瑠璃の水面に煌めく銀閃   作:三℃パン

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全力全開

いまだ青々と茂る葉が秋の遠さを感じさせる外を執務室の窓から見ながら配属されてくる艦を執務室で待っているとノックの音が響く。

「矢矧よ。よろしくね提督」

黒く艶やかな烏の濡れ羽色の髪を後ろでまとめた矢矧と名乗る少女は配属書類を机に置く。

「ああ、よろしく」

立ち上がって握手をしようと手を差し出すと矢矧は少し驚いた表情をした後、少し笑みを浮かべて白い手袋をした手で握手に応じる。

「ふふっ、面白い人のところに来たかしら?」

「え?」

何を言ってるのかと戸惑うこちらをよそに矢矧は木曾の方を向く。

「あなたが秘書艦ね?矢矧よ、よろしく」

「ああ、木曾だ」

そう言って手短に挨拶をかわすと再びこちらに向き合う。

「鎮守府近海哨戒の水雷戦隊だったかしら」

「ああ、そうだ。性能試験も兼ねているが。不安なら後日でも構わない」

「阿賀野型の名を冠するこの私を侮らないで。哨戒任務ぐらい大丈夫よ」

矢矧はそういって自信満々に胸を張る。

「そうか、なら木曾の指揮の元で出撃してもらう。任せたぞ木曾」

「ああ、艦隊は任せろ」

木曾は不敵に笑って言葉を返す。

「行きましょう木曾さん」

「ああ」

先行して出て行く矢矧を追うように木曾も執務室を出る。

案外いいコンビなのか?

連絡を入れると飛鷹が秘書艦としてやってきた。

この間の出撃でまたかなりの艦載機を使ってしまったということで整備を手伝ってくれないかと言っていたのでちょうどいいだろう。

「助かったわ。まだ半分ぐらい残っているし予備も増やしておきたかったの」

飛鷹と二人で艦載機造りながらモニターで艦隊の様子を見る。

偵察部隊と思わしき何隻かのイ級と遭遇しているが特に問題なく切り抜けている。

そう思っていた矢先、レーダーの端に敵艦隊の姿が映る。

どうやら敵の水上打撃部隊が迫ってきているようだ。

『水上打撃部隊と思わしい敵艦隊を発見。迎撃に向かう』

「いけそうか?」

『大丈夫よ。いけるわ』

通信に矢矧が割り込んで返事をする。

鎮守府近海の敵で大きな敵の動きは最近報告されていないこのまま敵をつぶしておいた方がいいだろう。

「ならばそのまま迎撃にあたってくれ」

短く通信を終わらせると部隊が水上打撃部隊との交戦のため進路を変える。

だが、様子がおかしい。明らかに劣勢だ。

「速やかに撤退しろ。撤退支援のために艦隊を派遣する」

『ああ、わかった』

近海まで攻め込んできた敵だというのに油断していたとしか言いようのない結果だ、慢心としか言えないだろう。

帰ってきたらなんと詫びたものか・・・・・・

「提督、艦隊に乱れが!」

飛鷹に肩をたたかれてモニターを見ると、進行方向にいた水雷戦隊に艦隊の撤退を阻まれている。

「すぐに那智と金剛に連絡を入れて支援艦隊を組織し、救出に迎え」

支援艦隊を編成しながらモニターを見てある異変に気が付く、こちらの陣形が崩れる中、単従で攻めてくる水雷戦隊の一角に綻びができる。

何隻かの深海棲艦が落とされ、乱れが生じているようだ。

これに付け入る形で艦隊が撤退を再開する中、一隻の艦が敵陣の中に取り残される。

いや、意図的に遅れて撤退しているとみるべきか

・・・・・・木曾

まさか、一人だけ残って殿を務めようというのか

「飛鷹!しばらく任せる。支援艦隊は編成が終わり次第出撃し撤退の支援を行え」

「え?!提督は?」

戸惑う飛鷹をしり目にコートに手をかけ執務室を飛び出る。

嫌な予感ばかりが頭に浮かんでは消え、また浮かぶ。

無茶してんじゃねぇよアイツ!

5丁のリボルバーと二門の90mm無反動砲を担ぎ持ち、3本の超硬合金製の短刀をコートにしまい、ジェットスキーで工廠から海へ繰り出す。

対人用の武器に、型落ちの対戦車無反動砲。あまりにも心細い装備。だが物は使いようだ。

海へ繰り出して数分もしないうちに撤退中の艦隊とすれ違う。

「提督?!どこへ」

すれ違った矢矧が驚きの表情を浮かべる。

「大丈夫か?」

「ええ、なんとか。木曾が退路を切り開くから先にいけ、と」

やはりか

矢矧の言葉を聞いて再びアクセルを強く入れる。

間に合ってくれよ・・・・・・

 

 

完全に囲まれた。

撤退を支援するために沈めたホ級とイ級のeliteに手持ちの弾薬は全て撃ち尽くしてしまった。

そのおかげで退路を開くことができたが他の奴らは無事だろうか.

向かってくるイ級の砲撃をかわして切り捨てる。

あの旗艦さえ打てれば。目前のリ級flagに狙いを澄まし刀を強く握る。

残された力を振り絞り一気に踏み込む、艤装も傷つき弾薬は尽きた今、この一撃にすべてをかけるしかない。

随伴艦のイ級を切り伏せリ級の目前に迫った瞬間、どす黒く光る主砲がこちらに向けられる。

読まれた?!

咄嗟の判断で飛びずさったが瞬くほど直前までいた位置に特大の水しぶきが上がる。

直撃してたらやられてたな。

そんな風に考え着水した時、後ろからイ級が迫りくる。

すぐに身を翻すが迎撃までは間に合わない。万事休すか・・・・・・

ガキンッ!

そう覚悟したその時、銀閃が空を裂きイ級に突き刺さる。

軍事用の短刀?まさか?!

突然の攻撃にイ級はそのまま攻撃を取りやめ短刀が飛んできた方向を向く。

 

 

短刀は引き寄せられるようにイ級の頭部に命中したが、イ級は小蠅でも止まったかのように身じろぎしこちらを向く。

好都合だ。アクセルから手を離し両手にリボルバーを構えイ級に打ち込む。

ガガガガガッ

オートマと違い手動リロードのリボルバーは極限まで高められた反射神経、運動神経により機銃を遜色ない連射力を発揮する。

寸分の狂いもなく打ち込まれた弾丸は突き刺さった短刀の柄に命中し、突き刺さていた短刀がイ級の脳天をぶち抜く。

そして、そのままに勢いで加速したジェットスキーをホ級の方に向け、アクセルを限界まで入れたまま飛び降りる。

足につけた艦娘用の装備が水上での行動を可能にし水上に着地すると、ジェットスキーは魚雷のようにホ級に激突し爆発、ホ級はうめき声をあげる。

小破といったところか

そのままスムーズに加速し、すべるように木曾の背後でイ級に向かい合う。

「なんで、お前が?!他のやつらはどうした?」

深海棲艦から注意をそらさずに背中合わせのまま木曾が聞く。

「支援艦隊を要請しておいた、きっと無事だ。お前が心配でいてもたってもいられなかった」

「だからって、ここまで来るか?ったく・・・・・・」

「話は後できくよ」

「それはこっちのセリフだ」

「背中は任せていいよ」

「ああ、そのつもりだ!」

その言葉を皮切りに、再び交戦に入る。

イ級に短刀を突き刺し、放たれる弾丸を研ぎ澄まされた反射神経がかわす。

次々と超高速で放たれるイ級やホ級の砲撃も今やシャボン玉とおなじ。極限まで昇華した感覚は羽虫の羽ばたきすら感じ、数え得る世界なのだから。

しかし、極限まで高められた思考に、肉体の動きは限界を超えて悲鳴を上げるがそんなことはわかっていたことだ。

思考と感覚は高められても、身体能力はそれに追いつけなかった不良品なのだから。

人造艦娘計画、そんなふざけた実験を、マッドサイエンティストを恨んだこともあった。

艦娘にもなれず、まともな人間でもない俺の存在を憎んだこともあった。

だが、そのおかげで今ここにいる。そして今はこの力が必要だ。木曾を守るために!

極限まで高まった神経で、悲鳴を上げる肉体を無理やり動かして砲撃をかわし徹甲弾を無反動砲に込める。

人類から見れば超高度と高耐久を持つ深海棲艦に対抗しうる唯一の対抗策として講じられ、扱えるものがおらずお蔵入りになっていた代物だが、無反動砲に込めた試製徹甲弾はイ級程度の装甲は容易に貫き撃ち沈める。

その背後では木曾が目にもとまらぬ動きで弾丸をかわし、刀で敵を切り伏せる。

身体が限界を迎え、動けなくなくなるころには深海棲艦は全滅していた。

「ほら」

倒れこむ俺に木曾が手を差しのばす。

服もぼろぼろで傷だらけで痛々しい。

「ありがとう」

「無茶しやがって」

「それはお互い様だろ。木曾、無事でよかったよ。心配した」

差し出された手を取り立ち上がるが、よろよろと木曾に寄りかかる様に倒れる。

身体はとうに限界を通り越し、もう全身ほとんど動かすこともできない。だが、不思議と気持ちは晴れやかだ。

「大丈夫だ、オレを信じろ。だが、こんな風に来てくれたのは、まぁ悪くない」

「すまないが鎮守府まで運んでくれないか?」

「いいぜ。俺とお前の仲じゃないか」

そういって木曾が肩を貸してくれる。

「いつかお前になら・・・・・・いや、オレらしくもないな」

「ん?」

遠くに支援艦隊の姿が見える。

 

 

さっきのアイツの戦い方、どう考えても普通の人間じゃなかった。この前の時だって・・・・・・

「何を考えてるのかしら?」

湯船に肩まで浸かって考えていると隣から矢矧がこちらを覗きこんで訊ねる。

「いや、大したことじゃないんだが」

「提督のことかしら?」

図星をついた矢矧の言葉に少し驚く。

「変な人よね。私たちのためにあんな風に体張って無茶するなんて、そうはいないわよね」

「ああ、そうだな」

おれが抱えて帰ってきた時のボロボロの提督を矢矧も心配していた。

「で、惚れたの?」

「ッ?!」

突然の矢矧の問いに言葉に詰まる。

「ふふっ、ごめんなさい。冗談よ?」

矢矧はそういって悪戯っぽく笑う。

「まぁ、そういうことなら構わないが」

「ふふっ、ほんと面白いところに来れたわね」

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