猟犬は透き通る空の夢を見る 作:ピンカル
数日後。先生が仕事のためにミレニアムへとやってきた。今回は、私と一緒に遊びに行くのではなく、先生の仕事の付き添いが目的だ。
待ち合わせの駅で待っていると、改札から先生がやってきた。
"やあシホ、お待たせ"
「大丈夫。時間通り」
"じゃあ今日は、私がミレニアムで仕事をするから、そのサポートをお願いするね"
「わかった」
そういって、私と先生はミレニアムでの仕事を開始した。
仕事の内容は、ミレニアムの色々な施設や企業を回って、話し合いをしたり、書類を届けたりするものだった。
サポートとは言うけれど、私の仕事は移動中の周囲の警戒だったり、先生が持ちきれない荷物を持つ程度のものだった。
話し合いの時は先生の後ろで待機しているだけだったので、ほとんど仕事の見学みたいなものだった。
何件か回って昼過ぎになったころ。公園のベンチで休憩することになり、先生が近くの自販機で飲み物を買ってきた。
"お疲れ様、シホ。今日の仕事はこれで終わりだよ。手伝ってくれてありがとう"
「……私は特に何もしてない。これでよかったの?」
ベンチに座って休憩しながら私がそう答えると、先生は自販機で買ったペットボトルの水を私に手渡しながら言った。
"もともと外回りの仕事はこれぐらいに終わるんだよ。あまり遅い時間になると、相手にも迷惑がかかっちゃうからね"
そう言って、先生は水と一緒に買ってきたコーヒーを飲んで一息つく。
確かに、キヴォトスにある戦闘以外の仕事や、ルビコンでやっていた作戦のブリーフィングなんかは、夜にやっていた記憶がない。
大体は朝から夕方にかけてやるものだったから、先生の仕事もそういうものなのだろうと納得した。
"さて。仕事も終わったことだし、この前行ったゲームセンターに、もう一回行ってみない?"
先生の提案に、私は少しだけ目を丸くした。先日、先生が私を色々な場所に連れて行ってくれた時、最後に連れて行ってくれた場所だ。
「……いいの?」
"もちろん。仕事が終わったらしっかり遊ぶ。こういうメリハリの付け方も大事だからね"
先生は優しく笑って立ち上がった。私はもらった水を飲み干して、先生の後についていった。
◆
ゲームセンターの中は、相変わらず色々な機械の音が鳴り響いていて騒がしかった。私は先生と一緒に、前回とは違うゲームの前に座った。
今度のゲームは、自分が操作する機体から弾を撃って、上から現れる敵を倒していくものだった。
"さすがに前と同じ格闘ゲームだと、私がボコボコにされるだけだからね……今度は、一緒に戦ってクリアを目指すゲームにしたんだ"
そう言ってゲームを始めると、画面の下で、私が操作する機体と先生の機体が横並びになった。
なんだか、ルビコンで僚機と一緒にミッションへ出撃しているみたいで、少しだけ懐かしい気分になった。
最初は操作がおぼつかなかったけれど、自機の当たり判定と移動の感覚を掴んでからは、敵の弾に当たることはなくなった。
"やっぱりシホ、ゲームが上手だね……!"
「……先生、ごめん。守れなかった」
ゲームが終盤に差し掛かると、先生の機体はあっという間に残機を使い果たしてしまい、ゲームオーバーの文字が表示されていた。
私が早めに敵を撃墜しても、すでに撃たれた敵の弾幕までは消すことができず、先生を守ることができなかった。
先生は何度か復活するためにお金を入れていたけれど、すぐに撃墜されてしまうため、最終的に私のプレイを見学するだけになってしまった。
やがてゲームは、最後の巨大な敵が登場し、画面を埋め尽くすような激しい弾幕を私に浴びせてきた。
移動が上下左右しかなく、三次元的な奥行きがない分、敵の攻撃が避けづらい。
しかし、敵の攻撃は完全なランダムではなく、法則性のある決まったパターンで撃ってきている。
私は相手の攻撃の隙間を見切って移動し、撃破することに成功した。
"おおーっ、すごいよシホ! このゲーム、クリアするのすごく難しいのに!"
先生が感動した様子で拍手をして、私を褒めてくれる。少しだけくすぐったい気持ちになっていると、すぐ横から知らない声が聞こえた。
「パンパカパーン! アリスは先生とエンカウントしました! 先生、もしかして、そのゲームをクリアしたのでしょうか?」
振り返ると、私たちの後ろに一人の女の子が立っていた。巨大な武器を背負った、とても長い髪の女の子だった。
"やあアリス。どうしたの?"
「冒険の帰りにゲームセンターに寄ったら、先生が知らないプレイヤーとパーティーを組んでいたので、気になって話しかけました!」
アリスと呼ばれたその子は、ニコニコと嬉しそうに先生と話をしている。
『アリス』。以前、デカグラマトンの調査が終わった後、ヒマリが口にしていた名前だ。おそらくこの子のことだろう。
私がそんなことを考えていると、先生がこちらに向き直って、アリスの前へと誘導してきた。
"シホ、彼女はアリス。ゲーム開発部っていう部活の子だよ"
「はじめまして! 天童アリスです!
「……私は、六津井シホ」
彼女が元気よく自己紹介をする。
ジョブが勇者というのはよくわからなかったが、そんなことよりも私の目は彼女の顔ではなく、彼女の背中――身の丈よりも大きい、巨大な武器に釘付けになっていた。
キヴォトスに来てから、見たこともないような形状と大きさの武器。少なくとも、市販の弾丸を発射するような実弾兵器ではないことは明らかだった。
もしかすると、EN兵器……いや、リニアライフルに近い構造なのかもしれない。
このような武器が手に入るなら、是非ともどこで手に入れたのか教えてもらいたい。
"二人とも、どうしたの?"
「……ごめん。彼女の武器を見てた」
先生に声をかけられ、私はハッとした。武器の構造を考えすぎて、無言になってしまっていたようだ。
しかし、無言になっていたのは私だけでなく、自己紹介を終えたアリスも一緒だった。
私が反応しないことを気にしている様子はなく、私の顔をじっと見たままボーっとしている。
「…………アリスは、この人とどこかで会ったことがある気がします」
"……そうなの? シホはアリスと初対面だと思うけど"
アリスは不思議そうに首を傾げて、私の顔をまじまじと見つめてきた。私もアリスを見た。でも、全くピンとこない。ルビコンにも、こんな子は居なかった。
もしかして、私の過去を知る相手なのだろうか。私は少し警戒して、ルビコンでの自己紹介で探りを入れてみることにした。
「……私は、独立傭兵レイヴン」
「……!? なるほど、シホの
私の自己紹介に、アリスは目を輝かせて興奮した様子を見せた。もしルビコンの私を知っているなら、こんな無邪気な反応はしないはずだ。
どうやら私の過去を知る者ではないらしい。少し安心したけれど、それでも私の違和感は残ったままだった。
……ヒマリやエイミとは違う。普通の人間じゃないような……そんな違和感。
しいて言えば、ロボ市民の雰囲気に近いけど、見た目はどう見ても人間だ。
その違和感が何なのかはっきりする前に、先生がアリスに声をかけた。
"アリス、せっかくだから、シホのことをもっと知るためにも、一緒に遊んでくれないかな?"
「もちろんです! パンパカパーン! 先生とシホがアリスのパーティーに加わりました!」
先生が提案すると、アリスはパァっと笑顔になり、両手を広げて喜んだ。
「先生がミレニアムに来たのですから、ゲーム開発部のみんなで一緒に遊びましょう! 新規ユーザーのシホのためにも、アリスが部室まで案内します!」
そう言って、アリスは私と先生の手を取った。
私と先生は、アリスに手を引かれるまま、ゲーム開発部の部室へと向かうことになった。