The Amazing Spider-Man 3: Shadow of the Kingpin 作:八二一
夕暮れのフィスクタワー前。
ニューヨーク市警の車両が何台も並び、その周囲には報道陣が押し寄せていた。規制線の向こうでは記者たちがマイクを掲げ、絶え間なくフラッシュが焚かれている。
やがて、両手に手錠を掛けられたウィルソン・フィスクが警官たちに囲まれながら姿を現した。
スーツは破れ、全身に戦いの傷が残っている。それでも背筋は最後までまっすぐ伸びたままだった。
フィスクの姿を見つけると、記者たちは一斉に声を上げる。
「フィスクさん!」
「密売への関与は認めるんですか!」
「一言お願いします!」
キングピンは何も答えない。
押し寄せる声にもフラッシュにも反応せず、そのまま警察車両へ向かって歩いていく。
その途中で、一度だけ空を見上げた。
少し離れたビルの屋上に、赤と青の小さな影が立っている。
スパイダーマン。
二人の視線が、一瞬だけ交わる。
キングピンは小さく鼻で笑った。
警官に促され、そのままパトカーへ乗り込む。
ドアが閉まり、車両はゆっくりと動き始めた。
少し離れたビルの屋上で、スパイダーマンはフィスクタワー周辺の様子を静かに見下ろしていた。
その時、スマートフォンに着信が入る。
画面を確認して通話へ出ると、聞き慣れた声が返ってきた。
「WebHead……いや、スパイダーマン。」
オットーだった。
「無事か?」
スパイダーマンは小さく笑う。
「なんとか。そっちは?」
「事情聴取中だ。」
オットーも少し笑った。
「思ったより丁寧で助かっている。君への通話も許可してくれた。」
「運が良かった?」
「そういうことにしておこう。」
少しだけ沈黙が流れる。
やがて、オットーが静かに口を開いた。
「ウェブ。完成、おめでとう。」
スパイダーマンは思わず笑った。
「最後まで見てたんですか。」
「研究者だからな。結果は気になる。」
二人とも少し笑う。
そのあと、オットーは少しだけ声の調子を落とした。
「コミュニティのアカウントは削除しようと思う。もう、あそこにいる理由はない。」
スパイダーマンは遠くの空へ目を向ける。
「そうですか。」
少し間を置いて続ける。
「ありがとうございました。」
オットーも穏やかに答えた。
「こちらこそ。」
そして、最後に一言だけ付け加える。
「良い研究だった。」
通信が切れる。
スパイダーマンはしばらくスマートフォンの画面を見つめていた。
やがて端末をしまい、小さく呟く。
「またどこかで。」
グウェン・ステイシーと、ジョージ・ステイシー。
二人の墓の前に、ピーターは花を供えた。
すぐには何も話さない。
しばらくの間、墓前には風の音だけが静かに流れていた。
やがて、ピーターが口を開く。
「……終わったよ。」
墓石を見つめたまま、少しだけ間を置く。
「約束。少しは守れたかな。」
それから空を見上げ、わずかに笑った。
「一区切りついた気がする。でも、まだやることはたくさんある。」
もう一度、二人の墓へ視線を戻す。
「だから、もう少しだけ、見守っててほしい。」
ピーターはグウェンの墓石へそっと手を添えた。
「ずっと愛してる。」
しばらくそのまま動かない。
やがて名残惜しそうに手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
マスクを被る。
ウェブを撃つ。
次の瞬間、スパイダーマンはニューヨークの空へ飛び立っていった。
THE AMAZING SPIDER-MAN 3
END
州立刑務所。
鉄格子の向こうから中庭を見下ろしながら、一人の囚人が静かに立っていた。
エイドリアン・トゥームズは無精髭を撫でつつ、外の様子を眺めている。
やがて、一台の護送車がゆっくりと刑務所の門をくぐってきた。
「新入りか。」
トゥームズは興味を持ったように目を細める。
護送車が停止し、後部のドアが開いた。
中から降ろされたのは、オットー・オクタビアスだった。
両手には手錠が掛けられているが、取り乱した様子はなく、刑務官に囲まれながら静かに歩いていく。
トゥームズは鉄格子越しに、その姿をじっと見つめた。
そこへ、一人の刑務官が通りかかる。
「例のフィスク事件の研究者だ。」
トゥームズは視線をオットーから外さない。
刑務官が続ける。
「ニュースでやってただろ。」
トゥームズは小さく頷いた。
「……ああ。見たよ。」
オットーは周囲へ目を向けることもなく、ただ前だけを見ながら刑務所の内部へ連れていかれる。
やがて、その背後で重い扉が閉まった。
ガシャン。
その音を聞きながら、トゥームズはしばらく黙っていた。
そして、独り言のように呟く。
「頭のいい奴ほど、ここに来ると厄介なんだ。」
その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。