瑠璃の水面に煌めく銀閃   作:三℃パン

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回想のムーン

鎮守府に帰投した艦隊はまさにボロボロとしか言いようのない状態だった。

「すまないな」

駆逐達の前にしゃがみ一人ずつ頭を撫でる。

「ごめんなさい司令官。暁失敗しちゃった」

「そんなことはない。俺の責任だ。響も秋月も責任を感じる必要はないんだぞ」

涙を流してしがみついてくる暁をあやしながら二人にも言う。

「大丈夫だよ」

「はい、長10センチ砲ちゃんは少し工廠でお休みするみたいですけど」

秋月は長10センチ砲が傷ついたことが気がかりなようで、響も気落ちしているようではある。

「ゆっくり休むといいよ。気にしなくていい。秋月の長10センチ砲の療養も早く終わる様に工廠をせかしておくよ。ほら、暁ももう大丈夫だ」

「うん。しれぇかん」

まだ涙ぐむ暁を響が連れて三人は入渠に向かった。

「飛鷹も那智も転属そうそう大変な目に合わせてしまったな。すまない」

「いいわよ。艦載機が減っちゃたから今度整備に付き合ってもらえればそれで」

「ああ、それぐらいはいいよ」

「言うわね。けっこう作るの大変なのよ?」

飛鷹は笑ってそういうとハンガーをでていった。

そして残された二人と向きあう。

「これでよかったんだな司令官」

那智の言葉に黙ってうなづいて木曾をみる。

ずいぶんと意気消沈としているようだ。

「ああ、転属早々ほんとにすまなかった」

「いや、仲間が目の前で沈むのなんてまっぴらだからな。司令官の采配は正しかったと思うぞ。じゃあ、私も入渠させてもらおう」

那智はそう言い残すとつかつかとハンガーを出て行った。

「・・・・・・なぜだ」

木曾が俯いたまま呟くようにいう。

「なぜおれを助けさせた!なぜ、おれに生きることを強いる!お前に、お前になんの資格があって!」

胸につかみかかって怒鳴る悲痛な声がハンガーに反響する。

翡翠の目と、いつもは眼帯で隠されていた琥珀色の目に怒りと涙を湛えてこちらを強く睨み付ける。

「資格が必要ならこう答えよう。俺がお前の上官だ。生殺与奪は俺が決めさせてもらう」

「おれは、これ以上仲間が近くで死ぬのを見たくないんだ!だから!」

「それでも!お前が死んで何になる!」

木曾の肩をつかんで言い聞かせるように強い口調で言う。

「木曾、お前の過去を俺は知らん。だが、お前はその目で見てきた死を全部無駄にしたいのか!」

その言葉に木曾の目から怒りが消え、失意の色が浮かび胸倉をつかむ力が抜け、だらりと手が下がる。

「おれは、おれは・・・・・・」

「考える時間は取らせる。だが、答えが出るまでお前は出撃させない」

混乱している木曾をこれ以上追いつめても仕方ないだろう。艤装を外させるとただ茫然と立ち尽くす木曾をしり目にハンガーを後にする。

きっとわかる。彼女ならそれが・・・・・・

戦果報告と損害報告をまとめて、遭遇した未知の敵についての報告書をまとめ終わる頃にはすっかり夜だった。

窓から見る外はところどころに部屋の明かりが見えるだけで街灯の蛍光灯以外に明かりがなく夜の帳に呑まれている。

息抜きに窓の外を見ているとドックから木曾が出てくるのが見える。

こんな時間まで入っていたのか・・・・・・かなりの手負いだったもんな。

木曾はじっと空を見上げると寮とは逆方向に歩き出す。

どこに行くつもりだ。執務室を出て木曾の後を追いかけようとするが見失ってしまう。

向こうに行ったのは確かなんだが。

木曾が向かった方に行ってみると港に腰かけて海を見る木曾を見つける。

その姿はいつもの気丈な木曾の姿とは異なり儚げで、今にも消えてしまいそうなか弱さを漂わせている。

「風邪をひくつもりか?」

背中に上着をかけながらそういうと上着をつかみながら力ない目でこちらを見上げる。

「なんでお前がいるんだ?」

「窓から木曾が見えたからな。こんな時間に何をするのかと思ってな」

そういって木曾の隣に腰かける。

まだ真夏だというのに、海風はやはり冷たく、熱帯夜とは無縁とばかりに吹き付ける。

「そうか・・・・・・お前に言われたこと、考えた。だが、おれには答えが出ない」

「じっくり考えるといい」

「すこし、昔話に付き合ってくれるか?」

「構わないよ」

「あの時も、こんな月夜だったな・・・・・・」

そして木曾は話始める。

両親をなくして天涯孤独だった木曾が、海軍に入って初めて所属した艦隊で深海棲艦の夜襲に逢い自分だけ生き残ったこと。

艦娘になると覚悟して以来の友であった人をそこで失ったこと。仲間が沈む中、何もできなかったこと。

「この目も、その時に見えなくなるはずだったのを、その艦隊の戦友のものを移植されたものなんだ」

そういって木曾は右眼に手をあてる。

「おれにはもう帰る場所がない。おれの帰る場所はアイツらだった。だから、おれはまた誰か失うぐらいなら刺し違えてでも後の憂いを絶つ。皆そうだった、自分の命が国の安泰の礎となると信じていたから、その遺志を継ぐ。いや、継がなければならないんだ」

木曾はそういって再び月を見上げる。

そうか、そんなことを考えて、そんなに過去に縛られていたのか。

死者をどんなに想ってもそれはどうしようもないことだ。だが、それに気づいて自分を赦せるのは自分だけしかいない。

隣に座る木曾を抱き寄せる。

「一人で抱え込まなくていい。辛かったら言えばいい。帰る場所がないなら俺がお前の帰る場所になってやる・・・・・・だから死に急ぐな。お前が生きていることが、その仲間が生きた証じゃないか」

「だが、おれは」

「お前が死んでその仲間のことを覚えてるやつがいなくなったらそいつらは本当に死んじまうんだぞ。せめてお前の記憶の中で生かしてやれよ」

今いえる最大限の言葉。生き残った十字架を背負い続けるための免罪符。その言葉が木曾に届いたのだろう、木曾もそっと背中に手をあてる。

「ああ、そうだな・・・・・・ありがとう」

木曾の背中を軽くたたいて離す合図をして立ち上がる。

「明日、執務室で待ってるからな。上着はそん時でいい」

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