一つわかったことがある。この世界において剣士のほうが魔術師よりも強いのではないかと。
もちろん、魔術師にも強い人はいる。
ロキシー先生は、水聖級の魔術師だ。
ルディに至っては、私と同じ三歳とは思えないほどの魔術を使う。
それでも、だ。
実際にお父さんの剣術を見ていると、どうにも魔術師とは違う強さを感じる。
その特徴は速い。速すぎる。
剣士は、魔術師が詠唱している間に距離を詰められる。
近づかれてしまえば、魔術師は魔術を使う暇すらない。
もちろん、遠距離なら魔術師が圧倒的に有利だ。
広い場所で大規模な魔術を使われれば、剣士だって簡単には近づけない。
でも、いざ正面でかち合ったら、剣士の方が圧倒的にアドバンテージがあるのではないか。
そう、考えると剣を習うほうが有意義なのかもしれない。
「よし、始めるぞ」
一度剣を持って以来、私は毎日ルディと一緒にお父さんの稽古に打ち込んでいた。
稽古は打ち込みがメイン。ひたすらにお父さんに揉まれる日々が続いていた。
そんなある日のことだった。
「いいか、二人とも。剣術には三つの流派があるって知ってるか?」
「三つ?」
「ああ」
お父さんは木剣を肩に担ぎながら説明してくれた。
「剣神流、水神流、北神流。この三つが、この世界じゃ有名な流派だ」
「へー」
「それぞれ戦い方が全然違う」
お父さんは木剣を構えた。
「まずは剣神流。とにかく速さと攻撃力を重視する流派だ。相手より先に斬る。それが基本になる」
「じゃあ、一番強いの?」
「そう簡単な話じゃねえよ」
お父さんは苦笑した。
「次に水神流。こっちは相手の攻撃を受けたり、受け流したりするのが得意だ。守りに関しては三流派の中でも特に優れてる」
「じゃあ最後は?」
「北神流」
お父さんが木剣をくるりと回す。
「北神流は、剣だけにこだわらない。相手の隙を突いたり、奇襲したり、場合によっちゃ何でも使う。戦場で生き残るための剣術って感じだな」
「……なんでもあり?」
「まあ、そんなところだ。あまり俺は好かないけどな」
なるほど。
剣神流は攻め。
水神流は守り。
北神流は……なんでもあり。
こう考えると、真剣勝負にこだわらなければ北神流が強そうなのか?でも剣神流や水神流のほうが格好良く聞こえるが。
「お父さんはどれなの?」
「俺か? 俺は三つとも上級だ」
剣にも魔術と同じように、階級がある。一番上から神、帝、王、聖、上、中、下といった感じだ。
お父さんですら上級なのだから、世の中にはもっとバケモノがいるってコト?それってヤバいじゃん!
「お父さんは自分より強い人会ったことある?」
「そりゃいるさ」
「どのくらい?」
「そうだなぁ……」
お父さんは少し考えてから、笑った。
「同じパーティーに女の剣士がいたんだが、一度も勝ったことがなかった」
「一回も?」
「ああ、そうだ。……でも、ベットの上では負けなかったがな、あ、女の子にこういう話はダメか。すまん、忘れてくれ」
いや、ルディ相手でもダメだろ。
「まあいい、じゃあ二人で一斉にかかってこい」
「いくよ、ルディ」
「はい、姉様」
そんな私たちをなんだか悩み顔で見つめる人物がいたことに、そのときは気づかなかった。
side ロキシー
私には二人の弟子がいます。
……と言っても、片方にはあっという間に追い越されてしまいそうですが。
ルディは、一つ教えれば凄まじい速度で吸収していきます。
魔術の才能もそうですが、学習スピードの速さが異常です。
一方、レティはルディほどの天才ではありません。
けれど、レティにはレティの良さがあります。
一つ一つを丁寧に覚え、できないことがあれば何度でも繰り返す。
失敗しても諦めない。
最初は初級魔術を使うだけでも苦労していましたが、最近では中級魔術にも手を伸ばせるようになってきました。
この子は、時間をかければきっと大きく成長する。
私はそう思っています。
ここで暮らし始めて、もうすぐ二年になります。
パウロさんやゼニスさんは、私のことをまるで家族のように扱ってくれています。
リーリャさんとも、それなりに仲良くやれています。
最初は少し居心地が悪かったこの家も、今ではすっかり落ち着く場所になっていました。
……だからこそ。
最近、少しだけ寂しいことを考えるようになりました。
そろそろ、卒業の時期なのではないかと。
実際、ルディに教えられることは、もうかなり少なくなっています。
私が教えたことをすぐに覚え、私の知らない使い方まで試してしまう。
師匠として嬉しい反面、少し複雑な気持ちにもなります。
問題は、レティです。
魔術に関しては、まだまだ教えることがあります。
けれど――。
最近のレティは、魔術よりも剣に夢中になっています。
朝早く起きては素振りをしていますし、パウロさんの稽古が始まれば、いつも嬉しそうに庭へ飛び出していきます。
魔術と剣。
その両方を極めるというのは、とても困難なことです。
もちろん、本人が望むのであれば、私は魔術を教え続けるつもりです。
ですが――。
レティが本当に極めたいのが剣なのであれば、魔術の勉強が足枷になってしまう可能性もある。
それならば。
私は、あの子に何をしてあげられるのでしょうか。
師匠として。