裏社会のジョーカー、現代ダンジョンで成り上がる ~世界最大の賭場に人生を賭ける~   作:パラレル・ゲーマー

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第3話 最低レートで国宝を引いた

 《ゴブリンの洞窟》。

 F級探索者の登竜門として知られるそのダンジョンは、人工的な管理施設から数十メートル奥へ足を踏み入れただけで、空気が一変した。

 湿り気を帯びた岩肌。青白く発光する微小な苔。どこからか響いてくる水滴の反響音。

 ARコンタクトレンズの視界には簡易マップが表示されているが、それは隼人が通ったルートを後追いで描写しているに過ぎず、未踏の領域は黒く塗りつぶされたままだ。

 

 視界の隅に、現在のステータスが小さく表示されている。

 

【HP:61/61】

【MP:47/47】

 

 さらにその横には、配信の状況を示すウィンドウ。

 

【視聴者:0】

 

 数字は開始時から変わっていない。

 だが、隼人は全く気にしていなかった。そもそも無名の新人が平日の昼間に始めた配信に、最初から数万の観客が群がるわけがない。録画用ドローンが正常に機能しているだけで十分だ。

 追従モードのドローンは、隼人の斜め後方を静かに浮遊している。

 

 隼人は、購入したばかりの《初心者用ロングソード》を両手で握り、慎重に歩を進めていた。

 その構えは、明らかに素人のそれだ。剣道やフェンシングの経験があるわけでも、格闘技で体を鍛え抜いてきたわけでもない。彼の人生は、常にカードとチップ、そして嘘と欲望が渦巻くテーブルの上にあった。

 

(……剣ってのは、映像で見るよりずっと重いな)

 

 本物の鉄を振るうことの難しさを、隼人は冷静に自覚していた。だからこそ、不用意に走ったり、大振りをしたりすることはしない。

 

 緩やかなカーブを描く坑道の先。

 岩を擦るような、不規則な足音が聞こえた。

 隼人は即座に足を止め、壁に張り付く。ドローンもそれに合わせて静止した。

 耳を澄ます。

 足音の周期。何か重いものを引きずるような音。

 そして、曲がり角の先から一体のモンスターが姿を現した。

 

 身長一メートル強。小柄な子どものような体格だが、全身は濁った緑色の皮膚で覆われ、目は血走っている。手には、棘のついた粗末な木製の棍棒が握られていた。

 

 ARコンタクトが即座に情報を読み取る。

 

 ====================================

 

【ゴブリン】

 

 Lv:1

 分類:亜人型モンスター

 危険度:F

 主な攻撃:棍棒による打撃

 

 ====================================

 

 弱点や詳細なステータスまでは表示されない。F級とはいえ、相手は明確な殺意を持った異界の生物だ。

 

 その時、視界の隅で数字が動いた。

 

【視聴者:1】

 

 新着配信を巡回していた物好きな誰かが、偶然迷い込んだらしい。

 

 名無しの探索者:初見。初ダン?

 

 最初のコメント。

 だが、隼人は返事をしなかった。それどころではない。

 

【視聴者:2】

 

 名無し:装備ピカピカで草。今日登録した奴か?

 

 ゴブリンが、侵入者である隼人の存在に気づいた。

「ギャアアア!」と耳障りな叫び声を上げ、短い脚で突進してくる。

 

 隼人も剣を構え直した。

 これまで、裏社会で命の危険を感じる場面はあった。銃口を向けられたことも、刃物をちらつかされたこともある。だが、異形の化け物が自分を文字通り『叩き潰す』ために走ってくるというのは、全く別の恐怖だった。

 

 ゴブリンが跳躍し、棍棒を振りかぶる。

 隼人は反射的に後ろへ下がった。だが、剣の間合いも、自分自身の回避能力も、まだ正確には把握しきれていない。

 躱しきれず、振り下ろされた棍棒が隼人の左肩を掠めた。

 

「っ……!」

 

 鈍い衝撃と痛みが走る。

 ただの擦り傷程度だが、ゲームのようなエフェクトで終わるわけではない。本物の痛みだ。

 

【HP:55/61】

 

 ARの数値が減る。

(……一発で6減るのか。連続で喰らえば死ぬな)

 隼人は痛みを噛み殺しながら、即座に距離を大きく取った。無理な反撃はしない。

 

 名無しの探索者:おい反撃しろw

 名無し:初心者なら距離取るのは正解じゃね

 名無しの探索者:剣に完全に振り回されてんな

 

 コメント欄には、安全圏から眺める者たちの気楽な言葉が並ぶ。天才的な剣術を期待していたわけではないだろう。

 

 二回目の突進。

 ゴブリンが再び棍棒を振り下ろす。今度は間合いの感覚を少し掴んだ隼人が、大きくサイドへステップを踏んで回避した。

 やはり反撃はしない。

 

(……三回目)

 

 ゴブリンが体勢を立て直し、三度目の攻撃モーションに入る。

 ここで、隼人のギャンブラーとしての本質が顔を出した。

 ゴブリンは、攻撃の直前に必ず『右肩がわずかに上がる』。

 そして、『右足から踏み込む』。

 その後、『真上から棍棒を振り下ろす』。

 振り下ろした後は、棍棒の重さに引っ張られるように、一瞬だけ『前傾姿勢で硬直する』。

 

 一回目。二回目。そして今。

 すべてのモーションが全く同じだ。

 

(癖が分かりやすすぎる)

 

 ポーカーで相手の瞬きの回数を数えるより、麻雀で牌を切る速度から迷いを読むより、目の前の怪物はずっと単調で、ずっと読みやすい。

 

 相手の行動に癖があるなら、それは『情報』だ。

 情報があれば、次は『誘導』できる。

 

 隼人は、あえてゴブリンの間合いへ一歩踏み込んだ。

 

 名無し:おい近い

 名無しの探索者:危なくね?

 

 コメント欄がざわつく中、ゴブリンが反応した。

 右肩が上がる。

 右足が踏み込まれる。

(来る)

 

 隼人は、棍棒が振り下ろされる『前』に、左斜め前方へステップを踏んだ。

 完璧なタイミング。

 棍棒は虚しく空を切り、地面に激突する。

 ゴブリンの体勢が、棍棒の重みで完全に前へ崩れた。

 

 そこへ、隼人は右手のロングソードを叩き込んだ。

 剣術の基本など知らない。ただの力任せの斜め斬りだ。

 ゴブリンの肩から背中にかけて、浅く刃が食い込む。

 

(浅い)

 

 一撃では致命傷にならないと即座に判断した隼人は、反撃しようと振り向くゴブリンの顔面に向かって、もう一歩踏み込み、今度は剣を『押し込む』ように首元を斬り裂いた。

 

「ギャッ……」

 

 ゴブリンの体が硬直し、直後、光の粒子となって霧散した。

 静寂が戻る。

 剣にこびりついていた黒い血も、モンスターの消滅と同時に消え去った。

 

 隼人は荒くなった呼吸を整えながら、小さく息を吐いた。

 

「……なるほど。こういう感覚か」

 

 名無し:お、勝った

 名無しの探索者:初戦ならまあ悪くない

 名無し:途中から攻撃のモーション読んでた?

 名無しの探索者:ゴブリンは動き分かりやすいからな。慣れればあんな感じ

 

 コメントは称賛一色にはならない。既存の探索者からすれば、初戦にしては落ち着いている程度だ。

 だが、隼人にとっては、大きな収穫だった。

 

 視界にシステムメッセージが浮かぶ。

 

【経験値を獲得しました】

 

 経験値ゲージが少しだけ伸びる。

【Lv1:EXP 28%】

 一体倒した程度ではレベルは上がらないようだ。

(レベル二でクラスが解放だったな)

 センターで確認した情報を思い出す。クラス選択はまだ先だ。

 

 ゴブリンが消滅した地面に、三つのアイテムが残されていた。

 初ドロップだ。

 

 一つ目は、小指の先ほどの小さな石。

 

 ====================================

 

【F級魔石・小】

 

 種別:換金資源

 推定買取価格:1,200円

 

 ====================================

 

(千二百円、か)

 悪くない金額だ。だが、四億という途方もない借金を返すには、これを三十三万個以上集めなければならない計算になる。

 

 二つ目は、赤茶けた金属片のようなもの。

 

 ====================================

 

【錆びた鉄の小手】

 

 レアリティ:ノーマル

 種別:ガントレット

 装備条件:Lv1~

 防御力:3

 特殊効果:なし

 

 フレーバーテキスト:

 ――これを防具と呼ぶには、少しばかり勇気がいる。

 

 ====================================

 

「……ゴミだな」

 

 名無し:ゴミです

 名無しの探索者:店で百円つけばいい方

 名無し:初ドロップの記念に持って帰れw

 

 視聴者の言う通り、ただのガラクタだ。

 しかし、三つ目は違った。

 

 他のドロップとは異なり、微かに青白い光を放つ小さな球体。

 隼人が拾い上げると、ARが詳細を弾き出した。

 

 ====================================

 

【変質のオーブ】

 

 種別:クラフト通貨

 

 効果:

 ノーマル等級の装備一つを、ランダムな特性を持つマジック等級へ変質させる。

 付与される特性および数値はランダム。

 

 フレーバーテキスト:

 ――価値とは、形を変えるまで誰にも分からない。

 

 ====================================

 

 コメント欄の動きが、ここで少し早くなった。

【視聴者:4】

 

 名無しの探索者:え?

 名無し:変質?

 F級三年目:初戦でオーブドロップは普通に運いいな

 名無し:それ売れるぞ

 F級三年目:初心者なら、自分で使うより店で売った方がいいかも

 

 数万分の一の奇跡というわけではないが、F級の初戦で落ちるアイテムとしてはかなり幸運らしい。

 相場は数千円といったところか。

 だが、隼人の興味は金額よりも、アイテムの効果そのものに向いていた。

 

『付与される特性および数値はランダム』

 

(ランダム。つまり、賭けか)

 

 隼人の口元がわずかに歪んだ。

 

「なるほど」

 

 名無し:嫌な「なるほど」だな

 F級三年目:おい新人、それは売れよ

 名無し:その顔は使う顔だろw

 

 視聴者も、この新人が何を考えているのか何となく察し始めた。

 隼人の脳裏に、自身の持つ二つ目のユニークスキルの説明文が蘇る。

 

【運命の天秤《フェイト・スケール》】

 世界のあらゆる「確率」に干渉し、その結果を捻じ曲げる。

 

 代償も、具体的な使用方法も不明な、未解明のスキル。

(ランダムな結果を変える。試す対象として、これ以上分かりやすいものはない)

 

 隼人は、右手で《変質のオーブ》を摘み上げ、左手で《錆びた鉄の小手》を拾った。

 

 F級三年目:使うならせめてその剣(ロングソード)にしろよ

 名無し:小手に使うなよw

 名無し:ガチのゴミクラフトやん

 

 コメントが制止する。だが、隼人には譲れない理屈があった。

 

「初めて使う、効果不明の能力だぞ」

 隼人は配信のカメラに向かって、淡々と言った。

「実験台にするなら、最悪失っても困らないゴミの方がいい」

 

 名無し:……それはそう

 F級三年目:ド正論だった

 名無し:でもオーブ(数千円)は消えるぞw

 

「それが賭け金だろ」

 

 隼人はオーブを小手に近づけながら、小さく息を吸い込んだ。

 まだスキルの使い方は分からない。ただ、意識を集中させる。

 

「確率に干渉する、だったな」

 

 一拍。

 

「なら――見せてみろよ。俺に配られた札が何なのか」

 

 心の中で、《運命の天秤》を強く意識する。

 その瞬間。

 隼人の耳の奥で、「カチン」と金属同士が触れ合うような硬質な音が響いた。

 一瞬だけ、幻覚のように巨大な天秤のシルエットが見え、その片側がわずかに揺れた気がした。だが、それはすぐに消え去った。

 

(……今のは?)

 

 考える間もなく、オーブが小手に触れる。

 パリン、と甲高い音が鳴り、青白い光が《錆びた鉄の小手》へ吸い込まれていく。

 鉄の表面が光に包まれ、形状が変化していくのが分かる。

 

 名無し:使ったw

 F級三年目:まあ勉強代だな

 名無し:何つくかな

 名無し:HP+10くらい来い

 

 光が収まった。

 見た目は、錆が落ちて少し黒く綺麗になった程度に見える。

 一見すると、順当にマジック等級の装備が出来上がったように思えた。

 

 しかし、ARの鑑定機能の挙動がおかしい。

 

【鑑定中……】

 処理が遅い。

 

 名無し:?

 F級三年目:鑑定遅くね?

 名無し:回線?

 

【鑑定エラー】

「……ん?」

【再鑑定中……】

【既存アイテムデータと不一致】

【レアリティ判定を再実行します】

 

 名無し:え

 F級三年目:待て

 名無し:なんか変じゃね?

 

 コメント欄の空気が変わったのと同時に、小手を覆っていた青い光が、ゆっくりと別の色へ変色し始めた。

 金とも橙ともつかない、通常のドロップ品ではあり得ない深く重厚な光。

 そして、小手そのものの材質も変質した。百円の鉄屑ではなく、黒銀色の滑らかなガントレット。関節部分には、微かに発光する細い紋様が刻み込まれている。

 

 ついに、鑑定結果が表示された。

 

 ====================================

 

【万象の守り《パンデモニウム・ガード》】

 

 レアリティ:ユニーク

 種別:ガントレット

 装備条件:Lv1~

 

 最大HP +100

 攻撃速度 +15%

 火属性耐性 +25%

 冷気属性耐性 +25%

 雷属性耐性 +25%

 

 フレーバーテキスト:

 ――万象を拒む必要はない。

 そのすべてを受け止めるだけの器があればいい。

 

 ====================================

 

 数秒間、コメント欄が完全に沈黙した。

 そして、爆発した。

 

 名無し:……ユニーク?

 名無し:は?

 F級三年目:変質のオーブだよな?

 名無し:マジックにするアイテムじゃないの?

 名無し:なんでユニークになってんの?

 

 まず、変質のオーブからユニーク装備が生成されたという事実に混乱が走る。

 さらに、性能欄を見た者たちが騒ぎ始めた。

 

 名無し:HP100w

 名無し:攻撃速度15

 名無し:火25冷25雷25?

 名無し:普通にめっちゃ強くね?

 

 隼人自身も、ステータスの並びを見て目を丸くした。

「おいおい。強いじゃん」

 どの程度の異常事態なのかは分からないが、素人目に見ても強力なことだけは理解できる。

 

 その間に、誰かが探索者専用の掲示板に配信のリンクを貼ったらしい。視聴者数が跳ね上がり始めた。

【視聴者:15】

 

 新規に入ってきた、少し知識のありそうな探索者がコメントを打つ。

 

 ベテラン探索者:待て待て待て

 ベテラン探索者:HP+100?

 

 名無し:100ってそんなヤバいの?

 

 ベテラン探索者:馬鹿。最大HP+100は普通、三十台半ばから見る数値だぞ

 ベテラン探索者:Lv1装備に付いていい値じゃない

 中級クラフター:攻撃速度15も初心者帯じゃかなり異常

 中級クラフター:しかも三属性25ずつ全部乗ってる

 

 視聴者たちが、その装備の真の価値を理解し始めた。

 

 ベテラン探索者:……いや待て

 ベテラン探索者:お前ら要求レベル見ろ

 

 名無し:?

 名無し:Lv1~

 名無し:……

 名無し:は?

 

 中級クラフター:ありえねえ

 中級クラフター:普通、この水準の能力値が付いたら装備要求も跳ね上がる

 ベテラン探索者:数値だけならLv35以上の装備だぞ!?

 ベテラン探索者:なんでLv1で装備できるんだよ!?

 

 有識者たちの解説が、事態の異常性を浮き彫りにしていく。

 

 中級クラフター:HP100だけなら中級帯で出る

 中級クラフター:三色レジ25も、一個ずつなら別に世界をひっくり返す数値じゃない

 中級クラフター:AS15だって上に行けばもっと高い装備はある

 名無し:じゃあ国宝ってほどじゃない?

 中級クラフター:違う

 中級クラフター:それが全部一個の装備に付いてて、かつ要求Lv1なのがおかしいんだよ

 

【視聴者:70】

 

 数字がどんどん増えていく。

 

 名無し:これいくらすんの?

 名無し:数百万?

 ベテラン探索者:値段つけられん

 名無し:そんなに?

 ベテラン探索者:上位探索者の最終装備って意味じゃない。でも低レベル装備としてなら、国宝級って言われても否定できない

 

 隼人は無言で《万象の守り》を左腕に装着した。

 サイズは自動調整され、ぴったりとフィットする。

 ARのステータス表示が一気に変化した。

 

【HP:155/161】

 

 最大HPが100増加し、それに伴い現在のHPも引き上げられた。

 名無し:HP倍になったw

 名無し:Lv1で161!?

 ベテラン探索者:物理にはレジ(耐性)効かないから無敵じゃないぞ

 名無し:それでも硬すぎるだろw

 

 コメントの言う通り、物理攻撃しかしてこないF級のゴブリンに対して、三属性耐性は意味がない。完全な無敵になったわけではない。

 だが、この硬さは圧倒的なアドバンテージだ。

 

 試しに、ロングソードを一度振ってみる。

 さっきより、明らかに剣の軌道が速い。腕力が上がったわけではない。剣が軽くなったわけでもない。ただ、魔素の補助によって攻撃動作そのものが加速されている感覚だ。

 

「……なるほど」

 

 隼人は小さく呟き、左腕の黒銀のガントレットを見つめた。

 手元に残る、消えたオーブの感覚。

 そして、《運命の天秤》。

 

 ノーマルをマジックにするはずのアイテムが、ユニークを生成した。

 それも、要求Lv1の枠組みを逸脱した国宝級の代物を。

 

 偶然か?

 一度だけなら、その可能性も捨てきれない。

 だが。

 

「……本当に傾くのかよ」

 

 隼人は、誰にも聞こえない声で笑った。

 

「この天秤」

 

 これが《運命の天秤》の効果だと断定するには、まだ早すぎる。何を代償にしたのかも分からない。

 もっと検証が必要だ。

 だが、そのためのチップ(アイテム)なら、これからいくらでも手に入る。

 

【視聴者:167】

 

 コメント欄ではクリップ動画が作られ、外部への拡散が始まっている。

 

 新規:リンクから来た

 新規:このJOKERって奴?

 名無し:そう

 新規:今日登録したLv1ってマジ?

 名無し:本人のカード表示だとマジ

 

 JOKERという名前が、初めて表の世界で認識され始めていた。

 だが、隼人の思考はすでに別の場所にあった。

 視聴者数など関係ない。今優先すべきは、このダンジョンからの生還だ。

 

 洞窟の奥から、再びゴブリンの声が響いた。

 今度は一体ではない。「ギャッ、ギャッ」という複数の声。

 

 隼人は顔を上げ、剣を構え直した。

 左腕には【万象の守り】。HPは161。

 だが、剣術は素人のままだ。レベルも1。クラスすら選んでいない。

 強力な装備を手に入れただけで、本人の技量が劇的に向上したわけではない。

 

 名無し:まだ行くの?

 ベテラン探索者:調子乗んなよ。装備強くても死ぬ時は死ぬぞ

 名無し:ポータル忘れんなよ

 

 コメントが忠告する。

「分かってる」

 隼人は《万象の守り》を一度強く握りしめた。

 

「ただ――」

 

 洞窟の奥の暗闇を見据え、隼人の口角が獰猛に上がる。

 

「最低レートにしちゃ、ずいぶんでかい当たりが出たな」

 

 暗闇から飛び出してきた複数の影に向かって、隼人は笑いながら踏み込んだ。




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