ガヤガヤ。ガヤガヤ。
「意外と郊外に向かう人って多いんだね……?」
そんなわけないから、と内心で旅人にツッコミを入れる。
ルミナスクエア発ブレイズウッド行き直通バス。むしろ路線図が
一週間に一度しかない路線。それだけでも普段の混雑具合が分かりそうなものだが、それを正真正銘“外”から来た旅人に言っても詮無きこと。しかしあたしを取り巻く状況を再認識した今ならば、このやたら多い乗客たちの正体は何となく察せられる。もちろんただの観光客が偶然バッティングした可能性は0ではないだろうが、それは最早“理論上は起こり得る”みたいなそんな領域に入っているだろう。
「ん……?」
「どうしたの、旅人?」
「いや、あそこの人、澄輝坪でも見たなって」
「へぇ……」
あっその人監視とかそういう系の人だ…。
少なくとも堅気には見えない、やたらと身なりのいい3人組を横目で見ながら旅人は言う。どう考えても郊外に適さないパリッと決めたファッション。というかデザインが奇抜過ぎるから十中八九対エーテル侵蝕装備。むしろこのバスざっと見た感じそんなんばっかりだよ。何?? ここは傭兵団の駐屯基地なの??? あたしたち戦場の最前線にでも送られちゃうの????
まあ、あたしたちが最終的に向かう先は6大ホロウのひとつなのである意味間違いではない。むしろ軍人ですら立ち寄らない危険区域を走破しようとしているんだからもっと酷いかもしれない。
当然ながら、こんな魑魅魍魎がたっぷりと詰め込まれたバスを襲おうとする度胸のある賊がいるはずもなく。ゆらゆらとバスの揺れに揺蕩うことしばらく、あたしは初めての郊外に足を踏み入れる。
「おお〜……」
舗装されていない広々とした道。無秩序に建設された建物。映画以外では見たことないタンブルウィードなど、まるでタイムスリップでもしたかのような光景。
どこまでも無駄なく設計された新エリー都には中々見られない無秩序な街並みは、ゆったりとした時間を好む人間にとっては貴重なモノにも映るだろう。
視線を南に向ければ、遠くに映るのはパパゴホロウ。衛非地区に目と鼻の先だったラマニアンホロウや、街中にズドンと鎮座していたクリティホロウと比較すればあのホロウが人類の脅威となる日はまだまだ未来の話になりそうだが、あのホロウ及びそれが生み出す共生ホロウのせいで人類はこの周辺を破棄せざるを得なかったわけで、早めに始末するに越したことはないだろう。
「──ようこそ御二方。お待ちしておりましたわ」
からん、と奇妙な音を立てて、この場に相応しくない口調の声が鳴り響く。
艶やかな金髪。きめ細やかな肌。しかし衣装はやたらパンクで、何故か傍には釘バットを携えている。
あたしが言えたことじゃないのは承知の上で、兎にも角にもキャラが濃い美少女。発言からして我々を待っていたようだが、果たして何が目的なのか。
「ああ、ご安心なさいな。私の名はルーシー。貴女も知るアリスからの依頼でしてよ。彼女は『影から見守って』などと腑抜けたことを言っていましたが、私はそんなまどろっこしいことは苦手ですの。見ての通りジモティな走り屋ですので、道案内はお手の物ですわ」
「………」
濃い! キャラが濃い! 濃すぎる!
何だろうこの人。色々と属性が渋滞している。棘のあるお嬢様口調で走り屋で郊外にいてアリスちゃんの友達で──家出した良家のお嬢様??? 最近お金持ちにも苦手意識を抱き始めたあたしからしたら、正直なところ色々と勘弁してもらいたい。けれどアリスちゃんの友人で好意ともなれば大っぴらに突き返せない。ぶっちゃけ反応に困る。
「走り屋って何?」
「ご存知ありませんこと? まあ貴女のご想像の通りでしてよ。あまり深くは考えず、不便な郊外での足と思っていただいて結構ですわ」
この人を足として使えと?? これは中々酷なことをおっしゃる。ただでさえ(主に自業自得で)人に頼み事をするのが怖くなってるのに、この推定お嬢様を馬車馬のように使い倒すだなんて。
「アリス?」
「え? いや、アリスちゃんはあたしのネッ友で……」
「ああ、うん──そうだよね」
何に納得したのかさっぱり分からないが、旅人は「ごめんね」と何故か一言だけこちらに謝罪すると、改めてルーシーさんに振り返る。
「私は蛍。星海の旅人。かつてはテイワットって星に住んで居たんだけど、何の因果かこの世界に迷い込んでしまったの。
今はリュシアからの依頼で、彼女のガイドのもと、各地のホロウを観光ついでに攻略している感じ……かな」
「………。………今は追及は止めておきますわ。尤も、それはあまり言い触らさない方がよろしくてよ」
──そういえば旅人に口止めするのを忘れてた。
あまりに致命的なミス。もはや隠し立て出来るような段階を通り越しているにしても、依頼主としての守秘義務だのでゴリ押せばいくらでもやりようがあったはずだ。しっかりしなさいリュシア。旅人を少しでも多くの悪意から守るのがあたしの使命だったはずでしょう。まあ、今回はアリスちゃんの友人が相手だし、このタイミングで気付けただけ良かったか。今後はより気をつけないと。
「ただ、それが貴女の妄言でなければ、つまりは
「そういうのもいるよ」
いるんだ…。
まあ今更その程度では驚かないけど、宇宙人の存在が確認された今、たまたま迷い込んできた宇宙生物がそういう形状だったなんて普通にあり得そうではあるか……少し前なら根掘り葉掘り聞き出してメモ帳二冊くらい無駄にしてたんだけどなぁ。どうしてこうなってしまったのやら。
「友好的なようで何よりですわね。流石の私も寝てる間に卵を産み付けられて、なんて展開は御免ですから。しみったれた星ではありますが、呼び名は違えど私もガイドのプロのようなものですし、ホロウ案内はお任せくださいな」
「よろしくね、ガイドさん」
「…………ヨロシクオネガイシマス」
凄い適応力だ。流石はこの大エーテル時代に逆行して郊外で生計を立てているだけある。最初の反応からして不審には思っているはずなのにまるで声色がブレないのが凄い。あたしなんて未だ緊張して声が上擦ったりするのに。
そこからはチートピアというお店で舌鼓を打ったり、そのお店の経営を立て直したのがあのリンさんで思わぬ繋がりに驚いたり、初めてちろっと飲んでみたニトロフューエルに喉を焼かれて戻してしまったり──ちなみにここでお酒を拒否していたのでまさかの旅人未成年説が浮上してしまった。けど怖くて何も聞けなかった。きっと大丈夫、きっとダイジョウブ……。
…………………………
…………………
…………
ホロウには、時にその知名度に応じて、それぞれ“異名”を獲得することがある。
その最たるものとして零号ホロウ。エリー都陥落の原因、全ての始まりであるが故に零号。このホロウは更に伝承に準えて「リンボ」という公式の呼び名があるが、それらはかのホロウ災害以降にホロウの規模から区分けした際のコードネームのようなものであり、あたしたちが携わった6大ホロウもこれに該当し、しかしこれらは異名とはまた別として扱われている。
ならば具体的に、異名を冠するホロウとは何なのか。その回答も何てことはなく、単なる噂の派生、特徴的なホロウには相応の悪妙が轟くというだけのこと。共生ホロウで規模に見合わない異様なエーテル溜まり──デットエンドホロウがその代表格で、ハティが初めて目撃された狼型エーテリアスの集落ネストホロウ、湖畔の町が飲み込まれたからレイクタウンホロウ。最近バレエツインズに出来た共生ホロウも、いずれ公式にバレエツインズホロウなどと呼ばれるようになるかもしれない。
今回攻略するパパゴホロウもその一つ。かのホロウには規模を象徴するコードネームの他に、『神の迷い路』という物々しい渾名が付けられている。その原因として挙げられるのが内部の特殊なエーテル組成。それが具体的にどのようなものであるのかは、残念ながらあたしの情報網では分からなかった。毎度毎度旅人が凄い勢いで攻略しているから忘れそうになるが、ホロウに関する情報は秘匿されるのが基本である。
で。
「準備はよろしくて?」
翌日。
最近はテント以外の寝床もすっかり慣れてしまった。あれだけ居たはずの観光客(笑)が宿で全く姿を見せなかったのは少し気になったが、それはあたしが気にする事でもないだろう。
「ここが『神の迷い路』、パパゴホロウ……」
これまでポツポツとあった共生ホロウとは違う、一際大きなホロウの前で佇む。
はっきり言えば、外観はこれまでのホロウと何も変わらない。どこまでも深く飲み込まれそうな空間の歪みが広がっているだけ。とはいえラマニアンやクリティも内部の構造はまるで別世界の様相だった。更にその中でも特殊と言われるパパゴには、果たしてどれほどの魔境であるのか。
「さて、とっととケリを付けますわよ」
「え? ルーシーさんも来るの?」
「当然ですわ。まさか貴女がたを放っておめおめと逃げ帰るわけにはいきませんもの」
「うっ……」
なんか思わぬ流れ弾を喰らってしまったが、頼もしいことには変わりない。結局は旅人に任せきりになってしまうけれど、せめて彼女に流れ弾が行かないよう、あたしはあたしで出来ることを頑張ろう。
ずんずん向かうルーシーさんに追従し、あたしは3つ目のホロウに足を踏み入れる。いよいよ折り返し地点。神の名が示すそのホロウの行先は、或いは希望か絶望なのか。少なくとも、こうして賛同してくれる人たちのため、あたしは歩みを止めたりはしない。それが未来の誰かのためになると信じて。
プレイアブルキャラクターの奇抜な衣装=対エーテル侵蝕装備は本作独自の設定です。
また、ホロウに関する話も公式と異なる場合がありますが、ご了承ください。