猟犬は透き通る空の夢を見る   作:ピンカル

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三十三話:シホの一日 ~特異現象捜査部~

ある日の朝。今日はヒマリからミレニアム郊外の廃墟の調査に行くと聞いていたので、私は特異現象捜査部の部室で待機していた。

部屋にはすでにヒマリとエイミがいるけれど、いつまで経ってもブリーフィングが始まる様子はない。

どうしたのだろうと思っていると、ちょうど部室のドアが開いて先生が入ってきた。

 

"おはよう、みんな"

 

「おはよう、先生」

 

私が挨拶を返すと、先生は私に向かって笑いかけた。

 

"今日は廃墟の調査に行くって聞いてね。手伝おうと思って、ミレニアムまで来たんだ"

 

「なるほど」

 

そう言われて、私は納得した。チームのメンバーが揃っていないなら、作戦を説明しても意味がない。

そう思っていると、別の作業をしていた二人も集まってきて、ヒマリが私たちに向けて話し始めた。

 

「先生にも既にお話ししていますが、今日は廃墟の調査を行います。と言っても、そこまでしっかりとしたものではなく、情報収集程度の軽い調査です。デカグラマトンや預言者の痕跡が無いか調べるだけですので、午前中には切り上げるつもりですよ」

 

私はその説明に頷いた。ヒマリはそのまま、手元の画面を操作して短いブリーフィングを始めた。

 

   ◆

 

廃墟に来た私とエイミ、そして先生の三人は、崩れた建物の間を歩きながら調査を進めていた。

ヒマリに指定されたポイントまで向かい、エイミが機械の残骸などを調べ、私がその周辺を警戒する陣形だ。

 

たまに野良のオートマタと出くわして戦闘になったりもするけれど、大量に出てくることもないから、気をつけていればすぐに片付く。前みたいに、急に預言者が出てくるようなこともなかった。

 

今までの調査とは違い、本当にただの未知の場所の調査という感じがして、少し気が楽だ。だけど、戦闘がない分、やっぱりどこか退屈でもあった。

エイミがヒマリと通信しながら辺りを調べていると、手持ちぶさたになった先生が私に話しかけてきた。

 

"シホ、最近調子はどうかな?"

 

「問題ない。いつでも戦える」

 

"そっか、良かった。……そういえば、前に耳鳴りがするって言ってたのは、もう治ったの?"

 

《―――――》

 

「……まだ、たまにする」

 

アリスと出会ってから度々するようになった耳鳴りは、まだ収まっていなかった。というより、前よりも音が聞こえる回数は増えている。

だけど、最初になったみたいにめまいや頭痛がするわけじゃないので、問題はないと思って放置している。

 

"何か問題があったら、すぐに教えてね。無理はしちゃダメだよ"

 

「わかった」

 

先生は少し心配そうにしてから、別のことを聞いてきた。

 

"そういえば、最近ゲームセンターは行ってたりするの?"

 

そう聞かれたけれど、私は首を横に振った。あれから何度か足を運んでみたけれど、前の時ほど面白いと感じることができなかったのだ。

シューティングゲームや格闘ゲーム自体は楽しいのだけど、何か物足りない感じがした。

 

「ゲームセンターは、あんまり行ってない。最近は、アルバイトをすることが多かったから」

 

"そうなの? アルバイトっていうと、また引っ越し?"

 

私が頷くと、先生は付き添ってくれた時のことを思い出したかのように聞いてきた。

 

「引っ越しの仕事が多い。前に働いていた雇い主から、直接声がかかることもある」

 

仕事をちゃんとこなして実績を積むと、相手から信頼されて次の指名が来る。それは、どこの世界でも同じなのだなと思う。

 

"そっか。前もすごく褒めてもらってたからね。そういう真面目なところは、シホのすごくいいところだと思うよ"

 

先生に真っ直ぐ褒められて、胸の奥が少しだけ温かくなった。悪い気はしない。すると、前の方で作業をしていたエイミが、ふうと息を吐いてこちらを振り返った。

 

「……暑い。こっちは作業終わったけど……なんだか楽しそうだね」

 

エイミの顔を見ると、なんだかムスッとした表情を浮かべている。通信機越しに、ヒマリの少し楽しそうな声が聞こえてきた。

 

『ふふっ。エイミが暑い中を一生懸命作業している間、先生とシホが仲良くお話ししているのが聞こえてきたので、エイミが拗ねてしまったのですよ』

 

「別に、拗ねてない。……私も作業頑張ったのに、先生、私には何かないの?」

 

エイミがジト目で先生を見る。

 

"ご、ごめんね。エイミもすごく頑張ってるよ。いつも助かってる、ありがとう"

 

先生が慌ててそう言うと、エイミの表情が少しだけ緩んだ。分かりにくいけれど、嬉しそうなのが伝わってくる。

 

『あら先生。私だけ仲間外れとは寂しいですねぇ。この超天才清楚系病弱美少女ハッカーである私も、現場にいないとはいえ裏でしっかり頑張っているのですよ?』

 

"もちろん、ヒマリもいつもありがとうね。ヒマリのナビゲートのおかげで、今日も安全に調査できたよ"

 

『ふふっ。先生にそこまで言われてしまっては、これ以上は何も言えませんね』

 

ヒマリも、通信の向こうでまんざらでもない様子だった。

 

『では、ここでの調査は終わりましたし、今日はこれで切り上げるとしましょうか。ちょうどお昼ご飯の時間ですし、戻ったらみんなで食事にでも行きませんか?』

 

「私は賛成かな。……シホも一緒に来る?」

 

「うん、行く」

 

私が頷くと、ヒマリが先生に声をかけた。

 

『ぜひ先生も、一緒にどうですか?』

 

"なら、私も一緒にいこうかな"

 

そうして、私たちは今日のミッションを終え、部室に戻ってからみんなでご飯を食べに行くことになった。

 

   ◆

 

戻ってからみんなと一緒に来たのは、いつものファミレスだった。私はいつも、お子様ランチを頼んでいたけれど、今日は少し違うものを注文していた。

 

「お待たせしましたー」

 

店員が私の前に置いたのは、アツアツの鉄板の上に、銀色のアルミホイルが大きく膨らんで乗っている料理だった。

私はナイフとフォークを持ち、期待しながらそのホイルの真ん中をざくっと切った。

 

中から熱い湯気と一緒に、すごくいい匂いが広がる。ホイルの中には、茶色いソースと、その上でとろけたチーズが乗った大きなお肉が入っていた。

 

一見すると、食べる人がわざわざ包みを剥がさなきゃいけない手抜きに見える。でも、実際にやってみると、自分の最後の一手間で料理が完成するという実感が、なんだかとても面白い。

 

私は中に入っているハンバーグを切り分け、口に入れた。

お肉の中から、熱い肉汁がじゅわっと溢れ出してくる。濃くて甘いソースと、まろやかなチーズが絡み合って、口の中がいっぱいになった。

 

噛むたびに、幸せな味がする。自然と口元が緩んで、頭の上の耳がパタパタと動いた。今の私の頭の中は、ハンバーグでいっぱいになった。

 

"シホは本当に美味しそうに食べるから、見てるこっちも嬉しくなるよ"

 

「…………」

 

先生が笑いかけてくれたけれど、私は話半分に聞き流しながら、夢中でハンバーグを食べ進めた。

 

みんなの食事が終わって、冷たい水を飲みながら一息ついていると、先生が私に確認してきた。

 

"シホ、今日はこの後、何か予定があったりする?"

 

「特に予定はない。仕事も受けてない」

 

"なら、これからちょっとゲーム開発部に用事があるんだけど、良かったら一緒についてこない?"

 

先生に誘われて、少し考える。ゲーム開発部の人たちとは、前回の事件から関わっていないし、用事もなかったから部室にも行っていなかった。

私は確認するようにヒマリの方を見ると、ヒマリが代わりに答えてくれた。

 

「でしたら、私たちもついていって良いでしょうか? シホのお友達になってくれたのですから、せっかくなので先輩として顔見せでもしておこうかと思いまして」

 

「……私たちって、私も行くの?」

 

エイミがちょっとめんどくさそうに首を傾げる。

 

「いいではないですか。同級生と一緒に遊んで交友を深めるのも、エイミには必要ですよ」

 

「……うーん。まあ、部長がそういうなら、行こうかな」

 

エイミは渋々と言った様子の割に、やけに素直についてくることにしたようだ。

 

"じゃあ、決まりだね。みんなで一緒に行こうか"

 

先生の言葉に頷き、私たちはファミレスを後にした。

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