私たち双子は5歳になった。
誕生日にはささやかなパーティーが開かれた。
この国には、誕生日を毎年祝うという習慣は無いらしい。
だが、一定の年齢になると、家族が何かを送るのが通例なのだそうだ。
一定の年令とは五歳、十歳、十五歳。
十五歳で成人であるから、非常にわかりやすい。
酒も15になったら飲めるってことだ。
お父さんがお祝いに剣を送ってくれた。ルディには実剣、私には木剣だ。
五歳児が持つにしては長く重い実剣。
子供が持つようなものではない。
「男は心の中に一本の剣を持っておかねばならん、大切な者を守るには―――」
お父さんは機嫌良さそうに話していたが、
最終的にはお母さんが「長い」と、窘めた。
「レティのほうはな、女の子だから実剣はまだ怖いと思うからそれで我慢してくれ」
お母さんからはちょっと良さそうなネックレスをもらった。
私も女の子であるため、キラキラしたものには弱い。
ルディには一冊の本だった。多分この世界で本は貴重なものだ。割と裕福であろうこの家には三冊ほどしか本がない。手書きみたいなものだったし、手間がかかるので高価なのは納得がいく。
「二人とも喜んでくれてうれしいわ」
「ありがとうございます。母様。こういうのが欲しかったんです」
ルディがそう言うと、ぎゅっと抱きしめられていた。
前々から思っていたが、お母さんはおっぱいがバインバインだ。ないすばでぃである。私もその遺伝子を受け継いでいると祈ろう。
ロキシー先生からはロッドをもらった。
三十センチほどのスティックの先に、小さな赤い石がついた、質素なものだ。
「先日作成したものです。師匠は初級魔術が使える弟子に杖を作るものなのですが……申し訳ありません。失念していました」
そういうものだったらしい。
なんだか嬉しいな。
一人前として認められた感じがする。
「はい、師匠。大切にします」
「ありがとーロキシー師匠!」
よし。
これからはロキシー師匠と呼ぼう。
人生初のお師匠様だ。
そう言うと、ロキシー師匠は少しだけ苦い顔をした。
どうやら「師匠」と呼ばれるのには、まだ慣れていないらしい。
……でも。
その表情は、どこか嬉しそうでもあった。
そして同時に、少しだけ寂しそうでもあった。
どうしてそんな顔をするのだろう。
私には分からなかった。
ロキシー師匠はしばらく黙ったあと、ぽつりと呟いた。
「……突然ですが、二人とも」
「明日、卒業試験を行います」
「……卒業?」
私は目を瞬いた。
その言葉が、頭の中でゆっくりと反響する。
隣を見る。
ルディも少し驚いた顔をしていた。
「はい」
ロキシー先生は頷く。
窓の外では、風に揺れた木の葉がさらさらと音を立てていた。さっきまで明るく感じていた夕暮れの日差しが、急に遠くなったように思える。
「ルディには、もう私から教えられることがほとんどありません」
「……私は?わたしはまだまだでしょ」
自分でも驚くほど、小さな声が出た。
言いながら、胸の奥がきゅっと縮んだ。
「ええ、レティはまだ一人前とは言えません」
卒業試験を受ける資格が、自分にあるとは思えなかった。ルディのように何でもできるわけではない。魔術の威力も、覚える速さも、師匠の期待に応えられるほどではない。
「だからこそです」
「?」
ロキシー先生は、私を真っ直ぐ見つめた。
その青い瞳には、いつもの落ち着きがあった。けれど、ほんの少しだけ寂しそうにも見えた。
「レティは、魔術師になる必要はありません」
「……」
「あなたは剣士になるべきです」
ロキシー師匠が小さく笑う。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥がまた温かくなった。
先生は、私が思っていたよりずっと私を見ていた。
ホントは魔術の授業より素振りをしているほうが好きだってバレていたのだ。
「剣術と魔術。どちらも極めると言うのは困難なことです。どっちつかずよりは片方を極めるのが得策でしょう」
「ただし、魔術も覚えておいて損はありません。剣士であっても、魔術を使えるというのは大きな武器になります」
ロッドを握る手に、少しだけ力が入った。
赤い石が指の隙間から見える。
このロッドをもらったばかりなのに。
もう、師匠との授業が終わる話をされている。
そう思うと、嬉しいはずの誕生日が、急に終わりへ向かって進み始めたように感じた。
「だから――」
ロキシー先生は、柔らかく微笑んだ。
その笑顔を、私は何度見てきただろう。
初めて魔術を教えてくれた日も、失敗して泣きそうになった日も、少しだけ上達した私を褒めてくれた日も、先生は同じように笑ってくれた。
「最後に一度、私があなたたちの師匠として試験をしましょう」
静かすぎて、かえって胸に残った。
卒業すれば、私はもっと自由に剣の修行ができる。新しい場所へ行けるかもしれない。先生から教わった魔術を使って、自分の道を進むこともできる。
頭では、それが悪いことではないと分かっていた。
むしろ、喜ぶべきことなのだろう。
けれど、先生の隣で過ごした時間が終わってしまうと思うと、素直には頷けなかった。
五歳の誕生日。
楽しい一日になるはずだった。
家族に祝ってもらって、プレゼントをもらって、みんなで笑って。
なのに。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がほんの少しだけざわついた。
今生の別れというわけではないだろう。手紙だってある。
それでも、今までのように毎日会えるわけではなくなる。
師匠の優しい声も、たまにドジしちゃうお茶目なところも。それが過去のことになってしまう。
そう考えると、ロッドを握る手が震えそうになった。
もっと一緒にいたかった。
けれど、そんなことを口にするのは、子供っぽい気がした。
ロキシー先生は、私の顔をじっと見つめた。
何かに気づいたのかもしれない。
けれど、何も言わなかった。
前回、高評価をしてくださった、
もちともきさん、KU7493さん
ありがとうございます。