なんかすごい勢いでホロウが攻略されている。
本当に色々なことがあって、目を覚ましたら既に100年後の未来。いっそ精神まで朽ち果ててしまえば良かったのに、でも私の心は今もあの頃へ置き去りのまま。
過去に抱いた憤りに身を任せて、しかし歩み出せば耳に入るのはどこもかしこも信じられない情報ばかり。曰く、6大ホロウが既に半分に。人類はついにホロウを克服した。軍の発表では既に零号ホロウ攻略の目処まで──
「なに、それ……それが、そんな未来が、私たちの犠牲の果てに──?」
ラマニアンも。クリティも。あのパパゴでさえも。今となっては単なる更地でしかない。信じられない大躍進。考えられない大成果。認めざるを得なかった。サンブリンガーが隠していたのはこれだったのかと、暫くの間呆然として──だけどこれほどの成果ならば諦めるしかないと、涙目のまま色々なことを考えて。それでも湧き上がる悔しさと歓喜でごちゃ混ぜになって、行き場のない感情を持て余し枕を濡らす日々。
「え??? サンブリンガーって今軍にいないの???? じゃあ何やってるのあいつ????? ホロウ攻略って誰がやってるの??????」
そんな日がしばらく続き、けれどふとしたきっかけで今の軍──H.A.N.Dについて調べる機会があり、なんかサンブリンガーとかへーリオスとか全然無関係の誰かがホロウ攻略をやってるっぽいのを知って、私は無事に血管がブチ切れそうになりましたとさ。なんなのよもう!!
タウミエルを手にして以来、体調不良とはそれはもう数え切れないくらい付き合ってきた私だが、高血圧による憤死を心配したのはきっとあれが最初で最後だろう。今の子ってすごい。私たちがやってたことってホントに何だったのかな。でも私たちが頑張ったからその子たちが生まれたと思えばまあ少しは──いやこれベリを犠牲にした意味絶対になかったよね?????
野郎ぶっ殺してやる!!!と執念で居場所を突き止め、衝動的にサンブリンガーへ挑むもあえなく敗北。今度こそ私は号泣した。病み上がりで疲労困憊のまま万全の相手に無計画の凶行は流石に無謀が過ぎた。しかも彼女も現在の軍の躍進を知っているからか、普通に申し訳なさそうな顔をされて迎撃された。あいつホントいつかぶち殺してやるから覚悟しておけよこら。
そして現在、ベリとの思い出が詰まったあのプルセナスで、ホントに私たちの頑張りは何だったのかと軽く現実逃避をしてしまいそうな速度で、ものすごく効率的にホロウを攻略している四人組を実際に視認し、私は頭を抱えたくなってくる。
誰???というのが第一の感想。そのうち一人には面影がある。コミュ症一歩手前のあの子が結婚したとかそういうのは考え難いけれど、握っている刀やシリオンの種族、何より黒髪が映えるその顔立ちから、おそらくは私たちも知る星見家の子孫か何かだろう。
けれど他の三人はまるで知らない少女だった。そりゃあ100年も経ってるんだから知人なんて存在している方がおかしいのだけれども、それにしたって心当たりがまるで無かった。というか見るからに星見の子以外ほぼ生身だし、これって普通にへーリオスのあれこれや結使の云々とは無関係なのでは?(名推理) 今時の子ってすごい(白目)
「あの子が最大の鍵か……」
視線の先。四人組の中心。どこか私の衣装に通じるところがある、白いドレスを着た金髪の少女を見据える。
星見家の子が守っている子。他の子達が注目している子。空間に手を翳し、見る見るうちに周囲のエーテルを吸収、枯渇させ、それによりプルセナスホロウの攻略を実現している正しく要となっている存在。
(あの子が100年前に居たらなぁ……)
あの子が人類の執念が生んだ100年の集大成なのか。あるいはただの突然変異か。いずれにしろ、ホロウ攻略最大の要因は、あの子の持つ、“耐性”の一言では片付けられない、常軌を逸したエーテル吸収体質にこそあるのだろう。
おそらくは他の3つの原生ホロウを吸収してなお有り余る許容量。見たところ苦しんでる様子も無いし、正しく無尽蔵なのかもしれない。いやどんな体質???? 他人の体質を羨んだのなんて初めてだ。おかしいなぁ。私たちはこれでも軍属だから、エーテル侵蝕耐性は逆に余人に羨ましがられるレベルで人並外れた数値のはずなんだけれども。
何にせよ、改めて状況は理解した。つまりはあのバグみたいな子が見つかったから、軍は喜び勇んでホロウ攻略に乗り出したと。そしてそれが現状とても上手く行ってると。マジでサンブリンガーたちと無関係そうで失笑してしまう。ざまぁ。
閑話休題。
それからは流れ作業だ。星見家は本当に後継者に恵まれたらしく、おおよそのエーテリアスはその刀で一閃。そうでなくても時間を稼げばやがて例の子の手により周囲のエーテルが枯渇し、ホロウ空間でしか生きられないエーテリアスは渇死する。戦闘面ではこの二人で完結し、ならば残りの二人の役割は何ぞやと考えたりもしたのだが、それを外部の私が勝手に推測するのは野暮というものだろう。
そしてそんな詮索も意味はなく、夜が深けてからはそこからが本番とばかりに、山羊の子が見張りをしている間、すやすやと眠る立役者のふたり。その側ではウサギの子がもふもふの手で器用に報告書らしきものを書いていて──私たちよりよっぽど役割分担が出来てるじゃないか。私らなんて星見の子はマイペースだしサンブリンガーやアーチ教授はいつも仏頂面でツレないしジョイアスは酒浸りだし……なんかさっきとは違う意味で泣けてきた。
「私、何をしてるのかな……」
そんな光景を遠くから眺めて、私は一人寂しく呟く。
人類の進歩とは凄まじい。それは私がタウミエルを拝受した時から分かっていたこと。忌まわしきホロウすら必要とあれば利用し尽くす。その果てに人類はこの星を支配するに至った。
100年前の“伝説”なんて、あの子たちにしてみれば通過点でしかない。パパゴホロウが消滅した今、ベーグル計画なんて資源の無駄だ。それはとても嬉しいはずなのに、どうしてこんなにも悲しいのか。それはとても素晴らしいはずなのに、私はどうして悔しくて苦しくて寂しくなるのか。
「あれ……?」
気付けば私は寝落ちしていた。仮にもホロウで気を緩めるとはなんたる失態か。『杖の軍』にいた頃なら大目玉確定だ──って、
「いない……!? あの子たちは──」
「ここだ」
ひたり、と切先を首元に当てられる。至近から聞こえた囁き声に、冷水を浴びせられたように全身が強張ってしまう。
視線の先、彼女たちがキャンプをしていた高架下は僅かな痕跡が残るのみで、そこに人の気配は感じられない。しかし、それは彼女たちがこの場から消えたという意味ではなく、突き付けられた刀のその先からは警戒色の視線をひしひしと感じる。
「未登録の戎具──まさかそんなものがあるなんて驚きだけど、それが大事ならちょーっと大人しくしといた方がいいよ? それの厄介さは知ってるけれど、それでも“旅人”ちゃんならその中身さえ無力化出来ちゃうんだから」
いや(過去に)登録されてるよ?!? むしろ起源みたいなものだよ!?!
そんな反論も意味がないと分かっている。彼女たち最新の人類にしてみれば、行方不明になってただろう100年前の骨董品など何の価値もないものなんだろう。というか星見の子が全然戎具の反動に苦しんでる様子無いのってそういうことなんだ羨ましっ。
大人しく手を挙げる。あまりの衝撃につい不覚を取ってしまったが、それだけのものは見せて貰った。せめてもの誠意と、彼女たちが見せてくれた未来の展望を讃えて、多少の恥は飲み込もう。
「それで、貴女は何者なのかな?」
先程書類を書いていたことから、そういった雑事を得意とするのだろうか。
愛らしい外見に見合わぬ迫力を纏って、ウサギの子がゆっくりと詰め寄る。他の三人は、そんな彼女を守れるようにほんの少しだけ前のめりに立っていて──良いグループだと、思わず笑顔を浮かべてしまった私を、誰が責められるだろうか。
「私の名前はレミエール。レミエール・ダン。『杖の軍』のダン、って言えば少しは伝わるかな?」
おそらくは彼女たちに最も通りが良いだろう名を告げて、ゆっくりと背後へ振り返る。
それを聞き、目を見開く彼女たちの姿を見て、ほんの少しだけ優越感を抱く私は、やはり性格がちょっぴり悪いのだろうか。なんにせよ、僅かにでも意趣返しが出来たのなら、私も無様を晒した甲斐があるってものだ。
☆☆☆
「……かの“初代虚狩り”筆頭が、鬼族とのハーフだって情報はなかったハズだけどぉ」
照さんの言葉は努めて冷静であったが、流石に動揺を隠せていなかった。
とはいえ気持ちは分かる。プルセナスホロウの不審人物。そもそもこのホロウに長時間滞在できる時点で尋常の存在ではない。加えて旅人曰く戎具らしき武器を持っている。もう役満である。少なくともただのホロウレイダーでは絶対にない。
そんなわけで互いにこっそり示し合わせ、深夜に襲撃を仕掛けることに。都合の良いことに惚けてすっかり油断していたので背後を取るのは難しくなかった。些か向こうが油断し過ぎな気もするが、ホロウに多少なりとも携わった人なら、それだけ“旅人”の体質が衝撃的に思えてもおかしくない。
しかし、それ故に目撃者には細心の注意を払わねばならない。旅人は強いが、決して無敵というわけでもなく、少なくともお腹は空くし睡眠も必要とする。ルール次第ではあっても“虚狩り”クラスの実力があれば制圧も不可能ではない。極端な話、旅人が不意に暗殺でもされてしまえば、それだけで今後の計画が全て無に帰してしまうのだから。
で。
「杖の軍、って……──」
そんな未熟ながらも懸命に組み上げた警戒網に引っ掛かった人物。それが本人曰く初代虚狩りことダン中佐その人であるらしい。いやいやいやそんなはずは、とは思うものの、隣の宇宙人の存在を思い返して言葉に詰まる。宇宙人がおるならほな100年前の人物がハーフなの隠すくらい普通か──みたいな。
それ以前に、彼女がとんでもないホラ吹きである可能性もあるにはある。でもねあたし、最近なんとなく察してきたんだ。どうせコレもマジなんだろうなぁ……って。だってホロウの中でも零号に次ぐ禁足地に、たまたま戎具らしき武器を持ったレイダーがひとり侵入してるなんてことあるだろうか。あたしは無理があると思う。
それなら100年前から密かにこの世界を見守ってきた長命種のひとりが、最近の対ホロウへの躍進を噂に聞いて自ら監視していた、という可能性の方が遥かに
「……よもや偉大なる先人と相まみえるとは。私の剣はかつての先祖と比べ、如何程劣化を重ねているか気になるところだが」
「う、うーん? 生憎と私はそういうの詳しくないんだけど……私の目からは遜色ないってトコロかな?
それよりも、君ってやっぱり星見の子だよね? 何代目なのか聞いても良い??」
「この通り私は未だ若輩故に、星見家の当主は七代目の父上が担っている。しかし、そんな私がかの“三代目”に迫るとは光栄な話だ」
「七! はぁ〜まさかあの子がねぇ〜……」
「…………」
昔を懐かしむように遠くを見る自称ダン中佐。完全に視線が孫を見る目をしていて、それに嘘があるようには思えない。状況が許せば頭でも撫でそうな勢いだ。むしろそんな状態の彼女にしっかりと刀を突きつけたままの雅さんは流石というか何というか。
しかし参った。単なる不審者として対応するには名前があまりに大物過ぎる。なんならどこからか依頼されてあたしたちの護衛をしていた可能性すらある。確認を取ろうにもプルセナスでは通信機器を持ち込めず使えない。そんな風に思考を巡らせていると、不意に旅人が呟く。
「……あの、今更なんだけど、“虚狩り”って何なの?」
「え?」
え????
いやそれは……あれ? よく考えたら確かに説明した記憶がない?? いや多分何となくは旅人も理解しているんだろうけど、明確な定義とかって何だろう。
「……公における、ホロウに関連する最高栄誉の称号かな。虚狩りって名前は“災厄を狩る者”、転じて都市の守護者って意味合いで、まあ平たく“英雄”って呼び方でも大丈夫。ちなみに旅人ちゃんやリュシアちゃんも希望すれば即座に授与されるよ」
「へっ?????」
「不思議? だけどホロウ関係の技術で多大な貢献をすれば研究者にも授与されるし、6大ホロウをひとつ攻略した時点で実績としてはむしろ足りないくらいだと照ちゃんは思うけどぉ」
あたしが“虚狩り”?????
そんな馬鹿な。あたしは本当に見ていただけなのに。“虚狩り”っていうのはそんなに安い称号じゃないはずだ。初代“虚狩り”と言えばみんなの憧れで永遠のヒーローで……あれ?? そういえば目の前にその人がいる。サイン貰った方がいいのかな?????(錯乱)
「安い称号じゃないからこそ、結果として都市にこれだけの貢献をしたリュシアちゃんに授けたいって層がそこそこいるんだよねぇ……。
貴女にしてみればちょっと目新しい研究に投資したってだけかもしれないけどぉ、それで結果に報いなかったら何のためにそんな称号があるんだって話だしぃ」
そ、そんな、そんなはずはない……都市が、新エリー都がそんなに庶民に優しいなんて有り得ない……。
あたしの知るエリー都はもっと厳しくて、冷たくて……市民のことなんか喋る家畜くらいにしか考えなくて、ヒトと違うところがあれば恩も知らずに迫害するし、そのくせ何かあるとすぐに責任を押し付ける。そんなディストピア染みた世界観だったはず──
「……だいぶ偏見に満ちているけどぉ、ちょこぉーっとだけ否定し切れないのが……そういえばこの子ってあの“夜守り人”だったっけ……」
「……100年経って都市も何もかも変わったと思ってたけど、そういう嫌なところだけは変わらないんだね……」
虚狩りを名乗る不審人物にまで心配された。泣きたい。泣いた。
まあそんなあたしの嘆きはともかく、照さんの解説である程度のニュアンスは伝わったらしく、旅人はなるほどとばかりにいつものポーズをすると、
「じゃあ、そんな“虚狩り”さんが、ここで何をしていたのか聞いても良い?」
「いや、ね? 悪いとは思ったけど、今の子がすっごい活躍をしてるって聞いたから、これは是非とも近くで見なきゃって」
そんなミーハーな理由なんですかダン中佐殿。
あんまり悪いと思ってなさそうな態度で彼女は言う。というか今のあたしの周り、ストーキング行為を当然だと思ってる層があまりにも多過ぎる。治安官は寝ているのですか!? そもそもあたしって正確にはホロウレイダーだった……なら監視をするのも当たり前か……。
そこで不意に会話が途切れ、しばらく無言の状態が続く。もうあまり警戒する必要がないのは察してきたが、だからと言って気安く放置するわけにもいかない。沈黙が続く中、事態の中心である旅人が告げる。
「じゃあ、一緒に来る?」
「え???」
「私には実感が薄いけど、これまでの話から、零号ホロウがとんでもないところなのは分かってる。なら、それに詳しそうな人が目の前にいるなら、少しは話しを聞いておきたい、かな」
「…………」
怖いもの知らず、とは違う。無知故の強さ、とでも表現するべきか。
そんな提案を受けた伝説の人物は、しばしの間きょとんと目を瞬かせて、その後笑顔で「喜んで」と差し伸べられた手を取る。ふたりの衣装とも相俟って、それは舞踏会に臨む令嬢のよう。
しかし、彼女らや我々が向かうのは、決して容易い場所ではない。伝説の初代“虚狩り”──それが戦力に加わってなお、まだまだ攻略には不安が残り続ける。
少なくとも、戦力的には“伝説”に相応しいダン中佐の活躍を眺めながら、あたしは今後の展望を憂う。残るはふたつ。ハワーラに零号、いずれも只事では済まない場所。
照さん曰く、ハワーラホロウでは、かの“讃頌会”がラマニアン跡地から怪しげな呪物を運び込んで何やら企んでいるとのこと。最近は持て囃されてばかりでつい忘れそうになるが、この世界は旅人の住むテイワットほど優しくはない。それでもあたしは進むんだ。今の世界を少しでも、旅人に誇れる世にするために。
ホロウ解説
ラマニアンホロウ
2章の舞台となる場所。詳細は本編を参照。
クリティホロウ
1章の最序盤でニコたちが迷い込んだホロウ。詳細不明。
パパゴホロウ
ゼンゼロのコンテンツの一つ、ベーグル計画にて舞台となるホロウ。詳細は本編を参照。
プルセナスホロウ
イベントで共生ホロウが出た。なんか特殊らしい。詳細不明。本作のはオリジナルの設定。
ハワーラホロウ
詳細不明。
零号ホロウ
全ての元凶らしいけど例の如く詳細は不明。
もうこんなの(何も分からないから)讃頌会でイベント水増しするしかないやん……。