上を向かされる。

 見上げたカイの顔は、今まで見たことのないような——、

 

 

「……ふんッ!」

 

「ッ〜〜〜〜!!!!!!」

 

 

 反射的にカイの股間を蹴り上げた。カイは股間をおさえてもんどり打っている。

 

 

「俺を舐めるな、バーカ!」

 

「お前さあ……そこはさ、情けってもんが……」

 

「知るかバカ! バーカバーカ!」

 

 

 俺は駆け出した。「待て、ニコッ」なんてカイの制止の声は無視した。

 

 

 

 と言っても二人、帰る宿の部屋は同じなわけで。……これもいつまで同じにするか話し合わないとか。今は金がないからこのままにするしかないけど。

 

 

 俺が悶々としていたのに、カイはその日部屋に戻ってこなかった。

 ……時々あることだ。女と一緒にいるんだろう。そう、時々あることなのに。なんだか気分が良くなかった。

 

 

 魔術で水を出す。顔を洗おうと思っての行動だった。

 宿の備品の桶に水を溜めて、覗き込む。そこにいたのは小さな女の子。昨日までの俺の面影は——言われたらギリ気づけるくらいにしか——残っていなかった。

 

 

「……くそっ」

 

 

 パシャンと水に拳を叩きつける。水面は揺れて、ぐちゃぐちゃになった。

 

 

 

 

 いつまで待ってもカイは帰ってこず、外は朝になっていた。俺は一睡もしていなかった。

 

 

 寝台に座ったまま、じーっと扉を睨む。すると、音を立てないようにそーっと扉が開かれた。カイである。

 

 

「……げっ、起きてんの」

 

「どこいってた」

 

「あー……。テキトーに、飲んでた」

 

「女?」

 

「ちげーよ。一人で」

 

「金ねえっつってんだろ。無駄遣いすんな」

 

「……悪かったよ」

 

 

 カイはばつが悪そうだった。その姿を見て俺も少しだけ溜飲を下げる。

 

 

 俺は寝台から立ち上がった。冒険者だから、一晩の徹夜くらい余裕だ。何度も経験がある——と思ったんだが。

 足元がふらつく。

 

 

「あぶねっ」

 

 

 カイが俺の身体を支えた。

 大きな手だ、と思った。反対に、俺の肩ってこんなに薄いんだ、とも思った。振り払う気は起きなかった。

 

 

「寝てねえの?」

 

「……うん」

 

「ちょっと寝れば。起こすし」

 

「…………ん」

 

 

 頷いて、シーツにくるまる。

 今度は眠れそうだった。

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 起きたらカイがいなかった。は? キレそう。

 と思ったら書き置きがあった。

 

 

『支部長から呼び出し。一旦俺だけで行くわ』

 

 

 口元がひくつくのがわかった。魔法陣を踏んだ張本人は俺で、なのに俺なしで今回の報告するわけ? は? ガチで言ってる?

 

 

 ちょっとだけ身支度を整えて、そのまま宿を出た。俺の目は大変据わっていたことだろう。

 

 

 協会について、いつものお姉さんに声をかける。

 

 

「カイって、支部長室ですか?」

 

「あ、ニコさん。……あれ、お一人で……?」

 

「はい。カイに、置いて行かれたみたいで」

 

 

 お姉さんはちょっと遠い目をした。

 

 

「痴話喧嘩ならよそでやってよ……」

 

「はい?」

 

「いえ。どうぞ、支部長室ですね」

 

 

 お姉さんに支部長室まで案内される。中の状況を確かめず、ノックもせず俺はいきなり扉を開いた。

 部屋の中には偉そうな椅子に座った小柄な——これは男のときの俺基準。今の俺よりはデカい——少女と、その正面に立っている男の後ろ姿。

 

 

「……で、俺からは」

 

「おいカイ! お前起こすって言っただろ!」

 

 

 俺の声に部屋の中にいたカイが振り返る。俺は構わず部屋に踏み入った。

 

 

「いや、俺だけでも報告できるかと思って」

 

「支部長は魔術師なんだから、俺を見れば説明するより早いって」

 

 

 支部長は俺の一応姉弟子だ。俺が子どものころちょろっと魔術を教わった人の、ちゃんとした弟子。なので一応面識がある。

 

 

「……え、ほんとにこれがニコちゃん?」

 

「……ニコです」

 

 

 カイが不本意そうに言った。なぜお前が言う。

 

 

「わ、わ〜! 魔力の流れきれい! ニコちゃんの惜しかったとこぜんぶ直ってる、え、いいな〜!」

 

 

 支部長が彼女のツインテールを揺らして、支部長らしい威厳ある椅子から立ち上がって俺の両肩を掴む。それから目を覗き込まれる。

 

 

「支部長……」

 

 

 肩を掴む手を丁寧に外す。やめろください。

 

 

「え、なんでそんな距離取るの? 可愛くお姉ちゃん♡って呼んでいいよって言ってるじゃん。ニコちゃん、お姉ちゃんに魔力よく見せて? だいじょーぶ、痛くないよ?」

 

「やです」

 

「や〜ん、つめたぁい」

 

 

 くねくねする支部長を置いてカイに向き直る。

 

 

「俺の状態も見せたし、あの日の状況はお前が報告したんだよな」

 

「あ、ああ……」

 

「帰るぞ、カイ」

 

「ニコちゃん、嫉妬してんの? あたしとカイにはなんもないって、あたしってカイの好みじゃないしぃ」

 

「帰りまーす」

 

「つめたぁい、そこがかわいい♡」

 

 

 支部長がうざいのはいつものことなので、無視して部屋を出た。俺についてきたカイはちょっと意外そうな顔をしている。

 ……ああ。あの人とのやりとり、カイはあんまり見たことなかったかもな。

 部屋の外で待っていたお姉さんに報告が終わったことを告げて、ついでに初心者講習の手伝いのバイトがないか聞く。

 ちょうど良く魔法の講習が午後からあるそうで、そこの臨時講師のバイトをゲットできた。よしよし。

 

 

「俺バイトするけど、お前は?」

 

「……帰らねえの?」

 

「金ねえし」

 

「待ってる」

 

 

 なんか殊勝な犬みたいになったカイは、とぼとぼと協会併設の酒場へと歩いて行った。金ねえって言ってんのに、また酒場かよ。……と思ったが、たむろしている子どもの魔術師に「練習だと思って冷たい水出してみな。成功したら小遣いやる」とか言ってぬるい水を手に入れていたのが見えたのでまあいいかと思った。

 

 

 

 講習は無事終わった。カイに「舐められて終わり」とか言われたから身構えていたが、案外そうでもなかった。講習に来るような初心者魔術師は礼儀正しいのが多いしな。

 

 講習室を出て、協会の酒場へと足を向けようとする。と、突然現れたでかいやつにぶつかった。

 

 

「わぷ」

 

「あ、悪い」

 

 

 カイだった。

 

 

「……なんでお前も講習室から出てきてんの?」

 

「え? ニコの講習聞いてたから?」

 

「は?」

 

「気づいてなかったの? 俺の気配消しも上達したな」

 

 

 記憶を辿る。……確かに、実演して見せて、じゃあお前らもやってみな〜、みたいな流れになってもかたくなに何もしなかったフードのでかいやつがいた。お前かよ。

 

 

「……ニコ、気づいてたか」

 

「何を」

 

 

 急にカイが声を潜める。かがみ込んだカイに、俺も耳を近づけた。

 

 

「講習にいた男三人組。あいつらお前の胸しか見てなかったぞ」

 

「キモ」

 

「キモいよな」

 

「お前がな」

 

「え?」

 

 

 カイが心外そうにした。

 

 

「俺は違うだろ」

 

「今どこ見てる?」

 

「え? 胸」

 

「同じじゃねえか!」

 

 

 かがみ込んだままのカイの頭を叩いた。前衛職のカイには大したダメージにならないのが悔しい。

 一度息を吸って気分を切り替える。

 

 

「明日からしばらく、午前と午後の二回講習担当することになったから」

 

「うん」

 

「お前もう来るなよ。俺は一人でできるし」

 

「……うーん」

 

「うーんじゃねえよ。わかったな」

 

 

 そんな会話をしながら協会を出て、宿に戻った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい(作者:べべべのすけ)(オリジナルファンタジー/恋愛)

転生したら村娘だった。▼そんな俺の特筆すべき点は、勇者の幼馴染であること。▼「俺の子分なら、世界くらいパパッと救ってこい!」▼そう言って送り出して十年。▼帰ってきた勇者の様子が、なんかおかしい。▼*TS転生、精神的BLものです。


総合評価:217/評価:9/完結:10話/更新日時:2026年08月23日(日) 21:00 小説情報

TSした俺と交友関係NTRアンハッピーセットを食らって女性不信拗らせた親友(作者:北京院)(オリジナル現代/恋愛)

幼馴染の親友に彼女ができたので最近はあまり遊んでいなかった。▼久々に顔を見た親友は死にそうな顔をしていたものだから、詳しく聞くと彼女と先輩と後輩を寝取られたんだという。▼もう女なんてこりごりだぜ、と強がるけれど死にそうな顔をしているので少々優しくしてやることにした。久々に泊まり込みでゲームをするのは楽しかったし少しは元気が出たようで安心した。▼――で、翌朝起…


総合評価:3170/評価:8.55/連載:20話/更新日時:2026年08月21日(金) 21:15 小説情報

俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~(作者:Fiomia)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

インディーゲーム開発者で、プログラマー珠玖直人は、▼親友の神代明弘と共にRPG『エターナル・エコー』を開発していた。▼ある日、何だか妙な異変に巻き込まれて目を覚ますと、そこは開発中だったはずのゲーム世界。▼しかも直人は、自らが設定したヒロイン『フィアナ』の姿になっていた。▼世界は確かに自分たちが作ったゲームによく似ている。▼だが、存在しないはずの人物、実装し…


総合評価:202/評価:7.56/完結:59話/更新日時:2026年08月04日(火) 06:00 小説情報

ヒロイン矯正!【完結済】(作者:アールエー)(オリジナルファンタジー/コメディ)

乙女ゲームのモブ娘に転生したおっさんが、持ち前の拳法と知識を使い、平穏に生きようとしていた。しかし何の因果か同じくヒロインに転生した女の子と出会ってしまい、シナリオを知り尽くしたと思い上がったヒロインを叩き直す物語。▼ちなみに、おっさんは原作ゲームの知識ゼロ。▼性転換おっさんは作者の趣味で、必然ではない。作者の心の中では必然だが。▼精神的BLは念のため。そこ…


総合評価:1438/評価:8.81/完結:67話/更新日時:2026年08月10日(月) 12:00 小説情報

スタイリッシュ異能バトルの世界で俺だけ魔法少女としてエロゲの敵と戦っている(作者:かませ犬S)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

気付いたら俺が大好きだった漫画『アビリティ・ストライク』の世界に転生していた。▼その漫画は所謂、能力もののバトルファンタジーで、主人公やヒロイン、魅力的な敵キャラたちの能力を駆使した時に戦闘シーンが魅力の作品だった。▼漫画の大ファンだった俺はこの世界が『アビリティ・ストライク』の世界であることに気付いた。▼好きだった漫画の世界に転生したなら、原作に介入してみ…


総合評価:5772/評価:8.63/連載:46話/更新日時:2026年06月12日(金) 07:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>