とある麗華様ファンの憂鬱 作:panic! core Dump
初夏
気付けば季節は初夏になっていた。
授業。
研究。
生徒会。
研究。
そしてまた研究。
麗華にとっては理想的な毎日だった。
魔法科世界で、夏と言えば「九校戦。」生徒達は皆その話題でもちきりだ。
先日の試験での麗華の席次は、基本真面目な麗華が試験で手を抜く事などできるはずも無く
魔法も学科も二位以下を大きく引き離すぶっちぎりの一位、このままでは九校戦に参加する事は確定だ。
魔法力が一位でそれはあり得ないのだが、(技術スタッフとしての参加にできないものかしら?)
(原作ではあずさも技術スタッフだった)(できるよね)(できるかな?)(できたらいいな)(ダメかな?)と麗華は考えていた。
生徒会室
家の都合で暫く休学し、その後在宅で学習していた渡辺摩利が復学し、真由美に会うために生徒会室を訪れていた。
「風紀委員室で聞いたのだが、仁科の姫君が暴れたそうじゃないか?」
真由美は微笑みながら。「ええ色々あったわ。」
「入試問題を添削して、CAD無しで実技試験、主席入学して答辞で教師陣を黙らせました。」
摩利は「想像できないな、あの人形のような無口な姫君が。イメージが合わない」
「それにしても、なんでそういう面白い時に私はいないんだ……。」本気で悔しそうだった。
暫くして生徒会室のドアがノックされ、扉が開くと「遅くなり申し訳ございません」と麗華が頭を下げた。
摩利は麗華を見て「久しぶりだな。」
麗華は驚いて顔を上げた。
渡辺摩利。
一年前の百家主催パーティで会っている。もちろん覚えていたが、摩利も一年前より成長し、
麗華が小説を読んだ時にイメージした通りの姿になっていた。無駄な記憶が暴走した。
(姐さんだ。)(風紀委員の姐さんだ。)
「はい。姐さん」
沈黙。生徒会室が静まり返った。
(やってしまったぁぁぁぁっ!!)
真由美が吹き出す。
神崎が机に突っ伏す。
鈴音は完全に笑っていた。
摩利はゆっくり真由美を見る。「真由美。」
「何かしら?」
「お前が言わせたな。」
「私は無実よ!」
「絶対嘘だ。」
「本当よ。嘘じゃない。」「ねえ、鈴音、あなたも何か言って。」
鈴音が静かに言った。「日頃の行いですね。」
神崎も頷く。「日頃の行いだな。」
「何でよ!」真由美が抗議する。
一方。(どうしよう……。)(怒ってないかな……。)(百家怖いし……。)麗華は本気で焦っていた。
だが。摩利はしばらく真由美を睨んだ後で麗華を見て笑った。「まあいい。」
「え?」
「誰に聞いたか知らないが、その呼び方はできれば勘弁して欲しい。」
「申し訳ございません。」
「仁科に怒っているわけじゃ無い、その呼び方を広めているやつがそこに居るんだ。」
真由美が目をそらすのを見て、(この二人、本当に仲が良い。と。)麗華は微笑んだ。
「雰囲気が変わったな?」
「え?」
「一年前に会った時と全く違う」
麗華が固まる。「そうでしょうか。」
「ああ。」摩利は頷く。「本物の笑顔が見れた」「今の方が私は好きだ。」さらりと言われてしまう。
麗華は前世でどっぷりハマっていた宝塚の男役のような摩利のセリフに感動し、最高の笑みを浮かべた。
九校戦選考会議
数日後。生徒会室では九校戦代表選考会議が行われていた。部活連代表として十文字克人も参加している。
神崎会長が「先ずは、本戦代表者の選考を検討したい。」
「そこで問題となるのが仁科だ。」神崎会長が断言した。
麗華以外が皆頷いた。
麗華は(何で私が!?)
真由美が言う。「麗華さんなら本戦のどの競技でも優勝できます。」
(そんなことないです。)
「同意だ。」十文字も頷いた。
(同意しないでください。)
「となると、高得点のアイス・ピラーズ・ブレイクは外せん。」
(外してください。)
「モノリス・コードもありだな。」神崎。
(え、そんなのありえません。)
真由美が呆れた。「さすがにそれは、女性ですわよ?」
神崎は「フン、大会委員が仁科家に逆らえるものか」と言って笑った。
「それは言えますね。」
(そこ納得しないでください。)
「これで今年のモノリス・コード優勝は決まったな」
(決めないでください。)
会議は暴走していく。誰も本人の意思を確認しない。麗華は勇気を振り絞った。
「あの。」
「うむ。」
「私は。」全員を見る。怖い。胃が痛い。逃げたい。だが言うしかない。
「できれば技術スタッフとして参加したいのですが……。」
その言葉に対し、暫く沈黙が続く。
麗華は、(もしかしたら。理解してもらえたかもしれない。)と期待する。
数秒後。真由美が微笑んだ。「ご謙遜を。」
「謙遜だな。」神崎が頷く。
「謙遜だな。」摩利も頷く。
「謙遜だ。」十文字まで頷いた。
(聞いてください。)(本気です。)(競技怖いです。)(研究したいです。)(本当に聞いてください。) しかし。心の声は誰にも伝わらなかった。
重苦しい空気。麗華だけが重苦しい。
皆はとても嬉しそうだ。
その時、鈴音が手を上げて「我が校と他校のデータを基に条件を厳しくしてシミュレートしましたが、我が校の今年の優勝は間違いないと思われます。」
「うむ。当然だな。」と神崎。
鈴音は続けて言う。「仁科さんが、本戦に出る必要は無いと思われます。」
全員考える。
数秒後。「なるほど。」神崎が頷いた。「そうだな。」
真由美も同意する。「そうですね。」
摩利も賛成。「賛成だ。」
十文字も異論なし。「賛成する。」
(ありがとうございます鈴音さん!!)麗華は感動した。(流石です!!)(技術スタッフが見えてきました!!)
しかし。
「新人戦。」「アイス・ピラーズ・ブレイク。」「ミラージ・バット。」「決定だな。」
(違いました。)麗華は悟った。何も解決していない。
「仁科。」神崎が言う。「頼めるか。」
断れない。本当に断れない。「……はい。」
こうして。麗華の新人戦出場が決定した。
栄一郎、暴走する
その頃。仁科家。
「お嬢様の九校戦出場が決まりました。」
報告を受けた栄一郎は即断した。「土地を買え。」
「はい?どの土地をですか?」「富士演習場近隣だ。」
「用途は。」「麗華の練習施設だ。」
部下は固まった。「き、規模は。」
「当然最高水準だ本番施設以上の物を用意するのだ。基本設計は私がする。直ぐに取り掛かるぞ。」
そして。国内で建築に携わる魔法師のほぼ全てを動員し、仁科家の総力をかけた国家規模のプロジェクトが開始された。
富士演習場近郊
数日後。麗華は現地で絶句していた。
見渡す限りの広大な土地に各種競技用の巨大施設が観客席付きで点在し、その全てを自動交通システムが繋いでいる。
多数の宿泊施設や商業施設まで有する。まるで都市のようなものがそこに存在していた。
(何これ。)(何これ!?)(どう見ても練習場ではない。まるで国家規模のオリンピック施設。いや街にしか見えない。)
(これを数日で創ったの?)(あり得ない!)(非常識だわ!)
「お父様。」
「何だ。」
「これは何ですか。」
「練習施設だ。」
「そうではなく。」
栄一郎は胸を張った。「麗華には最高の環境が必要だからな。」
(だからどうしてそうなるんですか!?)(九校戦ですよ!?)(国家事業じゃないですよ!?)
麗華は鈴音に「鈴音さんもそう思うわよね」と言った。
鈴音少し気まずそうに麗華から目をそらし、「やりすぎたかも」と小声で言った。
麗華が「え?」と言うと。
栄一郎が力強く「問題ない。」と言った。
全く問題だらけだった。第一高校は最新鋭の練習施設(笑)を手に入れた。
他校から羨望と嫉妬の視線を浴びそうになったが、さすがにこれ程の広大な施設を第一高校だけで使い切れる筈は無く
九校全てがここで事前に練習を行い、さらに九校戦も今年からここで行われる事となった。
壮行会
大会1週間前。第一高校講堂。
代表選手たちが整列していた。
真由美。
摩利。
十文字。
麗華。
そして数多くの代表選手。
技術スタッフ席には鈴音とあずさの姿もある。
校長が壇上へ上がった。
「諸君。」会場が静まる。「第一高校の誇りを示してきなさい。」
大歓声。講堂が揺れた。誰もがやる気に満ちている。ただ一人を除いて。
真由美は燃えている。
摩利も燃えている。
十文字は静かに闘志を燃やしている。
麗華は遠い目をしていた。
技術スタッフの戦場
その夜。第一高校
大半の灯りは消えている。しかし。一室だけがまだ明るかった。
「終わらないわね。」鈴音が呟く。
机の上には分解された競技用CAD。
大量の調整記録。
「終わりませんね。」あずさも苦笑する。
時刻は午後十時を回っていた。普通の高校生なら帰宅している時間である。
だが。二人にはまだ仕事が残っていた。
「摩利先輩のミラージ・バット用CADですが。」
「ええ。」
「出力は十分です。」
「私もそう思う。」
「でも反応速度が少し足りません。」鈴音は頷いた。
「あと〇・〇五秒。」
「ですね。」
たったそれだけ。だが九校戦では大きな差になる。
あずさは修正を書き込む。鈴音は演算負荷を再計算する。
数分後。二人は同時に顔を上げた。
「これ。」
「これですね。」
また意見が一致した。
二人は笑う。「最近多いですね。」
「研究仲間だからかしら。」鈴音はそう言いながら思う。
麗華は理論を生み出す。
あずさは理論を形にする。
そして自分は。その二人を繋ぎ。研究という形へまとめる。
きっとそれが自分の役割なのだろう。鈴音はそんな事を思った。
九校戦は目前だった。選手には選手の戦場がある。
技術スタッフにも戦場があった。誰にも注目されない場所。誰にも知られない努力。それでも。彼女達は誇りを持ってそこにいた。
後の歴史家たちは語る。
この年の九校戦は『魔導文明の三大始祖』が初めて同じ目的のために本格的に動いた場所だったのだと。
もっとも。当の麗華は。(あの非常識な施設を見たら悩みが消え失せた)(もうどうでも良いわ。)
と半ば悟りの境地へ到達していたのである。