「ガンマ。じゃあここ、君の店なんだ」
ようやく理解したシドが、口を開く。
「はい。『陰の叡智』を微力ながら再現させて頂きました」
今のガンマはミツゴシを経営し莫大な利益を出すことで、『シャドウガーデン』の資金を稼いでいる。
『陰の叡智』と言うのは、シャドウが現代技術などを多少の脚色を交えて彼女らに話したものだ。ちなみに俺のは『英雄の叡智』と呼ばれている。主にベータやイータに話したものた。
(まぁ、シドの方は雑に説明しただけだけど)
例えばチョコは、苦い豆に砂糖をぶっ込んで固めたら美味いものが出来る、くらいしか説明してない。
俺も多少の補足は加えたが、所詮補足。1聞いて100再現出来るのは、『七陰』の才能だろう。
「俺が最後に来た時、この館はなかった。まさか、短期間で作り上げたのか?」
「はい。いずれ主様も訪れた際にと、この3ヶ月半で作り上げました」
(すっご。大工さん涙目のスピードじゃん)
カツカツとハイヒール(しかも結構高い)を響かせ、降りてくる。しかし……。
「ぺぎゃっ!」
地面と激突した。コケたのだ、何もないところで。
「はぁ」
(運動神経は相変わらずのゼロオブゼロ。……逆に安心できるけど)
「……どうぞこちらへ」
「鼻血、出てるよ?」
二人で玉座に座る。
他の構成員が、ガンマの鼻血を拭う。
《いい。無茶苦茶いいとは思わない?デュール》
《分かるよ。無数の陰を束ねし王って感じ》
《だよね!ガンマもよくこんな金のかかったセットを用意してくれたよ》
シドが魔力を集める。
(?……ああ。そう言うこと)
俺も魔力を集める。
「「褒美だ。受け取れ」」
集めた魔力を放ち、雨として彼女らに降り注ぐ。2つの魔力が彼女らに感嘆を与える。
「私を絶望と苦痛から救い上げてくれた美しい命の光、身に余る光栄です。
今日と言う日を、生涯忘れません」
「フン、それでこの店結構稼いでる感じ?」
(プッ、シャドウボイスでそんなこと聞かないでよw笑っちゃうじゃん)
「現在、国内外の主要都市に店舗を展開し、僻地には通販で影響力を拡大しています。
活動資金も、10億ゼニーほどなら即座に」
金貨の山が、台車で運ばれてくる。
「10っ!?」
「少なかったでしょうか?」
「流石はガンマ、『七陰』随一の経営力だな。シャドウも額の大きさに驚いてる」
「いえいえそんな。主様方と比べたら、まだまだです」
(17歳でこれは、現代だったら天才児扱いだよ)
ガンマが真剣な表情に切り替わる。
「それと、主様方が来訪されて理由は察しております。例の事件についてですね?」
「えっ、ああ」
(絶対シド分かってない。まぁ、俺もだけど)
「王都に現れた人斬り。漆黒の衣を纏い、『シャドウガーデン』の名を騙る愚者共についてですね」
「ーーーーーーーーは?」
思わず力が籠る。
場を黒い重圧が支配する。
「っ、申し訳ございません!」
ガンマが勢いよく頭を下げる。
「『シャドウガーデン』を騙る愚者共は、必ずや我々で始末いたします!」
「あっ、いや、ごめん。怖がらせるつもりはなかった」
重圧がスッと消えていく。
「魔力が乱れているぞ。それほどまでに憎いか?」
「当然。家族の名であるガーデンを穢したんだ。怒らない方が無理ある」
(と言っても、ガンマ達怖がらせちゃったな。なんか最近、怒りっぽい気がする)
「俺たちでゴミの始末やる、それでいい?」
「ああ。お前風言うなら、罪人には罰を、か」
「まさか、お二方自ら!?」
俺たちが一緒に動くことはあまりない。だからこそ、ガンマは驚いている。
「畏まりました。こちらからもサポートを。来なさい」
扉に、先程のプラカードのお姉さんが立っていた。
「この子は」
「ニュー、だろ?元93番の。
久しぶり」
「ご無沙汰しております。シュヴァルツ様」
ニュー以外が驚愕に染まる。
「ーーーー流石シュヴァルツ様、ご存知でしたか」
「そりゃあアレクサンドリアで何回か鍛えてあげたしね」
「え、そうなの?」
「うん。ワープテラで一瞬で行けるから。ざっと……500番まで鍛えたかな?そうじゃなくとも、資料で構成員は確認済みだし」
これにはニューも驚いた。
「まさか……全員、ですか?」
「うん。送られてきた資料に書いてある子達なら全員」
(記憶力には自信あるしね。ガジャ様ほどじゃないけど)
すると、全員がすすり泣き始めた。
「えちょ、どうしたの?俺なんかした?」
「い、いえ。ただ、末端構成員風情である我々の名まで覚えていただけていることに感銘を……!」
(はぁ、やっぱ慣れないな。ちょっとしたことでこうなるのは……)
覚えてる限り、こんな状態になるのは、とっくに100回を超えている。知らないところも含めたら、もっとあるだろう。
「ーーーー俺にとってガーデンは第二の家族。名前を覚えてるのは当たり前だ」
「グスッ、うう」
「敬服いたします」
(まっ、前世含めたら第三だけど)
《すごいねデュール。本当に主人公っ感じ》
《これに関しては主人公プレイとして覚えてたわけじゃないんだがな》
「んっ、んん。お話を戻しますが、ニューは入ってまだ日が浅いですが、その実力はアルファ様も認めています。どうぞご自由にお使いください」
「用が出来たら呼ぶ。…………あっ、そうだ。チョコを買いたいんだけど、一番安いの3人分」
「そういやそうだった。俺は2人分で」
ガンマが目を丸くする。
「チョコレート?……はい。最高級のチョコをご用意します。10割引きで」
「10割!?つまりただじゃん!」
「えっ、いいの?俺たち客だよ?」
「はい。お二方は全商品無料です」
(稼ぐ必要、無かったな)
◇
太陽が沈み、時計塔が7時を指す頃。
俺たち四人は、全力疾走していた。
「おい!門限間に合わねえぞ!」
「シド君達が悪いんですよ。アンケートでイチャコラと」
「悪かったって。チョコあげたじゃん」
「てか、イチャコラはしてない」
ガキン!
その時、金属の音が聞こえてきた。そう遠くないところで、誰かが戦っている証拠だ。
《シド》
《うん。分かってる》
瞬間、シドが膝をついた。
「おいどうした?シド」
「うんこ……うんこ、してくる。限界なんだ。今すぐしないと、走りながら垂れ流すことになる!」
モブ二人に衝撃が走った。
「確かに大事だ」
「門限か尊厳かの問題です」
(…………もうちょっとマシな嘘はなかったの?)
「……仕方ない。二人は先行ってくれ。俺はシドを手伝う」
「おいちょ、デュール」
「親友のためなら、門限くらい安いもんだよ」
「僕たちを置いて先に行ってくれ。誰にも見られたくないんだ」
「分かった。……お前が野糞したことは、絶対に話さねえ。男と男の約束だ」
「シド君の選択は誰がなんと言おうと正しかった。そう思います」
謎に涙ながらにそう言い、二人は先に行った。
「さて……」
「ああ、行こう」
屋根へと登り、飛び越え、戦場へ向かった。
シドの金貨盗みは、デュール君が目を光らせておいたので、未然に防いでます。