猟犬は透き通る空の夢を見る   作:ピンカル

11 / 11
十話

翌日。私たちはヒマリの部室に集まっていた。 私、先生、エイミ、ヒマリの四人だ。

 

「さて。本日のミッションは、預言者『ケセド』に関するデータ収集です」

 

ヒマリがホログラムの画面を開きながら説明を始めた。

 

先日、私とエイミが出会った時、エイミはケセドと呼ばれる存在の調査をしていたらしい。

その調査自体はすでに完了しているため、今回はケセド本体が待ち構える区画に突入し、直接データを抜いてくるのが目標だという。

ただし、道中にはケセドが用意したであろう、オートマタの軍隊がいるはずなので、本体にたどり着くまでに戦闘は避けられないだろうとのことだった。

 

「シホの同行も許可します。ですが、現地では必ず先生か私の指示に従うこと。そして、基本的にはエイミのサポートに徹してください。いいですね?」

 

「了解した」

 

私は短く頷いた。

私にはまだ、キヴォトスでの実績がない。新入りが重要な仕事を与えられないのは当然のことだ。ヒマリたちに私の価値を示すため、これが実績作りのための仕事なのだと理解して、私は密かに気合を入れた。

 

   ◆

 

ブリーフィングが終わった後、私たちは『廃墟』と呼ばれる場所に到着した。

たしかに廃墟みたいだなと思っていたけど、まさかそのままの名前になっているとは思わなかった。どうもこの場所は謎が多いらしく、明確な地名がないまま廃墟と名前がついて、そのまま定着したんだとか。

 

廃墟に到着してからは、エイミを先頭に私、先生の順番で進んでいく。

数日前に目を覚ました場所なのに、なんだかとても懐かしい気がする。先生は戦えない普通の人間なので、一番後ろの安全な位置を歩いている。

 

三人で警戒しながら歩いていると、建物に大きな穴が開いている場所に着いた。エイミが言うには、ここがケセドがいる場所の入口らしい。

 

『こちらヒマリです。無事に入口までたどり着けたようですね。通信に問題もないようなので、これよりケセドの調査を開始します。まずはケセド本体がいる最奥の区画を目指してください』

 

「うん、わかった。じゃあ、これから突入するけど、みんな問題ない?」

 

通信機からヒマリの声が聞こえて、作戦の開始が告げられる。

突入前に、エイミがみんなの状態を確認する。

 

「問題ない。大丈夫」

 

"私も大丈夫だよ"

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

私と先生の準備ができていることを確認すると、エイミを先頭に廃墟の奥へと侵入する。

中に入ると、そこは入り組んだ通路になっていて、工場とはまた違うような雰囲気をしていた。あたりを見渡すと、壁や天井には照明もついている。どうやら廃墟といっても、場所によってはきちんと電気が通っているみたいだ。

 

しばらく道を歩いていると、正面からくるオートマタの群れと遭遇した。

よく見てみると、私がここで目を覚ました時に倒したのと同じ形だ。どうやらあれが、ケセドの軍勢らしい。

 

「前方に敵影確認。対処してくるね」

 

敵が見えたとたん、エイミが前に出てオートマタに接近する。

相手もこちらに気がついたようだが、それよりも先にエイミが持っていたショットガンを発砲する。何発かの重い銃声の後、オートマタたちはあっさりと壊れて動かなくなった。

その戦いぶりを見て、出会った時にも感じたけど、やっぱりエイミは強いのだと思った。

 

それからしばらくは目的地に向かって進んで、接敵すればエイミが対処する形で進んでいった。

だけど、奥に進むにつれて、次第にオートマタやドローンの数が増えてきた。今はまだ大丈夫そうだけど、エイミ一人に任せておくのは大変そうだし、私も戦った方が効率がいいだろう。

 

「ヒマリ、先生。エイミをサポートしたいから、援護射撃を許可してほしい」

 

『……そうですね。敵の数も増えてきていますし、ひとまず援護のみ許可します。もし直接加勢に行く必要が出たら、追って指示しますからね?』

 

「了解」

 

私はアサルトライフルを構え、エイミの邪魔にならない位置から敵を的確に撃ち抜いていく。

いつもは私がエイミの立ち位置にいることが多かったから、後ろから援護する感覚は何だか新鮮だった。

そのまま二人で敵を殲滅して、戦闘が終了する。

 

「シホ、ありがとう。すごく動きやすくなった」

 

『……さすがは傭兵と言うべきでしょうか。無駄撃ちが全くありませんね。これは少し、シホの評価を改める必要がありますね』

 

エイミから褒められ、通信越しにヒマリも感心したような声を出す。

実力が認められたようで、少し嬉しい。

 

それからはエイミが前衛で、私が援護する形で進軍を続けていった。

そのまましばらく進んでいくと、ひときわ大きな扉の前でエイミが立ち止まった。どうやら目的の場所まで着いたらしい。

 

『到着しましたね。ケセドの反応は、この大きな通路の奥から検知されています。いったん休憩して、体制を整えてから突入しましょう……?』

 

ヒマリからの通信が入って一息つこうとした時、目の前の扉が勝手に開きだした。

そして、その通路の奥から、今までとは比べ物にならない数のオートマタとドローンが押し寄せて来るのが見えた。

 

『なるほど、敵もこちらの動きは把握しているということですか。エイミ、行けますか?』

 

「……あー、ちょっと数が多すぎるね。これじゃあ、先生を守り切れないかも」

 

いつも落ち着いているエイミが、少し焦ったような声を出した。

たしかに、エイミ一人ではあの敵の量を食い止めることは難しいだろう。私も援護だけでは、あの数の敵を後ろに通さないのは厳しい。

だから、私も前に出て、エイミと一緒に前線で戦う必要がある。

 

「私も前に出る。加勢の許可を」

 

"……ヒマリ、どうする?"

 

私の提案について、先生がヒマリに確認を取ると、ヒマリが少し悩んでから口を開いた。

 

『……先生、ここで押し切られる方が危険です。仕方ありません……シホ、エイミと一緒に前線に向かってください』

 

「了解。出る」

 

"わかった、私もサポートするよ"

 

許可が出た瞬間、私は頭の中のスイッチを切り替えた。

床を強く蹴って、急加速する。両手のアサルトライフルを連射しつつ、一気に敵の集団へ近づく。

 

敵がこちらに気がついて照準を合わせるのが見えると、敵の攻撃が飛んでくる前に、再び床を蹴って横へ急加速。

私が元いた場所を弾丸が通り過ぎるのを横目に、敵の集団を中心に、円を描くように旋回移動する。

 

弾丸が発射される瞬間を予測して、床を蹴って急加速。

自分の移動を予測されないように、不規則に左右の移動を切り替えながら、両手のアサルトライフルを使って敵の集団を減らしていく。

エイミも同じく前線でショットガンを構え、私の動きに合わせるように一緒に戦ってくれる。

 

「そんな動きしながら、よく敵に弾を命中させられるね」

 

『シホは、前の世界ではロボットに乗って戦闘していたと言っていましたが。なるほど、人間同士の戦闘のように、遮蔽などが活用できない戦闘では、このような動きが理にかなっているのですね』

 

私の戦い方を見て、エイミが驚いた声を上げ、ヒマリは通信機越しに納得していた。だけど、一番驚いていたのは私の方だった。

 

私の頭の中――視界の端に、なぜか先生からの情報が直接送られてきているような感覚があった。

両手の残弾数。どこから敵の攻撃が飛んでくるかという危険予知。それが手に取るようにわかる。

 

これは、ルビコンでACに乗っていた時に見ていた表示と同じだ。どういう理屈でこれが見えているのかはわからないけど、先生が指揮をしてくれるおかげなのだろう。前の世界にいた時と全く同じ感覚で戦えている。先生は戦えなくても、指揮官としての能力は一流らしい。

 

私とエイミの攻勢により、第一波の敵はあっさりと撃破できた。そのまま出てきた第二波も二人で突破し、私たちはついに一番奥の大きな部屋に到達した。

 

そこには、部屋の奥に陣取る巨大な機械の塊――預言者『ケセド』の本体があった。

周りには、先ほどまで相手をしていたものと同じオートマタとドローンが無数に待機していた。

 

『みなさん、ここからが本番です。ケセドの裏にある端末に、エイミに渡した調査用の機械を設置して、データが集まるまで少し待ってから退却する必要があります』

 

ヒマリが作戦を伝える。

 

『エイミが機械の設置と操作、そしてその間の防衛を担当してください。シホは、敵の注意を引きつける陽動をお願いします』

 

「了解。作戦を開始する。……けどその前に、少し動いたら暑くなってきたから、上着、脱いでもいい?」

 

『ダメに決まっているでしょう。先生やシホもいるのですよ? 終わるまでは我慢してください』「うーん……しょうがないか……」

 

エイミは少し残念そうに肩を落として、機械の様子を確認する。

二人のやり取りの間に、私は弾倉を新しいものに替えた。まずは雑魚を散らして、エイミの道を作る。

 

「私が先に出る」

 

私は床を蹴り、ケセド本体に向かって突撃した。

それと同時に、大量のオートマタとドローンが接近してくる。私は両手のライフルで前方の敵を蹴散らし、空いた中央の道をエイミが強行突破していく。

 

エイミが裏の端末に到着したのを確認し、私はケセド本体と周りの雑魚に対して攻撃を加えた。

無数に飛んでくる敵の弾を最小限に抑えるため、大きなケセド本体を遮蔽物として使いながら、部屋全体を縦横無尽に動き回る。私が急加速で飛び回るたびに、敵の注意が私に向く。

 

しかし、雑魚は倒しても倒してもどこからともなく湧いてくるため、どうしても何体かはエイミの方へ向かってしまう。だが、エイミは端末の前から動かず、近づく敵だけを的確にショットガンで吹き飛ばして、定点防衛に徹していた。

 

激しい戦闘が数分ほど続いた後に、ヒマリからの通信が飛び込んできた。

 

『――データが揃いました! 二人とも、撤退を開始してください!』

 

「わかった。エイミ、先に行って」

 

「了解。シホも気をつけて」

 

私は下がるエイミを狙う敵を撃ち落とし、サポートする。下がるエイミが、先生の待つ部屋の出口に到達したのを確認してから、私も大きく床を蹴って急加速し、部屋から脱出した。

 

   ◆

 

「……ふう。とりあえず、ここまで来れば安全だね」

 

敵の追ってこない安全な場所まで避難して、エイミが息を吐いた。

 

"二人とも、よく頑張ったね! ケガはない?"

 

先生が私たちの元へ駆け寄ってきて、無事を確かめるように体を確認する。

 

「うん、大丈夫。今回はシホもいたから、いつもより効率的に終わらせることができたしね」「私も問題ない」

 

私は自分の身体と武器を確認して、特に問題ないことを先生に伝える。

少し疲れたけれど、依頼された仕事はきちんとこなせたはずだ。

 

私が一安心していると、通信機からヒマリの声が聞こえてきた。

 

『ふふっ、二人ともお疲れ様でした。無事にケセドのデータを回収できて何よりです。先生の指揮も完璧でしたね』

 

"ヒマリもオペレーションありがとう"

 

『ええ。……ただ、申し訳ないのですが、このままシホの調査もついでに終わらせておきたいので、もうひと踏ん張りお願いします』

 

ヒマリの言葉に、私は少し考えた。

ここから一番最初の場所、つまり私が目を覚ました区画に向かうということらしい。連続ミッションということだ。

 

「……相変わらず、部長は人使いが荒いね。一回帰ってからでもいいんじゃない?」

 

エイミが、少し呆れたような声でこぼす。

 

『そんなこと言わないでください。これも特異現象捜査部の優秀な実働担当である、エイミへの深い信頼の証ですよ』

 

「……いっつも都合のいいことばっかり。まあ、このまま調査したほうが効率的なのは確かだね」

 

エイミは小さくため息をついた。

 

『シホはどうですか? 続けての調査になりますが、体の具合は問題ありませんか?』

 

「問題ない。残弾も十分あるし、身体の調子もいい。次の仕事もいける」

 

私は手元のライフルと身体の調子を確認しながら、はっきりと答えた。

前の時も、突然別の依頼が来たり、想定外の敵と戦うこともあったし、これぐらいなら問題ない。

 

私が答えると、隣で様子を見ていた先生が優しく微笑んだ。

 

"じゃあ、行こうか。二人とも、無理はしないようにね"

 

「了解」

 

「わかった。じゃあ、案内するよ、シホ」

 

先生の言葉に頷き、私たちはエイミの先導で、私が数日前に目覚めたばかりの区画へと出発した。

 




廃墟でのケセド戦ですが、イメージとしては総力戦のケセドの道中からボス部屋での展開をベースに描写しています。

原作のゲーム内では、具体的な戦闘シーンや作戦行動はプレイヤーの操作に依存する部分が多いため、本作でヒマリが指示した「端末を設置して、防衛しながらデータを収集する」という作戦の流れは、独自設定となります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン(作者:sepa0)(原作:ブルーアーカイブ)

「レイヴンの火」ルートの621が、キヴォトスのアビドス自治区に漂着して拾われるお話です。621はキヴォトスの環境に適応した姿になっています。▼私の読みたいと思ったものを、書きました。▼ずっと私の頭の中にイメージだけあったものを、表現しました。▼思い残すことはありません。ようやくまともに眠れます。▼拙い出来でしょうが、楽しんでいただけたら幸いです。


総合評価:12925/評価:8.99/連載:28話/更新日時:2026年08月21日(金) 18:30 小説情報

先生がいないキヴォトスから来た一般生徒(覚悟ガンギマリ)(作者:かまくら御前)(原作:ブルーアーカイブ)

 ▼唐突だった、世界は紫光に包まれ天国は地獄と化した。光に包まれた生徒は我を失い、殺戮の限りを尽くすだけの人形となった。▼1日を超えるため、屍を増やし思いを託されその地獄を生きる。▼大切だった人達はいなくなり、終わらぬ絶望と孤独に苛まれる。何時だったか……心は凍り、生に意味を見いだせなくなる。▼ ▼そして、最後は頭を貫かれて意識は闇に呑まれた……はずだった。…


総合評価:806/評価:7.94/連載:10話/更新日時:2026年07月24日(金) 23:24 小説情報

KSS警備学園奮闘記~うちの学校が廃校になりそうなので、先に独立することにしました~(作者:卵パサパサ感)(原作:ブルーアーカイブ)

 連邦生徒会長の失踪により責任者を失い、事実上機能を停止したSRT特殊学園。そんな状況を憂い、一人の生徒が行動に出る。▼ 樋渡カナメ―――SRTの空挺専門部隊「OWL小隊」を率いる、前世の記憶を持つ少女。彼女は小隊員と有志を率いてSRTを離反し、新たな学園を創設した。▼ その名は「KSS警備学園」。SRTの技術と理念を受け継いだ、民間軍事会社としての性質を持…


総合評価:2511/評価:8.77/連載:45話/更新日時:2026年06月01日(月) 19:27 小説情報

『ミレニアム治安維持局局長』、空崎ヒナ(作者:無名のカヤ推し)(原作:ブルーアーカイブ)

 ゲヘナでの日々の業務や重責で限界が来てしまった空崎ヒナ。そんな彼女がある出来事がキッカケで、ミレニアム(超ホワイト)へと転校するお話。▼ なお、ゲヘナ勢の多くは曇るものとする。


総合評価:1964/評価:8.37/連載:19話/更新日時:2026年08月29日(土) 18:43 小説情報

ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線(作者:伝説の超三毛猫)(原作:ブルーアーカイブ)

タイトルの通りです。▼思いついてしまったので、ここで供養します。▼続きは私より詳しい方にお任せしたいと思います。▼〜あらすじ〜▼その少女は、影時間を駆け抜けた。▼先輩たちの背を見て、仲間達と日常を憩い、機械の少女と人を語らい………そして、ある少年と、絆を紡いだ。▼しかし。彼の旅の終わりを見届けた少女は……悲しみを共有することも、仲間たちの心の中を知ることも許…


総合評価:2131/評価:7.93/短編:18話/更新日時:2026年08月08日(土) 15:47 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>