前半と後半に分けます。
感想はドシドシ送ってください。
本当に14歳なのか疑ってしまう程、圧倒的な強さで少年院の特級呪霊を無傷で撃破した建振熊。
それをありのまま五条が利権や権益で真っ黒の腐敗組織……ではなく日本の呪術界において強い発言力を持つ呪術総監部の老人達に報告したところ、自分達の差し金だという事実を自白しながらお通夜状態になった。
下手に始末に行って返り討ちに遭ったら呪術師を何人失うかわからないし、消したら消したで戦力として大損失は免れないし、むしろそれを察して呪術高専から脱走して敵対した方がマズい――上層部は自分達の保身と老い先短い命を守る為に「呪術師として呪詛師・呪霊をきっちりシバいてくれれば多少の事は見逃してやる」という結論に至った。それぐらい建振熊はヤバかった。
そんな事になってるとは露知らず、建振熊は高専のグラウンドでクラスメイトやその先輩と手合わせをしていた。
ただし、自分
「おりゃああ!!」
「うおおおお!?」
建振熊は薙刀を一閃し、呪力を飛ばして殴りかかった伏黒を式神ごと吹き飛ばし、続いて攻撃を仕掛けた釘崎にも同様の攻撃を浴びせる。
「こいつ、本当に中坊の年頃かよ……!!」
奇しくも同じ薙刀使いである2年生の先輩…
五条からは古熊建が輪廻転生した建振熊である事も、宿儺とかつて渡り合った実力者である事も知らされている。生半可な実力と覚悟でどうにかなる相手ではないとわかっていたつもりだ。
しかし、いざ相手取ると、14歳の少年とは思えない戦闘力を発揮した。正直、特級クラスだ。
《動くな》
「っ!?」
不意に、身体が金縛りにあったかのように動かなくなった。
言葉に呪力を込めて放つ「呪言師」の末裔である
「ナイスだ、棘!!」
そこへ、
息の合った連携プレーだが、相手が悪かった。
「うりゃああっ!!」
「ウソォ!?」
「そぼろぉ!?」
何と呪力出力を一気に高めて強引に拘束を解いたではないか。
まさかの展開に二人――というか一人と一匹――は驚愕。その隙を突かれ、建振熊の衝撃波攻撃で吹き飛ばされた。
「っつーか、相性最悪だろ…」
真希は吐き捨てる。
純粋な格闘能力で言えば、体格の観点で自分に分がある。しかし呪力のない自分にとって、規格外の呪力出力を誇る建振熊は遠当て技を扱える為、間合いを詰める以外の攻略法はない。それは彼自身も承知しているはずで、そうならない攻撃の仕方を考えているはず。しかも瞬時に懐に潜り込まないと先程の狗巻とパンダのようにカウンターを食らってしまう。
真希ができるのは、一瞬で間合いを詰めて一撃でノックアウトさせるしかない。
「……行くぞ」
「! よしっ!」
真希が薙刀を握り締め、一気に距離を詰める。
真っ向から迎え撃つ気なのか、建振熊は大振りの攻撃に出た。その薙刀を真希は地面ギリギリまでしゃがんで回避、建振熊の背後に回り込んだ。
あとは一撃叩き込めば、勝負が――
「……流石だなぁ、先輩」
建振熊は獰猛に笑うと、薙刀の柄尻を地面に叩きつけ全方向に呪力による衝撃波を放った。
目と鼻の先まで迫っていたが故に避ける事ができず、真希はそのまま吹き飛ばされてしまう。
「がっ…!!」
「いっちば~ん!」
全員が地面に倒れたのを確認し、ピースサインを決める建振熊。
すると、どこからかパチパチと拍手が聞こえてきた。一斉に振り向くと、どこかのほほんとした様子の五条が立っていた。
「いや~スゴいね建! 真希達もケチョンケチョンにしちゃうなんて! 先生ビックリ」
「悟、てめぇいたんなら止めろよ!」
「え~? 僕としては結構いい経験だと思ったんだけどなぁ」
真希が荒い口調で抗議するも、五条はヘラヘラ笑って言葉を返す。
訓練には最適かもしれないが、加減知らずの相手に自分達全員吹っ飛ばされたのはかなり堪えた。
「おぉ、先生」
「ヤッホー! 現世楽しんでる~?」
「ボチボチでんなぁ」
軽く挨拶を交わすと、五条は建振熊に任務があると伝えた。
任務先は神奈川県。
ある映画館で変死体が発見され、呪霊あるいは呪詛師が関わってる可能性が高いとして虎杖と1級呪術師の
五条は先日の夜に特級呪霊と会敵した事もあり、二人の相手が特級呪霊ともなれば苦戦は必須と読み、応援として向かってほしいとの事だ。
「まぁ、僕の杞憂で終わればすぐ帰宅しても構わないけどね」
「神奈川か。まぁ仕事はするさ。食った分は働かないとな」
食った分は働く――それは建振熊が平安京を守る兵士としての以前、前々世からの考え。
建振熊は薙刀を担ぎ、早速出発しようとしたが……。
「……神奈川って、どっちだっけ?」
素の表情で問い掛ける建振熊に、五条は腹を抱えて笑い出した。
*
場所は変わって、神奈川県川崎市。
建振熊は僅かに残った呪いの足跡・残穢を辿って帳が下りた
「ここか」
校舎を見上げ、スタスタと入っていく建振熊。
しかし、触れた途端にバチィン! という音と共に弾かれてしまう。どうやら何らかの効力が作用して入れなくさせているらしい。
それならばと、拳に呪力を纏わせて殴りつける。
ビキィ!!
すると、帳全体にヒビが入り、崩壊を始めた。
平安のヤツより随分と脆いつくりだな――そんな事を暢気に思いながら校内に侵入すると、再び帳が下ろされた。
「……!」
ふと、新たな呪力を察知する。
気配からして呪霊で、先の少年院で秒殺した特級呪霊と同等以上。それも帳が下ろせる程に呪術を扱える。
千年前は帳を下ろせる呪霊はザラといたが、現代は明らかにレベルが下がっている。しかし、
「……いいぜ。千人でも万人でも受けて立ってやる」
薙刀を取り出して体育館へ向かい、扉をバァン! と思い切り開ける。
すると、目の前には床に倒れ込んだ無数の学生達と教師、そして壇上で向かい合って立っている二人の男子生徒がいた。
「子供…?」
右目を隠した学生・
しかし呪いを視認できる才能がある彼は、すぐに目の前の少年が呪術師と察し、掴み上げていた男子学生を下ろして敵意を露わにした。
「引っ込んでろよ、呪術師。奪える命を奪う事を止める権利は誰にもない。僕にはやる事がある」
「悪いな、俺は食った分は働くって心に決めてんだ」
四の五の言わずかかって来いよ、と薙刀の切っ先を向ける。
関係あるなしではない。事情がどうであれ、攻撃対象である以上は向こうから降参しない限りは薙ぎ倒すのみだ。
順平はそんな建振熊を復讐を妨害する敵だと判断し、クラゲの式神「
(実力が下であっても、勝負事は最後までわからねぇ。ひとまず様子見だな)
建振熊は薙刀を構える。
未知の相手には先手を譲って出方を見て、癖や動きを見切ってから仕留める――それが建振熊の初対面の相手に対する立ち回りだ。事実、このスタンスで平安時代という修羅の世界を戦い抜いてきた。
「澱月!!」
まずは先手を譲り、順平に澱月をけしかけさせる。
澱月は触手を伸ばし、その先端先端を棘状にして突き刺してくるが、その全てを巧みな薙刀術で斬り刻む。
しかし、建振熊は勝負を終わらせようとはせず、状況をわざと膠着させた。
(理性的に見えて錯乱している。おそらく、あいつは誰かに唆されてる。そいつを逃がすわけにはいかねぇ)
反撃の隙さえ突ければ一撃必殺など造作もない相手だが、それは順平とは別の呪力を感じ取っていた建振熊としては望まない展開だ。あっという間に捻り潰してしまうと、もう一人が撤退してしまう可能性があるからだ。
その気になればいつでも潰せる相手は後回しにし、黒幕であろう別の呪力の持ち主から秒殺する――建振熊はそう判断し、体育館から撤退した。
「逃がすか!!」
(よし、食いついた!)
背を見せて校庭に移動した建振熊を、順平は追撃する。
本来の目的を達成するよりも、自分の障害を始末する事を優先させる……それこそが彼の狙いであった。
「俺に勝とうなんざ千年
「!?」
建振熊は薙刀の刀身に呪力を纏わせて一閃し、衝撃波として打ち出す。
射程範囲に入っていた順平は、咄嗟に澱月の中に入って守りに転じるが――
ドォン!!
あまりにも高い呪力出力によって、澱月は木っ端微塵に。
順平は盛大に吹き飛ばされ、校舎の壁を突き破っていった。
「……あっちゃ~」
これはしまった、と頭を掻く。
せっかく黒幕を引き摺り出そうとしたのに、自分でその機会を台無しにしてしまった。
どうしようかと悩んでいると、覚えのある気配に気がついた。
「……宿儺?」
「順平!」
現れたのは、色々あって順平と仲が良くなった虎杖だった。
「建! やり過ぎたっての!」
「うん、それについては申し訳ない」
片手で謝罪の意を示す建振熊は、とりあえず虎杖と一緒に校舎へ入る。
視線の先では、血が流れる頭を押さえて順平が横たわっていた。
「順平!!」
「悠仁……」
「よかった、意識は――」
「虎杖先輩、男の友情を分かち合ってる時に
殺気立つ建振熊にハッとなると、廊下の先から黒幕が姿を現した。
身長は185センチ程、見た目は皮膚が継ぎ接ぎだらけで身体を黒いローブで覆っている青年。しかし禍々しく異様な気配で、相当な呪力量を持っている。
「初めましてだね、宿儺の器」
「真人さん……!!」
「ようやくお出ましか」
建振熊は虎杖と順平を庇うように立つ。
それを見た虎杖は理解した。あのツギハギ顔の人型呪霊こそが全ての元凶だと。
「俺が始末するから、虎杖先輩はそいつ連れて逃げてくれ」
「無茶だ!! ナナミンがヤベェっつってた奴だぞ!!」
「誰だよナナミンって」
「落ち着いて!!
「良いも悪いも、初めから
二人の声に耳を貸さず、薙刀を構える建振熊。
それを見た呪霊――真人はどこかの特級呪術師のように軽薄な笑みを浮かべて「せいか~い!」と言いながら拍手した。
「熟慮は時に短慮以上の愚行を招く。順平…君はさ、君がバカにしている人間のその次ぐらいにはバカなんだよ」
「…………」
全てを悟り、言葉を失う順平。
彼は先日、母親・
絶望する彼を他所に、真人は建振熊に目を向け、興味深そうに見つめてきた。
「それにしても君…ただものじゃないね? もしかして五条悟と同じ特級呪術師ってヤツ?」
「いや…俺は呪いをボコボコにできるだけの14歳だ」
「……ウソつけ」
「14歳なのはホントだぞ」
ムスッとする建振熊に、真人は何か面白いものを見つけたかのような表情になる。
「君を弄るのも悪くないね。宿儺の器の前に殺す」
「俺を前座扱いか? 自分の常識で物事を判断すると墓穴掘るぜ」
拳を構える真人に、薙刀を両手持ちで構える建振熊。
それを虎杖の中から見ていた宿儺は、ケヒケヒと嗤った。
「愚かな蛆虫だ。俺以外に奴は殺せんというのに」
次回、真人フルボッコ回。