動画が無茶苦茶無断転載されている。
ちょっとアングラなサイトを覗けば、その画面の向こうでニネヴェが咆哮する姿が見える。当時に聴いたそのままの、長期間聴いてるとそれだけで頭が壊れそうな金切り声。でもあたしの心はその叫び以外が原因で崩れそうである。この時ほどホロウ内部が基本無音であったことを嘆いたことはない。
後に正式に『旧都奪還作戦』と呼称されることになる零号ホロウにおけるニネヴェとの死闘。ただでさえ有名なエーテリアスとの交戦記録、加えて史上初にして唯一の銅級の存在規模。更には交戦開始から終了までその経緯がばっちり記録されているとなればやはり学術的にも貴重な資料であるのは疑いようは無い。だから記録映像として保管しよう──という流れになるのはまあ納得出来なくはないのだが、厳重に管理されるべきその映像が普通に流出しているのはどういうことなのか物申したい。
H.A.N.D.を通して調査も依頼したが、回答は原因不明と調査中の一点張り。エリー都っていつもそうですよね…! 市民のことなんだと思ってるんですか!?──なんて嘆いても現実は変わらず、既にアホほど拡散されたのをいい事に、ホワイトスター学会ではその映像を元に日夜激しい議論が行われているとかなんとか。
そしてその影響を受けて、立役者であるあたし達は一夜にして世界一の有名人となってしまった。しかも拡散された大元がイアスの視覚記録だったから、旅人との最後のやり取りまで余さず記録されていて、あの場面でニネヴェのコアを見抜いて戦いに終止符を打ったあたしは、世界一の賢者だの奇跡の子だの現人神だのともう二度とエゴサする気が失せるレベルで世界中から褒め称えられてた。もうおそとあるけない。
その持ち上げられっぷりの酷さたるや、あの柚ちゃんが気を遣うレベルとなれば事態の深刻さが分かるだろうか。ちなみに旅人やビリーさんも知名度がヤバいことになっていて、特にビリーさんは知能機械人の希望の星と謳われ、彼本人を主演としたスターライトナイトの新作映画が出るとかで彼は咽び泣いていたそうな。
彼自身に限らず、彼の活躍は“知能構造体”という存在全体の待遇面を見直すきっかけとなり、同じくソロブで肩を並べた盤岳さんを初め、それ以降不当な扱いを受ける知能機械人の数が極端に減ったんだとか。それでも完全にゼロにはならない辺り、やはり一部の人間が有する知能機械人への偏見は、想像以上に根が深い問題のようである。
リンさん曰く、この騒動の根本となった動画の拡散に関しても、あたし達の活動の煽りを受けた、彼女の持つAIアシスタントのような、とある知能構造体の暗躍が裏に潜んでいたんだとか。まあ、これに関しての話はまた別の機会でもあれば話そうと思う。
そして肝心の“旅人”に関してであるが──なんかもう色々と規格外過ぎて意図して言及を避けられてしまっている。
考えてもみて欲しい。いくら弱点の場所が分かったからと言って、これまで最強の剣士として知られていた雅さんの攻撃が一切通らない化け物を相手に、『分かった』の一言でコアを両断、更には直前に“吸収したエーテルを放出する”云々の爆弾発言をしたり、果てはエーテリアス特有の権能まで披露してみせた謎生物を粗雑に扱えるだろうか。
ここでもインターノットの厄介さが極まり、本人が割と隠してないこともあって彼女が自称宇宙人であるのも普通にバレていた。流石に6大ホロウを全て吸収した旨に関してはネット上でも半信半疑みたいなのだが、少なくとも記録映像から最低でもMn級の存在規模を有しているのは確定しており、更には単独で銅級のニネヴェを吹き飛ばしたことやシンギュラ・リークを活用したこともばっちり記録されたりするので、映像を観た人間は必然その単語についても詳しく調べ、詳細を知るたびに『ねえこれって激ヤバじゃない?』という感想を抱くのも已むなし、と言ったところだろう。
ちなみに当初あたしが懸念していた旅人のクローンが作られる云々の話も、旅人本人があまりにブラックボックス過ぎて見送られていると聞いた。その手の話に詳しいダイアリンさん曰く、過去の所業を聞くだけで気分が悪くなるレベルの悪辣な組織の残党にすら手出し無用と認識されていたらしい。
まあ下手にクローンでも作って適当に管理でもしようものなら、その死体からホロウが発生するかもしれないし当然と言えば当然である。もう過去に製造法を抹消された核のような扱いだが色々と仕方ない。誰だって命は惜しいのだ。ついでに世間でのダイアリンさんに対する扱いは武器を壊された可哀想な人だが、結局は壊れてなかったので正しくはバイクから振り落とされた可哀想な人である。どっちも同じ? まあそれはそう。
閑話休題。
そんなこんなであっという間に零号ホロウ攻略戦は終了し、あたし達は名実ともに“伝説”になってしまった。
ただひとつの失言から始まった旅路。辛くなかったとは言えないが、達成感は確かにあった。やり甲斐についてはどうだろう。自分では正直、途中から義務感だけで動いていた気がする。貯金もいつしか口座を見るのが怖くなるレベルで膨れ上がり、いつか柚ちゃんやアリスちゃんに資金を融通してもらったことが遠い昔に感じる。
そして、
「よって、新エリー都市長の名において、彼女に“虚狩り”の称号を授け、また君が我々が過去に犯した罪を精算してくれたことに、心より感謝を伝えたく思う」
「………はい」
逃げられなかった。途中から冗談めかして揶揄われていた世迷言が、まさか現実のものになるなんて誰が想像できようか。
最新にして最後の“虚狩り”、リュシア・エロウェン爆誕の瞬間である。ちなみに異名はまだ無い。ついでに言えば戦闘力だとこの場を警備してるエリートな治安官さんのひとりにも勝てるかどうか怪しい。少なくとも同僚になってしまったレミエールさんや雅さんには勝てる気がしない。
「おっめでとう、リュシア! 二つ名にはやっぱり“救世”とかが入るのかな〜?」
うるさい。じゃなくて、ここぞとばかりに揶揄ってくる柚ちゃんについ暴言が出そうになる。まあ救世はともかく“空洞”か“零号”のいずれかについては呼ばれても仕方ない実績を有してしまったので半ば諦めてる。でも賢者だけは勘弁してください。
既に授与式は終わったというのに、こんな友人との他愛のないやり取りの最中ですらすっごい量の視線を感じる。ホロウで地道に磨き上げた警戒能力がこんな形で牙を剥くとは思わなかった。ちなみに当然旅人も授与されたけど依頼請負人だからって授与式は辞退していた。実は雅さんもそうしてたみたいだけどあたしはそんな大それたことは出来ません。
「終わった──んだよね……」
何度も何度も確かめるように呟いて、しかし手のひらに有る憧れの称号の存在を改めて認識して、ようやくじんわりと実感が湧いてくる。実際にはこれからが本番なことは既に分かっていて、それの攻略まで考えてることを市長に伝えたら全力の男泣きを見せられてしまったけど、まあ仮にそれが果たせなかったとして大元の零号が消えたからには今後100年単位でホロウ災害の心配は訪れないだろう。
この旅で協力してくれた仲間たち。まずダイアリンさんに関しては相変わらず多忙な日々を送っているんだとか。けれど功績が功績だからか待遇や給料はえげつないくらい改善されていて、今でも度々あたし達に会いに来ては鳴り止まない電話についての愚痴を楽しそうに語ってくれる。
そしてレミエールさん。彼女に関してはまず嘘をついていた事を謝られた。何のことだろう、と思っていたらなんと彼女は鬼族とのハーフではなかったらしい。当然頭の中は疑問符でいっぱいだったが、なんでも武器に仕込まれたホロウ由来の謎物質が悪さをして肉体の成長が止まってしまったんだとか。ああそれでやたらサンブリンガーさんを敵視していたんだ……。
まあ衝撃の事実ではあったものの、それ以上のことが起き過ぎてもはやその程度では驚かなくなってしまった。その旨を正直に伝えると、彼女は「やっぱり君たちは面白いね」と晴れやかな笑顔で笑い、たまに姿を見せては身を寄せてるH.A.N.D.の内情について楽しそうに語ってくれる。彼女にも色々あったみたいだけど、あたしがそんな彼女の無念を晴らす一助となったのなら素直に嬉しく思う。
他にもルーシーさんや照さん、雅さん、そしてリンさんと言った一時共闘した方たちとはたまに交流を重ねている。あたしとの交流を通して仲が深まった彼女たちは、今ではリンさんを中心にへーリオスの謎を追求するべく零号ホロウ跡地を探索しているんだとか。零号の脅威が消えた今であれば、仮に彼女が恩師の所業に衝撃を受けても、また倒れるようなことにはならないだろう。真に彼女の恩師が無実であることを願うばかりだ。
最後に、“旅人”に関しては──
「──もう行くの?」
その問いかけに、いつもの調子で旅人は「うん」とだけ返答する。彼女のサバサバしたところは美徳だといつかレミエールさんが告げていたが、いざ別れが近づいて惜しまれないというのは、当事者として中々に辛いものがある。
「サンブリンガーさんたちの協力もあって、既に万端過ぎるくらい準備は整っているから、都市が外の存在に目を向ける前に、早く問題を解決しないといけないしね」
「…………」
どこまでも正しく、どこまでも合理的。出来るからやる。すべきだからそうする。どんな無茶もやり遂げてしまう。その姿は子どもが憧れを抱くに足る英雄然としたものだが、ひとりの友人としては寂しく思ってしまう。
流石の旅人も、月という環境下においてはあたしを随伴させることは出来ない。それはあたしも納得しているし、ゴネたところで無駄なのは分かってる。でも、
『私は蛍。星海の旅人。かつてはテイワットって星に住んで居たんだけど、何の因果かこの世界に迷い込んで──』
「ッ……!」
「──リュシア?」
事故。この星に来た理由をそう告げた彼女の顔はあまりに平然としていて、まるでそんな事態が常態化していたかのようだった。
ネットという広大な世界で知り合ったあたしの友人たち。それですら奇跡と言うべき確率なのに、宇宙となれば一度離れたらもう再会は望むべくもない。ふとそう思うとなんだか怖くなって、つい旅立つ直前の旅人の手を握る。
でも、だけど、それでも。
「……待ってるから」
「え?」
それでも、あたしには彼女の歩みを止めることなんて出来なくて。金銭での報酬も、情で縛ることさえも、ふとした事故で全てが台無しになって、もう二度と彼女とは逢えなくなって。
だから──
「待ってるよ、いつまでも。君が救ったこの星を、この
「───………」
いきなりのその願いに。旅人はしばらく惚けたように固まって、やがて再起動を果たした後、夜空にカラッと煌めく星空のように晴れやかな顔で、
「──そういうことなら、楽しみにしてるよ。リュシアが居ればきっと、
「うん……!」
滲む視界を拭うあたしに、彼女はそんな言葉を残して、宇宙船に乗り月へと飛び立って行く。
終ぞ聞けなかった彼女が旅を続ける理由。いつか帰る場所が見つかるまで、彼女はこうして果てのない旅を繰り返すのだろう。
けれど、そんな長い長い旅路の途中で、ふと彼女があたし達の住む星のことを想い出して。少しでも楽しい気分に成れたのなら。
それは旅の無窮を慰める幸せなひと時になるだろうと、そう願わずにはいられなかった。
これにて本作品は完結です。
まあまあタイトル詐欺な作品。きっかけは今やってるソシャゲ2つがどっちも好きだから、2つを合わせたらもっと面白くなりそうというアホな考えから。タイトルはマジで思いつかなかったので投稿直前に10秒で考えました。正直勿体無いことしたとは思っている。
作品としてのコンセプトは『もし旅人みたいな人がガチでホロウを攻略していったらゼンゼロ世界はどんな感じになるんだろう』というもの。どこかの前書きでも書いたように当初はTOPSがラスボスになりそうだなと思って書いていたんですが、仲間になる予定だったルーシーの代わりにダイアリンが滑り込んだせいで色々と予想外の方向に。黒枝のポジションが便利すぎるのが悪い。
リュシアが虚狩りになることと、最後に星の名前が地球と判明すること。それ以外は割とその場のノリで書いていた全編アドリブ作品ではありますが、ゼンゼロの作品で零号ホロウまで攻略完了した作品は私には他に思いつかなかったくらいなので、この作品が誰かの新たな着想になってもらえると嬉しいです。
次回がありましたら月攻略後の番外編か、あんまり評判悪くなさそうだったのでタフに汚染された掲示板回でも書いてみようかなと思います。
それではお目汚し失礼しました。また機会がありましたらよろしくお願いします。