御伽話に出てくる天空の都市。
そう聞くと、どうしてもセレスティアのことを思い浮かべてしまう。『原神』というゲーム内においてOPの舞台となり、物語序盤から各所の文献などで存在を匂わされる天空都市。
最後の国が実装される直前、その遂に待ち望んだそのエリアが解放される話を聞いた時には流石に興奮を隠し切れなかった。そして実際に実装され、世界任務とは思えないシナリオのボリュームと重厚な世界観を前に、ものの数日で探索度100%までやり込んだのを覚えている。
ロスカリファ、と呼ばれるその都市も、“ゼンレスゾーンゼロ”というゲーム内においてそれくらい重要な場所だったりするのだろうか。空域機密特区、という呼び名からして只事ではなさそうだ。それに物語の舞台であろうホロウの探索、その大元の秘密となればやはり気になるプレイヤーはいるだろうし、100年前の“虚狩り”──つまり“最強”の称号を持つひとりがその都市を統べているのも相応にインパクトがある。
まあ十中八九その都市はプレイヤーがゲーム終盤でようやく解放されるレベルの重要なマップだろうことが予想され、なら少なくとも旅人ぱぅわーによって舞台そのものが消滅して墜落寸前なんてそんなトンチキな事情で統治者が命乞いに来るとかまずあり得ないと思うので、つまりこの状況はゼンゼロのプレイヤーからしたら、セレスティアが崩壊しそうだからイスタロトが土下座しに来るとか、そのレベルでのシナリオ崩壊もいいところの出来事なのだろう。
「本当、勝手な話だとは思うの。
人類は共通して日夜ホロウ攻略のために尽力しているのに、あなたたちが見事その悲願を立派に果たし、でもそれがいざ目の前に迫ったら今度は『やめろ』でしょう?
呆れてモノも言えない、とはまさにこのことだわ」
そんなセレスティア……ではなく空域機密特区ロスカリファの指導者ことドラキナ・サンブリンガーと名乗った少女は、その肩書に相応しいだろうご大層な天空都市から、こんな市井の客室にまで舞い降りてきて愚痴るように告げる。
少女はそう告げる。そう、“少女”である。100年前の“虚狩り”がひとり、という情報からして、失礼ながら彼女の容姿を勝手に女版ヌヴィレットやマーヴィカ的な麗人をイメージしていたので、むしろ愛らしい見た目をした外見年齢10歳やそこらの女の子が出てきた時は、流石の私も目を見開いてしまった。
『お会いできて光栄よ、リュシアさん、“旅人”さん。
あたしはドラキナ、ドラキナ・サンブリンガー。ロスカリファでは、“算理中枢局”というところの局長を勤めているわ』
レミエールさん同様、彼女が100年前から活動している事実から、彼女が只人ではないことは簡単に察せられる。そしてこの少女のような外見とそれに相反するような落ち着いた雰囲気。加えて似た境遇のレミエールさんは“鬼族”とやらの血を引いているらしい。
それを踏まえて彼女の名前である。ドラキナ・サンブリンガー。ドラキナ、ドラキュナ、ドラキュラ──そして“鬼族”は共通して長命種……なんか色々と察してしまった。多分朝が弱くてトマトジュース()を常飲していて髪の下にはツノとか隠してて本気を出すと蝙蝠みたいな翼が生えるんでしょ私知ってるんだから。まあこんだけ色んな獣人がいるならそういうのも中にはいるよね。
というか鬼族の血を引いてるとかだいぶ言葉を濁してるけど、これレミエールさんも多分サキュバスとかそういう系譜の種族でしょあまりに存在がエッッッ過ぎるし。危なかった。あんなおっぱいぷるんぷるんのエッッッッな服装の子が当たり前に街を練り歩いてるような世界観だったら無いはずのおちんちんが所構わず暴発してしまうところだった。だからレミエールさんはダンス(意味深)が得意とか言ってたんですねすごい納得した。やっぱあの服装が普段着とか色々とおかしいよ! でもサキュバスが純粋な戦闘力で最強クラスの実力の持ち主とかそれはそれで素晴らしいと思います(小並感)
閑話休題。
「もっと早くにエネルギーの代替手段を用意するべきだった。緊急着陸の方法のひとつやふたつは備えておくべきだった──ぜんぶぜーんぶただの言い訳。
結局のところ、我こそがホロウ研究の最前線にいると自負していたハズのロスカリファの住民は、その実誰一人として本気でホロウを駆逐できるだなんて思ってもいなかった。誰かがたった一言でもその不安を零していれば、それを容易く準備するだけの技術力は有していたはずなのに。
あなたたちがそんな不甲斐ない大人に失望して、あのような強行手段に出るのも無理のない話だわ……」
理路整然にそう語り、深々と頭を下げるドラキナさん。やはり彼女が長命種なのは真実であるらしく、自認が大人だし口調も雰囲気に違わず非常に落ち着いている。まあそれだけで判別するのはアレかもだが、仮に見た目通りのガキんちょならこうして他人のために頭を下げる姿の方が違和感がある。いや中にはそれくらい大人びた子もいるのだろうけど。ヨォーヨとか。
そうでなくても、如何にそれが人類の救済に繋がるからと言って、それを誰にも相談もせず強引に押し進めたのは我々だ。彼女も長い年月を掛けてホロウを研究してきたわけで、むしろこちらを責めたっていいくらいなのに、それをしないだけ立派な人だなぁとは思う。
「そんな愚かな我々があなたたちに要求することはひとつ。
2ヶ月間。あなたたちがソロブを除くその他6大ホロウ攻略に費やした時間と同じだけの猶予を、あたしたちの怠慢を埋めるためだけに融通して欲しい。
当然、その貴重な期間の補填として、あたしに出来ることなら何でもするわ」
ん??? 今何でもって──
いや冗談じゃなくて、この分だとガチでその間肉便器になる程度の事なら喜んで受け入れそうではある。私におちんちんが付いてたらそれもアリ寄りの選択肢だったが、それが出来るなら私はリュシアやレミエールとボボパンしたいです(願望)
(…………)
そんな妄言は置いといて、私はその要求に対し、さてどうしたものかと例のポーズで思い悩む。まあ別にホロウ攻略は既に時間的猶予もあってないようなものなので、2ヶ月どころか年単位で時間を渡してその間向こうの歓待で豪遊してもいいんだけど、一番困るのはその手の要求が私たちに通ると思われることなんだよな。
いくら機密特区の代表者とはいえ、小娘ひとりを生贄に捧げる程度で猶予が稼げると存続派(仮)の連中に思われたら、喜び勇んでダース単位の生贄を献上するくらいはやりかねない。ひとりふたりなら忙しそうな照ちゃんのサポートとかに回して適当に小間使いさせてもいいけど、普通に持て余すし迷惑だからやめて欲しい。
しかし、あんまり重い要求をするのも──などと思考を巡らせた矢先、さっきから惚けて黙り込んでいたはずのレミエールさんが不意に口を挟む。
「……ちょっと見ない間に、随分と変わったね、“サンブリンガー”。
昔の貴女なら、そんな風に情に訴えるような真似はしなかったと思うけど」
「──年月は人を変えるものよ、レミエール。
「ふぅん? そんなにもあの頃が恋しいなら、ここで優雅にティータイムでも洒落込もうか?」
「あら、いいわね。せっかくならそちらのお三方も一緒にどうかしら。あたしの怠慢を象徴しているようで恐縮だけど、都市に戻れば旧都にも負けないもてなしを用意できるわよ」
「それって本当に私のため?
「まさか。
「………。ふふっ」
「ふふふ」
彼女たちは元同僚ということでこの機に軽い歓談でも挟むのかと思えば、和気藹々どころか互いに何か牽制し合ってるっぽい。むしろレミエールさんが彼女を一方的に敵視しているっぽい……? まあ同じ英雄なのに片や空域機密特区の頂点で片や誰にも存在を知られず殉職扱いなら思うところはあるか。
(……過去に何かあったのかな)
100年。仮にも旧友で、それだけの期間がありながらこれまで接触が皆無だったと考えると、その溝はかなり深いと見てもいいだろう。というかドラキナさん状況が状況だから異様に低姿勢なだけで、実際には「あなたはわたくしの研究の礎となれたのだから感謝して欲しいところねオーッホッホッ」みたいな性格をしてる可能性まである。またはもっと直球に「白い翼はアルビノで異端!」だとか「淫魔混じりの穢れた血め!」みたいな感じですっごく差別された過去とかありそう(偏見)
(流石にそれは幾らなんでも被害妄想が過ぎるし、双方に失礼だから絶対に口に出さないけれども)
とりあえずあまりにもアレな思考は一旦取り止めて、マジでこの状況をどうしたものか。いつも通りリュシアに意見を仰ぐことも考えたが、彼女は緊張ですっかりガチガチになっててこの場では役に立ちそうもない。
(2ヶ月……)
ルミナスクエアでは何だかんだと二週間近くを観光に費やした。衛非地区は鉱業地区なだけあって観光に向いているとは言い難く、一度主要なお店を回って以降は結局使わなかったイベント武器を受け取りに行ったくらいしか留まることはなかった。その他の場所も移動や買い物などが主で、私がこの星に来て一番長く過ごした場所はそれこそハワーラホロウの仮設基地かもしれない。
如何に“私”の意思が残ろうと、この身の本質は“旅人”。遊山を好み、それ故に長期の作戦行動にうんざりして一度気分転換したいのもまた事実。流石に2ヶ月は長過ぎる気はしないでもないが、いずれにしろ一週間くらいはゆっくりするつもりでいたので、これも丁度いい機会だと言えなくもない。
(………旅、か)
「……偶然」
「??」
「偶然……下見に訪れたホロウ近くの都市がなんか良い感じだったから、ついつい入り浸って時間を忘れてしまった……とか」
「! ええ、歓迎するわ。最高の待遇を約束しましょう」
迂遠な発言は苦手なので通じるか疑問だったが、そこは流石の為政者さん。すぐさまこちらが言わんとしてることを汲み取り、笑顔で彼女は歓迎の意を示す。その姿は見た目相応に愛らしいのだが、この裏で“してやったり”みたいなこと考えてたら嫌だなぁとか懲りずに邪推してたりする私。彼女が吸血鬼(推定)だと思うとどうにも高飛車なイメージがね…。
「ヴェリナ、いいかしら?」
その後、ドラキナさんは「人を呼んでも?」とこちらに許可を取ると、合図と共に控えていた付き人らしき人を客室に呼び出して──何ですかこのドスケベお姉さんは。絶対に容姿だけで選別しただろこれ。てか衣装があまりに扇状的過ぎる。なんですその胸のスケベ穴は??? ぺぇズリのためだけに存在してそう。助けてパイモン心のおちんちん爆発しそうなの。ガチでさらっと召喚していい存在感の人じゃねぇんですけど?????
「それでは皆々様。我々は御一同の来訪を、心よりお待ち申し上げておりますわ」
そんな彼女は名をヴェリナと言い、外務計策局っていう外交官的な部門のトップだそうな。いやこれで外交官は無理があるだろ上羽織れ上。スーツが単独で歩いて来た方がまだ誠実だよ。接待()する気満々じゃねーかおちんちんはよ返して天理さん。え? それは私の管轄外? ですよねー。
そして面談が終わると二人は別れの挨拶もほどほどにどこかへ連絡をしながら足早に去って行きましたとさ。こちらの好感度稼ぎとかを目的に会話を引き延ばしたりもしなかったあたり、これは本気で時間無くて焦ってそうですね。多分2ヶ月でもガチのマジでぎりっぎりの日程なんだろうなぁ。
だけど一年欲しいとか言われたら流石の私も難色を示していたと思うから、半年とかギリギリのラインを攻めて強行され全てを台無しにされるよりかは、ここで堅実にもぎ取れそうな時間を捻出した感じなのだろう。その辺りの見極めは流石というか何というか。実際に都市の存在を知らせたら多少は躊躇いが生まれるだろうって打算もいくらかはありそうだけど。
「勝手に予定決めちゃったけど大丈夫?」
「平気……むしろ助かったかな。あたしじゃ交渉なんてロクに出来なかっただろうし……」
「下手に重い要求をするよりかはよほど良い結果になったんじゃないかな?
過去のことをはぐらかす気満々だったのはかなぁりのマイナスポイントだけど」
「まあ、ただでさえ
三者三様の反応。レミエールさんだけは相変わらず何故か彼女に当たりが強いが、立場的には助っ人というのもあってかなり自重しているのが伺える。単独ならその場で襲い掛かってもおかしくない剣呑な雰囲気していたからね。
(ロスカリファ、か)
100年前。おそらくは彼女が“虚狩り”として名を馳せていた頃には既に構想があったであろう機密特区。いずれその辺りの話も彼女とレミエールさん双方から詳しく聞きたいところではあるけど、下手に聞き出したらレミエールさんはパーティを離脱してしまいそうなのがちょっと悩みどころ。えっちなお姉さんなんてなんぼ居てもいいですからね。あとめっちゃ強いから普通に助かるし。やっぱ“虚狩り”やべーわ。彼女もそれと同等と考えると敵に回すのも怖いのよね。
そんなわけで、私たちは無数のH.A.N.D隊員たちに見送られながら、しばし滞在した客室を後にする。目指す先はルミナスクエアのスターループ。そこの屋上にあるヘリポートに飛行船を用意しているんだとか。何気にスターループ自体にも入った覚えが無いのでそちらも少し楽しみではある。
「……旅人」
ふと、見送りの隊員たちが見えなくなった辺りで、私の一歩後ろを歩いていたリュシアが他の二人に聞こえないよう静かに語り掛けてくる。
「やっぱり、あたしの依頼って、ありがた迷惑なのかな……」
「どうだろうね。でも、これだけ様々な思惑の人が集っても、私はそれを、誰かが
ホロウの消滅と、それに伴うエネルギー問題。確かにそれは困り事だろう。ホロウがあまりに不滅すぎて代替え手段も用意していなかったようだし、これから先も住民は苦労することだろう。私の知らない場所で既に何人もの人が生活に困窮し絶望しててもおかしくない。
でも、その行いがいつか報われる日まで、彼女は歩み続けると決めた。ならば私は、愚直にそれを応援し続けよう。それが迂闊にも幼子の夢を叶えてしまった、私という“英雄“の役目だと思うから。