こんなはずではなかったと、サラ・フローレンは思考する。
己の存在すら権力者の都合により抹消され、巡り巡って“絶対的な存在”としてホロウを崇めるようになった私。そうなった経緯こそ遺憾なものでも、至ったことへの不満はない。
あの忌々しきTOPSでさえ手に負えない存在であるホロウ。その力の一端を私が担うなどと、まるで神に認められたようではないか。“始まりの主“を呼び醒まし、全てをホロウの支配下におけば、もはや人類はこれ以上苦しみに悶えることもない。
そんな崇高な使命に揺らぎが発生したのはつい最近のことだ。ラマニアンホロウの消滅。まさしく驚天動地としか呼べない出来事が突如として舞い降りて、更には週単位でクリティ、パパゴといった有名どころが次々と落とされている。
あまり唐突で突拍子もない展開に、流石のTOPSも慌てふためき、奴らに便乗する形でこちらもその件について調査したものの、耳にするのは荒唐無稽な与太話ばかり。
曰く、醜く繰り広げられる利権争いで遂にTOPSが重い腰を上げた。曰く、駐在していた軍の小隊が讃頌会司教撃破に勢い付いた。曰く、神が舞い降りて全てを解決した。曰く、いつまでもホロウに梃子摺っている大人に業を煮やしたとある学生があっさりと攻略した──
どれも到底信じ難い話。しかも最有力な噂は一番最後のものとこれまた信じられない。しかし情報を集めるたびに、どうやらその噂が真実らしいことを知って、流石の私も唖然とするほか無かった。
下手人は、リュシアと名乗る“夜守り人”の一族の女性と、“旅人”と呼ばれる謎の少女。彼女らはクリティホロウに着の身着のまま突入し、おそらくはその内部を真っ直ぐ突き進んだのちに対面から飛び出した。それだけならただの優秀なホロウレイダーにも思えるが、彼女らが突入した瞬間からみるみるクリティホロウは規模を縮小し、最後にはエーテルの枯渇により自壊した、と言うとその異常さが分かるだろう。
馬鹿な。そんなまさか。と更に動向を探らせたところ、彼女らはカフェで甘味を貪りながら、クリティは順調だったね次はプルセナスが楽そういやパパゴを先にと、まるで観光地を巡るようなテンションで6大ホロウに挑んでる始末。ふざけるな、などと憤っても、彼女らは実際にあの“神の迷い路”パパゴホロウと禁域プルセナスホロウをその会話の二週間後には消滅させ、現在進行形でハワーラはその規模を縮小させている。
なんだそれは。と思った。それなら過去に命を賭してホロウに臨んだ我々は何だったのだ。彼女らが気紛れを起こす可能性に賭け、TOPSの犬に甘んじて媚び諂えば、それで全てが解決していたとでも言うのか。
「──謹んで我が主に請う。真理の形をとり、混沌なる人の世に顕現せよ」
心の奥底で軋みを上げる感情から逃げるように、拠点をハワーラに移し先んじて儀式を執り行う。“始まりの主”は私を認め、一つとなることをお許しくださった。全身に滾る万能感。ひと睨みで空間を歪ませる神が如きその力。
永遠に揺るがぬ権威。万有をも統べる権能。この力があれば彼女らとてものの数ではない。磔にして塵殺し、その血でこの地を聖地として彩ろう。否、待つのすら億劫だ。ホロウに潜む奴らをこの場に“招待”し、増えた頼れる仲間をひとり、ひとりと潰していき、無力感に苛まれながら絶望を噛み締めると良い──
☆☆☆
「え? 市長さんが私に会いたい?」
作戦開始十二日目。進捗で言うならハワーラの縮小率が40%を割り、しかしそれに比例するように讃頌会からの干渉も激しくなってきた頃。
休憩時にはガッツリ切り替えるタイプの旅人が、例の浮遊するティーセットを囲んで、あたしやレミエールさんとだらだら駄弁りながら異様に美味しいケーキを摘んでいると、この前すれ違った軍人さんを引き連れた照さんが、相変わらずのふわふわした口調で真剣な報告を上げる。
「そう。これまで旅人ちゃんはどこかに長期間滞在することはなかったハズだけどぉ……今回の作戦に際してお忙しい市長サマのご都合が取れたみたいだからあ、この機会に是非ともってことみたい」
「うーん……」
断る理由もあまりないだろうし、てっきり即答するかと思えば、意外にも旅人は微妙な反応。彼女は市長とは何のゆかりもないはずだし、権力者自体に嫌な思い出でもあるのだろうか。まあ“旅人”の呼称や“風と自由の国”の“冒険者”という肩書から、そもそも縛られることを好まないってだけかもしれないけど。
「な、何か不都合でもありましたでしょうか!?」
「いやリュシアから話を聞いた感じ、市政には私あまり良い印象がないから」
『“夜守り人”の迫害か──衛非地区に携わる者として、その件については弁解の余地もない』
あたしのせいだった。でもまああたし達の対立としてホロウ相続派(仮)が未だ根強くTOPSには存在しているので、その考え方も間違いではない。
オルペウス、と名乗った軍属の方と、その武器(知能構造体?)である鬼火隊長さんから、こちらが申し訳なくなるくらい頭を下げられるが、ぶっちゃけあたしはもうその件については気にもしていない。僅かに心残りがあったラマニアンも綺麗さっぱり消えてしまったし、この先あたし達がホロウを根絶すればウチの一族のようなくだらない諍いも減るだろう。ルーシーさんの言葉を借りるなら、金持ち喧嘩せず、というやつだ。
ともあれ彼に関しては旧都陥落以前から公言している根っからの根絶派。現在あたし達がこうしてゆっくりしていられるのも彼が軍に便宜を図ってくれたからで、せっかくの好意を無碍にするのもアレと考えたのだろう。最後には頷き、その言葉を受けた照さんと、朝から無言でこちらを護衛していた11号さんがオルペウスさんと入れ替わる形で退出する。あの人、結局一言も喋らなかったな……無口なのか単に職務に忠実なのか。
ん? というか、あれ?
「そういえば、今日の護衛はお一人なんですね?」
「?? 何を言っているでありますか??」
『「シード」のことだろう。腹立たしくはあるが、私はこの手の作戦の人数にカウントされない。私がオルペウス隊員ごと攫われるリスクを看過できん故にな。「シード」のマイペースさは確かに困りものだが、まだ時間には余裕もある。あいつも何だかんだと任務には忠実だ。今更遅刻の心配は不要だろう』
「いや、そうじゃなくて……」
鬼火隊長さんが人数にカウントされていないのは以前からそうだったのでいいとして、今日は朝から11号さんだけが護衛に付いてて他のメンバーを見ていない。ようやく監視が緩くなったのかと思えば午後からはシードさんも付くらしいし。護衛人数の見直しでもあったのだろうか。いや本当にふと疑問に思っただけで他意はないんだけど。
などと思っていると、不意にレミエールさんがくすくすと笑う。何だろうと彼女の方を見ると、彼女はそのまま視線であたしの背後側……部屋の隅の上方を指し示し、促されるままその方向を向くと、そこには全身をゴテゴテの装備に纏った黒いバイザーの女性が──ファッッ?!!??
「あ、ようやく気づいた? まさか最後まで気付かないなんてね〜。今は
そういうサプライズは要らない。位置的にレミエールさんは真っ先に気付いていたみたいだけど、一体いつから天井に張り付いていたのか。まさか最初から……? 流石にこの部屋に入る前からスタンバイしていたとは考えたくはないが、この奇行を思うに普通にそれくらいはやってそうで困る。というかもう監視くらいなら受け入れるから止めて?
などとは言い出せず、何事も無かったかのような顔(顔は見えないけど)で天井に張り付いていた彼女──以前、「トリガー」と名乗っていた女性は、特に天井に張り付いていた理由については言及せずにそのまま満足げに去って行った。なんかもうそっちがいいならいいや別に……。
「……ちなみに旅人はいつから気付いてたの?」
「最初からだけど」
言ってよ。いや確かに旅人もちょっと視線をあたしに向けたら気づいただろうけどさ。それでもレミエールさんみたいに反応を楽しむでも無いなら普通に教えてくれてもいいんじゃない? 遠回しにそう言ってみると、
「なんか私も監視されるのは割と当たり前というか……害にならないなら別にいいかなって」
そうだったこの人(推定)有名人だった。そうでなくても単独で龍をボコれる超人が各国で注目されないわけがなかった。
だけど未だに根が小市民なあたしとしては、常に護衛されているというのはどうにも居心地が悪い。多分照さんが頻繁に報告やら書類やらで歓談の場から離れようとするのも似たような理由なんだろう。忙しそうだからあれはあれで羨ましくもないけど。
「そういえば、新エリー都の市長は今もあのメイフラワー家なんだっけ?」
「さ、左様です中佐殿!! 自分の記憶ではそれで間違いはないかと!! 詳しくは“一杯の土から”というドキュメンタリー映画をご覧頂くのがお早いと思うであります!」
切り出したのはレミエールさん。100年前の事情には詳しくないが、旧都が今の市長の一族よって作られた話はどこかで聞いた覚えがある。オルペウスさんが言う作品についても見たことがない。とはいえ新エリー都にもレミエールさんのような鬼族の血を引いた生き証人はそこそこいるので、彼らが納得できる程度の仕上がりにはなってるのだろう。
「映画かぁ……確かあのプロキシさんの本業がビデオ屋だったよね。私たちの話とか、ジョイアスくん辺りがどれだけ神格化されてるかちょっと興味あるかも」
「じょ、ジョイアス殿でありますか……!」
しれっと会話に出てきた“伝説”の人物の名前にドキッとする。今となってはあたしがその伝説さえも踏み越えてしまったのだが、それでも彼らへの憧れが消えたわけではない。同じく讃頌会の司教を打破したというオルペウスさんが彼女を“中佐殿”と呼称するのも、おそらくは同じ理由から来ているのだろう。単純に気があまり大きくないだけかもしれないけど。
『……新エリー都広しと言えど、彼を“くん”付け出来るのは旧友である貴女くらいでありましょう。とはいえ浅学なこの身では、彼はプロキシの祖を築いた優秀な人物であるという話を聞くのみですが……』
「それも間違ってはないんだけど……彼ったら普段から酒浸りで且つ秘匿主義でね。パパゴから史上初めて脱出に成功したって話が出た時も、どうせ酒に酔って迷い込んだんだろうって語り草だったんだから」
ええ……?
想像の10倍は人間臭いエピソードが出て来て困惑する。とはいえレミエールさんもこんな調子だし、如何に伝説の初代“虚狩り”と言えど、根っこは人間なのだから当然と言えば当然か。彼を神格化している学者が聞いたら発狂しそうではあるが。
「おっリュシアちゃん他人事だねぇ〜。でも市長さんがわざわざ会いにくるってことはつまりだよ? “市長の名において貴女を虚狩りと認定したい”──って話になるんじゃない?」
「へ???」
『……可能性としては十分に考えられるな。いち軍属である私からしても、リュシア氏と“旅人”殿の功績には頭が下がるばかりだ。烏滸がましくはあるが、もしも私が彼の立場だったと仮定するなら、是非とも新エリー都に縛り付けたいと考えることだろう』
参ったな。なんか普通にあり得ちゃいそう。
でも旅人はともかく、あたしが“虚狩り”って各方面に失礼でしょ。レミエールさんは当然ながら伝承に決して劣らないし雅さんもあの調子。なんならこの部屋の中だと武装していないオルペウスさんにすら制圧されそうなあたしが“虚狩り”なんてそんなまさか。
「へーきへーき。ジョイアスくんも多分ステゴロならリュシアちゃん以下だろうし、それを言い出したら市長ですら“旧都から逃げ出した臆病者”って責めていい立場でしょキミは」
流石にそれを言えるほどあたしは恥知らずではない。だけど功績だけなら確かに間違っていないのが尚更困る。
お人好しの旅人であれば、いずれこの世界の窮地を知り自主的にホロウ消滅に臨んだ可能性は高いが、その口火を切ったのがあたしなのは確かだ。それが自殺教唆と同義の愚策だとしても、結果が出たからには誤魔化せない。
思わず旅人の方を見るが、彼女もまた当事者だと言うのにどこ吹く風だ。彼女にしてみればこの世界ですら長い旅路の一つ。今更ひとつふたつの称号を授けられた程度で動じたりはしないのだろう。でも旅人って案外そういうの適当そうだよね。
閑話休題。
「恥ずかしながら、私はホロウを根絶の叶わない腫瘍のように捉えていた。
だが君たちは、そんな私の浅慮を誤りであると証明してくれた。
素晴らしい。実に、素晴らしいことだ……!」
先日の会話から2日後。進捗が70%を超え、いよいよ讃頌会からの捕縛者が三桁を突破した辺りのタイミングでその人物は現れる。
聞いていた年齢よりも一回りは若く見える精悍な顔つき。鍛えているのかガッチリとした体格。後ろで纏めた空色の髪は白髪の混ざっている様子もなく、仰々しい肩書の割には声に老獪さを感じさせない。
彼が新エリー都市政の頂点、ダイアリンさんや照さんたちTOPSをも統べる人物、メイフラワー市長。あたしも実物を見るのは初めてであるが、実際の印象は想像よりもかなり温和に見える。それはあたしたちが都市の恩人であるのも影響してそうだけど。
「まずは深く感謝を。君たちは深き闇に黎明の道を切り開いてくれた英雄だ。ラマニアンホロウが消滅したと聞いたあの日から、私はずっと君たちを讃えたい気持ちで一杯だった」
「ど、どうも……」
凄まじい熱量でこちらの手を握る市長様。いっそ利用する気満々だったりした方が突っ返すことも考慮出来て良かったかもしれない。でもあたしも彼の立場なら似たような反応してたかもなぁと考えると拒絶も躊躇われる。というかなんで真っ先に向かうのがあたしなんだろう。殆ど旅人ひとりの功績に等しいのに。
「無論、そちらの“旅人”君の尽力にも全力の誠意を以て応えたい。だが私は彼女のような特異体質を持たず、しかしホロウへと立ち向かう決意を抱いた君の判断をこそ誰よりも評価している。
“英雄”とは決して特定の一人ではなく、君のようなひとつひとつの決断が、結集してこそ現れる太陽なのだから──」
歯の浮くような台詞の羅列。このような衆人環視の場所でなければ、あたしを口説いているのかと疑いたくなるような発言だ。正直に言おう。とっっっっても恥ずかしい。やめてあたしそういうの慣れてないの。あたし夜守り人。迫害される側。OK?
旅人に助けを求める。依頼主のピンチだからどうにかしてください。指でグーサインを出された。彼女の視点だとこの場面はピンチでもなんでもないらしい。知ってた。
「君が“旅人”君だね。君はリュシア君から依頼を受けた冒険者──いわゆる傭兵に近い人物だと話に聞いている。そうなると君へは謝辞より相応の報酬を出すのが礼儀だろう。私の権能の及ぶ範囲であれば、あらゆる要求を叶えると約束しよう」
「……いいの? そんな安請け合いをして」
「構わないとも。君はそれだけの事を成したのだからね」
あたしへの対応がこんな感じなので、てっきり旅人へは感涙して拝むくらいはするのかと思えば、何故か市長は旅人に対しては割とあっさり目な対応。解せぬ。でも旅人のスタンスをきっちり理解してる感はある。余計な重荷や謝辞よりも実利の方がよっぽど喜びそうだからね旅人。
「そして初代“虚狩り”、レミエール・ダン殿……未だ存命だと聞いた時は驚いたよ。
市政の代表として、君には謝罪せねばならないことが山ほどある。君の溜飲が少しでも収まるようなら、この場で私の首を刎ねてくれても構わない」
「思うところがない、って言ったら嘘になるけど──貴方に八つ当たりしたところで虚しいだけだし、幸か不幸か矛先はまだ残されてる。だからちょっとでもそちらが責任を感じてるようなら、ソロブ消滅までは
「……確約は難しいが、少なくとも君たちの邪魔にならない範囲で、円滑に物事が進むよう努力しよう。
そして互いに隠し事が多そうな二人の会話は、やはり側からは測れない雰囲気のまま終わった。市長ですら彼女が鬼族とのハーフであると認識していなかった辺り、よほど込み入った事情があるのだろう。ちなみに、レミエールさん本人が意図してこの誤解に便乗しているので、あたしたちが真実を知るのは随分先の話になる。
さて、ある意味で今日の最大のイベントはそんな感じで滞りなく終わったわけなのだが、本日の作戦自体はまだ終わっていない。とはいえ旅人はともかくあたし達は彼女を見守るだけなのだが──よほど興味深かったのか、多忙であるはずのメイフラワー市長をもがその場に残り、ホロウが吸収される様をまじまじと見つめている。
「これは……話を聞くのと実物を見るのとでは大違いだな。我々も輝磁を用い、一時的にエーテルを枯渇させる技術は研究しているが、それは本質的には爆弾と同様に“弾き飛ばす”だけのもの──彼女の持つ体質とは比ぶべくもない」
「……あたしは彼女の体質を利用しているだけなので、とても褒められるようなことは」
「いや。私なら真っ先に彼女の体質を紐解く方向のアプローチをしただろう。彼女の人格を尊重し、結果として不興を買わずホロウを処理できているのは君の配慮があってこそだ」
だから是非とも君を“虚狩り”にと、サラッと付け加えていいレベルではない市長の妄言に聞こえないフリをして、あたしは気になっていた事を旅人に問う。
「……ねえ、旅人。讃頌会からの介入は大丈夫なの?」
「
「え?」
『何?』
「ど、どういうことでありますか……!?」
あたし、鬼火隊長、オルペウスさんの順に疑問の声。声こそ出さないものの、市長やレミエールさん、他の護衛の方々も驚いてる。シードさんだけは呑気に欠伸をしててよく分からない。
「既に内部で尋常じゃないエネルギーが渦巻いてるのが分かる。多分これが『始まりの主』で、召喚か使役か、おそらく彼らはもうその顕現を成し遂げている」
「そんな……!?」
「でも、その存在はどこまでもホロウの環境に依存している。古来より、環境の変化に適応出来なかった生物は滅ぶのが定石でもある。だから、大丈夫じゃないけど問題はない」
「そ、れは……」
ほんの少し前までは、ホロウの消滅なんて夢物語でしかなかった。だから讃頌会の目的がホロウの存在に依存していたとして何ら問題はなく、実際にホロウ拡大のペースを早められるだけで人類は滅亡へ一直線だっただろう。
このタイミングで、縮小率が20%を割ったとの報告が入る。あまりにも早い報せ。今日の朝方に30%を割ったばかりだというのに、これほど急激に縮小するのは何かがおかしい。
「或いは、彼らが真に“ホロウ”という存在を理解しているのなら、こんな理不尽な結末にはならなかったのかもしれないけど──」
19%、18%、17、16、15──基地の各所から次々寄せられる報告はまるでカウントダウンのようで、慌てた様子で装備を整えた休憩中の隊員達が、旅人を囲むように駆け付けてくる。
数値が10%を割ると、不意に旅人が虚空から取り出した剣をホロウへと突き入れる。
何を、と思う前に響き渡る劈くような悲鳴。この世の怨念を煮詰めたような、世界の絶望を濃縮したような耳障りな金切り声。しかし、旅人はその声について言及することもなく、無言のまま剣を上へと振り上げると、それはホロウ上部を掠めて天を仰ぎ、それを合図にハワーラホロウは終焉の時を迎えた。
「理解できないものを信仰するなんて、ある意味で彼らは、価値観こそ違えど、最も人間らしい人達だったのかもね」
静かに告げる旅人の言葉は、直後にハワーラの跡地中心に降り注いだ、無数の瓦礫が引き起こした地震で掻き消される。けれど不思議と、その言葉はいつまでも、あたし達の心に刻み込まれるのだった。