出会いと別れはいつも一瞬。
ロキシー師匠の時もそうは思ったが、まさかそれが家族にも適用される日が来ようとは思っても見なかった。
日中のランニング後、家に戻ると見たことのない馬車が止まっていた。
その馬車の中には眠っているルディと、素晴らしい肉体美の獣族がいた。
そりゃあもうバッキバッキの女よ。バリ強そう。
でも、なんだか様子がおかしい。
揉めてる……とは違うような。
「お、お父さん?どうしたの…」
なにやらお母さんが泣いていて、リーリャさんも少し涙ぐんでいる状況に混乱が隠せなかった。
「ああ、レティ。あまり見せたくなかったんだがな。…ルディはな……」
その後の話はあまり入ってこなかった。
ルディはお貴族様の家庭教師に行ってしまうらしい。
五年ほどだそうだ。
いつも隣にいた弟がどこかに行ってしまう。
五年とはいえ、子供の五年だ。
今度会う時には身長を貸されてたりするのだろうか。
私のこと忘れないだろうか。寂しくならないだろうか。
いや私が寂しい。
シルフィはこのことを知っているのか?
いや、私ですら知らなかったのならシルフィも知らないだろう。
しかも彼女がそんなことを知ったらどうなるか分からない。
というかそれが原因だって言ってたっけ?
あまりにもルディとシルフィが一緒にいるもんだから、お互いの成長につながらないと。
いつもこんな私を慕ってくれたルディ。
ルディがいい子だから、私もちゃんとお姉ちゃんが出来た。
そりゃ、ルディの方が色々と優秀だが、そんなことルディは気にもしてなかった。
家族だってそうだ。リーリャさんの件をおさめたのは誰だ。シルフィを助けたのだって。
全部ルディだ。
家族はルディを中心に回っていたのだ。
私もついていくと言ったが、却下された。
それではルディのためにはならないと。
じゃあわたしは?私はルディと一緒がいい。生まれてきてこれまでずっと一緒にいたのだ。
いきなりお別れなんて認めたくない。
ノルンとアイシャだっている。このままじゃあ彼女たちにお兄ちゃんの記憶は残らないだろう。
二人でちゃんと面倒見ようと約束したのだ。
これからどうすれば。
私はルディがいたから頑張れた。
彼が努力を続けていたのを知っている。
剣はあまり上手くないけれども、弱音を吐かずに毎日こなしていた。
そんなルディを見ていたから、私も負けじと頑張れた。
これから何を目標に……
いや違う。これからは私が家族を守るのだ。
そんな大層な力はないのはわかっている。
今までルディに頼りっぱなしだったのだ。
役に立つんだ。みんなのために。
ルディの代わりに、
なるんだ。
いつか、ルディと肩を並べるように。
ルディが困った時、側にいられるように。
———
10歳。
「ただいまー」
「おねえちゃんどこいってたのー?」
「ちょっとお手伝いにね。ノルンちゃんは今日も可愛いねーー?ちゅーさせろちゅーーー」
「うぅ、おとうさんだっこ」
嫌がられてしまった。最近はスキンシップが足りんな。妹ホルモンは毎日摂取せねばならんというのに。
毎日が楽しい。でも、時よりルディがいたらもっと楽しいのかな?と考えてしまう時もある。
「いや、ノルン。お姉ちゃんにしてもらいな」
「娘は大きくなると父親との接触を嫌がるようになるから、今のうちに抱いておいた方がいいわよ」
「いやいや、オレは威厳のある父親を目指そうと思っている。ルーデウスと違ってノルンは平凡なようだし、ここは偉大な父親と認識してもらわなければ」
「それって、嫌いだった御義父さんと一緒なんじゃないの?」
「……そうだな、じゃあやっぱり抱かせてくれ」
「ちなみにお父さん、私は大丈夫だからね。全然抱っこしてくれてもいいからね!」
ルディが家庭教師に派遣されて以来、三年近く経った。
すっかり妹たちは大きくなっていた。
二人とも甘えんぼさんで可愛い。
アイシャは甘えんぼさんというより甘え力が高い。ついつい可愛がりすぎてしまう。そんな私を見たノルンがほっぺを膨らまして私の元へ抱っこをねだる。
今日の私はちょっと汗をかいていたのでお父さんのほうに行ってしまった。
その近くでは、リーリャさんがアイシャに何かを教えていた。
リーリャさんはアイシャに英才教育を施すつもりのようだった。
アイシャは成長が早かった。
何かを教えればすぐに覚えたし、歩き出すのも早かった。
リーリャさんの教育がよかったのかもしれないが、
ノルンがなにか悪い病気を持っているのではと心配になった。
実際はノルンが普通なのだから少しかわいそうにと思う。
もしや私の時もそう思われてたのかな?
まだノルンだって何か才能を秘めている可能性だってあろう。
でもそんなものなくても、私たち家族は二人のことをちゃんと愛せるだろう。
きっと、いつまでも仲良く……
「そうだお母さん、さっきシルフィが…」
シルフィも元気だ。
そりゃあルディが離れてしまったときは、暴れたさ。
でも、今は元気にやっている。
なんなら昔よりしっかり者になってきた。
ルディと再開した時恥ずかしくないようにと、魔術の訓練を続けていたり、最近ではリーリャさんのもとで家事を習ったりするそうだ。
うん、きっといい奥さんになるのだろう。
……もしやそーゆーこと!?
将来的にルディと結婚しようと、外堀から埋めているのか!?
ルディのやつめ、やるなぁチキショー。
そんな時だった。
私たちは突如白い光に包まれた。
「おと、」
反射的にお父さんへ手を伸ばしたが、時すでに遅かった。
———
気がつくと私は見知らぬ砂漠にいた。
そして、近くにいた大きな魔物に食い殺された。
さあ、地獄の始まりだ。