ホロウについて語る上で、零号ホロウに触れないことは難しい。それは多くのものの終わりにして始まり。その危険性を誰もが認知していながら、好奇心を抑え付けてはおけない──そればかりか、却って探究心を燃え上がらせる。
引用元:新エリー都入居ガイド『零号ホロウ編』 (ttps://zenless.hoyoverse.com/m/ja-jp/news/113715)
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零号ホロウの名を聞くと、やはり真っ先に旧都陥落のことを連想してしまう。
現在のエリー都が都市に“新”という冠詞を付けることになった原因。首都の中心で発生した大規模ホロウは周辺の建物をエーテルエネルギーに変換しながら爆発的な速度で拡大。最終的には他のホロウからエーテルを搾取するため製造されていた式輿の塔を急ぎ等間隔で設置、爆破することで事なきを得たという。
アルペジオ大断層と呼ばれる零号を中心とした大穴は、式輿の塔が臨界点を突破した場合の危険性を物語っている。とはいえ現在設置されてる塔は基部の構造も見直され、エネルギーの変換効率が落ちる代わりに安全性が格段に向上し、実際に他のホロウが崩壊し塔が瓦礫に埋まった後も爆発などは起きなかった。
しかし逆に言えばそれは、それだけ高い変換効率でかき集めたエネルギーを用いて、旧都の中心で一体誰が何をしていたのか。その謎は旧都陥落の騒動に埋もれ、明らかとされていない、という意味でもある。
『多分だけど、ホロウも似たようなものなんだと思う』
「………」
へーリオス研究所。過去の旧都を深く知る人間は、ほぼ全員がその名を口にする。かつてのエリー部は飛ぶ鳥を落とす勢いで発展を続け、人々は明日への期待を抱きながら暮らしていた──新エリー都入居ガイドにも記載されている文言。
『──あの旧都陥落を経て失われたものはあまりにも多く、それだけ根が深い問題でもある』
「………」
しかし、人類の発展には得てして闇が付き纏うもの。ならばその中心だったというその場所には、どれほどの欲望が渦巻いていたのだろうか。
『……うん、そうだよ』
燃えるような瞳が脳裏にちらつく。他ならぬへーリオス研究所で育ったと告げる友人。眼の中に得体の知れない物質を埋め込まれ、恩師の冤罪を晴らそうと倒れるまで無茶を重ねる女性。
彼女に限らず、此度の作戦にあってはあまりに多くの参加希望者が名乗りを上げた。意外だったのは、こういう場面では一歩譲りがちな柚ちゃんまでもが我先にと希望して来たことだろうか。けれど、それも頷ける話ではある。あたしは彼女がどうして奇々解々に身を寄せるようになったのかは聞いていないが、きっと色々なことがあったんだろう。
他ならぬあたしも、旧都陥落が原因で唯一の肉親であった父親を失っている。その未練に関しては遺された手掛かりごとラマニアンホロウが消滅したことで色々とそれどころじゃなくなってしまったが、今にして思えばあたしがエーテリアスの研究に傾倒していたのは、父が辿ったであろう末路を薄々と察していたからなのかもしれない──
「──それじゃあ、今日からいよいよ零号ホロウに挑むわけだけど」
切り出した旅人の言葉に、その場の全員がピシッと反応する。軍の前哨基地、アルペジオ大断層を望むある種の絶景を前にして、けれど観光気分で来ている者はどこにもいない。
メイフラワー市長を始め、テレビでしか見たことがない大物たちが一斉にこちらへ注目する。この場を空爆でもしたら市政にどんな混乱が訪れるか、なんて不謹慎な考えも、しかしこの厳戒態勢ではミサイルの一発や二発、不本意ながらあたしの護衛を名乗る彼女たちの手によって、容易く撃ち落とされて意味をなさないことだろう。
「事前の情報が正しければ、まず零号ホロウの内部には『ニネヴェ』という個体を始め、複数の強力なエーテリアスが跋扈している。
私たちもソロブホロウでバシュム、ギルタブルルといった
そんな豪奢な面子がズラッと立ち並ぶ中、その中で唯一、出自から旧都陥落の煽りを受けず、完全に私情を廃した判断が可能な旅人が、突入チームの代表としてホロウに対する見解を述べる。
「故に我々は検証の結果、それらエーテリアスを討伐、消滅したことで抑えられる活性化分よりも、これまで同様に私が直接ホロウを吸収した方が楽だし早いだろう、という結論に至りました」
ソロブホロウにおける死闘。当人は月攻略に備えた前哨戦と息巻いていたが、意味がなかったわけではない。調査協会の定説である『ホロウ内部の極めて危険なエーテ リアスを消滅させることができれば、他の共生ホロウの活性も大幅に下げることが可能かもしれない』という仮説──事例が少ないため憶測が多くを含むにしろ、確かに存在の規模に見合った鎮静化が確認できたが、最終的にはリスクとリターンが見合っていないという結論に落ち着いた。
『私ってそういう存在の器的なアレが、いわゆる星海に匹敵してるから』
「………」
但し、この回答は前提として、旅人という理外の存在が居てこその話となる。零号ホロウが絡む調査は時に民間に委託しているくらい幅広くどれも高額で、それはその行為が如何に忌避されているのかを物語っている。
けれど、レミエールさんたちを始めとして、これまで軍はその仮説を証明するべく常日頃から命をチップに強力なエーテリアスと鎬を削りあっていた。投げ捨てた己が命が人類の役に立ったのかさえ分からないままに、だ。
「なので、作戦は単純明快。零号ホロウに突入したら、とにかくエーテリアスを避けて避けて逃げ回る。辺獄を巡る命懸けのチキンレース」
そういう意味では、今回の作戦のなんたる気楽なことか。成功にしろ失敗にしろ、決してそれが無駄死にで終わることはない。この場面に立ち会ったことすら名誉になり得る歴史の転換点。
「さて、じゃあメンバーは事前に伝えてあるし、それでは早速──」
「旅人さん、ちょっといい?」
旅人を見る。改めて6大ホロウを全てその小さな身体の内に秘めているとは思えないほど無害そうな顔。ちなみに当初あたしが勘違いしていた旅人がホロウを浄化している云々の誤解は既に解けていて、今ではもっとヤバいことを平然と行っていることが判明し関係者全員から畏怖の目で見られている。
そんな旅人だからか、彼女にとっては大した脅威でもないホロウに対してあまり深い思い入れがないらしく、それ故に零号が相手だろうといつもの調子でホロウへと向かおうとする。それは以来請負人としての立場からなら正しいのだが、しかし、そこに待ったを掛けたのがひとり。
「レミエール?」
「貴女のそういう──サバサバしたところ?は美徳ではあるんだけど、この場ではちょーっと減点かな。
何ていうのかな〜……そう、意気込みとかはない感じ?」
「……正直あんまり。いや、依頼は全力でやるけれど」
「まあ、キミはそうだよね……」
初代“虚狩り”、レミエール・ダン。ホロウ黎明期から時代を見守り、今に至るまでその推移を眺めていた彼女は、この機に何を思うのか。
「じゃあ、僭越ながら私から少しだけ。
初対面の人も多いのでまずは自己紹介を。私の名前はレミエール・ダン。こう見えて100年くらい前から“虚狩り”なんかをやっています」
僅かな騒めき。この場に来ている人員は普段からこの前哨基地に勤めている隊員以外にも各地から選りすぐりをかき集めたエリート達で、当然事前に彼女の存在を聞かされているはずなのだが、聞かされた情報から導き出せる姿とは真逆の、あまりに若々しいその見た目に面喰らった人がいるのだろう。
「今から丁度100年前。ある日ジョイアスくんが持ち帰ったパパゴホロウのデータを基に、後のホロウ探索の基礎となる“ロゼッタデータ”は誕生の時を迎えた。その日は普段から仏頂面のサンブリンガーまでもが笑顔で酒を飲み交わし、私たちはみな、ホロウから世界を取り戻すのも時間の問題だと思っていた」
彼女から語られる過去の話。彼女たち初代“虚狩り”にビジネス以上の繋がりがあったのはあたしも逸話を調べた時から知っていたが、その当事者から語られると重みが違う。
「100年。長きに渡る雌伏の時を経て、今この場に立ち会えたことを私は嬉しく思う。当時の私たちの頑張りが、これまでの人類の積み重ねが、今この瞬間に繋がったのなら、私たちの長い旅路は、決して無駄じゃなかったと断言できる」
旅路。あたしが探し求めていたもの。あたしが歩みを止めない理由。彼女が──蛍が“旅人”を名乗り、星海を渡り旅を続けている理由。
(……
そういえば、彼女はどうして、テイワットという星に辿り着いても、未だ頑なに旅人を名乗り、旅を続けていたのだろう──
「──旧都奪還作戦、いざ出陣!」
運動会で徒競走一位の子に司会がやるような感じで、レミエールさんが旅人の手首を取り上方に在らん限り掲げると、連動してあちこちから怒号に近い掛け声が上がる。すごい熱気と気迫。けれど彼らがこの地に抱く感情を思えば、その熱意も理解できる。
むしろその光景を冷静に。どこか俯瞰した視点で眺めているあたしは、もう既にどこかがおかしくなってしまったのだろうか。長き旅路の終わり。コードネーム、リンボ。通称零号ホロウ。誰もが知ってるその名。遂にそこへ挑む時が来たというのに──
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世界で一番有名なエーテリアスは何か、という質問に対し、多くの者は『ニネヴェ』と答えるだろう。零号ホロウを我が物顔で徘徊するエーテリアス。目撃情報の多さと存在の規模、何よりこれまで腕利きの人材が挙って討伐に失敗している不滅性から、最強のエーテリアスだと主張する者もいる。
「ビリー!」
「よし来た!」
どこか既視感のあるやり取りと共に、旅人とビリーさんの掛け声が音の無い空間に響き渡る。
此度の作戦のメンバーのひとり、ビリーさん。彼はスターライトナイトを自称するだけあって、元から機械人とは思えないほど機敏で素早い動きを特徴としている。
加えて今の彼はロスカリファで散々行われた改造、並びにサンブリンガーさんから直々に巡航バスの技術まで組み込まれたらしく、今や重力を無視したような動きまで可能になったんだとか。たかがひとりの知能機械人に組み込むにはあまりにオーバースペックが過ぎる凄まじい技術だと思うのだが、本人は本人で『これでスターライトナイトにまた一つ近づいたぜ』と主張がまったくブレないのは流石というか何というか。多分彼のそういうところが旅人と妙にウマが合う理由なんだろう。
「露払いは引き受けよう。本体と比較すれば、此奴らは脆い」
ザシュ、と。あんまり軽そうじゃない音を立てて、花弁から散る花びらの如く纏わりつくスパイダー種の亜種、“ホーネット”が両断される。剣尖から察するに
──零号ホロウに入るや否や、運悪く、あるいは運良く遭遇したニネヴェ。しかしどういう因果か、我々はそれと真っ向から対峙している。
此度の作戦はあたしに旅人、ダイアリンさん、レミエールさんのいつもの面子に加え、機動力に特注のバイクを装備したビリーさん、遊撃役として雅さんに、進行補助として伝説の“パエトーン”ことリンさんまで組み込んだ万全も万全の体制で挑んでいた。それなのにたったひとつの不運で全てが台無しとは。思えば、バシュムはともかくギルタブルル討伐もそんな経緯からだったし、やっぱり旅人はそういう星の元に生まれてるのだろうか。
最初は良かったのだ。遭遇したもののこちらに目もくれず回遊していくニネヴェ。その姿が見えなくなってしばらく、遭遇した際の速度なら数キロは離れていてもおかしくはないというのに、旅人が例の如くホロウを吸収し始めた瞬間、ニネヴェは物凄い勢いで戻って来た。
「え?」
「は?」
「──何?」
いやホントに。確かにエーテル帯に干渉するような行為はエーテリアスの逆鱗に触れるが、まだプルセナスホロウのような露骨な変化も感じられないのに、いくらなんでも反応が早過ぎる。
「おいおいおい。明らかにあいつ、こっち来てんぞ!」
『気を付けて! ニネヴェが急速に接近中! 時速は…ウソっ、183キロ!?』
植物モチーフのエーテリアスとは思えない早さ。いや、そもそもニネヴェって植物なのだろうか? あるいは植物だからエーテル帯の流れに敏感とか? けれどあからさまに植物モチーフなのに普段から回遊しているのも、もしかして定期的に居場所を変えてより良い環境を求めてるとかで──
少し前のあたしなら
ニネヴェの探知能力を見誤っていた──としか言えない。そもそもニネヴェが零号ホロウを回遊しているのはあまりにも有名な話で、また積極的に外敵を襲うこともないため遭遇記録もそれなりにある。ただ、交戦記録ともなると一気に質は落ち、中身を紐解けば回遊するニネヴェを一方的に攻撃したようなものばかり。
(『かのエーテリアスに害意はない。ただ生態が人類に致命的なだけ』──)
結論。あのエーテリアスからしたら“旅人”以外の存在なんて──驚異を感じるまでもない、羽虫以下の養分でしかなかったのだろう。
(そんな存在が、明確に“害意”を抱いたなら──)
それが現状の答え。それこそ植物が太陽を追い求めるように、露骨にビリーさんのバイクに跨る“旅人”だけを追い求めている。ビリーさんのバイクはこれまたサンブリンガーさんの技術の粋が込められた特別性。当然のように宙を駆けるし最高時速は400キロを誇る。人間なら操作ミスの懸念があっても、悪路を無視出来て知能機械人が駆るバイクに、それを本能だけで追い求めるニネヴェが追い付ける道理は──
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………………………
……………
「…………」
一時間。『ニネヴェ』との交戦が開始し、これほど戦闘が長く続いたケースはおそらく史上初めてだろう。
ビリーさんのバイクは敢えてエーテルエネルギーをメインの動力源に組み込んでいて、零号ホロウ内部にいる限りそれが途絶えることはない。またニネヴェはその存在の規模から獲物を追う事も不得手のようで、面白いくらいフェイントに引っ掛かるし空間に漂う岩や建物に衝突することもしょっちゅうだ。
しかし。
『ニネヴェの存在規模が、銅級に到達──』
イアス越しの通信でも、リンさんの戦慄が伝わってくる震え声。
本能的に旅人を狙う、という話は、当然ニネヴェに限った話ではない。ハティ、ゴブリン、アフリマン、ファンルバウティ、トラキアンと言ったどのホロウにも存在する種から、ミアズマの花などのラマニアンホロウ固有種、果てはパパゴで見かけたスライムのような突然変異まで、挙って旅人を始末しようと押し寄せている。
『零号ホロウは他のホロウと少なからず関連がある──やはり仮説は正しかったのか……』
イアス越しに聞こえる高名な学者からのお言葉。こうして外からの見解がリアルタイムで聞けるのは、伝説の“パエトーン”としての面目躍如だろうか。
全てのホロウは、零号ホロウより発生した共生ホロウが拡張したもの──新エリー都入居ガイドにも記載された仮説。けれどこの光景を思えば、それもあながち嘘ではないと思えてくる。
ならば最後の仮説。『ホロウ内部の極めて危険なエーテ リアスを消滅させることができれば、他の共生ホロウの活性も大幅に下げることが可能かもしれない』の解も、もしもあのニネヴェの討伐が叶えば証明されるのだろうか。
集うエーテリアスを際限なく
『逆に考えよう。ぽっと出のウルトラスーパーギャラクシーエーテリアスくんが黒幕面して現れるより、以前から広く知られる怪物が超絶パワーアップした方が分かりやすくない?』
「……余裕そうだね、旅人」
背筋に走る戦慄を、イアスから発せられるバイクに備え付けられた通信機越しのそんな声が粉微塵にする。途中から返答が無くなったから流石の旅人でも厳しいかと戦々恐々だったのだけど、少なくとも話す余裕はまだあるみたい。
『分かるぜオーナー! やっぱりスターライトナイトの因縁は、初代からの敵じゃないとな!!』
あ、こっちも元気そう。じゃなくて、もっと緊張感を持ってよ2人ともこれ一応最終決戦なんだよ?? というかホロウ内部でこの無法ムーヴが出来るイアスもといパエトーンが有能過ぎる。そりゃあ伝説のプロキシと呼ばれますわ。
『ただ、このままだと埒が開かないのは確かだね……リュシア、このダイアリンが残したフラフープ(?)、壊しちゃって大丈夫?』
「ダイアリンさんの?」
そういえば最初は一緒に乗ってたんだっけ。流石に途中で振り落とされちゃったみたいだけど。でも武装(?)はまだ残っていたと。まあ今更拒否することもないだろうけど──
『──こちら黒枝。“旅人”、その要望を許可する』
『ちょ、ボス?! それあたしのメイン武器なんですけど!??!』
などと思っていたら、正式に許可が降りる(?)。というかダイアリンさんも落ちてからレスポンスが無かった割に元気そう。それ以前に彼女が言ってた黒枝のボスって女性だったんだ……まあ今更武器のひとつやふたつでこの状況を覆せるならダイアリンさんも拒否しないだろうけど、それを他人に快諾されるとなんか納得できない気持ちもわかる。
でもあの武器、多分本質的にはあたしの杖と同じで、周囲のエーテルを利用して物理的事象を引き起こすものみたいだけど、旅人はそれをどうやって、って──
「光が──」
ダイアリンさんと同様に、いやその何十倍もの大きさの光の柱が、横合いからニネヴェを殴り付ける。硬い外殻を有するニネヴェにダメージを受けた様子はないものの、質量による物理的衝撃には影響を受けざるを得ない。
『この武器がどんな仕組みかは分からないけど、要はエーテルを利用した大砲の亜種なのは用途から解る。
私はリュシアやダイアリンみたいに周囲のエーテルを掻き集めて、なんて器用なことは出来ないけど、単にエネルギーを放出するだけなら──』
ああなるほど。技術で云々じゃなくて出力でどうにかして見せたと。だからダイアリンさんみたいに手足の形状を模らないであんな光の柱だったんだ。
『ただ、これだとジリ貧だね。それにあと二発も撃てばせっかく吸収したエーテルが無駄になっちゃう。いや、もっと悪いかな? 弱点とかがあれば良いんだけど……』
「弱点?」
出力に関しては6大ホロウを全て喰らった旅人の右に出るものはいない。しかし、元が零号と互換性のあるエーテルであるからには、あんまり撃つとホロウそのものが拡大してしまう。それだと本末転倒もいいところ。
『何度でも言うが、ニネヴェのコアは現状確認されていない。頭部にそれらしき物体は確認できるものの、それはニネヴェを植物に見立てた場合の“花”に相当するエネルギー機関であり、コアとは似て非なるものであるというのが通説だ』
回答はイアスを通した学者から。何度か参考として聞かされた話。あたし個人も興味本意から調べたことのある仮説。ただ、改めてそれを聞いて──
(植物モチーフの女性体……?)
「……もしかして」
『何か分かった?』
「考えたの。頭部が植物における種を産み出す場所だったら、どうしてあのエーテリアスは女性を模っているのかって。
意味なんて無いかもしれないけど、これだけ存在の規模を引き上げて、なおも女性体を
『──丹田、か』
言葉にしづらい最後の一言を、雅さんが微妙に濁した形で告げる。
丹田──つまりは、子宮。花であるなら残す意味はない。心臓であれば女性体である必要はない。あれだけ無数のエーテリアスを取り込んで、それでも美しく有り続ける彼女に遺されたただひとつの
『分かった』
僅かに逡巡した様子もなく。
そんな言葉を残して旅人は無謀にも生身でバイクから飛び降りると、ニネヴェが弾き飛ばされた方向へと一直線に飛翔する。
当然、それを好機と見たニネヴェは無数の蔓で旅人を貫かんとするも、それは旅人を貫くには至らず、
『シンギュラ・リークだと?!?』
見覚えのある現象に、イアスを通して誰かが絶叫する。零号ホロウは他のホロウの性質を受け継ぐ。そして、
「……そんな、まさか」
ずっと根拠は示唆されていた。考えてみれば辿り着きそうなものだった。
それでも、いくら宇宙人だからといって、まさか人型の存在が、エーテリアスの持つ権能を真似出来るだなんて、果たして誰が思い至るのだろう──
『──!!!!!』
硬い外殻を持つ怪物も、空間を飛び越えて、直前その
その解を証明するように、ニネヴェの胎内から、人間とも植物ともエーテリアスとも異なる無数のノイズが入り混じる高音が辺り一面に響き渡る。渦巻くエネルギーは尋常なものではなく、ところどころにノイズや亀裂のようなものが走り、まるでそれは、旅人がホロウを崩壊させる前兆のような──
「派手にやったねぇ。まさかこんなにも早く終わるだなんて予想外もいいところだよ」
「終わる……?」
「そうそう。じゃあ私は立役者を回収してくるから、プロキシさんは脱出ルートの確保を急ぎお願いね」
『えっ!?』
どういうことだろう、とその言葉の真意を問い掛ける間もなく、徐々に細分化していく亀裂。視界全体を埋めるノイズ。あれ、うそ。ホントに……?
「リュシア!」
「旅人──」
惚けるあたしを、聞き覚えのある声と、あまりに華奢な、しかし力強い手のひらの感触が無理矢理現実へと引き上げる。そしてあたしは、引かれる手のままに、そのまま雪崩れ込むようにホロウを脱出し──零号ホロウ攻略戦は、過去最短という予想外の記録で、その閉幕を迎えることになったのだった。