とある麗華様ファンの憂鬱   作:panic! core Dump

6 / 7
第一高校君臨編:第一高校入学

第3者視点:第一高校教務主任・鳴海の試験記録

 

 西暦2094年2月。国立魔法大学付属第一高校。それは日本中の若き魔法師たちが憧れる最高峰の教育機関であり、十師族をはじめとする名家の子弟たちが毎年しのぎを削る魔法界の登竜門であった。

 その年も日本全国から優秀な受験生たちが集結し、校舎には特有の緊張感が漂っていた。そんな受験者名簿の中に、一人だけ特別な名前が記載されていた。

仁科麗華。

 

御三家筆頭・仁科家の一人娘。財界の裏側を支配する巨大一族の箱入り娘として有名だが、それ以外の情報は驚くほど少ない。

人前にはほとんど出ない。交流も少ない。表情の変化も乏しい。ただいつも微笑んでいるらしい。それだけだ。

もっとも、それは米英日の最上層部が全力で情報を秘匿していた結果に過ぎなかった。

4歳で開発した次世代魔法エネルギー。10歳で消滅させた恒星級遊星。その全ては一般魔法界どころか十師族にさえ秘匿されている。

だからこそ、鳴海にとっても彼女は「名家の才女」の認識でしかなかった。

この時までは。

 

麗華(中身:気弱な元研究者)の視点

 (帰りたい……。)試験開始五分前。私は既に精神的に限界だった。

(嫌だよぉ……。)(周りみんな天才ばっかりじゃない……。)(絶対私みたいな陰キャ研究員が来る場所じゃないよぉ……。)

しかも第一高校である。第一高校。魔法科高校の劣等生の主要舞台。つまり。未来の原作イベント発生地。危険地帯。修羅場生成装置。トラブル発生源。

(もう嫌だぁ……。)(平穏に暮らしたいだけなのに……。)(なんで自分から原作の中心地に入学しに来てるの私……。)胃が痛かった。

前世で役員会議に呼ばれた時と同じくらい痛かった。

 

試験開始。問題用紙が配られる。私は深呼吸した。(大丈夫。目立たない。平均点。モブ。モブ令嬢。)そう心に誓いながら問題を開く。

三分後。

(何これ。) 固まった。(いやいやいやいや!?)

第一問。魔法理論。問題文の定義不足。

第二問。想子工学。理論式に誤差。

第三問。魔法工学史。最新研究との矛盾。

第四問。術式解析。普通にエラー。(バグだらけじゃないのーーー!!)

元研究者の魂が絶叫した。(いや待って落ち着いて。)(私は受験生。)(研究所じゃない。)(レビュー担当でもない。)(何も見なかったことにしよう。)

 

三十分後。

『設問2は定義不足』『近似式誤差0.0317%』『代替案を提案』『こちらの方が効率的』(あっ。) 職業病が勝った。(やっちゃったぁぁぁぁぁ!!)

 

第3者視点:第一高校教師たち 採点会議。

 最初に異変を発見した教師は、自分の目を疑った。「……何だこれは」答案を確認した教師たちが次々と集まる。

百点。百点。百点。百点。全科目満点。問題はそこではない。解答欄の余白である。

「おい。」「何だ。」「これ見ろ。」全員が沈黙した。

受験生の答案ではない。研究論文だった。「問題そのものを添削している……。」「しかも全部正しい。」「馬鹿な。」

「いや待て。」「この補正式……大学で議論中の内容だぞ。」教師の一人が青ざめる。

「いや。」「もっと酷い。」「この子。」「大学側の論文の欠陥まで修正している。」 空気が凍った。

 

最終的な採点結果。満点。加点。加点。さらに加点。「総合点は。」「2187点です。」「満点1000点だぞ。」「分かっています。」

沈黙。誰も笑わなかった。

 

第3者視点:実技試験会場 午後。実技試験。

 複数の受験生が順調に課題をクリアしていく。優秀な者もいる。非常に優秀な者もいる。だが。全員が共通していた。CADを使用している。それが現代魔法の常識だった。

 

「受験番号17番。仁科麗華。」

少女が前に出る。優雅な所作。静かな笑み。落ち着いた足取り。受験生たちは固唾を呑んだ。

 

「CADを準備してください。」

そして。少女は首を傾げた。「必要でしょうか?」

会場の時間が止まった。

 

麗華の視点

 (あっ。)(やばい。)(言い方が偉そうだった!!)(違うの先生!!)(確認しただけなの!!)(マウントじゃないの!!)(『使いますか?』くらいの意味だったの!!)しかし言い直せない。対人恐怖症が発動した。視線が怖い。人が怖い。社会が怖い。(終わった……。)

麗華の人生経験では分かる。この沈黙は絶対に良くない沈黙だ。

 

第3者視点:受験生たち

「必要でしょうか……?」「今そう言ったぞ……。」「CAD無しでやる気なのか。」「あり得ない。」「自信があるってレベルじゃないぞ。」

誰かが呟いた。「まるで。」「CADなんて未熟者の道具だと言われたみたいだ……。」数人の受験生の顔色が変わる。

 

そして次の瞬間。麗華が魔法を発動した。誰にも見えなかった。

発動。演算。展開。その全てが観測できない。結果だけが存在していた。試験設備全てが完璧に制御されている。

誤差零。ズレ零。遅延零。会場が静まり返った。

 

麗華の視点

(えっ。)(なんで誰も喋らないの!?)(施設壊した!?)(違法だった!?)(私またやらかした!?)(ひえええええええ!!)脳内では事故報告書のテンプレートが高速生成されていた。

 

第3者視点:試験官

 

「仁科受験生。」「はい。」「説明をお願いします。」

少女は困ったように首を傾げた。「普通に実行しましたが……。」

試験官の額から汗が流れる。普通。今の現象を。彼女は普通と言った。(何者だ……。)

 

第3者視点:受験生たち 試験終了後。待機室。

「見えたか?」「見えない。」「俺も。」「俺もだ。」第一高校受験者たちは全国最高レベルの魔法師予備軍である。その全員が。何が起きたのか理解できなかった。「人間か……?」誰かが呟く。誰も否定しない。「教師も固まってたぞ。」「試験問題を添削したって噂も本当らしい。」「御三家の秘密兵器じゃないのか。」

「軍の戦略魔法師候補かもしれない。」噂は急速に広がっていった。

 

一方その頃。麗華の視点

(嫌われた……。)完全に落ち込んでいた。(みんな避けてる……。)(私の非常識な発言で怒ってるんだ……。)(CAD使わなかったの失敗だった……。)(あぁ……高校生活終わった……。)実際には。全員が恐れていただけだった。

 

西暦2094年4月 第一高校入学式

第3者視点:教務主任・鳴海

 

 歴代最高得点。前代未聞の主席。そして新入生代表。仁科麗華。

少女が壇上へと進む、講堂全体の視線が集まる。教師たちは入試での答案を思い出し。受験生たちは実技試験で見た異様な光景を思い出していた。誰もが固唾を呑む。

 

麗華(中身:気弱な元研究者)の視点

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!)(なんで首席なの!?)(平均点狙ったよね!?)(絶対採点システムにバグあったよね!?)(今からでも辞退したい!!)だが逃げられない。壇上に立つ。数百人の視線が刺さる。胃が痛い。とても痛い。前世で役員会議に呼び出された時より痛い。

(大丈夫……。)(原稿読めば終わる……。)(落ち着け私……。)そして静かに口を開いた。

 

「新入生を代表し、ご挨拶申し上げます。」講堂が静まる。

 

「私たちは本日、この第一高校へ入学いたしました。」「ここには、日本中から優秀な才能が集っています。」「ですが私は、その才能とは決して完成された力ではなく、『可能性』であると考えております。」教師たちが顔を上げる。

「なぜなら、人類がこれまで生み出してきた技術も知識も、すべては先人たちが積み重ねた試行錯誤の結果だからです。」

 

「失敗の無い研究は存在しません。」「誤差の無い測定も存在しません。」「欠陥の無い理論も存在しません。」魔法工学教師たちが互いに顔を見合わせる。

 

「本日、私たちが当然のように学んでいる魔法理論もまた例外ではありません。」「現在の教科書に記載されている理論も。」「現代魔法の基礎となる演算技術も。」「最新鋭と呼ばれるCADですら。」「そのすべてが発展途上の技術に過ぎないと、私は考えています。」ざわり、と講堂が揺れた。

 

麗華の視点

(うんうん。)(ここ無難な内容よね。)(研究者の講演会でよく聞く感じだし。)(たぶん大丈夫。)本人だけが安心し始めていた。

 

第3者視点:教師たち

 大丈夫ではなかった。入試で。試験問題そのものを修正した少女。実技試験で。CADを必要としなかった少女。その少女が。『CADですら発展途上の技術』と言ったのである。

「聞いたか……。」「聞こえた……。」「現代魔法への挑戦状だぞ……。」

 

麗華の答辞

「もちろん、それは先人たちの努力を否定するものではありません。」「むしろ逆です。」「私たちが今日ここに立つことができるのは、先人たちが数え切れない失敗と挑戦を積み重ねてくださったからです。」「私は思います。」「技術とは完成を目指すものではなく、改良を続けるものです。」「研究とは正解に辿り着く作業ではなく、より良い答えを探し続ける旅路です。」静寂。

 

「既存理論を学ぶだけで満足してはならないと思います。」「既存技術を使うだけで満足してはならないと思います。」「常識を覚えるだけで満足してはならないと思います。」教師席が凍り付く。

 

「なぜなら。」「人類の歴史は、常識を疑った者たちによって前へ進んできたからです。」「かつて空を飛ぶことは不可能だと言われました。」「かつて宇宙へ到達することは夢物語だと言われました。」「かつて魔法を工学として体系化することすら狂気だと言われました。」「ですが。」「その不可能を不可能だと受け入れなかった人々がいたからこそ。」「現在があります。」新入生たちも息を呑む。

 

「であるならば。」「私たちもまた挑戦し続けなければなりません。」「光速という壁に。」「距離という壁に。」「エネルギーという壁に。」「因果という壁に。」「そして。」「人類自身が限界だと思い込んでいる、あらゆる壁に。」

 

教師たち

 寒気が走った。なぜ。新入生代表の答辞で。 光速。距離。エネルギー。因果。そんな単語が並ぶのか。まるで。未来の技術者ではない。未来そのものを知っている者の発言だった。

 

麗華の視点

(よし。)(一回も噛んでない。)(完璧!)(これはもう優等生スピーチ判定でしょ!)本人はご満悦だった。そして最後の一文へ進む。

 

「既存の常識を尊重し。」「同時に、それを乗り越える勇気を持つこと。」「それこそが研究者の精神であり。」「技術者の責任であり。」「魔法師の使命であると、私は考えます。」「私たち新入生一同は、学び続けることを誓います。」「失敗を恐れず挑戦することを誓います。」「より優れた未来を築くため努力することを誓います。」「以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。」「ありがとうございました。」深く礼をする。

 

 数秒。講堂は静まり返った。

 

麗華の視点

(え。)(反応ない。)(終わった。)(絶対何か失言した。)(うわああああああ!!)

 

だが次の瞬間。パァン!!一人の教師が立ち上がり拍手した。

続いて十人。二十人。三十人。やがて講堂全体が割れんばかりの拍手に包まれた。

 

第3者視点:教師席

「信じられん……。」「一年生の答辞とは思えない。」「現代魔法への宣戦布告だ。」

 

老教授がゆっくり首を振る。「違う。」「……?」「宣戦布告ですらない。」周囲が息を呑む。「彼女は。」「既に我々より先の景色を見ている。」 誰も反論できなかった。

 

こうして、仁科麗華の第一高校生活は始まる。本人は、『どうにか失敗せずに終わった』と安堵していた。

だが周囲は、『歴史が動く瞬間を見た』と確信していたのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。