瑠璃の水面に煌めく銀閃   作:三℃パン

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朝霧の刃閃

金剛たちが鎮守府に来てからもう数週間になるだろうか、まだ高らかに歌う蝉が夏を感じさせる頃。何故か早朝に目が覚める。

まだ朝日も昇りきっていないこの時間では流石に金剛も来ていないようだ。

コン カンカン コン カン

鎮守府の中を歩いていると拍子木を打ちあうような乾いて澄んだ音がどこからか聞こえる。

気になったのでその音の元を探して歩いていると艦娘達が修練を行う道場の前にたどり着いた。

こんな時間に誰がいるのだろうか。そんなことを考えて中に入る。

「はぁぁ!」

「打ち込みが甘いぞ!」

「はぁ!」

「そんな大振りでは隙だらけだぞ!」

道場の中では道着を着た木曾と那智が木刀を手に向かい合っていた。

いや、正しくは木曾の打ち込みを那智が往なして払う打ち込み稽古をしていると言った方がいいか。

いつもの眼帯を外した木曾の目に浮かぶ色はまぎれもなく真剣そのものだが、涼しい顔をする那智とは対照的に木曾は結構疲労がたまっているようだ。

「どうした?もう限界か?」

那智の言葉に木曾は袖で汗を拭って再び木刀を構える。

「これくらいッ!」

そう言って打ち込まれた一太刀も呆気なく那智に払われ押し返された反動で木曾が地面に倒れてしまう。

「太刀筋が乱れてきてるぞ。ん?」

倒れる木曾にそういったところで那智がこちらに気付く。

「司令官?やけに早いな?」

「いや、たまたま早く起きただけだ。こんな早朝から精が出るな」

「木曾に頼まれたからな。そうだ司令官、剣の心得はあるか?」

「一応必要最低限はあるつもりだ」

那智の言葉の意図をつかみかねるが、ちょっとした事情でそれなりの心得はあるつもりだ。

「なら、木曾と打ち合って見ないか?」

「待て」

「ああ、俺はいいぞ」

突然の提案に驚いて止める木曾をしり目に提案を承諾し、竹刀を手に取る。

先ほどまでと違いお互い受ける覚悟で打ち込む以上は木刀でやるのは危険なのでいい判断だといえるだろう。

「おい、いいのか?」

「遠慮はいらない。手加減なしでこい」

「お前はただの人間だろ」

「だからこそだ。艦娘が人間に負けるのか?」

その言葉に「ほぉ」っと楽しげな声を漏らす那智を背に木曾が竹刀を手に取る。

「後悔するなよ。本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ」

木曾の言葉に全神経を集中させて向き合う。久しぶりの感覚、だが徐々に研ぎ澄まされる精神にはただの一点の曇りもなく風のない水面のように澄んで静かだ。

「始めっ!」

「はぁぁぁ!」

那智の言葉と共に木曾が大きく踏み込む。

早い!本来であれば一秒にも満たないであろう超高速、だが神経を集中させた今はその刹那すら数分にも数時間にも感じる。

その引き伸ばされた時間の中で木曾の竹刀を払いのけ、身を反らし受け流す。

「なっ?!」

木曾だけではない見ている那智も驚きの表情を浮かべる。

「はぁぁ!」

受け流された木曾はそのまま体勢を崩すことなく素早く体勢を整えると再び踏み込む。

この間、僅か2秒。

確かに早く鋭い。だがその一太刀も難なく往なす。

屈することなく踏み込むが、一太刀、二太刀と振るごとに木曾の太刀筋が、パターンが、隙がわかる。

そして木曾が踏み込んでくるタイミングを見越して大きく竹刀を打ち上げ木曾の体勢を大きく崩す。

「っ?!」

今なら確実に仕留められる。そう思った時に目の前で戸惑う木曾の顔が目に入って集中が乱れる。

「ッ!」

ほんの一瞬の揺らぎ、それが勝敗を分けたとしか言いようがない。

体勢を崩しながらも立て直し際に放たれた一太刀を咄嗟に防ぎ竹刀を弾き飛ばされる。

「やめっ!」

那智の言葉に木曾が竹刀を下す。

「いやぁ、強かったよ。やっぱり駄目だな」

短時間ではあるがだいぶ無理をしたのだろうか足が震え、あちこちの筋肉がいたい。

「司令官は優しすぎるな。私ならあの時に打って勝ちだった」

そう言って笑う那智の後ろで木曾は複雑な顔をする。

手合せをしたのだから何らかの違和感を感じ取っていても不思議じゃない。

「じゃあ、今日のところはこの辺りで切り上げるとしよう。木曾、また明日だな」

「あ、ああ。そうしよう。おれも汗を流しておかないと。後で執務室で会おう」

そういってシャワー室の方へ歩いていく二人を見送って竹刀を杖にして立ち上がる。

普段しないことをするからがたが来たか、まぁ普段からやってれば今頃体はバラバラだろうがな。

そんなことを考えて道場を後にして執務室に向かう。

軽い朝食として握り飯を食べながら書類に目を通していると木曾がいつもの格好で入ってくる。

「改めておはよう」

「ああ、さっきは、その・・・・・・」

「なに、気に病むことはない努力をするのはいいことだ。たいていの場合は無駄にはならん。望む結果が出るかどうかは別の話だがな」

おそらくさっきの練習は二人だけの秘密だったのだろうことを察してそういうと木曾は少し驚いたような表情をした後、少し笑って頬を掻く。

「まったく、何でもお見通しだな」

「さて、今日の業務を始めようか。木曾はこっちの資材報告書の類を片付けておいてくれるか?」

「ああ、任せろ」

二人して雑務の処理をしつつふとあることを思い出す。

「木曾、修練をしているのなら改造に興味はないか?」

「改造?」

「お前の装備を重雷装巡洋艦にする計画があるんだが」

「ホントか?!」

その言葉と共に木曾は素早く立ち上がる。

「ああ、どうやら乗り気なようだな。工廠に連絡を入れておく、今から行ってくるといい」

「それは構わないんだが。いいのか?」

「代わりの秘書艦は誰かにやってもらうから秘書艦については問題ない。気にせずに行ってくるといい」

「そういうことなら。ありがたくいかせてもらおう」

木曾はそういうと執務室を出て行った。

誰に秘書艦を頼んだものかと考えていると扉をノックする音が響く。

「どうぞ」

「失礼します」

扉を開けながらそういうと扶桑、そしてその後ろについてくるように山城が入ってきた。

「どうした?」

「どうという要件はないのですが。提督がお困りでしたら何かできないかと」

「わ、私は扶桑お姉さまがそういうからついてきただけです」

何という要件でもないのに来たのかと疑問に思うがちょうど良かった。

「そうだな。木曾が留守にしているから秘書艦の仕事を手伝ってもらえるとありがたいんだが」

「ええ、大丈夫ですよ。お任せください」

扶桑はそういってゆったりとした仕草でこちらに歩いてくると木曾の分に取り分けた書類を受け取る。

「姉さまだけにやらせるわけにはいきません」

そういって山城も扶桑が持っていった書類を手に取って見て見るが何やら難しそうな顔をして書類を戻す。

「山城にもきちんと割り当ててあげますね」

「うぅ、はい・・・・・・」

それから三人で雑務を片付けていく。扶桑は時折「この手続きはどうしましょう?」「この件はいかがいたしましょう?」と訊ね、着々と仕事をこなしていく。

扶桑が来てくれたおかげでだいぶ早く仕事が片付いていく。

「はい、どうぞ」

持っていった仕事を終わらせた扶桑は気を利かせて熱いお茶を淹れて机に置く。

「ああ、ありがとう」

山城はどうしてるかと視線を上げると、扶桑が作業していた隣に座ってうとうとと舟をこいでいた。

「お茶請けがありませんね。何かご要望はありますか?」

「扶桑に任せるよ」

その言葉に扶桑はゆったりと頷くと執務室を出て行く。

ある程度仕事が片付いていたこともあって扶桑の淹れてくれたお茶で一息つく。

その視界に山城の姿が映り寒くないか少し気がかりになる。

季節的には真夏だが。

省エネやエコとは無縁とばかりにこの執務室にはクーラーが効いているのもあってかなり涼しい。

夏風邪をひいてしまうとつらいだろうと思い宿直室から毛布を持って来て、うとうとと舟をこぐ山城を包むように毛布を掛ける。

「ん・・・・・・」

極力起こさないように気を付けたつもりだが山城がうっすらと目を開ける。

「起こしてしまったか?」

「提督?姉さまは?」

「扶桑はお茶請けを買うといって出て行ったよ」

「使い走りをさせたんですか!そんなの私が」

そう言って勢いよく立ち上がった山城はふらふらとソファーに座りこむ。

「大丈夫か?」

「うぅ、こんな時に貧血だなんて不幸だわ・・・・・・」

そういう山城に毛布を掛けて膝枕をするように横にならせる。

「提督?何をするんですか!」

「おとなしくしてろ。ゆっくり横になったらよくなる」

山城は少し複雑な顔をして毛布で顔を隠してしまう。

「姉さま以外にこんな姿を見せるなんて・・・・・・不幸だわ」

「そう思うならゆっくり休んで早く良くなることだな」

立ち上がることもできないので山城の頭をそっと撫でると山城が少しだけ顔を出してこちらを見る。

「そんな風に優しくされても困ります・・・・・・」

そんな風に言いつつ気持ちよさそうに目を閉じる山城を撫でていると静かに扉が開き扶桑が入ってくる。

「あらら?すっかり仲良くなっていいわねぇ」

「ね、姉様?!ち、違うんですこれは!」

「いいのよ。そんな風に言わなくても」

「あ、いえ、そういうのではなくて・・・・・・」

必死に言い繕おうとして戸惑う山城を見て、扶桑と顔を見合わせて笑う。

「まぁ、そういうことだ」

「はい」

「え?え?何がわかったんですか?二人してなんなんですか!もぅ!」

そう言ってムキになる山城の頭を扶桑が優しく撫でる。

「まぁまぁ、山城。いいことじゃない。提督、お茶請けは最中にしました」

「そうか。ありがとう」

三人でお茶をした後、二人は執務室を出て行った。

扶桑の働きもあって仕事はあらかた片付いたので椅子に深々と座って本を読んでいるとノックの音が響く。

「戻ったぞ」

そう言って入ってきた木曾の言葉に本から目を上げると、そこには重雷装巡洋艦になった木曾の姿があった。

自信に満ちた瞳に刀を携え、装飾が施された黒い外套を纏っている。今まで以上に自信に満ち、そしてその自信を表したかのような何ものにも染まらない漆黒の外套が意志の強さを際立たせている。

凛々しくそして秀麗と呼べるほどに美しい。

「なかなかいい改装じゃないか。似合ってるぞ」

「ああ。そうだろ」

「明日、新規配属になる艦娘がくることになっている。その試験である哨戒任務で存分に力をふるうといい」

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