猟犬は透き通る空の夢を見る 作:ピンカル
再び廃墟の水没地区にやってきた私たちは、今度は隠れずに堂々と奥へと侵入していた。
わざとケテルに見つかっては少しだけ交戦して、相手が兵装や戦い方を変えてくる前に撤退する。今はその作業を繰り返して、ケテルの兵装や復旧能力のデータを集めているところだ。
次のポイントへ移動する道中、エイミが私の背負っている武器を見て口を開いた。
「よくそんなに武器を使い分けられるね……」
"今度の武器は、シホより大きいもんね"
今回、私が新しく用意してきたのは、狙撃用のスナイパーライフルだ。店員に、一番威力が高いライフルが欲しいと言ったら、これを紹介してくれた。戦車などを撃ち抜くためのかなり大きな対物用のものらしい。
先生の言うように、この銃は私の身長より大きいから使いづらいけど、ケセドに十分なダメージを与えられたので、威力は申し分なかった。
もちろんそれだけではなく、サイドアームとしてアサルトライフルと、前回買った鉄パイプも一緒に持ってきている。
「慣れたら、エイミもできると思う」
「そうかもしれないけど……やっぱり私は、一つの武器で色んな戦い方ができるようにするほうがいいかな」
エイミは自分の持っているショットガンを撫でながら答えた。
たしかに、特定の武器を軸として戦うやり方も悪くない。私自身にも、パルスブレードとレーザーハンドガンという一番得意な装備構成があるから、エイミのスタイルも否定はしなかった。
そんな話をしていると、通信機からヒマリの声が聞こえてきた。
『ケテルの反応を検出しました。まもなくケテルと接敵するので、構えてください』
その通信から数秒後。大きな音を立てて、通路の奥からケテルが滑り込んできた。
今度のケテルは、ガトリングとミサイルを搭載したものではなく、中央に巨大な主砲が載せてあるタイプになっていた。
さっきまでの交戦では、エイミが前線を張り、私が遠くからスナイパーライフルで狙撃して隙を作るスタイルで戦っていた。
敵はそれに対応して、遠距離からでも私たちを吹き飛ばせるように、あんな大きな大砲を積んできたのだろう。
「先生、下がってて!」
"うん、二人とも気をつけて!"
エイミが先生をかばうように前に出る。私もその姿を見て、スナイパーライフルをその場に
以前見たときから、あの長距離砲相手に距離を離して戦うのは危険だと考えていた私は、今回は遠距離と近距離の両方で戦えるように武器を用意してきたのだ。
「エイミ、準備できたから先に行く」
「えっ!? シホ、スナイパーライフルはどうしたの?」
「そこに置いてある」
エイミがさっきまで後ろにいたはずの私を見て困惑する。
ケテルが大砲の射撃を開始しようとしていたので、私は武器を換えたことだけを伝えて、一気にケテルとの距離を詰める
私はケテルの主砲を掻い潜り、真っ先にケテルの足元に潜り込んで下から鉄パイプで関節に打撃を加える。
大きな大砲を積んでいるせいで、小回りが利かないケテルはたまらず距離を置こうとする。だが、その退避先には、後から追い付いてきたエイミが待ち構えていて、至近距離からショットガンを叩き込んだ。
今度は近くにいるエイミを攻撃しようとケテルが向き直るが、その隙に私がアサルトライフルを撃ち込む。
接近戦に持ち込まれたケテルは、巨大な主砲を撃つ暇も与えられないまま、すぐに後方へとワイヤーを射出して撤退していった。
今回は、今まで戦っていたガトリングとミサイルの時よりも、明らかに早い撤退だった。
私がスナイパーライフルを持っていたから、それに対応するために長距離用の武装に換装してきたのだろう。だけど、私がすぐに武器を捨てて近接戦を仕掛けたため、思ったような成果が得られずに逃げ帰ったのだろう。
「なるほど……だからアサルトライフルも持ってきてたんだね。武器を途中で捨てて、敵に合わせて持ち替えるなんで発想はなかったかも」
"でも、相手に合わせて武器を変えながら戦うなんて、めちゃくちゃロマンあるよね!"
エイミと先生が、駆け寄りながら先ほどの私の
私とケテルが、お互いに有利を取れるように装備を換え続ける姿は、同じ銃を使い続けるのが当たり前なキヴォトスの人たちからすれば、珍しく見えるらしい。
「……別に、そんなにすごくない」
私は照れくさくなって顔を伏せ、あいまいな返事をしながら、さっき投げ捨てたスナイパーライフルを拾いに行った。
先生たちが後ろでニコニコしているのがわかって、なんだか落ち着かなかった。
それからしばらく、ケテルと交戦を何度か繰り返した後、ヒマリから、ケテルの復旧能力に関する十分なデータが集まったと通信が入り、私たちは撤退することになった。
◆
部室に戻ると、出迎えてくれたヒマリがねぎらいの言葉をかけてきた。
「皆さん、お疲れ様でした。おかげさまで、ケテルの行動パターンと復旧性能に関する十分なデータが集まりました」
「それなら、次の作戦は立てられそう?」
「もちろんです。集まったデータをもとに『ケテル無力化作戦』を立てることができます」
ヒマリは自信満々に胸を張って見せる。
「無力化……。でも、ケテルを倒しても、基地ですぐに復旧するんじゃなかった?」
「ええ、その通りです。ですから、ケテルを一時的に無力化した後、復旧される前に廃墟の奥
――研究地区の調査を一気に終わらせます」
ヒマリの説明に、エイミが少しだけ顔をしかめる。
「つまり、ケテルと戦ってから、そのまま奥の調査もするってこと? それだと、かなりの長丁場になりそうだね」
「はい。ですから、まずは各自しっかりと休息をとって、準備ができ次第作戦を開始するようになります」
「わかった、じゃあ私はちょっと休むね。シホはどうする?」
エイミから聞かれて、私は自分の装備を確認した。今のところ、マシンガンとスナイパーライフル、そして鉄パイプがあれば十分戦える。弾薬もまだ余裕がある。
私は武器については今あるもので問題ないと判断し、ソファに座って少し休むことにした。
「大丈夫。私も休む」
「そっか。じゃあ一緒に休もうか」
エイミも私の隣に座って休憩するみたいだけど、ふと先生の方を見て口を開いた。
「ねえ、先生。長丁場になるって言ってたけど、体力とか大丈夫? 先生は私たちみたいに頑丈じゃないんだし、無理しないでね」
"ありがとう、エイミ。でも私は大丈夫だよ。生徒のみんなが頑張ってくれるんだから、大人の私が音を上げるわけにはいかないからね"
先生はエイミを安心させるように、優しく笑って見せた。私から見ても先生はか弱い人間だけど、生徒を心配させないように振る舞う姿は、指揮官としてとても立派だと思う。
「それでは、休憩後に具体的な作戦内容についてブリーフィングを行います。今はしっかり休んでくださいね。一旦解散としましょう」
ヒマリのその言葉で、私たちは作戦に向けてそれぞれ身体を休めることにした。
◆
しっかりと休息をとった後、ブリーフィングを行った私たちは廃墟の水没地区に到着した。ヒマリのオペレーションで、作戦開始地点につく。
『さて、準備はよろしいですね?』
通信機からヒマリの声が聞こえる。
「うん、バッチリ」
「問題ない」
『ケテルが到達するまでまもなくです。遭遇し次第、すぐに作戦通りに交戦を開始します。うまく行けば、少なくとも十二時間はケテルを無力化できるはずです』
「その後、ケテルが守っていた廃墟の研究地区に進入……」
『はい、その通りです』
作戦の最終確認をしていると、遠くからあの地鳴りのような接近音が聞こえてきた。
『来ましたね。では始めましょう』
"……よし!二人とも行くよ!"
「「了解!」」
ケテルが姿を現した。今回の兵装は、最初に戦った時と同じガトリングとミサイルだ。
作戦通り、エイミがケテルに接近する。私はエイミの後ろに下がり、遊撃のポジションについた。今回の私の装備は、マシンガンとスナイパーライフルだ。
エイミは瓦礫や建物を遮蔽物として使いながら、素早く動き回ってケテルを攻撃する。
私はエイミに敵の注意が行き過ぎないように、マシンガンとスナイパーライフルで牽制射撃を行った。
ケテルもガトリングとミサイルで激しく応戦してくる。
「じゃあシホ、よろしくね」
「わかった」
しばらく撃ち合いが続いた後、エイミは私に一声かけて建物の陰に隠れた。
それを確認した私は、持っていたスナイパーライフルをその場に置き、マシンガンだけを構えてケテルを攻撃しながら接近した。
作戦通り、ケテルは私に狙いを定める。私はケテルを中心とした円運動をしながら、お互いに激しい撃ち合いを始めた。
少しの間撃ち合いを続けていると ――ケテルの背後から、スナイパーライフルの鋭い弾丸が飛んできて、装甲を撃ち抜いた。
「うん。思ったよりいいね、これ」
突然の衝撃に、ケテルの動きに動揺が見える。
ケテルが後ろを振り向くと、そこには私が置いたスナイパーライフルを構えているエイミの姿があった。
私はその隙を逃さず、マシンガンでケテルに攻撃を加える。
実は作戦の段階で、前衛と後衛を入れ替えるために武器の交換をエイミから提案されていたのだ。
エイミはスナイパーライフルなら多少扱える自信があると言っていたので、私はその作戦を受け入れていた。
思わぬ遠距離攻撃に怯んだケテルは、いつも通りワイヤーを射出して撤退を試みるようだ。ワイヤーが後方の建物に突き刺さり、ケテルが引っ張られようとした。
『――そうはさせませんよ!』
その直後、ヒマリが声を上げ、ワイヤーが撃ち込まれた建物が大爆発を起こして崩れ落ちた。爆発によりワイヤーが外れ、退却に失敗したケテルは大きく体勢を崩す。
先ほどエイミは、ただ建物の陰に隠れていたのではなく、ヒマリから提示されたケテルの退却予定ルートに爆弾を仕掛けていたのだ。
退却するそぶりを見せたら、即座に爆発させる手はずだった。
「予定通り。さすがだね、部長」
『当然です。超天才病弱美少女ハッカーの計算に狂いはありません』
そう言いながら、体勢を崩したケテルに対してエイミがスナイパーライフルで追撃を放つ。
ケテルは崩れた体勢を無理やり立て直しつつ、エイミに向かってガトリングとミサイルを一斉掃射した。
思ったよりも激しい攻撃に、エイミは再び物陰に隠れて回避する。エイミが隠れた後も、ケテルは体勢を立て直しきるまで、怒り狂ったように牽制射撃を続けていた。
――そんなケテルの真上から、今度は巨大な瓦礫を持った私が飛び降りる。
エイミとヒマリがケテルの注意を引いている間、私は『エイミが残したもの』を回収して、近くの建物に登っていた。
本当なら上から飛び降りるだけの作戦だったけど、建物にちょうどいい大きさの瓦礫があって、簡単に持てる重さだったから、ついでに攻撃に使うために一緒に飛び降りた。
高所から飛び降りた私は、重力に任せてそのままケテルに瓦礫をぶつける。激しい衝撃音が響き、せっかく立て直したケテルの体勢が再び大きく崩れる。
"うわっ!……びっくりした"
「うん。すごい音。……よくあんなもの持てたね」
二人が驚いた声を出したが、予想通りケテルには十分なダメージを与えられたみたいだ。
私はその隙を逃さずケテルの上に飛び乗り、ガトリングが狙えない死角に陣取った。
右手にはマシンガン。そして左手には、武器交換の時にエイミが隠れ場所に置いていったショットガンが握られている。
ケテルの装甲が薄い関節部めがけて、そのまま二丁の銃で集中砲火を浴びせた。
攻撃を受けたケテルは、私を跳ね除けようと大きく暴れ回る。
一瞬抵抗しようかと思ったが、予想よりも激しく暴れたため、振り落とされるより先にケテルの足元へと飛び降りた。
ケテルが再び体勢を立て直そうとしている隙に、私は後ろに回り込み、ケテルの後ろ足二つに『あるもの』を取り付ける。
そのままエイミの元に合流し、お互いの武器を再び交換しなおす。
体勢を立て直したケテルは、これ以上の戦闘は危険と判断したのか、再び退却するためにとワイヤーを出そうと身構える。
――その瞬間。ケテルの後ろ足二つが、激しい音を立てて爆発した。
『ふふ。そう何度も同じ手段では逃がしませんよ?』
先ほど私が足元に潜り込んで取り付けたのは、エイミが建物を爆破した時に使用したものと同じ爆弾だ。
退却させないために建物を爆破させた時と同じように、ヒマリがタイミングを見計らって起爆させたのだ。
爆発を受けたケテルは、何度もワイヤーを出そうとする仕草をするが、機構が壊れたのかワイヤーは一向に出てこない。
「ワイヤーの機構が壊れたみたい。チャンスだね」
「了解。援護する」
その隙を逃さず、今度はエイミが前線に出てショットガンを構え、私がスナイパーライフルで援護する、最初の陣形に戻った。
ケテルはもう応戦する余裕もないのか、私たちの攻撃を一方的に受けながら、背を向けて奥へと退却していった。
あれだけ損傷しているのにもかかわらず移動速度は速く、私とエイミは追撃をあきらめるしかなかった。
「逃げられた……作戦失敗?」
『いえ、逃がしてしまいましたが、ケテルには相当のダメージを与えられたでしょう。十二時間とは言わず、修復にはかなりの時間が掛かることが推察されます』
ケテルの損傷は予定よりも大きく、想定していた時間よりもかなり余裕ができたようだった。
「じゃあ、予定通り研究地区に?」
『はい。念のため十二時間を目安にして、研究地区に侵入し、中にあるはずのデカグラマトンの信号を見つけ出します』
「わかった。今夜は徹夜になりそうだけど、それだけあれば休憩もできそうだね」
『ふふ。これもシホのおかげですよ。……瓦礫と一緒に降ってきた時はヒヤヒヤしましたが』
……一応、指示では上から飛び降りて攻撃する事だったので、命令は破っていない。むしろ、一番いい結果を出せたと言っても良かったのではないだろうか。
でも、それを言い訳するとなんだか余計に怒られそうな気がしたので、私はヒマリから目をそらして何も言わないことにした。
『あら。……沈黙は金、と言いますが、その表情と仕草から考えていることがバレバレですよ?』
「……!?」
"シホって無表情だけど、意外とわかりやすいよね"
そんな、完璧に誤魔化せたと思ったのに。
あっさりと見破られてがっかりしている私を、先生とエイミが優しく慰めてくる。
そのまま一息ついた私たちは、予定通り研究地区に向かうことにした。