朝日が昇り、今日が始まった時間帯――帝都ゼブルディアにおいて大手クランの一つである【始まりの足跡】のクランハウス内にあるくらいの私室。
「んふふ、クライちゃん大好きぃ」
「僕もリィズのことは大好きだよ」
寝台の上では昨夜愛し合ったクライとリィズがじゃれあっていた。
「今日はクライちゃん、暇なんだよね?」
「うん、特に何も無いよ」
リィズの質問にクライは笑みを浮かべながら答えた。実際、今は行うべき執務も無いし鍛錬も昨日、かなり激しい事をしたので今日は休みである。休みも又、必要なものであった。
「じゃあ、デート出来るよね?」
「その通り」
「やったぁ」
クライが頷くとリィズは勢いよくクライを抱き締めた。
そうして身支度を整えるなどの準備をすると……。
「えへへ、この格好どうかなクライちゃん?」
リィズは普段は結っている髪を下ろしてストレートにし、格好もカジュアルなものにしていた。靴型の宝具である『天に至る起源』は装着していたが……。
「とっても似合っているよ。リィズの可愛さも良く出てる」
「えへへ、クライちゃんも格好良いよ」
クライもまた、リィズのそれに合わせてカジュアルな格好であった。
そうして二人でエントランスへと降りると話を聞きに来た探協のガーク支部長と副支部長のカイナ達、他職員たちがクライに話を聞くためにやってきた。
「悪いけど、今日はリィズとデートをするんだ。ガークさん達が聞きたい事はある程度まで纏めた書類は作ってある。エヴァ、ガークさん達に渡してあげて」
「はい、クライさん。では、こちらへ」
いつガーク達が来ても良いようにクライは書類を作ってエヴァに預けていたので指示をした。エヴァは頷き、ガーク達を手招きする。
「後でまた探協に話をしにいくよ」
「すまんな」
「ありがとうございます、クライ君」
ガーク達はクライに礼を言ったのであった。
「っていうか、ガークちゃんたちはクライちゃんが凄く優秀で優しいからって頼り過ぎっ、高い金払ってもらってるんだからてめぇ等で解決しろ。ただでさえ忙しいクライちゃんに余計な仕事を押し付けて忙しくしやがって」
「こら、リィズ……駄目だよ、そんなこと言っちゃ……良いからデート行くよ」
リィズは探協に対して思っている事をここぞとばかりに話し、クライが窘めた。
ともかく、帝都に繰り出しデートを楽しんでいた。
「ねぇ、クライちゃん。また皆で宝物殿行こうね」
「そうだね、次は予定を調節して『嘆きの亡霊』の皆で行動できるようにするよ」
「うん、約束だよ」
「ああ、約束だ」
そんな約束を交わしながら歩く中で……。
「っ、クライちゃん……」
「待ってリィズ、泳がせるからそのままだ」
「分かった」
リィズにクライは遠くから自分達を観察する者がいるのを視線で感じており、リィズが動こうとしたのをクライが抑え、泳がせる事を告げてその後もデートを楽しんだのであった……。
二
ゼブルディア南西退廃都区――常人ならば昼間でも人が寄り付かない場所であり、治安維持を任務としている騎士団でも大きな事件が無い限り寄り付かない場所だ。
この地区で暮らす者は脛に傷を持つ者や貧窮している者が多い。罪を犯して探協から追い出された元ハンターに禁制品を扱う裏の商人と犯罪者個人、あるいは犯罪組織も多く潜んでいる帝都の闇を煮詰めた混沌の坩堝と化した地区でもある。
この地区には『アカシャの塔』も潜んでいて、子供が日に一人か二人、消えたりしても特に不審がられる事は無い場所なので人体実験に使える子供を集めやすいよう、アイス屋を営んでいた。
そしてその役割を担いながら常にゼブルディアの情報を収集し、【白狼の巣】にいる派閥の者と連絡している男がいた。彼は今、【白狼の巣】で行動している派閥の者からの要請でクライの動向を監視しながら探っていた。
【白狼の巣】をハンターたちが探り始めた原因が『千変万化』ことクライにあると思ったからだ。
「くそ、『千変万化』の動きが読めないな」
男は昨日、監視したクライとリィズの様子からは自分達、『アカシャの塔』について探っているような感じは無く、普通にデートを楽しんでいるようだったのでクライがどう動こうとしているのか、予測も出来ず、判断も出来なかった。
「油断せず、監視していかないとな」
ともかく、クライの様子を監視し、探りを入れて行こうと思ったのだが……。
「その心掛けは立派だね」
「なっ『せ――」
クライの声が聞こえたので驚愕しながら振り向き、そんな彼に笑みを浮かべたクライは小さな筒を開けると液体のようなものが飛び出し、それは巨大化しつつ、彼の体を覆っていく。
身体を覆ったのはスライムであり、そんなスライムに身体を覆われた男は水に溺れるが如く、呼吸が出来なくなっていくし意識も朦朧としていく。
クライはエヴァが収集した情報と未来視から最近、退廃都区に人気のアイスクリーム屋が出来た事と子供が何人も姿を消しているのは繋がっていて『アカシャの塔』の活動拠点の一つだと分かっていたので密かに侵入し、そして懐から自分とシトリーがいろんな可能性を有する事から研究していたスライムを使った。
「悪いが、もう君たちは終わりだ。精々、最後まで役に立ってもらうし糧になってもらうからね」
「(千変万化……噂以上の……)」
自分達は恐ろしい存在に目を付けられてしまったのだと男は察しながら、身につけていた衣服ごとスライムに消化されてしまったのであった。
「良し、戻って良いよ」
クライが指示するとスライムは筒の中へと戻った。スライムは形状も大きさも自由自在に変化できるので問題無いのだ。
そうして、クライは何らかの行動をしてこの場所を去り、少しの時間が経過すると一人の人物がこの場所を訪れる。
腰付近まで伸びた深紅の髪に深紅の目で容姿は端正で袖の長い黒色のローブを着た女性である彼女はソフィア・ブラック。
『アカシャの塔』帝国支部の長を務めるノト・コクレアの一番弟子である。
彼女は部屋を歩くと封がされている手紙が置かれていたのでそれを手に取り……。
『第二プランに移行しろ』
「ぁぁ……クライさん……貴方はやはり、全てを見通しているのですね」
ソフィアは封を開けた手紙に書かれている文章を読むと恍惚とした表情を浮かべ……。
「クライさん、貴方の意のままに」
そしてソフィアは手紙を処理しながらそう、答えたのであった……。