猟犬は透き通る空の夢を見る 作:ピンカル
見直しているつもりなのですが、私自身ケアレスミスが多いため、本当に助かります。
今更ながら、各話にサブタイトルを付けました。
話の区切りも近づいてきましたので、今後は章管理も導入していきたいと思います。
ホドを無事に撃退した私たちは地上に戻り、ヒマリたちと合流するため『ヴェリタス』と呼ばれていた人たちの部室へとやってきた。
部屋にはたくさんのモニターと機械が並んでいて、少し前までここで忙しくしていたことがわかる。
お互いに簡単な自己紹介をして、通信の向こうでヒマリが『チーちゃん』と呼んでいた人が、『
全員の自己紹介が終わり、一息ついたところでチヒロが口を開いた。
「ヒマリ、エイミ。それに……シホも。今回はホド撃退の協力、本当にありがとう。助かったわ」
チヒロはほっとしたように息を吐く。
「ホドが突然現れたこともそうだけど、それ以上にあのハッキングの速度と性能の高さには驚かされたわ。特異現象捜査部が居てくれなかったら、防衛システムを完全に奪われてどうなっていたことか……」
「大丈夫、慣れてるから」
エイミが淡々と気軽に返す。私は何て言えばいいのかわからなかったので、とりあえず無言でこくりとうなずいておいた。
「……チーちゃんたちヴェリタスも、よく持ちこたえてくれました。突然、部長代理なんて面倒な役目を押し付けてしまって、すみませんでしたね」
ヒマリがチヒロにねぎらいの言葉をかける。
「まぁ、色々と言いたいことがないわけじゃないけど……あれが、ヒマリが追っているっていう存在なのよね?」
「ええ、その通りです。あれが私たちが追っている『預言者』と呼ばれる存在の一つであり、それらを従える『デカグラマトン』という存在が有する脅威の一端です。今回私たちが撃退したホド、そして、アビドス砂漠で存在が確認されたビナー、それらを含めて合計十体の預言者が存在することが推察されます」
「ビナーとか、名前やデータで存在は知ってたけど……実際の預言者を見るのは初めてだったよ。だけど、あんな巨大でヤバいのが、まだ他にもいっぱいいるの……?」
赤色の髪をした人――『
「物理的な攻撃だけじゃなくて、まさかあんな高度なハッキングまで仕掛けてくるとは思わなかった……」
エナジードリンクを持った人――『
「ホドはもともと、ミレニアムの通信ユニットAI『ハブ』だったようですからね。だからこそ、ああいった電子戦の手段も持っていたのでしょう。他の預言者は、あのような情報戦は仕掛けてきませんでしたから」
「ということは、ヒマリたちは本当にあんな規格外のバケモノと何度も戦っているのね……」
チヒロが、驚きと少しの尊敬が混ざったような目をヒマリに向ける。するとヒマリは、ふふん、と得意げに胸を張った。
「もちろんです。キヴォトス随一の超天才清楚系病弱美少女ハッカーである、この私にしかできない仕事ですからね」
「ははは……」
「……」
チヒロが苦笑いして曖昧に答えて、エイミは何か言いたそうにヒマリを見つめている。
「うーん、部長のその自信満々なセリフも、なんだか久しぶりに聞いた気がするなぁ……」
ハレが少し懐かしそうに目を細めていた。
「それで……エイミのことは前から知ってたけど、もう一人のその子はいったいどうしたの? 少なくとも、ミレニアムの子じゃないみたいだけど……」
チヒロが私の方を見て、不思議そうに首を傾げた。
「彼女は今、ちょっと訳ありで特異現象捜査部で預かっているんです。でも、こちらの調査も一度区切りが付けられそうなので、落ち着いたタイミングで、これからミレニアムの生徒として過ごしてもらうつもりですよ」
「訳ありって……どこの学園の子かも分からないって、よっぽどじゃない? いったい何があったの?」
チヒロが深く踏み込んでくる。ヒマリは少しだけ言葉を濁した。
「……あまり詳しくは言えません。というのも、私自身も彼女と出会ったばかりで、彼女のことについてはまだはっきりと事情を知り得ているわけではないので……」
ヒマリの様子から、チヒロはヒマリが何かを隠しているということを察したようだった。チヒロが視線を先生の方へと向ける。
"大丈夫。シホは悪い子じゃないことは、私が保証するよ"
先生が優しく笑ってそう言うと、チヒロは先生の顔を見て、ひとまず納得したように「それならいいけど」と引き下がった。
「まあでも、ただモノじゃないよね。ホドの時だって、すごい戦い方してたし」
ハレが先ほどの縦穴での状況を思い返すように言うと、マキが勢いよく私に身を乗り出してきた。
「そうだよ! あの鉄パイプ、どこで買ったやつなのか教えてよ!」
「ガンショップの近くにあった、『マルバツホームセンター』で買った」
「ただのホームセンターじゃん……! 本当にそこで買ったの?」
「うん。そこ以外のどこに売っているのか知らない。もし、これよりいい近接兵装を売っている場所があれば、教えてほしい」
私は逆にマキに質問した。鉄パイプは使いやすかったけど、やっぱり本当のパイルバンカーやレーザーブレードのような、ちゃんとした近接兵装があるならそっちの方がいい。
「うっ……確かに、武器として使えるような近接用の装備なんて、あんまり売ってないかも……」
マキがうーんと唸る。
「本当に近接武器をメインに使うのね……。キヴォトスだとかなり珍しい戦闘スタイルだから、普通の店売りじゃ、そういうのは手に入らないかもしれないわね」
チヒロの言葉を聞いて、私は少し肩を落とした。
やっぱり、近接兵装がないと戦い方がしっくりこない。それに、大型の敵や大量の敵が出てくるような対預言者戦の仕事だと、弾薬を節約するためにも強力な近接武器が必要になってくるだろう。
「そういうものについて、私の方で心当たりがないわけではないので……シホのもろもろの準備が落ち着いたころに、また確認してみましょう」
「わかった」
ヒマリは何か思い当たるお店でもあるのだろうか。少し考えてから私に向き直った。
新しい兵装が手に入るかもしれない。そう思うと、自然と少しだけ足取りが軽くなるような気がした。
「さて、ひとまず顔合わせも終わりましたし、これでいったんホドについての対応は終わりにしましょう。……ところでチーちゃん。私たちはこれからファミレスに打ち上げに行くのですが、ヴェリタスのみんなもどうですか?」
「へえ。珍しく全員揃ってるし、せっかくだから行かせてもらおうかしら」
「もちろん行く行くー!」
「甘いもの、食べたいな」
チヒロ、マキ、ハレが嬉しそうに了承する。その時、マキが部屋の隅にいるもう一人のメンバーに声をかけた。
「コタマ先輩はどうする?」
「……あっ、ええ。もちろん行きます」
コタマと呼ばれた眼鏡の人――『
「そういえばコタマ先輩、自己紹介のあと全然喋ってなかったね。どうかしたの?」
「い、いえ。ちょっと考え事をしてただけです」
コタマはそう言って誤魔化していた。実はさっきから、コタマがこっそりと私の方を観察するような――監視するような視線で眺めていることには気が付いていた。
でも、その視線に敵意は混ざっていなかったし、一応ヒマリの仲間みたいだから、私は気にせず放置していた。
「……では、行きましょうか。先生、大所帯になりましたが……お支払いのほうは、よろしくお願いいたしますね?」
ヒマリがにっこりと笑って先生を見る。
"は、はは……ど、どんとこい!"
先生は額に冷や汗をかきながらも、無理して胸を張って答えたように見えた。
大人って大変なんだな、と少しだけ思った。でも、今の私の意識は、大人の苦労よりも真っ直ぐファミレスへと向かっていた。
(……♪)
私は頭の中でお子様ランチを思い浮かべながら、みんなの後を付いていった。