簡単で
す!
①まずはホロウとかいう謎空間でエーテリアスを片っ端から倒します
②しばらくしたら親玉っぽいのが現れるのでそれもボコります
③そのうちなんかでかい空間の裂け目ができるのでそれを起点にアビスを吸収するノリでえいやっと周辺を浄化します
結果
ホロウ消滅!!!
「やってみたらそう難しくはなかったけど、流石にちょっと単純作業の繰り返しで疲れたな……。
明日は澄輝坪の観光をするつもりだったけど、明後日に回して明日はここでゆっくり休むことにするね……」
「……。……うん、そうだね!!」
☆☆☆
やばいやばいやばいやばい。
動悸が治まらない。冷や汗が止まらない。あまりに致命的な、もはや自分一人の責任では背負い切れないレベルのやらかしに恐れ慄く。
普段は全く気にもしていない他人のふとした視線が、まるで自分を責めているように感じられて居心地が悪い。何よりそれほどの一大事を、単なる事故で漂流しただけの善良な宇宙人に背負わせてしまった事実がとにかく心苦しい。
(ラマニアンホロウが消滅って、一体どうやって……)
まさかまさか本当にやってのけるとは思わなかった。そんなのただの言い訳だ。可否に関わらずあたしがそれを期待していたのは事実。「そこまでやるとは思いませんでした」? TOPSならそう言い逃れをするのかもしれないけど、あたしはそんな人間にはなりたくない。
「と、とにかく急いで──」
猶予は一日。彼女とはまだほんのわずかな付き合いでしかないが、彼女が無意味に嘘をつくような性格ではないのは分かっている。というかあの内容で嘘を言う必要性なんて微塵もない。
だからあたしは血反吐を吐いてでも、方々に根回しをして、彼女の行いが“是”であることを証明しなければならない。
本来であれば、証明するまでもないこと。ホロウ断絶は人類の夢。しかし短期的には? ホロウは紛れもなく人類の脅威ではあるが、今の人類がホロウの副産物であるエーテルエネルギーに依存しているのもまた事実。
例えばあたしがたまに遊ぶ子どもの両親は、どちらも輝嶺石の加工に携わる仕事をしていて、むしろチャーシューまんの屋台のような第三次産業を除けば、大なり小なり衛非地区の人間はラマニアンホロウの資源に依存している。
つい先日も、ポーセルメックスが澄輝坪の住民と「昔日の丘」の利権を巡る諍いをしていたと聞いた。しかし、今回のやらかしで採掘場所そのものが消滅してしまったのだ。利益も何もあったものじゃない。
だからといって、彼女に自粛させるわけにはいかない。煽てても、騙してでも。ここで口火を切らしてしまえば、ホロウ断絶など夢のまた夢だ。こうしてる今でも、世界各地に共生ホロウは広がっている。どうにかして、どうにかして──
「──どうしたんだ、リュシア?」
「………え?」
気付けば。
厳つい顔の、筋骨隆々の犬のシリオンが、心配そうな表情であたしを見下ろしている。いつから机に突っ伏していたのか。空だったグラスは倒れて、僅かに残っていた水滴が床に垂れる。
思わず周りを見渡せば、あたしはあたしを見守る複数の視線に囲まれている。いつ話題を切り出そうか──なんて似合わないことで悩んでいるうちに、どうやら緊張が解けて半ば寝落ちしていたようだ。
「無理もないね〜。リュシアのことだし、どうせついさっきまで原因を探ったりとかしてたんでしょ?」
「仕方ないのだわ……こんな前代未聞な事態、誰にとっても予想外だもの」
「そうだな……ミアズマで鉱区が云々とか、つくづくジブンが小さい世界で悩んでいたことに気付かされたぜ」
「適当観もてんてこ舞いだよ……これは何かの予兆だとか、ホロウ自体がどこかに転移しただとか、讃頌会の真の目的はこれだ!なんて眉唾な情報まで──」
彼らから口々に語られるのは、やはり消滅したラマニアンホロウのことばかり。こんなネットのか細い繋がりの中ですら影響を受けた人物が山ほどいるのが窺える。
(………。………今から、それをあたしが犯人だと語るのかあ………──)
断言するが、彼らはあたしがそれを告白しても弾劾するような人じゃない。いや気づいたらいた黒髪の子は分からないけど、彼らの友達ならそう悪いことにはならないだろう。
そもそもからして、選り好みなんてしていられない。あたしの澄輝坪における唯一と言っていい繋がり。時間がないと嘯いて、それでも彼らとの時間を選んだのは、もちろん事前に約束していたのもあるけど、あたしの伝手がそれくらいしかないからだ。
「……ねぇ、聞いて!」
だからこそ、言わねばならない。彼らもまたあたしの被害者であればこそ、あたしが責任を負わねばならない。ましてあたしの企みはもっと酷い。無知な観光客を騙して名所(?)を穢す卑劣な行いだ。
だん、と卓に手のひらを突く。並べられた料理の皿がいくつか音を鳴らし、雑多な視線があたしに集中する。けれど怯むわけにはいかないと、意を決して口を開く。
「ラマニアンホロウの件だけど……ごめん! それってあたしがやったことなの!」
「は?………頭打ったの??」
「酷い!!」
一世一代の大告白。しかし即座に返ってきたのは冷ややかな視線と冷たい言葉。そうだよね! 確かによく考えたらそんな反応にもなるよね! あたしだって逆の立場だったら真面目に取り合わないかもね!
「りゅ、リュシア? いくら山羊のシリオンでも、本当に最低限の睡眠は取らねぇと……」
助けを求めるように周囲を伺うも、浮かぶ感情は唖然、困惑、疑念と散々な有様。
最大限に気を遣われてるのが分かるのが逆に辛い。何というか言葉を選んでる感が伝わって凹む。あたしってそんなにアレな子だと思われてる……? そりゃあリアルで顔を合わせたのは最近の話だけど、ネット上ではそれなりに長い付き合いなんだしもう少しくらい信じてくれても……。
「……つまり、アンタには何か心当たりがあるってこと?」
かなり長い沈黙を経て、気まずい空気を打ち破ったのは真斗くんから「リンちゃん」と呼ばれていた謎の女性。物腰は割と丁寧なのに、どこか乱暴な二人称に少しだけ面食らうも、彼女らも他に手掛かりがないからなのか、先程よりかはマシになった疑いの目が集中する。
でも心当たりって。あまりに内容が噛み砕かれ過ぎて関与すら疑われちゃってる。そんな間接的じゃなくてもっと黒幕とかそんなレベルなの信じて。
「心当たりというか……確かにあたしがやったわけではないんだけど、だけどあたしがやったようなモノというか」
「いやいやいや。いくらリュシアがホロウやエーテリアスに多少詳しくても不可能でしょ……夜魔のなんたらってのの特殊能力? ひとりふたりが足掻いた程度で原生ホロウがどうにかなるなら苦労しないって」
「違うの!……いや違わないんだけど、そうじゃなくて! ホントにあの子はひとりでどうにかしちゃったの!」
煮え切らない態度に苛立ったのか、若干棘のある態度で柚ちゃんは言う。あまりに見苦しい言い訳。しかし、その単語を聞き逃さなかったのがひとり。
「あの子?」
「あ」
やっちゃった。と認識したのも束の間。流石に重要な情報だと察したネッ友(一人除く)たちが、怖いくらい真剣な眼差しで見つめてくる。
「あの子がひとりでどうにかした──つまり貴女は、原因と思しき人物に心当たりがあるということでよろしくて?」
アリスちゃんからの鋭い指摘。あるいは当然の疑問。彼女はTOPSというある種の魔境で生きてきたからか、かの虚狩りを筆頭に、本当に人間離れした存在への耐性が多少はあるのだろう。
──もしくは、あくまであたしが知らないだけで、TOPSでは既に原生ホロウに対するカウンターを持ち合わせていたのか。まあそこまで行くと単なる被害妄想なので口には出さないけど。
どすんと椅子に座り直して、覚悟を決めて話し始める。とはいえ内容はもはや愚痴に近い。あるいは懺悔とも取れる。いずれにせよ、この事態はあたしの迂闊さが招いた結果なのだから、せめて情報共有くらいはきちんとしておきたい。
「えっと、これは3日前の話なんだけど──」
たどたどしくも、断片的に語られる最近の記憶。というかまだ彼女と出会って3日しか経っていないことに自分が一番驚いている。どう見ても丸腰でキョロキョロしながらホロウを彷徨う異常性。かと思えばどこからか武器を構えて大型のエーテリアスを瞬殺する力量。ホロウ空間を人為的に修正する特異性。発言や所持品のぶっ飛び具合。
ラマニアンホロウを消滅させた一件も、その事実を抜きにしたら根拠となるのは本人の発言しかない。けれど彼女はそれを信じさせるだけの神秘性を有していて、タイミングからしても疑う余地は無い。
「……出来の悪い作り話、と言いたいところだけど」
「宇宙人、という言葉の真意はさておいて、己が仕業と豪語するに足る結果は既に示されているのだわ」
「……確かに、そのレベルで突拍子もねぇヤツじゃねぇと、ホロウをどうにかする依頼なんざ引き受けるはずもねぇか」
「というかめちゃくちゃ言い過ぎじゃない? これ普通に殺人未遂にならない??」
言われ放題ではあるが、実際なぁんにも否定出来ない。あまりに迂闊すぎるよあたし。確かに言われてみたら殺人未遂どころか普通に殺人行為だよあたし。
「そうなの! その子があたしの無茶振りを本当に叶えちゃって!! とりあえずその場で全財産渡したんだけど成果に対して端金過ぎてもう笑うしかないの!! そして彼女の偉業が“余計なお世話”だなんて、誰かに否定されて欲しくもないの!!!」
「あー……──そりゃあそういう意見も出るか。ポーセルメックスの件なんてモロにそれだしな」
他者がどれだけ苦しんでようが自分さえ良ければそれでいい。残酷に思えるかもしれないが、ある種の真理ではある。所詮、世界なんてものは個人を中心に広がるものでしかなく、当人が絶望のどん底に陥れられたら周囲がどれだけ幸せでも無価値なモノでしかない。どれほどの人格者であろうと、全財産をホロウ研究に費やせば世界の寿命が数年伸びるからと言われて、進んで全てを手放す人材は稀だろう。
「冷静に考えたら誰がどうみても全世界規模での希望なんだけど、それで実利を奪われる人にとっては不幸ではあるのかな?」
「……でも、それは旧都の時のように、10年先の絶望から目を背けているだけに過ぎないかもしれない」
鋭い一言。むしろ不謹慎とも取れるその発言には深い実感が籠っていて、見知らぬその女性もまたエリー都を襲ったホロウ災害によって、根深い傷を抱えたそのひとりなのだろう。
周りもそれを察したのか、一瞬だけその場に沈黙が訪れるも、すぐにその女性はニコッと破顔して、
「いいよ。協力する。要は輝嶺石と関わりが薄そうな観光地を狙って紹介すればいいんだよね?」
「り、リン(?)さん……!! ありがとう……ありがとう……!」
「なんか今私の名前の発音変じゃなかった?」
しまった名前うろ覚えなのがバレた。じゃなくて、ひとまず賛同してくれるヒトがいたことに安堵する。
真斗くんの紹介なのでハナから疑ってはいなかったけど、今のであたしから彼女への好感度は鰻登りだ。ぅちらわ…ずっトモだょ…!! 今度夜通し語り合おうZE⭐︎
「まあ、私は未だ半信半疑ではあるけど、せっかく衛非地区にまで来た観光客サマを持て成す程度なら別に……」
「そうなのだわ。情報だけで萎縮し、まして嫌厭するのは愚策。実際に接しないことには人となりなんて分からない」
「……この流れで断ったら、オレが悪者になるじゃねーか」
なんか思わず変なテンションになり掛けたが、彼女を皮切りに次々と彼女らは協力を申し立ててくる。何この子たちすっごい優しい……優し過ぎない? 逆に心配になってくるんだけど。やっぱり信じるべきは友達だね!(初対面含む)
「それで、その子の写真とかはあるの?」
「うん、ない!!」
「元気良く言う言葉じゃないのだわ……」
仕方ないじゃんだってそんな機会無かったし! 流石にこの話し合いまでには用意しようと思ってたけど、宗教上の理由とかなんとかで断られて機嫌を損ねたらヤバ過ぎるし!!
そうこうしていると、不意にリンさんが告げる。
「ねぇ。もしかしてなんだけど……リュシアの言ってる子ってこの娘?」
スッ、と差し出される写真。何処かの監視カメラの映像なのか画質は荒く、しかし人物像ははっきりと映し出されている。
ドレスのような装いに輝く金髪のショートボブ。すっと通った背筋は気品に満ち溢れていて、旅人というよりかは亡国の姫のが相応しい立ち振る舞い。
「そう、だけど……え?」
「やっぱり? いやー実はうちのFair──AIアシスタントがね? この人物がホロウに入った直後からラマニアンホロウ外縁が縮小を始めたー、なんて言うから、もしかしたらって──」
えっ。
そう、なんだ──いや、えっ。怖っ何この人。この写真ってこんなしれっと出していいものじゃないよ怖っ。どうやって彼女の写真を入手したの。彼女がラマニアンホロウに出入りしたのなんて片手の指で数えられる程度だよ? 当人たるあたしですら関連性を疑ってるのに、完全に部外者の彼女がある程度当たりをつけて写真まで用意してるとか怖過ぎるんですけど。
ニコニコと人当たりの良い笑みを浮かべる彼女が急に得体の知れない人物に見えてくる。この人に貸しを作って今後搾取されないだろうかと不安になる。でもここで手のひらを返す方が恐ろし過ぎてそれも出来ない。
「へぇ──大層なビジンさんっスね」
「お? 真斗はこういうのが好み? カワイイじゃん」
「違っ……オレはあくまで一般論として……!」
「わ、若過ぎるのだわ……私はてっきり精悍な女性軍人かと……」
口々に語られる感想。まああたしも見た目に騙されたのはある。というか相対してもそこまで並外れたプレッシャーを感じたりはしなかった。得体の知れない人物だとは思ったが、そこまで手の付けられない人物なのか?とも──
「あ、リュシア。いらっしゃい。戻ってたんだね」
「お邪魔します……」
──けれど逆に。それだけ平凡な人物に見えるからこそ恐ろしいのかもしれない。
浮世離れした目を見張るような美人。そういう意味では近寄り難くもある。だけど決して排他的な雰囲気の人物ではない。実際に接すると物腰も柔らかく接しやすい部類に入る。
「………」
ぐったりとするあたしに対し、旅人を名乗った少女は首を傾げる。
結局、協力こそ取り付けることは叶ったものの、肝心要の対応に関してはあたしに一任されることになった。そもそもからしてあたしだけしか彼女との連絡手段を持たず、だから計画の大部分を任されるのは当然と言えば当然なのだけど、あまりに責任が重過ぎて泣けてくる。
リンさんとは比較するのも失礼なくらい裏がなく綺麗な微笑み。あたしが多感な少年だったら一目惚れでもしてたかもしれない。でも罪悪感でまともに目が見れない。けれどあたしは今後、そんな彼女を盛大に利用しなければならないのだ。
「……何をしてるの?」
「ん? いや、ちょっと錬金術をね」
「錬金術」
「そう。兹白の華傘が無くなってて帰還するのが面倒だったから、手持ちの材料でいくつかポケットワープポイントを用意しておこうかと」
「わーぷぽいんと」
広々とした草原の中心に何故かポツンと配置してある謎の円形の台の上でわちゃわちゃやっている旅人に思わず声をかけると、耳を疑う返答が返ってくる。
錬金術。言葉自体は流石に知っている。鉛を黄金に変えたり不老不死の薬を作り出したり。まあ時代によって定義は異なれど、“ある物質を根本から別の物質を換える”、という結果だけは共通しているように思う。
けれど、それは過去のどの国も成功には至っておらず、酷いものになると水銀をその見た目の神秘性から不老不死の薬と偽り臣下が王の寿命を縮めた、なんてエピソードもある。
しかし、彼女は平然とそれを行っていると嘯き、実際によく分からない白い枝と不気味な光る液体とエメラルドの水晶を混ぜ合わせて新たな物質を創り出している。眩暈がする。エーテル技術ですら過去の時代からすれば魔法にも等しい成果だというのに、それを遥かに超える奇跡の産物が今目の前で量産されているのだから。
そもそもワープポイントって何。ワープってSF映画とかで出てくるワープでいいの?? いつからあたしの世界はどん底のポストアポカリプスからハイファンタジーになったの???
「……錬金術が使えるってことは、旅人はそういう職業に就いていたの?」
「少し違うかな……“冒険者”って呼ばれる何でも屋をやってたよ」
「冒険者?」
「そう。あっち──テイワットって名前の星なんだけど、テイワットでは各地に冒険者協会っていうのがあって、そこでは魔物退治からちょっとしたお使いまで色んな業務が集まってるの。
私はそこから適当な依頼を受けて生計を立ててた感じかな」
「錬金術もそこで?」
「そっちはモンドって国で龍退治をしたそのお礼ってことで教わったよ」
「そ、そう……」
うん。分かってはいたけどもう見事なくらいファンタジィ…な情報しか出てこない!
テイワット……ドラゴンとかいるんだ。しかもドラゴン退治って絶対やばいやつじゃん。国とかいくつも救っていそう。旅の冒険者が悪竜を退治するとかそれまんま古き良きファンタジーの英雄譚じゃん。吟遊詩人とかいるんだろうか。
探りを入れるつもりは無かったけど、結果としてはそれで正解だったかもしれない。何というか聞いていたら色々な意味で頭がおかしくなりそう。そんな人物にどえらい依頼をしちゃったあたしもあたしだけど。
依頼を取り下げることは何度も検討している。でも割と本人が乗り気で成果も出ているから取り下げる理由が絶無である。強いて言うなら報酬の問題はあるけど、手持ちの全財産程度で満足そうにしてたから装備を売るなりすればどうにでもなってしまう。
結局、この壺の見張りを言い訳にあたしは珍しく借りたままだった民宿の布団に入って不貞寝をする。その際、この壺を叩き割ったら中の物はどうなるんだろうとあまりに最低な思考が一瞬だけ過ぎってしまい、この上なく自己嫌悪するあたしなのだった。
この作品はどっちかというとリュシアが主人公です
続くかは未定