とある麗華様ファンの憂鬱   作:panic! core Dump

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今世の幼少期です


幼少期の失敗

第3者視点:魔法工学最高顧問・櫟(くぬぎ)の歓喜の独白

 それは、仁科家の歴史……いや、世界の魔法工学の歴史そのものが完全にひっくり返った日だった。

 当時、まだ4歳になったばかりの麗華お嬢様が、本邸のプレイルームの片隅で、玩具のブロックを投げるように無造作に高級な和紙のノートに書き殴っていた文字。お嬢様が部屋を出られた後、何気なくそれを拾い上げた私は、全身の血液が沸騰し、心臓が爆発するような激しい衝撃に襲われた。

「こ、これは……既存の想子エネルギーの変換効率を数万倍に跳ね上げる、全く新しい『次世代魔法エネルギー源』の、完全なる理論術式……!?」

 そこに並んでいたのは、子供の落書きなどでは断じてなかった。既存の現代魔法の基礎インフラを、根底から過去のゴミへと変えてしまう、完璧な『神の数式』だったのだ。4歳にして、世界の魔法工学の歴史を数百年先へと進めるエネルギー源を「発見」してしまった天才幼女。私はその場にへたり込み、ボロボロと涙を流して天を仰いだ。十師族などという枠組みを遥かに超えた、天界からの最高の授かり物。仁科家に、人類の歴史を塗り替える本物の超天才児――いや、生ける最高神の化身が降臨されたのだと確信し、私は直ちに栄一郎当主へと報告、本邸の防衛システムをすべてお嬢様仕様へアップデートするよう進言したのだった。

 

麗華(5歳):嵐の夜の覚醒 / 西暦2083年

 麗華が5歳となった西暦2083年、ある激しい嵐の夜だった。本邸の長い廊下を歩いていた麗華は、窓の外を切り裂いた激しい雷鳴に小さく身体を跳ねさせた。その拍子に絨毯に足を纒れさせ、勢いよく大理石の柱へ頭を強く打ち付けてしまったのだ。

「――っ!?」

 視界が真っ白に染まり、頭脳の奥底で、頑強にロックされていた前世の記憶のダムが一気に決壊した。30年の歳月を注ぎ込んだ白衣のデスマーチ、陰謀による暗殺の恐怖、あるいは神様との理不尽な面談の光景が、万華鏡のように脳内を駆け巡る。激しい頭痛が収まり、ふっと自分の小さな手を見つめた彼女は、あまりの衝撃に言葉を失った。

(……名前が『麗華』!? まさか吉祥院麗華様リスペクト!? いや、ちょっと待って……ここ、どこなの?)

 彼女は混乱しながらも、研究者としての習性で自らの置かれた環境の「仕様変更」を必死に分析し始めた。櫟が熱弁していた「想子(サイオン)」や「霊子(プシオン)」という単語。財界を裏から牛耳る影の社会構造。臨場感に満ちたホログラムのように、カレンダーに刻まれた「西暦2083年」という数字。そして何より、ニュース画面に映る「CAD」という魔法補助端末の存在。

(想子……CAD……十師族……四葉に九島……。これって、前世の徹夜残業中に現実逃避で一気読みしたライトノベル『魔法科高校の劣等生』の世界じゃないのーーー!!)

 『魔劣』の世紀末世界だと気づいた瞬間、彼女の空間認識は凍りついた。あちらは平和な学園モノの『謙虚堅実』とは違い、暗殺、テロ、国を滅ぼす戦略級魔法が日常茶飯事の超弱肉強食な世界観だ。

(冗談じゃないわ! 私が記憶を失っている間に書いたあのノートのせいで、すでに世界のトップからガチでロックオンされてるじゃないの! 前世でエネルギーの利権陰謀にハメられて暗殺されたのに、転生先でもまたエネルギー利権のど真ん中に自分から突っ込んでるなんて、バグにも程があるわよ! これからは『謙虚・堅実』をモットーに、絶対に目立たず、これ以上新しい数式は書かず、IQの低いふりをして平穏に生きるのよ……!)

 しかし、一度「人類の救世主たる神童」として完全に世界に認知(インデックス)された彼女のあがきは、周囲の狂信的な勘違いによってすべて逆効果へと反転していくことになる。

 

第3者視点:私設情報工作部隊指揮官・氷室(ひむろ)の戦術記録

 西暦2084年春、最新型原子力発電所の視察。私の目的は、お嬢様の警護およびその一挙手一投足の観察であった。お嬢様は、轟音を立てる原子炉の前で、微動だにせず冷徹にそのコアを見つめておられた。

(新エネルギーを発見されたお嬢様。旧時代のゴミを見るかのような、冷ややかな瞳だ……。恐るべき風格だ)

 そう確信した瞬間、不測の事態――過激派テロリストの一団による乱入が起きた。「仁科の利権の象徴め! 日本の財界ごと消し飛べ!」システムがハッキングされ、コアが暴走させられ、メルトダウンによる放射能汚染が確定したその瞬間、お嬢様は静かに右手を上げられた。

 直後、目の前の超巨大な原子炉が、爆発音すらなく『完全な無』へと消滅した。放射線量測定器の針は一瞬でゼロに。熱量も、死の灰の概念すらも、この世界から跡形もなく消去されたのだ。テロリストたちが恐怖に腰を抜かして這いずり回り、護衛長たちがひざまずく中、お嬢様は優雅に引き締まった微笑みを浮かべ、言い放たれた。

『……お騒がせいたしましたわ。少々、不浄な煙が鼻につきましたので』

 鳥肌が立った。テロの脅威や原子力すら、このお方にとっては「不浄な煙」に過ぎないのだ。旧時代のエネルギーに縛られず、テロの概念を丸ごと裏返した彼女は間違いなく、この地上を支配すべき「亜神」であると、我々情報部はお嬢様の「沈黙の引きこもり」を『人類への深い慈悲と無言の警告』として仕様書に登録した。

 

麗華(中身:気弱な元研究者)の視点

(ひえええええええ! 放射能汚染!? テロリストさん何考えてるの!? また前世みたいなエネルギー関連の暗殺爆発に巻き込まれるのは嫌だ、やっと手に入れたお嬢様ライフが燃え尽きちゃう!! 怖い怖い怖い、目の前の一番危ないメカ、今すぐ消え失せてええええ!!)

 恐怖のあまり頭が真っ白になった私は、無意識に前世の「不具合のあるオブジェクトの完全消去」の感覚で、バグで追加されたあの全力を解放してしまった。やらかした。隠蔽ライフ計画が初手で大崩壊。目立たないようにするはずが、みんながめっちゃ怖い顔で私を見てひざまずいてる……! どうしよう、ここは前世で読み込んだ吉祥院麗華様をイメトレして、お上品に誤魔化すしかないわ!

 私は研究者時代に上層部の無茶振りをやり過ごしていた「能面のような引きつり愛想笑い」を必死にホールドし、優雅(に見えるようガタガタ震えながら)対応したが、これが仁科家の上層部にさらなる狂信的な勘違いを植え付ける決定打となってしまった。

 

 




次回、又事件発生します。
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