猟犬は透き通る空の夢を見る 作:ピンカル
あと、度々すみませんが、また間違えて一瞬だけ編集中の話を投稿してしまいました。
次話投降する際には、即時投稿されないように気を付けます。
「シャーレの当番業務、ですか……」
部室に戻ってきた私たちは、ヒマリとエイミに今日のバイトについての報告をした。
その流れで、先生がヒマリに「私をシャーレの当番にしたい」ということも伝えたが、それを聞いたヒマリは、少し渋い顔をして顎に手を当てて何か考え始めた。
"やっぱり、まだ不安かな?"
「別に、行ってもいいんじゃないかな? 先生のところならそんなに危なくないだろうし」
私を行かせたがらないヒマリに先生が問いかけると、エイミも先生を援護するように言ってくれた。
「先生の元に預けることについては、そこまで異論はありません。ただ……今のシホがミレニアムの外に出るのは厳しいのです」
"何か手続きが必要なの?"
「そういう類の話ではなくて、もっと根本的な話です。シホはまだ生徒としてすらまともに過ごしていないのに、シャーレに行くとなると話がややこしくなります」
ヒマリは車椅子の上で指を組んだ。
「それに……あのビッグシスターが、シホを外に出すことを簡単には許可しないでしょう。理由はどうあれ、向こうが真っ当な主張をしてくる材料が揃っている以上、こちらも強く出るのは難しいのです」
"そっか……ごめんね、少し早とちりしたみたいだ"
先生が申し訳なそうに謝る。私は、せっかくもらった新しい仕事がなくなってしまったのかと思い、少しだけ肩を落とした。
「部長、何とかならない?」
エイミが助け舟を出してくれる。ヒマリは少しの間、考えるように目を伏せた後、顔を上げた。
「……先生の元に行くことは難しいですが、先生がミレニアムにいらしたタイミングなら、シホと一緒に行動することもできるでしょう。先生にはお手数をおかけすることになりますが、よろしいでしょうか?」
"もちろん。シホのためだからね"
先生は笑顔で承諾してくれた。二人の間で話がまとまったようだけど、私は自分が結局どうすればいいのか分からず、先生を見た。
「私は、どうすればいい?」
"私が仕事でミレニアムに来る時は、シホも一緒に仕事ができるっていう意味だよ。だから、その時は私の手伝いをしてほしいんだ"
「……わかった」
私がうなずくと、ヒマリが「それにしても」と話題を切り替えた。
「先ほど先生から聞きましたが、シホの『やりたいこと』を見つける、ですか。……確かに、今まで仕事ばかりやりたがっていましたが、そのような理由があったとは」
「ワーカーホリックっていうか、仕事しか知らなかったって感じだね」
"うん。だから、シホに『遊び』を教えてあげたいんだけど、何かいいアイデアはないかな?"
先生が二人に意見を求める。
「趣味でしたら、タロットや占星術などはお勧めできますが……初めての『やりたいこと』にするには少しハードルが高いですね」
ヒマリが困ったように頬に手を当てる。
「ここは無難に、様々な遊びに触れるためにも、遊園地などの娯楽施設に連れて行くのはどうでしょうか」
「私も、人に教えられるぐらい遊んでいるわけじゃないから……部長の言うように、遊園地とか、あとは映画とか? シホはそういうの見たことないだろうし」
"そうだね。まずはいろんなことに挑戦してみるのがいいかもしれない"
三人で私のこれからの行動について話し合っている。
でも、なんだか仕事をするためのブリーフィングという感じはせずに、ただ遊びに行く計画を立てているようにしか見えなかった。
「……それは、仕事なの?」
結局仕事をしないのか不安になって質問してみると、先生は優しく笑ってごまかすように言った。
"今の私の仕事は、シホの『やりたいこと』を見つけることだよ。もちろん、それだけじゃなくて、ちゃんと仕事も手伝ってもらうけど……それはもうちょっと先かな"
「……わかった。なら問題ない」
それから先生とヒマリ、エイミは、早速明日私をどこに連れて行くべきかを話し合い、今日は解散することになった。
◆
翌日。さっそく先生がミレニアムを訪れた。
"さて、今日は約束通り、シホのやりたいことを見つけに行くよ"
「わかった。どこに行けばいい?」
"まずは……遊園地だよ!"
そういって、私と先生は『遊園地』という場所に向かった。
しばらく移動して目的地に到着すると、そこには大きな円形の建造物や、空中に敷かれたレールの上を乗り物が走っていた。
あちこちから笑い声や悲鳴が聞こえてきたりして、なんだか騒がしい場所だなと感じた。
「先生、ここは何をする場所なの?」
"ここは色々なアトラクションに乗って遊ぶ場所だよ。早速だけど、何か気になるものはあるかな?"
「分からない。先生に任せる」
そう言うと、先生は少し困ったように笑って、考え始めた。
"じゃあやっぱり……最初はジェットコースターかな!"
先生と私は、ジェットコースターと呼ばれる乗り物に向かった。さっき入り口から見えた、空中のレールの上を走っていた乗り物だった。
席に案内されて安全バーを固定した後、ジェットコースターは動き出した。
――少しの間、ジェットコースターはレールをぐるぐると回って、最終的に元の位置に戻ってきた。降りた私と先生は、近くのベンチに座って話をする。
"ど、どうだったかな……? 楽しかった……?"
「先生、大丈夫?」
"ちょ、ちょっと怖かったかな……シホは……平気そうだね……"
確かに、隣に乗っていた先生は顔を引きつらせながら、安全バーを力強く握りしめていた。でも、私にとってあれは――
「遅かった」
"遅い? ジェットコースターが?"
落下速度が遅いし、Gの負荷も足りない。ルビコンの大気圏に突入した時や、カーゴランチャーで大陸を越えた時に比べれば刺激がないし、決められたレールの上を走るだけだから意外性もない。
周りの人は叫んでいたけど、私には何が楽しいのかよく分からなかった。
「ACのほうが、もっと速かったから」
"そっかぁ……"
先生は少し落胆した様子を見せたが、気を取り直して次のアトラクションに行こうと言って移動を始めた。
次に来たのは、全体的に暗くて、ボロボロになった……ように見える建物だった。廃墟のビルとはまた違う、不気味な薄暗い雰囲気がある。
"ここはお化け屋敷だよ。これも遊園地の定番かな"
「おばけ……やしき……?」
先生がお化け屋敷と言っているが、お化けも屋敷も何なのか分からない。多分、建物の名前のことなんだろう。
"お化けっていうのは……幽霊とか、妖怪とか……要するに、怖い存在ってことかな"
屋敷は建物の種類だよ、と先生が教えてくれた。怖い存在。つまり、勝てるか分からない強敵が居る建物ということだろうか。
所々の壁が血で染まっているように見えるのは、おそらく、ここで激しい戦いがあったことを教えてくれているのだ。
「わかった。頑張る」
"頑張る……? シホ、何するつもり?"
「お化けと戦うんだよね? 大丈夫、先生のことは守る」
"……ごめんね、私の教え方が悪かったよ"
先生は慌てて、お化けについて詳しく教えてくれた。どうやら、お化けとは強敵ではなく、死んだ人や、空想上の生き物のことらしい。
ここでは、そういった存在が襲い掛かってくるシチュエーションで、逃げ回るのを楽しむ場所なのだと説明してくれた。
"だから、お化け役の人や、施設のギミックを壊しちゃだめだよ?"
「……わかった」
理解はできたけど、納得がいかない。そもそも逃げ回るために、なぜわざわざ危険な場所に行こうとするのかが分からない。
だけど、ここが人気のある施設だと言うのも教えてもらっている。
もしかしたら、入ってみれば何かわかるのかもしれないと思い、私と先生は一緒にお化け屋敷に入っていった。
◆
"ど、どうだった……? 楽しかった……?"
「先生、さっきとおんなじこと言ってる」
"ちょ、ちょっと……いや、結構怖かったかな……シホは今回も平気そうだね……"
先生と一緒にお化け屋敷の中を歩いてみたが、私は今回も楽しいとは思えなかった。
驚かしてくる人たちに敵意は感じられないし、ギミックもケガするようなものじゃなかったので、警戒する必要もない。
先生は何かあるたびに悲鳴を上げて驚いていたけど、私はむしろ、その声の方に驚かされることが多かった。
「前の時は、死角から敵が襲い掛かってきたり、いきなり上から爆弾が落ちてきたりしたから。それに比べたら、安全」
"……シホも大変だったね"
先生がなんだか遠い目をしながら、私に同情してくる。こっちの平和な人からしたら、お化け屋敷より怖い場所なんて想像したくもないのだろう。
"じゃあ次は……そうだね、ちょっと休憩しようか"
「……? わかった」
まだそんなにアトラクションに乗っていないのに、先生が休憩を提案してきた。確かに、終わった後の先生はとても疲れた様子だったから、仕方ないのかもしれない。
"ありがとう。じゃあ、ちょっとここで待っててね"
そう言って先生は、どこかに向かって歩き出した。休憩すると言っていたのに、どこに行ったのだろうか。
数分後、先生が細長い棒と、ストローのついたコップを持って帰ってきた。
"お待たせ。小腹がすいたかと思って、お菓子を買ってきたよ"
そう言って、先生は私に棒とコップを渡してくれた。特に棒の方からは、とても甘い匂いがしてくる。
"こっちの食べ物のほうは『チュロス』だよ。これも遊園地ならではのお菓子だね"
「……ありがとう」
先生からお菓子を受け取って、さっそく食べてみる。
「……!」
"よかった……これは気に入ってくれたみたいだね"
口に入れた瞬間、食べたことのない味と食感に目を丸くする。外はサクサクしていて、甘い粉がたくさんかかっている。私は思わず夢中になってチュロスを食べた。
"遊園地は、シホにとってちょっと退屈かもしれないね。それを食べたら、今度は別のところに遊びに行ってみようか"
「……うん」
先生が楽しめない私に気を使って、次の場所に行くことを提案してくれた。きっと、このお菓子も私のためにわざわざ買ってきてくれたのだろう。
私は少しだけ申し訳なさを感じながら、先生の提案に小さくうなずいた。