猟犬は透き通る空の夢を見る 作:ピンカル
この話は再編集して予約投稿したものになります。
次の日。再び特異現象捜査部の部室に集まり、四人でのブリーフィングが始まった。
私は前日の宣言通り、ガンショップで新しい武器を購入していた。敵の数が多い時に弾幕を張れるように、店で一番装弾数が多い大きなマシンガンを一丁だけ買ってきたのだ。
だけど、ブリーフィングを始めようとした全員の視線が、なぜか私の持つ武器に集まっていた。
「……シホ。たしか昨日、武器を買いに行ったはずですよね?」
「エイミから聞いたお店で買ってきた。何か変?」
「いや、その手にあるマシンガンはいいんだけど……その背中に背負ってるのは何?」
エイミが指差したのは、私の背中からスリングで下げられている一本の長い鉄パイプだった。
「近接武器。弾を節約したい時とか、接近戦になった時に使う」
"ええ……"
私の説明を聞いた先生が、顔を引きつらせて困ったような声を出す。
武器のつもりだったのに、なぜ先生がそんなに困惑しているのかわからなかった。
「先生、勘違いしないでほしいけど、キヴォトスでも鉄パイプは武器扱いにならないからね」
「でもガンショップで、オートマタ相手にも使える近接武器がないか聞いたら、『ホームセンター』に行けばあるって言われた。だからそこで買ってきた」
"ホームセンター……"
「何に使うか聞かれたから、武器にするって答えた。すごく変な顔されたけど、売ってくれた」
それを聞いて、ヒマリとエイミは頭を抱えるようにして困った表情をした。
「……それはそうでしょう。ホームセンターは武器を扱う店ではありませんし、そもそも鉄パイプは武器ではありませんからね」
「たぶんガンショップの店員さんも、冗談のつもりで言ったんだろうけど……シホは真に受けちゃったんだね」
「そんな……」
てっきり立派な武器だと思っていたのに、違うらしい。たしかに敵を斬ることはできないけど、頑丈そうだし使えると思ったのに。私はちょっとショックを受けた。
「……シホの近接武器については、また改めて検討する必要がありそうですね。さて、気を取り直して、今日の調査について連絡します」
ヒマリがホログラム画面を開き、ブリーフィングが再開された。今日の任務は、昨日の調査によって判明したデカグラマトンらしき救助信号の調査に向かうこと。
廃墟の探索から始めるため、しばらく時間が掛かるだろうけど気長にいきましょうと言われ、私たちは部室を出発した。
◆
現場の廃墟に到着してから、ヒマリの案内でしばらく奥へと進んでいく。迷路のような通路を抜けると、いつの間にか地面が一面水浸しになっている広い場所に到着していた。
ここまで来る途中に、何度かケセドが生み出したものとは違う形のオートマタと接敵した。
ケセドの時が特殊だったみたいで、道中に出くわす敵はそんなに多くなく、数体、もしくは単独でうろついているだけだった。
出会い次第、私とエイミで撃破して進んでいったが、ふと、なんでケセドが生み出した兵器以外がいるのかが気になった。
「エイミ。なんでここには、ケセドの時とは違うオートマタがいるの?」
「えーっと……部長、なんで?」
『私もはっきりと理由を知っているわけではありません。そもそも、ここは研究や調査が禁止された区域ですので、こんな奥まで進んだのも今回が初めてです』
通信機越しに、ヒマリが少し考えるような声を出した。
『あくまで私の持論ですが……ここは、キヴォトスから忘れ去られたものが集まる場所です。これらのオートマタは、どこかで忘れ去られたキヴォトスの兵器なのかもしれません』
「つまり、野良のオートマタってこと?」
『言い得て妙ですね。その通りです』
ロボットが野良でうろついているなんて、ルビコンでは考えられないことだった。
そもそも、向こうのロボットは操縦者がいないと動かせないし、その辺に落ちているのは、だいたい破壊された残骸だけだ。
結局、うろついている理由はヒマリにもはっきりわからないらしい。ひとまず今は、敵がどこからともなく現れる危険な場所だということだけ覚えておくことにした。
そして探索を再開しようとしたその時。遠くから、大きな音を立てて何かが近づいてくるのが聞こえた。
エイミと先生がビクッと身構える中、私だけは特定の方向を注視して、静かにマシンガンを構えていた。
私は、これと似たような音を聞いたことがある。巨大なロボットが、地面を高速で滑りながら移動してくる時の音とよく似ていた。
地鳴りのような音が一段と大きくなったその時、通路の奥から巨大な四脚のロボットが勢いよく滑り込んできた。
『な、なんですかあれは……!?』
"これは……!"
ヒマリと先生が、その巨大な姿を見て驚愕の声を上げる。
「先生、私の後ろに!」
突然現れたロボットを前に、エイミがすぐさま先生をかばうように前に出た。
私は滑り込んできた四脚のロボットを観察した。
大きさで言えば、私が前の世界で戦った四脚のMTによく似ている。だけど、足回りの動きや武装を見る限り、移動力や火力は
敵はこちらに照準を向けていて、いつでも攻撃に移れる態勢にいた。
先生がここにいると危ない。エイミが先生を連れて退却するまで、私が注意を引く必要がある。そう考えて、私は即座に行動に移す。
「私が注意を引く。エイミは先生を安全な場所へ連れて行って」
『シホ!? うかつに戦ってはいけません、まずは退却を……!』
ヒマリが通信機越しに制止する声を上げたが、私はそれを無視して四脚のロボットに向かって突撃した。
敵は急接近する私に気づくと、前面に付いているガトリングを回して激しい弾幕を張ってきた。私は急加速で弾幕を左右に回避しながら、四脚の大きな足元へと潜り込む。
そのまま背中の鉄パイプを抜き放ち、思い切り四脚の関節を殴りつけた。
ガィンッ!という重い金属音が響き、四脚が体勢を崩してぐらつく。
怯んだ敵の裏を取りながら、私は本体の装甲を二、三回連続で殴りつけ、最後に本体を強く蹴り飛ばしながら後方へ大きく跳躍した。
距離を取りながらマシンガンを構え、弾幕を張り直してさらに敵の注意を引き付ける。狙いを完全に私へと定めた四脚は、距離を取る私を執拗に追いかけ始めた。
◆
「……シホ、すごい」
エイミはそこまでの一連の流れを見て、シホが思ったよりも戦闘に慣れていることに驚愕していた。
私も、彼女が素早く動けることは前回の調査でわかっていたけど、自分よりもずっと大きい相手に、ああも見事に立ち回れるものなのかと感心してしまった。
だけどそれ以上に、私のために生徒を危険に晒すわけにはいかないという焦燥感が大きかった。
「でも、なんで一緒に戦ってくれなかったんだろう」
『おそらくですが、エイミが先生をかばう立ち回りをしたのも関係しているでしょう。シホは、先生が銃弾一発で倒れてしまう、か弱い存在であると認識していますから』
ヒマリにそう表現されて申し訳なくなる。たしかに、私は生徒たちほど頑丈ではないが、そのせいでシホに余計な気を使わせてしまった。
"私は大丈夫だよ。ビナーの時も一緒に戦ったしね。彼女一人じゃ危ないから、早く援護に行こう"
「うん、わかった……部長もいい?」
『未知の対象に情報もなく攻撃を仕掛けたくはないのですが、既に仕掛けている以上、そうも言ってられません。エイミ、すぐに援護に向かって、隙を見てシホを連れて撤退してください』
「了解。行くよ、先生」
ヒマリのその言葉に、エイミは力強く頷いて、すぐさま二人でシホの援護に向かって走り出した。
◆
二人からある程度距離を離した後、私は少し広い空間に出た。そこで立ち止まり、追いかけてきた四脚と戦闘を続ける。
四脚は距離を離そうとする私に向かって、今度はミサイルを大量に撃ち込んできた。
(背中にミサイルあるの、いいなぁ)
前の世界でよく使っていたミサイル兵器を思い出して、そんな場違いなことを思いながら、私は急加速でミサイルの雨を回避した。
そのまま四脚を中心とした円運動をしながら、つかず離れずの距離でお互いに激しい弾幕を張り合う。
可能なら撃破までしておきたかったけど、相手の弾幕が予想よりも厚くて、簡単にはいきそうになかった。
先生を逃がすために注意を引いただけだから、隙を見て撤退しようかと考えていると、エイミと先生が私に追いついてきた。
まさか追いかけてくると思っていなかったけど、四脚の方もエイミを確認したのか、こちらへの攻撃の手が緩む。
「追いついた。シホ、援護するよ!」
エイミが四脚に急接近しながらショットガンを放ち、敵の注意が一瞬だけエイミに向く。私はその隙を見逃さず、再び鉄パイプを構えて四脚の側面へ急接近した。
四脚はエイミではなくこちらを危険と判断したのか、カメラアイと銃口はエイミに向けられず、私に向けたまま弾幕を展開した。
それを確認した私は、即座に急ブレーキをかけて弾幕を躱しながら後ろに下がる。
鉄パイプを持って急接近したのは、近接攻撃を仕掛けるふりをして、エイミから照準を外すためのブラフだった。
エイミがその隙を突いて接近し、四脚の装甲の隙間に弾を叩き込む。撃たれた四脚は体勢を崩し、大きく怯む。
私はすかさずエイミとの射線が対角線になるように移動して、十字砲火になるように弾幕を張った。
体勢を大きく崩したまま被弾した四脚は、背中からワイヤーのようなものを後方の壁に射出し、私たちから一気に距離を取った。私とエイミを直線状に並べるような位置取りだ。
強力な攻撃が来ると判断して私が身構えると、敵はさらに後方にワイヤーを射出して、そのまま奥の通路へと素早く撤退していった。
「……逃げた?」
ひと段落付いたと思い、私は鉄パイプを背中にしまってエイミと合流した。
"シホ、大丈夫!? 怪我はない?"
先生が駆け寄ってきて、私の状態を心配そうに確認する。
「何発か当たったけど、問題ない」
『シホ! 無茶をしないでくださいと言ったはずですよ!』
「……ごめん。でも、似たような奴と戦ったことがあったから、大丈夫だと思った」
通信機越しに怒っているヒマリに、私は素直に答えた。自分より大きい相手は戦い慣れていたし、あの程度なら問題ないと思っていたのも本当だからだ。
「とにかく、あれは撃退したから、いったん撤退しよう……って、あれ?」
エイミが言いかけた時、後退したはずの四脚が、通路の奥から再び現れた。
今度はガトリングとミサイルではなく、頭頂部に巨大な主砲を携えている。
……どうやら、敵もアセンブルを換装してきたらしい。
『……いけません! 三人とも、すぐに撤退してください!』
あの主砲は、前のガトリングとは比べるまでもなく高威力だろう。さすがに、あれを受けて無事でいられる自信はない。それに、こんなにすぐ換装できるということは、近くに拠点があるはずだ。
ヒマリの切羽詰まった指示を聞き、私たちは素直にその場から撤退した。
なぜかはわからないけど、あの四脚はそれ以上私たちを追ってくることはなかった。