一話
今日、トレジャーハンターの聖地とも呼ばれる帝都ゼブルディアで頂点の権威と勢力を上り詰めようとしている『クラン』である【始まりの足跡】によるメンバー募集が行われていた。
しかし、基本的にトレジャーハンターというのは大なり小なり血気盛んであるので揉め事が起こりやすい。トレジャーハンターが多く集まれば余計にだ。
そうして今回、【始まりの足跡】にソロで所属するティノ・シェイドとパーティ募集の場に現れた少年が揉め事を起こそうとした。
それは少年が【始まりの足跡】とそのクランを創設したパーティの【嘆きの亡霊】を馬鹿にするような発言をしたからである。
ティノは【嘆きの亡霊】に所属するトレジャーハンターがリィズ・スマートの弟子であるし、【嘆きの亡霊】のリーダーであり、【始まりの足跡】のマスターでもあるクライ・アンドリヒを敬愛しているのもある。
そうしてティノと少年が激突しようとしたのをパーティ募集の様子を密かに潜入し、監視しに来たクライが静止した。
当然、トレジャーハンターの皆がくらいの登場に驚愕しているし彼から放たれている超越者達の雰囲気に驚愕していたし、呑まれていた。
クライはトレジャーハンターとしての認定レベルはこの帝都でも一番上と言っても良い8であり、それに相応しい総合的な戦闘能力に頭脳を持っているのだ。
あらゆることに精通している事からクライは【千変万化】の二つ名を有していた。
また、クライは魔力を蓄えるために伸ばしている黒の長髪が似合う女性寄りの中性的な容姿であり、美貌を有しているのでそうした事からもどうしても視線を注いでしまうのだ。
「ま、ますたぁ……いつからここに?」
ティノは首元に自分の首に短剣を突き付けられながら、クライに尋ねる。
「決まっているだろうティノ・シェイド。最初からだよ」
「(ああ、ますたぁは本気で怒っている)」
クライはティノの方を見ながら、彼女をフルネームで呼ぶ。彼は人を本気で起こる時、フルネームで呼ぶ特徴があった。
そうして本気でクライを怒らせたのを悟り、絶望しているとクライは手に持っている短剣と大剣から手を放して床に落としながら左と右の人差し指をそれぞれ、ティノと少年のトレジャーハンターに向け小さな雷の魔法を放つ。
『づ!?』
二人は雷によって麻痺し、床に倒れ込んだ。
「さて、【始まりの足跡】の皆。僕は常日頃から言っていた筈だ。もしハンター同士でトラブルが発生した場合はなるべく穏便に済ませる事、特にこの帝都では絶対だと……どうしてだと思う?」
「いっ、そ、そそそそれはその……」
「どうした? まさか、僕の話を全然聞いていない人ばかりだったのかい?」
クライの問いにクランに所属するトレジャーハンターの一人が震えながら答えようとするが恐怖の余り、答えが続かなかった。
「い、いえ……トレジャーハンターどうしの剣かは災害と同じで騒ぎが拡大すれば一般人が被害に巻き込まれる可能性があるからです」
別の一人がなんとか、クライの問いに答える。
「その通り。この場のみの被害で済むならまだ良い。ハンター同士での諍いは黙認されるし、第三者のハンターが巻き込まれてもこれもまた問題無い。でも、善良な一般市民に傷でも負わせようものなら騎士団が黙ってはいない。原因であるハンターには前科が付くし、最悪の場合は探協から除名されるし牢獄行きだ」
クライは頷きつつ、あらためて説明した。探協とは探索者協会と言い、ハンターを支援するための団体である。
「もう一つ確認だ。うちのクランのモットーはなんだった?」
「は、はい。『皆、仲良く』です」
「い、『一般人を巻き込まない』です」
「そうだ、分かっていながらも僕が止めていなかったら喧嘩は大惨事になって、被害が拡大し、下手をすればこの建物はおろか、家の一軒や二軒は吹き飛んで一般市民を巻き込み、騎士団が駆けつけて最悪の事態になっていた。そうだよね?」
『は、はい。マスター』
「本当なら君たちがトラブルに対応し、穏便に済ませるために努力する責務があった。実際、最初はティノを止めていたのに結局諦めて、更には揉め事を煽る者まで出る始末……残念だよ」
『う、うぅぅ……』
「この酒場をパーティ募集の場として貸してくれたオーナーとは付き合いが長いんだ。オーナーは僕の頼みに対して快く引き受けてくれたんだよ……皆、そんなに僕の顔に泥を塗りたかったのかい?」
『い、いえっ!! その様な事は決してっ!!』
クライの問いに【始まりの足跡】に所属する皆はしっかりと答えた。
「て、てめぇ……なにしやがるっ!!」
クライが話している間に麻痺から回復した少年は立ち上がり、拾った大剣を持ってクライに襲い掛かったが……。
「それはこっちのセリフだ」
「ぐっ、うが……ぁ……」
クライが右掌を少年に向ければ少年は剣を落としながら、両手で首に触れていた。クライが魔法による強力な力で彼の首を絞めているからだ。
「とりあえず、寝ていて」
そうしてそのまま、クライは少年の意識を締め落とし、それを確認すると魔法を解除した。少年は床へと倒れ込む。
「悪いけど、誰か彼をクランハウスの牢屋に放っておいて」
「はい」
クライは大剣を拾い上げながら、クランの者に指示をする。二人がくらいの指示で動いて少年の身体を持ち上げるとそのまま、運んで酒場から離れたのであった。
「さて、ティノ……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいますたぁ、嫌わないでください嫌わないでください嫌わないでください」
ティノは麻痺から回復すると土下座してクライに必死で謝っていた。
「ティノ、安心して……嫌いはしないよ。君の僕たちに対する気持ちは嬉しく思っているからね。でも、お咎め無しという訳にはいかない。それは分かるね?」
クライはティノの顔に触れて頬を撫でると諭すように話しかけた。
「はい、ますたぁ……しっかり、反省して罰を受けます」
ティノはクライに対し、頷いた。
「うん、ならこの話はそれで終わりだ……他にも問題を起こした者には罰を与えるからそのつもりで。じゃあ、後は仕切り直しだ」
こうして、クライは手を叩きながらパーティ募集の再開を促すと少しの間はありながら、パーティ募集は再開されたのであった……。