とある麗華様ファンの憂鬱   作:panic! core Dump

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新ソ連との闘い

第3者視点:司波達也の観測

 ハワイで2年越しの物理的消滅(純白の残光)が確認されたまさにその夜、当時12歳(小学6年生)になっていた司波達也は、かつて接触してきた影の政府の最高幹部と再び対峙していた。

「……達也君。天体Xが消滅したよ。世界各地の我々の施設でも追認済みだ」

 幹部の言葉に、達也は表情を変えずに問いかけた。

「破壊の手段は、質量からエネルギーへの変換か?」

 しかし、幹部は酷く怯えた目で首を横に振った。

「分からん……。熱量も、衝撃波も、質量が変換された形跡すら全く無い。最初からその天体が宇宙に存在していなかったかのように、文字通りイデアの底から消去されたのだ。ノア計画に関わっていた米英の最高研究者たちも全員が匙を投げた。完全に『原因不明』のバグインシデントだ」

 幹部はそれ以上何も語らず、ノア計画の白紙撤回を告げて去っていった。

 達也はその背中を見送りながら、静かに自らの『エレメンタル・サイト』を高次元情報層(イデア)を介して遥か2光年先の深宇宙へと向けた。彼の最大24時間という精神の過去遡行能力が、情報層のタイムラインをスキャンしていく。

 2光年という天文学的な時差。情報層にアクセスした達也の眼には、幹部から聞かされていた通り、つい18時間前までは「2年前の情報(過去の残像)」として、達也の24時間遡行可能領域の限界レンジ(過去ログ)に、確かにその場所に存在し続けていた太陽の20%の超質量がマッピングされていた。2光年の距離があるがゆえに、達也の能力が届く「24時間以内の過去ログ」としては、その巨獣がそこに居座り続けていたのだ。

 しかし、今夜この瞬間に至り、その「過去ログ」のタイムラインすらも、まるで最初から何も書かれていなかったかのように、不自然なほど唐突に、完全な『質量ゼロ』へと上書きされて検知されなくなった。何者かが2年前に因果律そのものをハッキングし、熱量変換の痕跡すら残さず、天体そのものを宇宙の仕様書から完全デリートしていた事実が、光の時差の壁を越えて今、達也の観測領域から完全にロストしたのだ。

(熱量変換すら伴わない、完全な情報の抹消……。この世界に、物理法則(仕様)の前提をこれほど完璧に無視してデバッグできる存在がいるというのか……)

 達也の脳裏に、正体不明の「絶対的な仕様変更者」への深い戦慄が刻まれた瞬間だった。

 

麗華(中身:気弱な元研究者)の視点

 当の私は、ニュースで「宇宙規模の超新星爆発のような残光が観測された」と報じられているのを見て、最高級ブランドのツバメの巣入り極上杏仁豆腐を食べながら涙を流して安堵していた。

(よかったあああ! クレーム来なかった! 2年越しの物理的な検収合格だあああ! これでやっと安心して温かい紅茶が飲めるわ。本当、ブラックな無茶振り案件だったわ……)

 その頃、仁科本邸では櫟が「2年の時差すら完全に見切っておいでだったか!」と涙を流し、氷室が「これより、無駄になった脱出計画のプロジェクトを我が家の主導で別件へと転用、有益な資産として再構築させます」と冷徹に事後処理を進めていた。USNAの上層部は残光の恐怖にガタガタと震え、将来に渡り「仁科麗華への絶対不可侵」を誓う。

 

第3者視点:戦術級魔法師・一条将輝

 西暦2094年、秋。十師族や各界の有力者が集まる、格式高い魔法関係者の極秘晩餐会。当時中学3年生(14歳)で、一条家の戦術級魔法師として周囲から期待を集めていた俺は、会場の華やかな喧騒の中で、完全に心を奪われていた。

 俺の視線の先にいたのは、御三家筆頭・仁科家の至宝、仁科麗華さん。自分より学年が1つ上の超美人の令嬢だ。運良くダンスの機会を得たが、その指先が触れ合った瞬間から、あまりの高揚感で頭が完全にメロメロになっていた。緊張のあまりステップがおぼつかなくなる俺に、彼女は吸い込まれそうな深い瞳を向け、まるで天界の女神が地上へ舞い降りたかのような、この世のものとは思えないほどに美しく神聖な微笑みを投げかけてくれたんだ。

「一条様。お噂はかねがね。……その若さで『爆裂』の重圧を背負うお姿、本当に頭が下がりますわ。どうかご無理をなさらず、あなた自身の手で、温かい未来を切り拓いていってくださいね」

 麗華さんにとっては、ただの丁寧な労い(社交辞令)のつもりだったのだろう。だが、周囲の大人たちのような『一条の爆裂』という兵器への期待ではなく、俺という一人の人間の『背負う重圧』に寄り添い、慈しむようなその優しく美しい微笑みは、多感な俺の胸を激しく抉った。

(彼女は……俺の誰にも言えない孤独な覚悟をすべて見抜き、一条の、いや、日本の未来そのものを、俺の双肩に託してくれたのか……!)

 俺は、このダンスの最中に彼女への激しい一目惚れを果たした。そして、その恋心は、単なる憧れを超えた狂信的な忠誠心へと昇華していったんだ。

 

佐渡島への強行軍と、麗華の阿鼻叫喚

 それから数ヶ月後の西暦2094年、冬。日本の影の政府たる御三家の極秘情報網は、新ソ連の極東艦隊が佐渡島へ向けて侵攻ルートを設定していることを察知した。「十師族や国防軍の無能どもが気づく前に、我が家の『亜神』の力で、海の藻屑にしてくれよう」お父様、あるいは櫟や氷室からの「要請」を受け、当時16歳の私は佐渡島へと送り込まれた。現地で「新ソ連を迎撃するための迎撃絶対兵器」として、豪華な応接室でお座敷待機させられていたのだ。

 

麗華(中身:精神年齢45歳超)の視点

 (ひえええええええ! 嫌よ嫌よ、なんで私が新ソ連の大軍をワンオペで迎え撃たなきゃいけないのよ! 怖い! 撃たれたくない! 痛いの嫌い! 櫟さんも氷室さんも『お嬢様の初陣にふさわしい舞台です』とか笑顔で送り出さないで! 早く東京の本邸に直帰(テレポート)させてえええ!!)私は毎日、応接室の片隅でガタガタと震えながら過ごしていた。

 

第3者視点:新ソ連極東侵攻艦隊・ボロディン中将

 西暦2094年、冬。牙を剥いた新ソ連の極東艦隊は、日本を奇襲すべく佐渡島へと迫っていた。

 侵攻総司令官のレオニード・ボロディン中将は、重厚な装甲に守られた旗艦「ミハイル・クトゥーゾフ」のCIC(戦闘指揮所)で葉巻を深く吸い込み、完璧な隠密侵攻の進捗に満足の笑みを浮かべていた。ここ禁煙ですよ中将。。。

「国防軍の哨戒網は完全に騙し通した。十師族の主力もこの寒冷な佐渡島には展開していない。一気に防衛線を突破し、この島を我が新ソ連の絶対的な前線拠点とする!」

 彼らは完璧な奇襲を仕掛けたつもりであり、その前線基地の豪華な応接室に、かつて恒星級遊星を相対性理論にケンカを売る所業で消滅させた「地上の亜神」が滞在しているなどとは夢にも思っていなかった。これまでの麗華の行いは米英日の最上層部のみに明かされ外部には厳重に秘匿されており、他国はもちろん日本の十師族さえも、彼女はただの「御三家筆頭、仁科の箱入り令嬢」と認識されていたのだった。

「全艦、主砲の照準を敵司令部にロックしろ。無数のミサイルで基地ごと飽和爆撃し、佐渡島を占領するのだ!」

 ボロディン中将の無慈悲な号令とともに、新ソ連の兵士たちは、ただの「容易な強襲プロジェクト」を遂行するつもりで、亜神が待つ絶対的な死の領域へと船を進めた。空を埋め尽くすミサイルの大群が、冬の鉛色の雲を切り裂いて基地へと殺到する。

 

第3者視点:国防軍佐渡島基地司令・遠藤中佐

 その瞬間、国防軍佐渡島基地の管制室は完全なパニックに陥っていた。

「新ソ連の極東艦隊です! 距離20、すでに攻撃魔導の誘導レーダーが我が司令部を完全捕捉! レールガンとミサイルの飽和攻撃。迎撃間に合いません!」

 司令の遠藤中佐は、モニターに映し出された無数の光点を前に、全身の血の気が引くのを感じていた。十師族の応援を要請する時間すら残されていない。

「ここまでか……。だが、なぜよりによって仁科家の令嬢が視察に訪れている時に……! 国防軍の失態で、御三家の至宝を失うなどとなれば、我々は歴史の戦犯となるぞ!」

 遠藤は、隣の応接室にいるはずの少女の安否を思い、死以上の恐怖にガタガタと震えながら、ただ迫りくる光の奔流を見つめるしかなかった。

 

戦術級魔法師・一条将輝

「麗華さんが佐渡島にいるだと……!? 俺が護らなければ!」

 その数時間前、私設の情報網から麗華が佐渡島に滞在していることを察知した俺は、戦術級魔法師としての己の義務すら放り出し、私設の精鋭魔法師団を率いて佐渡島へと強行軍を仕掛け、まさにミサイルが着弾する直前の基地へと滑り込んだ。

 だが、俺が前に飛び出そうとしたまさにその刹那、世界の概念が崩壊した。

 応接室の重厚な扉が開き、姿を現した仁科麗華さんは、追いつめられることも、怯むこともなく、俺が前に出る暇すら与えずに、ただ静かに、あの晩餐会の夜と同じ全てを包み込むような美しい微笑みを浮かべながら(※将輝の目にはそう映った)右手をそっと掲げたのだ。

「超戦略級魔法・反物質対消滅」

 次の瞬間、佐渡沖の海が一瞬だけ純白の光に染まった。

 新ソ連の無敵艦隊、今まさに着弾しようとしていたレールガンの弾体と空を埋め尽くしていた数千発のミサイルが、1ミリの残骸も残さず、まとめて空間ごと「無」へと裏返った。過剰出力のせいで周囲の海水すらも数千万トン単位で一瞬にして消滅。海原に突如として出現したすすり鉢状の巨大な真空のクレーターへ向かって、周囲の海水が一斉に音を立てて激しく流れ込み、凄まじい逆白波が沸き立った。文字通りの一瞬の撃退。

 ボロディン中将の傲慢な野心も、新ソ連の圧倒的な軍事力も、彼女の指先一つで最初から存在しなかったかのように消去された。エシュロン2の回線をジャックしていた世界中の諜報機関、国防軍、そして十師族の全モニターに、信じがたい観測データがリアルタイムで強制デプロイされる。

「新ソ連の艦隊が……一瞬で消滅した!? 魔法師は……仁科麗華!? 誰だその少女は!?」

 秘匿され続けていた神の出力が、ついに全世界、全魔法師、あるいは一般大衆の脳内に「認知(インデックス)」された歴史的インシデント。波立つ海を背に、こちらを振り返り、やはりあの晩餐会の夜と同じ、この世の全てを包み込むような、気高く美しい微笑みを浮かべる麗華さん(※将輝視点)を見て、俺は身体が震えるほどの衝撃とともに、その場にひざまずいた。

(彼女は……俺を戦場の危険から遠ざけ、完璧に護るために、これほどの力を解放してくれたのだと。俺は、この最強の女神に一生を捧げる――!)

 

佐渡島侵攻:達也の思考

 新ソ連極東艦隊による佐渡島急襲。そして、それを単独で迎撃・完全消滅させた「仁科麗華」という名の、日本二人目の正式な戦略級魔法師の覚醒。

 エシュロン2の回線を逆探知し、佐渡島沖の海水ごと新ソ連の艦隊が『質量消滅(対消滅)』したという超高精度観測データを自宅の端末で確認した司波達也は、背筋に冷たい電流が走るのを感じていた。

(物質を、熱量変換を挟まずに空間ごと『消去』する魔法……。待て、この波形は、4年前にあの影の幹部から知らされた、天体Xを消滅させたという『原因不明のバグ』と、構造が酷く酷似している……!)

 達也の脳裏に、仮説が一瞬だけ浮かび上がった。あの時、光速の10%という超速度で移動し、マテリアル・バーストの照準固定すら不可能だった巨獣を消し去ったのは、当時わずか10歳だったこの少女、仁科麗華ではないのか、と。

 だが――達也はその思考を、即座に自らの論理回路から叩き出して破棄した。

(いや……あり得ない。いくら彼女の対消滅魔法が規格外であろうとも、光速の10%という天文学的な速度で移動する質量物体を、リアルタイムで座標固定(ロックオン)して消滅させるなど、この世界の魔法の仕様上、絶対に不可能だ。俺の『エレメンタル・サイト』ですら追従できず照準エラーを起こす領域だ。偶然、波形が似ていたに過ぎない。天体Xを消したのは、宇宙の周期的な自然現象か、別の未知のバグオブジェクトだ。思考の無駄だな)

 達也は冷徹にそう結論づけ、仁科麗華を「日本国内の利権を代表する、極めて強力な、しかし仕様の枠内に収まる戦略級魔法師」としてデータベースに再登録し、その思考を切り替えたのだった。

 

麗華の視点

(あ、あの船のでっかい主砲がこっち向いた! 死ぬ! ミサイルめっちゃ飛んできてる! また前世みたいに爆殺されるのは嫌だ! あいつらの攻撃のベクトルを全部反転させて、まとめて消え去りなさーーーい!!)

 恐怖で脳の安全弁が吹き飛んだ私は、相手が私を認識しているかどうかなんて考える余裕もなく、ただパニックの勢いのまま全力をぶっ放してしまった。

 戦いが終わり、自室のベッドに五体投地した私は、お気に入りのマイ胃薬「パンシロン」を数包まとめて口に投入し、胃の痛みに号泣していた。国防軍の遠藤司令も「お嬢様の神業、この遠藤、一生忘れません!」と涙目でパンシロンの箱を持っていたが、私のストレスは完全にリアルタイムの胃痛となって暴れているのだ。

(うわあああああん! またやってしまった! 加減間違えて大規模破壊しちゃったよ! 世界中に私のデータがダダ漏れじゃないの! 隠蔽ライフ計画が完全大崩壊よ! 挙句の果てに、なんか一条の戦術級ショタくんが『この御恩に報いるためあなたを一生支えます』と言ってめちゃくちゃ熱い視線を送りながら私の手を握ってきたんだけど何なの!? 私は前世を含めて45歳超えのビビり研究者よ! 利権暗殺のトラウマにショタの純情まで重なったら完全にキャパオーバーよ、勘弁してえええ!!)

 

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